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我の復讐劇  作者: スモークされたサーモン
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第六幕 やっぱりラスボスから攻略なのよ。それがRTAなの。


 およそ半日ほど馬車に揺られて我はモンドールへとたどり着いた。尻の肉はないのでケツが痛かったりしないのがせめてもの救いであるな。


 我の復讐はようやくここから始まる……ぬ? 前の人はどうしただと? 


 前の人などおらぬっ!


 ということで我の復讐劇のスタートである。


 まずは我のたどり着いたここ。モンドールの紹介であるな。



 モンドールはなだらかな丘に作られた大都市というか要塞都市である。大陸を四分割した一角を占める大国でもある。国境の西が海を面しており種類豊かな海産物が有名なのだがその分農作はあまり盛んではない。国の周辺でそれなりに耕してはいるが小規模なのだ。


 まぁモンドールはあれだ、いわゆる大人の国ゆえ。畑を作るよりも人を呼んで金を落とさせる。それに特化した国なのである。なので漁業も実はそれなりである。


 基本的にピンクな国なので我はちょっとこの国に入るだけでも忌避感が……でも復讐は止めないのである!


 そんなちょっとエロい国であるモンドールには大きな街の中央にモンドール城がある。我の第一目標はそこだ。


 一応筋を通す為に我はあいつに会いに行くのである。最初に我を切り捨てたあの聖女の面を拝みに、であるな。



 


 モンドール。長大な壁によって囲まれた大きな都市で城を中心に発展していった人間の国。勿論人間以外の種族も住んでいるが基本的に人間至上主義な所がある。元々は魔物に滅ぼされた国の流民が集まり出来た集落が始まりである。まぁこの国の王家はその歴史を決して認めようとはしないのであるが。


 自分達は滅びた王家の末裔だ、とか言っちゃってるのだ。我も失笑であるよ。かつての王家は人では無かったと言うのに。まさにプークスクスである。


 広大な丘に壁を築き円を描くように拡張していった歴史から街中にもその名残が残り、それがそのまま街の区分ともなっている面白い国ではある。同心円状に広がる的みたいな国である。まぁ中心に行くに従って金持ちの区域になるのは当然であるな。一番外側にあるのがスラムと言うのもまた納得である。


 街の外、街壁の外には申し訳程度の畑が広がり数少ない農民はいつも魔物の脅威に晒されながらそこで暮らしている。そこに働くのは人では無い者達である。エルフにオークといった他種族であるな。まぁ彼等は元々街中で暮らすのに適さない性格、性状ゆえそこまでの迫害でもない。一応兵士も巡回中ゆえにな。


 歴史を知ってる身からすれば、この国の歪みはそっくりそのまま過去の姿と同じであるのだが、と我が思ってもどうしようもない。今を生きる者達はそんな事など気にしないのであるからな。


 そんな滅びに一直線なモンドールは歓楽街が主要産業なので人の出入りは盛んであった。つまり入国もザルであった。我、少しは騒ぎになると思ってた。なのにあっさり入国出来て超驚いた。門がフルオープンで素通りって。


 我……骨なんだけど。一応ローブとフードであるが。


 仕事しろ衛兵! と言いたくなったが我慢したのである。渡りに舟であるからな。丁度日も暮れる頃に到着したので入り口から見えるモンドール城の城壁は夕日に染まり中々に美しい様相であった。


 まぁ我、目玉も無いから見れないけどね。


 基本白黒でしか見れないからむしろ眩しくてきついのである。外壁エリアから見える城は壮麗ではあったが、我は知っている。あの綺麗な建物の内側はどろどろのぐちゃぐちゃであると。人の欲望で異界と化しておるとな。


 既に日は暮れかけて空は徐々に紫へと変わっていった。街の入り口でおのぼりさん宜しく立ちすくむ我を置き去りに、多くの者が街の中へと雪崩れ込むように入っていく。


 空はどんどんその色を変えていく。青から紺へ。そして宵闇へと。


 夜。それは闇の魔導師たる我の時間である。でも我はあんなにギラギラした目で酒場とかエッチな劇場とか大人のお店に行ったりしない。あんなに走ってまで…………そんなにすごいのかなぁ……。


 ……否ぁ! 


 我は復讐の鬼である! たとえボインでキュートなギャルがナンパしてきても我は靡かぬ! 堕落せぬ!


