第2話 チャロ衣料店
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第2話 チャロ衣料店
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イヘスの町の大通りを歩いていると、見返される。ランニングウェアは目立っているようだ。
この町の人が着ている服はレトロなデザインだ。こういうの、嫌いじゃない。
そんなことを考えていると、俺の肩を掴む手があった。
「っ!?」
ゆっくり振り返ると、猫獣人の女性がいい笑みを浮かべていた。年のころは18歳くらいか、おかっぱの明るい青髪の上にはしっかり猫耳があり、尾骶骨の辺りから細長いしなやかな尻尾が生えている。
お世辞ではなく、可愛い猫耳少女だ。ただし、俺は熟女好きなので、この年齢の娘にはあまり食指が動かない。
「な、何か?」
「ちょっと一緒にきてニャ!」
「はい?」
俺の返事を聞くことなく、その猫獣人は俺を引っ張っていく。
猫獣人で語尾に「ニャ」がつくという異世界ならではのシチュエーションに本来であれば興奮するのだろうが、いきなり引っ張っていかれるとかなり引く。
建物のドアを開けて、入っていく。俺の不安な気持ちを表しているように、ドアベルがカランコロンと高らかに鳴る。
「脱ぐニャ!」
「え?」
いきなり服を脱がされそうになる。この猫獣人は盛っているのか!? 若いとは言え、かなり可愛い顔をしているので、ありと言えばありなんだが、さすがに抵抗してしまう。
「早く脱ぐニャ」
「いきなりなんだよ?」
「見せるニャ」
そんなに俺のものが見たいのか!? 一般的な大きさや形で、誇るほどではないぞ?
「早くニャ」
飛びかかられ、ランニングウェアをひん剥かれた。
異世界転移したその日に猫耳娘と合体か!?
せめて25歳くらいの女性がいいのだが、こうなったらいくところまでいってやる! 据え膳食わぬは男の恥というからな!
「いい手触りニャ」
猫耳女性は、そういって撫でる。
「思わず頬ずりしたくなるニャ」
「………」
ランニングウェアに頬ずりしている。どうやら彼女はランニングウェアに興味があるようだ。
俺の覚悟を返してくれ。
「この服はどこで買ったニャ!?」
「家の近くのショッピングモールだけど?」
「それはどこにあるニャ!?」
「とっても遠いところかな?」
この世界とは違う世界。多分、いこうと思ってもいけない場所だな。
「どのくらい遠いニャ」
「もう二度と戻れないくらいには遠いかな?」
「ニャニャ!? そんなに遠いのかニャ?」
「うん。遠いと思うぞ?」
「なんでさっきから疑問形ニャ?」
「俺も戻り方を知らないんだよ」
「そうなのニャ? どうやってここまできたニャ?」
「さっぱり分からないんだ。気づいたら、町の外にある草原に立っていたんだよ」
「不思議ニャ」
え、それを信じるの? 言っている俺でもアホかと思う話だぞ?
