頑張り屋の奥さんへ
僕がいなくなってからも君はずっと頑張っているね。すごい事だと思っているし、誇りにも思っているよ。
そんな君にお願いがある。
君が思っていることも、他の人から言われた言葉も何もかも手放して、僕を見てくれないかい?
僕は君の事を嫌っていたかい?
子供達は君を嫌っていたかい?
そして、君は僕が嫌いだったかい?
君は子供達を嫌いかい?
ただそれだけを今考えてくれないか?
長く一緒にいたのだから、分かり合えなくて腹の立つ事もあっただろう。
自分でも頼りにならない夫だったとわかっていたよ。
そして、君の苦しみを取り去ってやる事は出来なかった不甲斐ないこんな僕にも君は色々してくれたね。
それがどんな気持ちからであっても嬉しかったんだよ。
奥さん、君の中で今の僕は笑っていないかい?
僕は笑っていたいんだ。
今、僕は暗い海の底にいる。
君が一緒に笑ってくれたらここからすぐ出れるんだよ。僕をここから出してくれないかい?
人は『善』の心の中にほんの少しの『悪』を混ぜて作られたのを知っているかな。悪を増やしたり、減らしたりする事は人の努力で出来るだろう。でも100%善になる事は誰も出来ないんだ。
そこはどうしても無理なんだよ。
いくら頑張ってもそれ以上君は君の中にある悪を減らす事が出来ないんだよ。
そして、他の人もそうなんだ。
いくら良い人だとしても、『悪』のない人はいないのだから、皆、それぞれ罪を犯している。
それを軽蔑するかい?
罪を犯した人を馬鹿にするかい?
君はしないだろう?
罪を償おうとしても、償いきれないのを賢い君ならわかっているはず。
なかった事にはならないからね。
だったらどうする?
心から謝ればそれでいいんだよ。出来る事なんて他にないと思わないかい?
僕を許してくれないかい?
君から苦しみを取り除けなかった情けない夫ではなく、君という奥さんと一緒にいられた幸せな夫にしてくれないかい?
そう、今からは自分の中の『悪』を減らす事より、楽しかった話や嬉しかった話を僕にいっぱいして欲しい。
君とずっと幸せな仲良し夫婦でいたいんだよ。
起きてしまった事に関して感じた思いも変化していくんだよ。
だって、いつかは浄化されていくものだから。
他の人達の悲しみや苦しみも浄化してもらって光に還った方がいいと思わないかい?
どうかな?
今の僕がそろそろ見えたかな?
僕は今子供の姿になっているよ。
紺色の毛糸のベストに半ズボン。
膝を抱えて座っているのはどうしてだと思う?校長先生の話を聞いているんだ。
目がキラキラしているのがわかるかい?
可愛いくて頑張り屋さんの奥さんにまた出会えるように期待して待っているんだよ。