 ここは正々堂々と街を闊歩して行くのである! 一応路地をこっそりとであるが。我の見た目はがっつり魔物なのでこっそりとひっそりとなのである。大通りから早めに退避なのである。というか通行人にぶっ飛ばされたともいう。


 それくらい夜の大通りは人で溢れていたのだ。


 大通りには数多くの屋台が立ち並び、喧騒がすごかった。流石に大国モンドール。夜になろうとするこの時間でも、まるで祭りのような賑やかさとは。まぁ我には関係無いからスルーであるけどな。我、骨だから食えないし。


 若干へこみながら裏路地にてけてけと向かった我は運命の出会いを果たす事になる。


「きゅーん……」


「はぅあ!? 痩せすぎなワンコ発見である!」


 串焼き屋台のそばにある路地に入ろうとしたところで運命とエンカウトである!


 路地の端っこに隠れるようにして表通り、つまり串焼き屋台に熱い視線を向け切なげな声を上げるワンコがいた。ワンコはガリガリでボサボサで薄汚れていた。しかし屋台で買い物をするものは誰一人して省みようともせずに立ち去っていく。それを悲しげに見送るお座りしたガリガリのワンコ。


「そこな亭主よ。余り物でも構わんだろう。何故そこのワンコにやらんのだ」


 我は憤りを隠せずに思わず屋台の亭主へ食ってかかった。貴様の血は何色だー! である。


「あ? 何で犬っころにやらねぇといけねぇんだ。余ったら俺が食うに決まってんだろ」


 やべ、普通に反論された。髭面の串焼き店主も『何言ってんだこいつ』みたいな顔で我を見てた。でも、我は退かぬ!


「あんなに……あんなにもガリガリであるのだぞ!?」


 肋骨が見て分かるのだ。毛づやも良くない。脚も細くて今にも折れてしまいそうなぐらいである。


「へいへい、情け深いこって。だったら旦那が買ってあげればいいんじゃないすか」


 店主の言葉に我は胸を撃ち抜かれた。ずきゅーん! である。


「……すぐに金を用意する。味付け無しの肉を用意しておけ」


 我、無一文ゆえ。フード付きのローブ以外はマッパゆえ。風で裾が翻ると中が丸見えでヒヤヒヤなのである。暗くなってきたからようやく安心という……断じて露出狂ではないのである。


「けっ、文無しかよ。さっさと失せな」


 店主は吐き捨てるように言った。我、すごくイラッとした。でも確かに文無しだから仕方無い。屋台を離れた我はワンコの元へとしょんぼりしながら向かった。ダメダメな我が近付いてもワンコは逃げることもせずに微かに尻尾を振った。振ってくれたのだ。


 我は決意した。必ずやこの健気なワンコの為にあの肉を手に入れてみせると。


「……きゅーん」


「ぐっ、待っているがいいワンコよ。ちょっと頭のおかしい聖女から金をふんだくってくるからな。それまで我の骨を一本……」


 骨は沢山あるから適当な所のを……。


「「きゅーん」」


 ワンコ増えた!? 路地の奥から八匹がトテトテとやって来たのである!


「……じゅるり」


 あ、我、ここで死ぬかも。






 私は罪深き者。私は大罪人。世界の希望として奉り上げられておきながら何も出来なかった。そして今もあの場所にあの人が残ったまま。もう半年。あの人はもう……。


 私は……選んでしまった。あの人と世界を天秤に掛けて私は迷わずに世界を選んだ。決して敵わない相手とは思っていなかった。予言があるにせよ私達は世界中から集められたのだから。世界の希望として最強の人選だった。みんなで力を合わせれば終末の獣と言えど必ず退かせられると信じていた。


 でも……それは叶わなかった。


 逃げたのだ。みんな。あの姿に恐れをなしてしまった。退いたときにはもう戦うなんて意思すら残って無かったのだ。だから封印の洞窟は崩された。あの終末の獣が出てこれないように。臭いものに蓋をするように。


 あの人を中に残したまま。


 私だけがやる気に満ちていても駄目だった。そして討伐は成された事にされた。街に戻り体勢を立て直す、ひとまずは成功したとして落ち着いたらまた助けに行くと。だから真実を伝えて徒に民の心を乱さぬようにと私は説得された。あのときはまだ私もみんなを信じていた。必ずまた挑むと。しかし私は騙されたのだ。


 国に帰った勇者は終末の獣が討伐された事を大々的に宣言し、国を挙げてのお祭りとなった。


 しかし私は仲間によって貶められた。戦いによって頭をやられたと。私は正気を疑われ城の奥に軟禁される事になった。そして気付いた。全てが嘘であったと。全てを嘘で塗り固めるつもりなのだと。


 そんな事をしても罪は消えないというのに。あの終末の獣が消えたわけでもないのに。たかが瓦礫の山如きで足止め出来るはずがないのに。


 滅びは未だ、そこにあるというのに。


 だが私はそれを止められなかった。だから私は罰を受ける。大嫌いな人と結婚して子を成すという罰を。産まれてくるだろうその子はいずれ終末の獣に挑むだろう。必ず来るという滅びの未来は変わっていないのだ。