「ところで服を返してくれないか」
「嫌ニャ。ウチに売るニャ」
「売るって……それがないと他に着るものがないから困るんだよ」
下着姿で歩いていたら、さっきの警備兵が飛んできそうだ。
「服なら売るほどあるニャ。好きなものを着ていいニャ」
そこで気づいたが、ここはどうやら衣料品店のようだ。質の悪いマネキンが服を着ており、ハンガーに色々な服がかかっていて、多くの生地が棚に置いてある。
ランニングウェアは返してもらえそうにないから、店に並ぶ服を選ぶ。ランニングウェアでは目立っていたから、ありがたいといえばありがたい。
俺は白いYシャツと茶色の革のベスト、藍色のジャケットに黒色のパンツを選んだ。
「これも持っていくニャ」
彼女は革袋を押しつけてくる。
「これは?」
「銀貨10枚ニャ」
「銀貨……?」
袋の中には銀色に鈍く光る硬貨が入っていた。
「今のウチに出せる金額ニャ」
「この銀貨1枚でどれほどの価値があるか教えてもらってもいいかな?」
「銀貨の価値を知らないニャ?」
「遠い国からやってきたんだ」
「いいニャ、教えてあげるニャ」
この国の通貨単位はギール(以後Gと表記)で、1G鉄貨、10G黄銅貨、100G青銅貨、1000G白銅貨、1万G銀貨、10万G金貨、100万Gミスリル貨がある。
パン1個が10Gから02Gくらい。安宿が1泊で300Gくらい。服は意外と高く、俺が選んだもの全部で1万5000Gもするらしい。
あるんだな……ミスリル。
異世界と言ったらミスリルだもんな! 興奮するぜ。
「つまり銀貨10枚(10万G)はかなり高額だということか」
「大金ニャ」
「こんなにもらっていいのか?」
「いいニャ」
銀貨10枚を手に入れた。かなりの金額だ。
ランニングウェア1着でこれだけもらっていいのかと思うが、ありがたくもらっておこう。何せ俺は一文無しだからな。
「俺はケンヤだ」
「ウチはチャロニャ」
「チャロニャだな」
「チャロ、ニャ!」
「チャロ、か?」
「そうニャ」
「それじゃ、ありがたくいただくぜ。チャロ」
「またくるニャ」
「もう服は持ってないぞ」
「いいニャ。こいつのお礼にサービスするニャ」
「それはどうも」
「そうだ、俺はこの町のことを知らないんだけど、少し教えてくれないか」
「いいニャ」
チャロはランニングウェアに頬擦りしながら、話し始めた。それ、俺の汗がついてるんですけど……。
そういえば、彼女のステータスはどんな感じなのかな。―――鑑定。
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チャロ 女
【class 裁縫師】
【level 70】
【skill 裁縫】
・Lv1:生地裁断
・Lv2:生地縫い
・Lv3:美的センス向上
・Lv4:色彩 目寸
・Lv5:未開放
【skill 刺突剣術 】
・Lv1:刺突
・Lv2:開放不可
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『[チャロ]猫獣人族 服作りが大好きな18歳の女の子 服のためならモンスターの群れにも突っ込む命知らず 身長166cm 体重47Kg B92 W59 H88』
レベルが高いな。俺のレベル1が赤子のように思えるぞ。それに服のためにモンスターの群れに突っ込むって、いかれてるぜ。だが、嫌いじゃない。しかもいいプロポーションしてるよ。
俺のスキルたちはunique skillやworld skillとあるが、チャロはただskillなんだ。俺のステータスがおかしいとか、突っ込まないからな!
てか、ステータス以外にもちゃんと説明が出るんだな。俺はどんな説明なんだ?
『[ケンヤ・クリュウ]異世界からやってきた30歳のオッサン とても器用だが、女には不器用 身長180cm 体重72Kg 体脂肪率13%』
オッサン言うな! あと、女に不器用は認める! しかし、男はスリーサイズじゃなく、体脂肪率なんだな。男のスリーサイズなんて、需要ないからこっちのほうがありがたい。
おっと、せっかくチャロが色々説明してくれるんだ、しっかり聞いておかないとな。
「つまり、薬を作って売るには、薬師ギルドに登録しないといけないということかな?」
「そうニャ。変な薬があったら大変ニャ。だから、薬師ギルドが目を光らしているニャ」
「なるほど……。それで薬のレシピも薬師ギルドで購入できるんだな?」
俺は錬金術で下級魔法薬を錬成できるらしいが、レシピとか要るのかな?
「そうニャ。でもお金かかるニャ」
「この銀貨で足りるかな?」
「知らないニャ」
それもそうか、チャロは裁縫師だもんな。薬師のことを細かく分からないのは納得だ。
「色々ありがとう、チャロ。それじゃあな」
「ニャ~」
建物を出て振り返る。
「チャロ衣料店、か……っ!?」
俺は大事なことを忘れていた。
「この世界の文字が普通に読めるじゃないか? 言葉もなんの違和感もなく喋っているし、聞こえる」
どうやら言語理解は喋りだけじゃなく、読みも問題ないようだ。読みができるんだから、書きもできるよな?
警備兵の言うように、商人ギルドがあった。本当に大きな建物だ。俺は商人ギルドの前を通り過ぎ、目的の場所へ向かった。
チャロからもらった銀貨10枚があるから、薬師ギルドは明日いこう。今日は買い物をしてから宿をとり、ゆっくりしたい。