表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我の復讐劇  作者: スモークされたサーモン
5/28

第五幕 復讐劇の開幕なのよ。ようやくなの。もう五話も進んだのよ? ポテチの袋が三つは空になったの。



 それは陽気な昼下がり。モンドール王国へと続く街道を乗り合い馬車が進んでいたの。


 あ、陽気って言っても歌舞音曲で大騒ぎって訳ではないのよ。ぽかぽかあったかぬくぬくの陽気なの。お日様が『ふ、これがいいんだろ?』的な穏やかな日差しなの。


 行き交うものも滅多にいない長閑な道を馬車がポッカポッカなの。馬車の荷台には幌が掛かっていて中には一人だけお客さんが乗っていたの。御者を含めても二人だけの馬車なの。幌の掛けられた馬車の中は日中でも薄暗いの。でも中の人はフードを被り全身を隠すような黒いローブを羽織っていたの。不審者感が満天なのよ。


 うたた寝したくなる陽気に眠気を堪える御者。彼は平和を感じていたの。


 半年前には今の平穏は考えられなかった。世界は平和になったのよ。それを彼は太陽の温もりと同時に感じていたの。


「っくあ~。この陽気……眠くなりやすねぇ、旦那」


 馬の手綱をなんとか握っているだけのうたた寝運転。お馬さんも長閑な道をのんびりテコテコなの。尻尾もフリフリなのよ。他に行き交う馬車も人もない。だってこの道は主要な街道から外れているから。


 そんな所を仕事でたまたま通りかかった馬車。珍しい客を拾ったの。それは真っ黒な客だったの。頭から爪先までを黒のローブで覆った明らかに怪しい人物だったの。


「……そうか」


 馬車の中からかすれたような声で返答があった。御者の男は少し驚いたの。フードをかぶり闇色のローブで全身を纏った男が答えるとは思っていなかったのよ。フードの男は客として乗ってから必要以外の会話もなく全く喋らなかったの。

 

 お馬さんの足音だけが街道に響いていたのよ。だから眠くもなるのだけど。


「時に旦那……この時期にモンドールに行くってことは、あれですかい? 聖女様と勇者様の結婚式目当てですかい?」


 御者の男はポッカポッカと規則的揺れる馬の背中を見ながら言ったの。目的地まではまだまだ遠く、かといって黙っていてもまた眠気に襲われるだけ。もし客が居なければそこらに馬車を止めて一眠りしたくなるような平和でうららかな日だったの。


「……そうか……やはり結婚するのか」


 暗い馬車の中からは感情の消えた声が聞こえてきたの。そこには何の感慨もなく、祝福している色もない。御者は少し疑問に思ったけど、またしても眠気に襲われて船を漕ぐのに専念することになったの。


 馬車の中では黒い()()が渦巻いていることに気付くこともなく。


 幌の中はどす黒いもやで埋め尽くされていたの。幌の外は至って平和な昼下がり。鳥がさえずり、風が草原の草を揺らす穏やかな昼下がりなのに。


「……結婚……我を封印したまま結婚……」


 濃い、ともすれば夜の闇のように真っ黒なフードの奥。眼窩に当たる場所から紅い光が漏れ出ていた。それはまるで小さな焔が二つ、ちらついているかのようだったの。


 フードを被った者、その体を覆うローブが小刻みに揺れていた。カタカタと不思議な音もローブの中から聞こえてきたの。


「……許すまじ……」


 黒いもやの渦が幌の中で渦巻いていく。まるで黒いわたあめがぐるぐるぎゅんぎゅんなの。幌布が揺れ馬車が微かに震動する。御者は気付くこともない。既に彼は遠い所で幸せな夢に浸っていたのだから。


「……いくらなんでもそれは無いだろうに」


 滲み出るような怨嗟と共に黒い渦は更に荒れ狂い続ける。ついには男のフードがぺろーんと捲れ上がった。その下にあったもの。それは眼窩に紅い光を灯したシャレコウベだったの。骸骨なのよ。ガイコツ。


「……あ、いけね」


 頭が出たことに焦ったのか、骸骨頭の客はフードを急いで被り直した。


「……この魔素も……どうしよう」


 幌の中は夜の闇と言ってもいいほどに黒いもや(魔素)で満ちていたの。頭を抱えるガイコツフードの男を埋め尽くすほどに。




 馬車は進む。復讐に燃える者を乗せて。長閑な昼下がりの日差しの元をパッカパッカと。


 目指す先は大国モンドール。銀の勇者と聖王国の聖女が婚礼の儀式を行う二ヶ月前。束の間の平和、その長閑な日の一場面だったの。


 シャレコウベの男に名はないの。しかしその通り名は裏の世界で知らぬものはいないくらいには有名だったの。とある魔女は知ってて無視したけど。


 ただ一文字で『闇』。


 そう呼ばれる闇の魔導師。それがシャレコウベの正体なの。彼は以前、確かに人だったの。かねてから闇の力をもつ強大な魔導師ではあったけど今の姿の如き骸骨の頭をしていたわけではないのよ。それだと『闇』ではなくて『ホネ』なのよ。


 その異様な姿になってまで『闇』が求めたのは復讐。自分を見捨てて逃げ出した者達への復讐のため。彼は復讐するためにモンドールに向かっていたの。


 乗り合い馬車に乗ってね。

 

 ホネなのに馬車に乗ったのよ。モンドールはそれくらいに遠かったの。スッゴク遠かったの。封印された洞窟の近場に朽ちていた骨に乗り移ってようやくここまでこぎ着けたの。闇っぽいフードとかローブは全部拾い物なの。元はマッパなホネだったの。しかも今回のホネで八代目。


 長い旅だったのよ。野良犬に何度も襲われたの。野良魔物にも襲われてホネをガジガジされまくったの。それでも『闇』は復讐を諦めなかったの。憎いアンチクショウどもをメタメタのギッタンギッタンにしてやるって……最初は思ってたの。


 馬車を見付けて『闇』は歓喜に震えたの。これでもう魔物や野犬にガジガジされなくて済むって。これで楽して進めるって。


 復讐の旅なのよ? これ。骨には厳しい旅だけども。


 代わりとなるホネがそこらじゅうに落ちてることから察するのよ。この世界は人間に優しくないの。人間なんてすぐにホネになる世界なの。ゾンビになる前に美味しく食べられちゃうの。ホネになってもガジガジされちゃう世界なの。


 本当はそんな世界だけど今は平和なの。のんびり馬車がパカパカと進むのよ。滅びの前の静けさなの。のんびりしているのは人間だけ。他の生き物は本能的に察して諦めているの。


 ああ、世界は終わるんだ。とね。


 馬車を()くお馬さんもつぶらな瞳で遠くを見つめているの。『ああ、可愛いあの子に種付けしたかったなぁ』と思いながら。


 ……今日の夕飯は馬刺しなの。慈悲はない。



 そんな訳でホネは馬車に乗ってモンドールへと向かう事になったのよ。


 自分を置き去りにして、のうのうと暮らしている奴らに復讐を果たすために。



「……まそまそ~、ちょろりんけっけのぱー!」


「……ふがっ? だんなぁ? なんか言いやしたかぁ?」 


「いや、何でもない。大丈夫である」


 ……大丈夫かなぁ? 馬車内の魔素は散ったけど。その呪文はどうなの?



 あ、私の出番はこれでお仕舞いなの。ようやく復讐劇は始まるの。私はそれを遠くで見る事にするの。新たなポテチをかじりながらね。


 ふふふ。


 今日のポテチは『のりしお』なのよ! やったー!


 では……あでゅーなのー!


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