第4話 薬師ギルド
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第4話 薬師ギルド
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異世界生活2日目の朝は爽やかな目覚めだった。久しぶりにこんなにぐっすり寝たかもしれない。木戸を開けると、朝日の眩しさが目に刺激を与えた。
「う~ん。いい朝だ!」
こんな日はいいことがあると、思って過ごそう!
部屋を出て階段を降り、裏庭の井戸水で顔を洗う。
「あら、今起きたの? もうすぐ食堂が閉まるから、食事をするなら早くね」
昨日カウンターにいたシュラーのお姉さんだ。今日もお美しく、胸が大きいですね! 朝からいいものを拝ませてもらった。
食堂はかなり空いていた。どうやら8時近くまで寝ている人はいないようだ。
バイキングスタイルの朝食で、元々皿があったと思われる場所がいくつかある。皿が空になっても追加はしないようで、人気のある料理は速い者勝ちらしい。
俺はスクランブルエッグ、カリカリベーコン、茹で野菜、パン、スープ、デザートをトレイに乗せ、席につく。
「どれも美味いな」
茹で野菜にかかっているソースが俺の好みにピッタリと合う。シュラーのお父さんは、腕のいいコックのようだ。
「美味しかったよ」
「そう言ってもらえると、お父さんも嬉しいと思うわ」
シュラーに食事のお礼を言い、薬師ギルドの場所を聞く。大通りが分からなくなったのは言わない。あと、スマホを見れば場所を把握できるが、それではコミュニケーションがね。俺はコミュ障じゃないのさ。
「薬師ギルドなら、うちを出て左にいって、大通りを左にいくとあるわよ」
「左にいって、大通りを左だな。ありがとう」
モフモフ尻尾を揺らすシュラーに礼を言い、俺は宿を出た。
シュラーの言うように進むと、薬師ギルドを発見した。商人ギルドよりは小さい建物だが、それでも他の建物よりは大きい。
入っていくと、受け付けカウンターが正面にあった。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用でしょうか?」
25歳くらいの美しい女性だ。これだけの美人なら、一度お相手願いたいものである。
「確認したいんだけど、俺でも薬師ギルドに登録できるかな?」
「はい。薬師ギルドへの登録は誰でも可能です」
「ギルドに登録したら、レシピのことを教えてもらうことは可能かな?」
「ギルド員の方なら、どなたでもレシピを購入できます。ただし、非公開になっているレシピもありますので、あくまでも公開されているものに限ります」
非公開レシピもあるのか。苦労して開発した薬のレシピを非公開にして、開発者の権利を守っているんだろうな。
「公開されているレシピはいくらくらい?」
「薬の製作難易度によって、上はSランクから下はEランクまで分けられておりますが、最も難易度が低いEランクの薬のレシピですと、銀貨1枚になります。ただし、薬師ランクがEの方ですと、EランクとDランクのレシピしか購入できません」
「薬師にランクがあるの?」
「はい。登録直後は皆さんEランクです。あとは昇格試験が3カ月に1回ありますので、その試験に合格するとランクアップできます」
「登録したら、Eランクの薬を作って販売してもいいんだよね?」
「個人で販売したり店を開くことが許されているのはCランクからで、EランクとDランクの方は全て当ギルドへの販売になります。これは品質の安定しない薬を流通させないための処置ですので、EランクとDランクの全ての方に守っていただきます」
「登録するメリットはあるの?」
「メリットですか? ……Cランクになりますと、社会的な信用を得られますし、薬師ギルドには調薬のための調薬室が用意されておりますので、そこを使うことが可能です」
大体分かった。ギルドとして、ペーペーを放置せずちゃんと管理しているようだ。俺は登録を頼んだ。
「登録には銀貨1枚をいただきます。あと、師匠はどなたでしょうか?」
「師匠? いないけど?」
「え、師匠がいないのですか?」
「うん、いない。いけないかな?」
「あ、いえ、大丈夫です……」
大丈夫そうでよかった。そもそも俺は大学で学んで薬剤師になったから、大学教授が師匠といえば師匠なんだよな。この世界にはいないけど。
それに、今の俺は薬剤師ではなく錬金術師だ。誰でも薬師ギルドに登録できるのだから、問題ないけどね。
登録料の銀貨1枚は高額だが、支払った。
登録用紙に必要事項を記入すると、ドッグタグが出てきた。
「このギルド証に血を1滴垂らしてください」
おおお、ファンタジーな身分証のお出ましだ!
目がキラキラしてそうな俺がいる。
チクリと針を刺し、血をカードに垂らす。
「はい、これで登録は完了です」
Eランク薬師・ケンヤ爆誕!
