走る!
走る!
僕は走る。
見渡す限り続く草原を、風を切ってどこまでも走る。
大人たちがどこに行こうとしているのか、いつまで走るのか、僕は知らない。
だって、僕は生まれて初めて、これほどの距離を、どこまで続くのかわからないこの広い草原を、走っているのだから。
でも、僕は走る。
走ることが楽しいから。
前を行くおじさんに、おばさんに、お兄さんに、お姉さんに、負けないように、遅れないように——僕は走る。
脚の筋肉が躍動する。
ぴちぴちと跳ねるような筋肉のリズムが聞こえてくる。
まだまだ成長する僕の全身の筋肉が、肺が、心臓が、この負荷を楽しんでいる。
僕は今、草原を駆け抜ける一個の生命の音楽だ。
たくさんの大人たちの生命が奏でる大草原のシンフォニーの中で、僕だけの音色を持つ音楽だ。
時々、前を行く大人たちがまきあげる砂埃で舌がざらつくけど、そんなことはこの喜びの中では大したことじゃない。
いつか、僕はもっと速くなって、この集団の先頭に出る。
そうして、まだ吸ったことのない先頭の風を、胸いっぱい吸い込んで、誰よりも速く、誰よりも遠く、どこまでも続く草原を駆けて行くんだ。
中央アジアのステップ地帯に広がる草原を、モンゴルガゼルの群が走ってゆく。今年生まれた仔ガゼルも大人たちに懸命についてゆく。
この地球には、陸上だけで150万種もの生物種が生きている。「ニンゲン」が分類して名付けたものだけでも・・・・。




