怒られる…
「おなかいっぱーい」
「ん…」
食卓に並べられた料理の半分くらいを食べ尽くした頃、そろそろお腹がいっぱいで動くのも大変になっていた。
腕を上げるのもなんだかだるい気分になる。角が消えたせいなのかも。
とにかく、ともかく。
寝みぃー。
「ねぇ…おきてー」
ツノちゃんはもはやうとうと。眠る寸前であったため、起こさないと寝室には行けない。一人で行くのは礼儀じゃないもん。
ゆさゆさとうたた寝するツノちゃんを揺さぶる。
「ねーぇ」
起きる気がしない。むしろ揺れる体に合わせて何故か眠りが深まる感じがした。
てことは……
ここで一緒に眠っちゃうのが正解かな?
ツノちゃんも寝たいし、私も寝たいんだから、ここで一緒に眠っちゃえばいいのでは。
それでいいに違いない。
「よいしょ……」
眠り落ちたツノちゃんからそっと離れて、いくつか椅子を並べた。簡易ベッドって言うべきなのだろう。
三つくらい並んで、その上に寝転ぶ。
「わあぁ…」
寝心地悪いな。
でも、ちょっとわくわく。どきどき。
お外で寝たらこんな感じなのかな。夜空を布団にして、地を枕にして寝る感じ。
「へへ…」
なんか楽しくなってきた。寝るのが楽しい。
えへへ。
それから、寝落ちてからちょっと時間が経った頃。体をゆさゆさと揺さぶるのが感じられて、目が覚めてしまった。
「むぅー…ん」
「こんなとこで寝ちゃだめだよ…」
ちょっと目を閉じてたって感じだったけど、ツノちゃんが起きるくらいは経ってたみたいだ。
「わっ」
目を開けるとツノちゃんと、お母さんが。
「………すやー」
「ねぇー」
お母さんと、ツノちゃんのお母さんが食卓の片付けをやっていた。顔はとても穏やかだけど、まとう雰囲気は全然穏やかじゃない。
絵本を隠したのがバレた時と同じ。
これは寝たふりして過ごすのが上策だ。ここで目を合わすときっと怒られちゃう。
何せ内緒で遊びに来たんだから。
「なんでまたねるのぉ」
起きたらよくないってツノちゃんに伝えなきゃ。でもどうやって。
話すのは流石に無理そうだし。
指差したらわかってくれるかな?
「ん?」
とんとんと、お母さんから見えないとこにある指でツノちゃんに触れた。それからお母さんを指差す。
「おかぁさん?」
さぁ伝われっ。結構の付き合いなんだからきっと私の心は届くはずだ。
「おかぁさーん、アイラがよぶよー」
届かなかった。それどころな、想定もしていなかった最悪の事態に陥ってしまった。
もう終わり…いや、上手く寝たふりをしたら見逃してくれるんじゃないか。
いやいや、寝たふりじゃなくお母さんが来る前に眠っちゃお。それが一番確かなんだから。
「なにー?」
目をぎゅっと閉じて体を丸くする。
遠くからツノちゃんのお母さんの声と、こっちに近づいてくる足音が聞こえる。
ツノちゃんは私の頭のとこに座って、もみもみと私のほっぺたを触り始めた。
「おーきてー」
むっ。
頬を摘むツノちゃんの指の温もりや、近づく度に大きくなる足音や、片付けられる食器の音や。
目を閉じているとやけに鮮明に感じてしまう。
「むーっ。あ、アイラのおかぁさんっ」
「初めまして、リリアだよ」
「はじめまして。ツノです」
とうとうやって来た。お母さんが、すぐ前に。
これからどうなる?叱られてしょんぼりして家に持ち返されるのかな。お父さんも心配してるんだろうな。お母さんに怒られたのかも知れない。
じゃあ、帰ったらお父さんにも怒られるのかな。
お父さん優しいから、怒らないのかも。うん。きっとお父さんは今日の出来事を言うと褒めてくれるはずだ。冒険が好きって言ってたから。
じゃあお母さんだけなんとか乗り越えれば…
「アイラ。起きなさい」
「はうぅ」
怖い声。
乗り越えられるかな……




