出会いをした!
成長が遅くなると時間の経過もまた、共に遅くなるのは何故なのだろう。
「もうすぐ誕生日だね」
「もう十一歳になるんだ…」
想像力を磨くのが一日の流れになってから数年は経ったみたいだけど、やっと二年が過ぎる頃だった。
「なんか欲しいのとかない?」
「お父さんに言ったら何でもプレゼントしてあげるよ。お父さん、ちょっと凄いから」
「お母さんに言ってね?お父さん、最近はちょっとやり過ぎな所があるから」
「そうだったの?!」
お父さんとお母さんはあまり変わってない気がする。いや、実際あまり変わってない。
見た目は私が生まれた当時と全く差がない。相変わらず幼く、美しいだけだ。二人とも日々手入れを怠ったりはしないけど、それだけでは説明出来ないくらい若いままだ。
やはり魔王様は違うのだろうか。
まぁ角も出たり消えたりするし。
とにかく、ともかく。
「新しい本棚はどうだい?いや、アイラ専用の書斎を作るのも出来るよ。自分の本が溜まっていくのを見るのはとても楽しいぞ」
「いいえ、本も絵も、騒がしい所では集中出来ないのよ。分かるでしょう?ここはアイラが一人で思いに浸るような作業部屋を作ってくれた方が」
「いやいや――」
誕生日プレゼントかぁ。何がいいかな。
「んー……」
そういえば。
「狼、飼いたい」
「狼?」
「猫や犬とかじゃなく?」
「この前、もふもふしてた狼を見たの。お父さんくらい大っきくて、触ってみるとお母さんよりもふもふすべすべ」
「お母さんってもふもふなの……?」
あの子は確かに可愛かった。
狼と言うのに、顔はとても穏やかで、抜け毛もなくて、なにより温かくて抱き心地もよかった。
まるで動く抱き枕。
「ね、だめ?」
「そんなわけあるか!お父さんに任せて?欲しい種類の狼とかあるの?」
「気軽に決める問題ではないのよ」
「せっかく言ってたんだから、いいじゃないか」
「命は重いのよ」
「だめ…?」
「ぅ……」
そんなこんなあって、飼うことにした。
誕生日が近づく度にお父さんは人々を家に招いて工事を行っていた。お母さんは私が気に入ってた狼が何だったのか探してくれた。
当の私はといえば。
「ぅーっ」
家の中で本を読んだり絵を描いたり、たまに勉強をしたりとのんびりとしていた。
全部任せっぱなし。こういうのも子供の特権なんだよなぁ。今のうちにいっぱい堪能しておかないと。
それより今は体が固まって仕方がない。座り過ぎてたから少し体を動かしたい。
こういう時は、散歩だ。
お父さんもお母さんも忙しいからこっそり遠くまで行ってくるいい機会でもある。
「冒険だーっ」
窓からパッと飛び降りて、両手を上げてわーってテンションを上げる。
てくてく。のろのろ。たまにぴょんぴょん。
家の近くの山までゆっくりと歩いて行った。素足で外に出たからちょっと足が冷たい。ぼこぼこな道を歩くのは慣れたから痛くはなかった。
「ぉん?」
なんかあった。
毛の玉みたいなのが、ぽつんと。
抜け毛の時期なのだろうか。確かここに住んでるクマがこんな風に抜け毛してたな。
て事はかなり危ないのでは?
近くにクマがあったらどつしよう。
いい子だったら仲良くなれたり?
悪い子だったら戦うっちゃうのかな。
クマと戦ったらどうなるのかな。渾身の鬼ごっこをやる事になるのか。それは、ちょっと気になる。
いくら外での遊びを辞めたとはいえ、走りだけはそれなりにやってたから。昔とは比べられないくらい足も早くなったし背も高くなったし。クマともいい勝負になるのかも。
「わくわく。どきどき」
抜け毛を探して当たりを見渡した。
木の辺りには違う抜け毛が、地には足跡が、その跡を追うとすぐに。
あった。
「でかいなぁ」
私より私くらい大きいクマが、どこか石像の如く突っ立っていた。微動はない。
「ねね、熊さん」
動物と話せるわけがないけど、なんだか神秘的な雰囲気がして、話し合いが出来そうな感じがして、声をかけてみた。
「ん?おやこんにちは」
会話出来た。なんで?
「こんにちは」
取り敢えず、頭を下げて挨拶をする。
「ここには何の用だ?散歩かい?でも素足で歩くと足が怪我するよ?注意しなさい」
なんか優しい!
「ちょっと散歩中だったの。熊さんこそ、ケガしないようにしてね?」
「おぅありがとう。いい子だね」
「そうなのー」
ま、考えてみれば尻尾や角が生えた人もいるし。喋るクマもあっておかしくはないだろう。
「熊さんは何してた?お散歩?」
「あぁ、群れから外れた子がいてね。ちょっとだけ手伝ってたよ」
「群れ?クマさん達も群れがあるの?」
「いや、狼だよ。ちょっと大きいって理由で虐められたんだって」
「それは大変」
なんだか童話みたいな状況だ。
一人ぼっちの狼と、それを慰める熊。そこに現れた人間と、会話。
昔好きだった絵本もこんな風だった記憶がある。
「ぉ」
急に狼が低い鳴き声を出した。
「外れじゃなく、追い出されたんだって」
「喋ったの?」
「聞こえなかったのかい?うちとは喋れるのに」
「聞こえない」
「ほほう」
前足で狼を撫でながら、どこか面白そうに笑うクマさんだった。なんか、すごい眺めだ。
「まぁ、ここで出会ったのも偶然だ。この子を預かってみるのはどうだ?」
今度は吠えた。
「そう嫌がるなよ。パッと見悪い子ではないよ?ちっちゃいから保護欲とかも湧くんだろう?」
よく分かんないけど、褒められた。
「ふへへ」
「ほらあの笑顔。どうだい?可愛いだろう?守りたいだろう?撫でられたいだろう?」
よく分からないけど口説いてるみたいだった。私はまだ預かるって言ってなかったけど。
「私はいいよー」
ところどころ荒れてるけど、元々はもふもふしてそうな毛並みをしていた。持ち帰って洗って乾かすとかなりいい感じになりそう。
「じゃあ決まりな。ほら、行け」
「おいでー?」
しぶしぶと、でも満更でもなさそうに、狼は私に近づいてきた。近くで見ると思ったより大きいな。
私よりは小さいと思ったけど、ほぼ同じくらい。上に乗ったらちょうどいいんじゃないかな。
でも狼は乗り物じゃないから。
「お家帰ろうね。名前は何がいいかな?君、元々の名前とかあるの?」
吠えた。わんって。
わんちゃんみたいな声だね。
「いないんだって」
「じゃあ私がつけてもいい?」
何がいいかな。
「んー…」
可愛い名前がいいな。かっこいいのもいいかな?この子狼だし。
「いいところに申し訳ないけど、うちは帰ってもらおう。後は頑張りな」
「うん。ばいばいクマさん」
なんか考えるのめんどー。
「適当に決めてごめんね。君はこれからあーちゃんだよ。わかった?あーちゃん」
あーちゃんって言ったら、ぴくぴくと耳が動いた。気に入ったのだろうか。
でも流石に適当過ぎるな。
「やっぱりこれはちょっと……あーちゃん、いつかいい名前が浮かんだら言ってあげる。今はあーちゃんで我慢してね?」
「わんっ」
わんちゃんにしちゃおっかな。いやぁそれも適当か。