「………」
「……ゴホンッ。Eランク用のレシピをもらおうか」
ものはためしと、銀貨1枚を支払い薄い冊子を受け取る。たった2種類のEランク用レシピが記載されているだけの、本当に薄い冊子だ。
レシピ集を読むと、ポーションと解毒ポーションのレシピだった。共に作成はそこまで難しくないが、錬金術とはかけ離れた製作法のようだ。
錬金術はスキルを発動させることで、素材から薬が錬成できる。それとは違って、薬師の調薬は素材の下処理をしたり、火加減がどうのとか色々細かい作業がある。そういった作業は嫌いじゃないので、両方の製法を試してみようと思う。
一応、素材は同じなので、ギルドで素材が買えるようだ。
「Eランクの薬の材料は当ギルドで販売しています。購入されますか?」
「微小の魔石は購入できるかな? あと調薬室を借りられる?」
「はい。微小魔石は1個黄銅貨1枚です。調薬室の使用は、1時間で黄銅貨1枚になります」
安いな。魔石購入を頼み、調薬室を借りた。
「そちらの通路の先にあります、A室をお使いください」
微小魔石を受け取り、通路を進む。A室があった。他にも4部屋があり、全部で5部屋あるようだ。
A室に入った。調薬に必要な器具が揃っているじゃないか。
「よし、やるか!」
まずは調薬だ。薬師の正規の作成方法だな。
フレイク草、微小魔石の下処理を行い、鍋に順序よく入れていく。
出来上がったポーションを鑑定眼で見てみる。
『[ポーション(普通品質)]下級魔法薬 小規模の傷を瞬時に癒す 錬金レシピはフレイク草+微小魔石+水 制作者:薬師ケンヤ』
ほう、製作者まで分かるのか。
品質は上から最高品質、高品質、普通品質、低品質、最低品質、そして不良品がある。
「ふっ。薬剤師の本領発揮だな」
しょっぱなから普通品質を作れる俺って、スゲーと思う!(ドヤ顔)
「そんじゃぁ、次は錬金術だ」
鍋に素材をドサッと入れる。あとは錬金術を発動させるだけだ。
錬金術を発動させると、魔法陣のようなものが現れた。
「おーっ!? これが錬金術か!?」
魔法陣が鍋の上で光り輝き、さらにクルクル回って鍋の中の素材に光を注ぐ。なかなか神秘的な光景だ。
この魔法陣に描かれている記号のようなものは、錬金紋という文字らしい。そして俺にはこの錬金紋が読めた。言語理解がいい仕事をしているぜ。
光が消え、魔法陣も消えた。鍋の中には緑色の液体がある。鑑定で見て、間違いなくポーションだと出た。
『[ポーション(高品質)]下級魔法薬 小規模の傷を瞬時に癒す 錬金レシピはフレイク草+微小魔石+水 制作者:錬金術師ケンヤ』
どうやら薬師ギルドのレシピで作ると、製作者が薬師になり、錬金術なら錬金術師になるようだ。
「この調子でドンドン作るぞ!」
アイテムボックスには多くのフレイク草がある。それを使い、錬金術でポーションを錬成する。いい感じだ!
ノック音がした。誰だよ、いいところなのに?
「ほーい」
扉を開けたのは、先程受付してくれた女性だ。普通に美人だな。どうせ男がいるんだよ。分かっているさ。はー……。
「あと10分で1時間になります」
「もう1時間? 集中していたから、時間が流れるのが速いな」
「延長され……え?」
何か驚いているけど、何も壊してないからね!
「あのっ!?」
「何かな?」
どうしたんだ、なんか焦ってないか?
「このポーションはケンヤ様が作られたのですか!?」
「俺以外にいると思う? てか、何か問題だった?」
「多すぎます! まだ1時間もたっていないのですよ! なのに、この数はなんですか!?」
置いてあったポーションの瓶のほとんどを使用してしまった。数にすると、ざっと100本か。どうやらそれがいけなかったようだ。
「すまない。瓶をほとんど使ってしまった」
「それはいいのです!」
「じゃあ、何を怒っているのかな?」
「お、怒ってなどいません!」
怒ってないの?
「とにかく、器具の清掃をお願いします」
「ん、ああ、分かった」
鍋とお玉をせっせと清掃。跡片づけは大事だ。器具は大事にしないとな。
「これでよし」
使ったものはちゃんと洗浄した。
「お疲れ様です。では、これらのポーションは当ギルドで買い取りを行います」
「2本だけ俺自身で持っておきたいんだけど、いいかな?」
「ご自分で使うだけでしたら、構いません」
最初に作った普通品質のものを1本と、高品質のものを1本回収した。もしもに備えるのは大事だよな。