第四幕 プロローグ プロローグはこれでお仕舞いなの。次回からが本編なのよ。まぁここも大切ではあるけれど。
一時間を越えた説教はわりと我の心を削った。我はお説教を食らいながら部屋に居る面々に自己紹介された。まぁこの辺はどうでもいい。我もよく覚えていない。ネチネチと責める聖女のせいで何も覚えておらぬ。あの小娘め!
言うに事欠いて我を『独身男性ならば性欲が旺盛なのも仕方ありませんが~』とか、したり顔で言いおってからに。あんなババアの紐パンで興奮するほど旺盛ちゃうわ!
と、我は心の中で思った。真っ赤な顔でお説教を続ける初心な聖女に辟易としていたが我は耐えたのである。我は大人ゆえ。しかしそれに業を煮やした者がいた。
それは自称『勇者』である。
我、思わず失笑。なんで自称『勇者』なのか。勇者とは物語にしか出てこないヒーローである。それは現実で名乗っていいものではないのだ。子供にも失笑されるのがオチなのだ。というか子供のごっこ遊びの定番すぎてまともな大人であれば絶対に名乗れないのだ。
……普通に恥ずかしいからな。
しかし自称『勇者』はメンタルが強かった。
「聖女様、そのお話はまた後日に。今はこれからの事を話しませんと」
「なりません! 今この方が改心せねばまた魔女さんのおパンツが犠牲になられます! あなたはそれでも宜しいのですか!」
我、これには苦笑い。そして魔女……真っ赤になって部屋の隅に隠れちゃった。聖女パナーイ。老婆だけど羞恥心は残っていたのだな。まぁ一時間も自分のパンツについてグチグチと言われていたらそうもなるか。
「うっ、いやしかし……今はそれどころでは」
「乙女のおパンツも守れない者が世界を守れるとお思いですか!」
聖女語録は更新スピードが早いのである。世界から集められた豪傑達もタジタジであった。我もちょっと怖くなった。だってこのときの聖女は本気で言ってたし。真面目なバカは本当に手に負えぬ。微妙に正論なのも困ったものだ。
「や、闇殿! 改心なされたな? な!」
本気で引きつった顔をした金髪イケメンの自称勇者も流石に聖女には敵わなかった。強引に幕引きを狙ったのだろう。
「……いや、おパンツであるな」
だが我は断った!
何となく同意したくなかったのである。我もちょっぴり反抗期ゆえ。何となく魔女が部屋の奥で悶えてるようにも見えたが恐らく気のせいだ。部屋にいた数少ない女性陣から軽蔑する視線も飛んできたがそれは無視した。男には退けぬ戦いもあるのだ。メイドさんからの視線が特にヤバかったが我は心を鬼にして無視したのである。
「むぅー! まだ反省していませんか。……仕方ありません。これだけはしたくなかったのですが……」
我の捨て身の行為はついに奴を本気にさせた。奴は本性を出してきたのだ。我はこれを待っていた。奴が実力行使に出たらそのどさくさで逃げようと。
しかし……しかしだ!
あの小娘はどこまでもアホの子だったのだ!
「わたくしのおパンツを……その、差し上げますから我慢なさってくださいまし」
聖女が恥じらいながら抜かした言葉。それは世界の時を凍りつかせた。
……我は固まった。というか皆固まった。自称勇者は顎が外れんばかりに口を開いていたし、他の面子も目と口を丸くして固まっておった。無論我もな。うぼー、という感じであるな。うぼー。メイドもうぼーである。騎士は泡を吹いて倒れていた。ある意味羨ましい。すごくうるさかったけどな。
「わたくしのおパンツで世の女性が救われるのであれば……わたくしはノーパンでも構いません!」
自己犠牲の極致……祈りを捧げるように膝を着き手を組んで天を仰ぐ聖女はやはりアホであった。
「我が構うわ! このアホの聖女めが!」
我、遂にやっちゃった。言っちゃった。聖王国の聖女、聖王国の民からしたら神のような存在である聖女に罵声を……いや、極普通の突っ込みを入れてやったのである。我、男前ー!
「なっ!? あ、アホとはどういう意味ですか!」
意外と普通に聖女は怒った。
「おパンツ大好きなアホの聖女をアホと言って何がおかしいか!」
我、とってもヒートアップ。そして部屋の皆は頷いていた。我はこの時紛れもない正義であった。きっと世界中の正義が我を味方していただろう。
しかし相手は手強かったのである。何せ聖女ゆえ。
「ふぇ!? わ、わたくしは殿方のお、おおおおパンツなんて全くこれしきも僅かなりとも興味深く思ってなんか、あ、ああああありまてん!」
……我は思った。
聖王国……終わりだなと。
こうして我らは滅びを覆す為の旅に出た。
なんかね、我がね、聖女担当みたいな感じになっちゃっててね。もう逃げ道が何処にも無かったの。嫉妬の炎を燃やす金髪イケメンの勇者様に押し付けようとも頑張ったの、我。
でもね、あの小娘は執拗に我にパンツを被せようとしてきたの。我、困った。いや、本当に。
流石に脱ぎたてではない(と思いたい)女性もののパンツを我の頭に被せようとあの小娘は旅の中、事ある毎に仕掛けてきおったのだ! 我にパンツを被せにな! 大事な事だから何度も言うのだ!
我に!
女物のパンツを!
被せにな!
我は闇の魔導師! ローブを羽織れば、とりあえず魔導師!
闇のオーラを纏いフードを被った我をあの小娘はわざわざフードをひっぺがしてパンツを! あんの小娘ぇぇぇ!
このときから我は同行者など信じていなかった。あいつら笑ってるだけで助けやしねぇ。というか問題児を我に押し付けやがった。我マジムカついた。
パンツは分担しろよぉぉ! とな。
滅びを防ぐため、という建前ではあれど、一応我らは仲間であるはずだったのだ。
……まぁ、このときの我は具体的に何をするのかさっぱり知らずにパンツを被されそうになってたんだけどね。本当にね。なんだったんだよ、この旅。