 豪華な部屋の一室に軟禁されている私に出来るのはそれくらいしかないのだ。聖女なんて言われていたのに私は何一つ救えはしなかった。


 そう……だから、これは罰。私が私を許せない。何よりも誰よりも。あの人を犠牲にしておいて何も出来なかった私への罰。


「ふむ、少し痩せたか。おいパンツ女よ、とりあえず金を寄越せ」


 いつも夢にあの人が出てくる。初めて私を人として見てくれたあの人の夢を。誰もが私を聖女として接するなかであの人だけは私を一人の女として見てくれていた。敬う事も、かしずく事もなく私を対等な人として扱ってくれたあの人。


「無視か、このパンツめ。まぁいい。とりあえず部屋を漁るぞ」


 ……いつもは夢でしか現れないはずなのですが、遂に幻覚と幻聴として現れるとは。やはり私はあの人を想って……。


 ガタガタゴトン!


「……むぅ。タンスに一ゴールドも入ってないとは……仕方無い。このパンツを聖女のパンツとして売れば二束三文にはなろう」


 豪華な部屋で椅子に座って鉄格子越しに夜空を眺めている私には私のタンスを漁る白いローブの幻覚が見えていた。あの人には似合わない真っ白な葬送用のローブがヒラヒラと目の前で揺れていた。


「……幻覚にしてもちょっと酷すぎますが」

 

 明らかに実体と見えるほどの幻覚に私は後悔の深さを改めて痛感した。聖人の葬送服を着てるなんて私はあの人をそんな風に想っていたのですね。


「あぁ? 我は復讐しに来てやったのであるぞ? 何で来なかった。我は待った。すぐにでも助けに来ると……我はそう思っていた。本気でな」 


 ああ、これが私の罪。そしてそれを痛いほどに自覚する。この幻覚は私が私を許せない証拠。私の心が私を何より許せない。だから幻は私を責め立てる。


「……言い訳はしません。私は……あなたを置き去りにして殺した。だから私は……」


 私は……どうしたいの? 許しを求めているの? もう全てが手遅れだというのに。幻に答えてもそれは自己満足でしかないというのに。


「勝手に殺さないで欲しいものであるな。まぁ今の我は生きているのか死んでいるのか、あやふやな世界に居るので間違いとも言えぬが……とりあえずパンツは貰っていくのである」


 ……随分と幻覚にしては……?


「それにしても……黒パンとは我もドン引きである」


 ローブの袖が上がりその闇色の袖の中に私のおパンツがビョイーン……!?


「ぎゃー! な、何で幻覚が私のおパンツを伸ばしてるんですか!?」


 白のローブに手は隠れているけど間違いなく摘まんで伸ばされていた。私のおパンツが! 私のおパンツがビョイーンって! そんなに伸ばしたらゆるゆるになっちゃうのに!


「あ、気にすることは無いのである。この肉体は女性ゆえ。しかし……エグいな」


 黒のおパンツをためつしがめつしていたローブの幻影はおパンツを掲げたままだ。これは私も恥ずかしいですよ!?


「うわぁぁぁ! まじまじと見ないで下さいませ!」


 フードを深く被っているので顔は見えない。しかし間違いなく見られてる。ガン見されてる。フードの奥は真っ暗で何も見えないけれど絶対にあれは私のおパンツを凝視していた。


「いや、しかし……これは……どうなのだ?」


「私も知りませんよ! 勝手に入れられて……それしか私のおパンツが無いんです!」


 服も食事も用意されてはいたが……どれも私の趣味とは一致しない。囚人としては破格の対応なのでしょうが。


「ふむ。つまりあの自称勇者の趣味か。フンドシで無いだけまだマシ、なのか」


「私はフンドシの方がまだ抵抗が無いのですが……」


 聖人の基本装備はフンドシなのでむしろおパンツは憧れだったのです。ですが流石にこの紐みたいな黒のおパンツ様は私もちょっと。


「……マジであるか。聖女はフンドシであったのか……ん? という事はこの肉体もフンドシなのであるか?」


「…………幻覚ですよね? 闇さん」


 そのあまりにも現実的な対応に私も少し自信が無くなっていた。いくら幻覚でもこれは無い。おパンツがビョイーンって。そしてこんなやり取りでさえ、こんなにも懐かしく思ってしまうなんて。


「実体はまだ封印の楔になっているから安心するのである。この肉体は影を使って動かしているのである。終末の獣は元気いっぱいゆえ」


「……闇さんなのですか?」


 もしかして……ほんもの?


「我は復讐しに来たのである。覚悟は……」


「闇さーん!」


 ガシャーン!


 

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