プロローグ
突然だが、オレはクズだ。これは胸を張っていえる。どうしようもない人間なんだ。オレはそれを冷静に認識している。
でも、悪い奴じゃないと思ってもいる。
時折、うっとりするくらい良い奴だと自分のことを思うことだってあるんだ。
無職だけど、外に出るのは好きだから、よく近くをぶらぶらしている。
そこで、困った人を見かけるとする。そんな時は、手助けするんだ。そうしたことには、割と抵抗がない。
でも、何かのために頑張るということが全くできない。
学生の頃は良かった。
常に次があったからだ。
その中で、まあまあな結果さえ残せば、とりあえず来年まで生きていくことが許された。
しかし、社会に出たら違った。
何がしたいの? 何を目標にするの?
学生は夢を語る権利があるというが、オレはついぞ使わなかった。
そんな超現実主義者のオレはむしろ社会に出てから、将来を語ることを求められ、見事に適応するのに失敗した。
就活も適当な口から出まかせで面接に臨んだら、案外行けてしまった。
ところが、そんな風にして入った会社だ。
毎日が、虚しくて仕方なかった。
オレは頑張りたかったんだ。
でも、その方法はやっぱりわからない。
次第に寝られなくなるし、起きられなくなる。
そうしているうちに、会社に行かなくなっていた。
こっそり、本音を言って良いなら、行けなくなっていた。
会社に続けていけないと相談すれば、辞めるかどうかを聞いてくる。
圧力がすごかった。
僕は辞めると言ってしまった。それで翌日付で退職。さすが、ベンチャー企業! スピード感が違うぜ!
それから無職となった。
そんな転がり落ちようだ。
毎朝、時間なんて気にせず眠った。
夢から覚めるのが辛かった。
その頃、秩序がひっくり返るような混乱が来ることを望んでいた。
天変地異や戦争が来ることをその時は本気で祈っていた。
なぜなら、生きる理由が生まれるじゃないか。
極限状態においてはとにかく生きないといけない。
水や食料の確保。そのために行動は自ずから決まる。
今みたいに何をしたらいいか、なんて悩まなくなる。
だからオレは、本気で祈っていた。
携帯がけたたましく、緊急速報を流すたびに、現実に苦しむ人がいるのにも関わらず、不道徳にも胸を高鳴らせ、期待していた。
そう。オレはやればできる子なんだ。
ただ、やりたいと本気で思えないから、損したくないと思うから、動けないだけだ。
だから、その時が来たら、何か生きないといけない理由が生まれたら、オレは頑張れるようになる。
例えば、彼女や嫁さん。子供。自分のでもそうだし、拾ってきた子供でもいい。
何かを守るためには、自分を律せるんじゃないか。
でも、現実はそんなに甘くない。
そうそう。
ほんとに、世界が一度終わりかけた。
それをオレは救った……。ことになっている。
なんやかんやあって、オレは勇者になった。世界がそれを認めている。
守るほかない生意気で口うるさい小娘がまとわりつくようになった。
この間までの洋大よ喜べ、ヒロインだ。
というわけで、戦う理由ができた。
一応、公務員にもなった。無職も脱した。
しかし、しかしだ。
残念なことに、オレはオレだった。
世界を救わなければならないと頭でわかっていても行動が……。
言い訳はたくさんある。レベリングが足りないし、サバイバルに関する座学研修も欲しい。
でも何よりも、何よりも厳しいのは、あの娘っ子だ。
曰く、転生者なんだそうだ。
びっくりした。
これがどういうことかわかるか。
どうやら、俺たちの世界は作り物らしい。
やってらんないよな。
約束された勝利がオレの前途にある。
え、どうしよう。ピンチの場面とか聞くだけで逃げ出したいんだが?