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我の復讐劇  作者: スモークされたサーモン
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第三幕 プロローグ 運命……なんてのは、まやかしなのよ。全ては幻想なの。『僕が愛しているのは君だけさ』とあのホストは言っていた。他の客にも言っていた。……むきぃぃぃぃ!



 モンドールに強制連行された我は大きな屋敷へと転移した。着いたときは屋敷とは分からなかった。何せ石作りの小さな部屋であったからな。転移用の部屋であったのだろう。牢屋かと思った。


 その部屋からメイドに案内されて我は屋敷内の大部屋に連れていかれた。そこで我は奴等と顔を合わせることになった。


 そう……これがあの裏切り者達との初顔合わせであったな。





「最後の一人……闇の魔導師殿をお連れした」


 目がイッてる騎士は興奮冷めやらぬ様子で部屋に入るなり声を張り上げた。我、ドン引きである。その狂信者の後ろ姿を見てやはり帰ろうかと本気で思っていた。


 だがあの小娘が……あの聖女めが絶妙なタイミングで我に声を掛けてきたのだ。我は踵を返す寸前であったのに。


「……闇の魔導師……なのですか? どう見ても普通の……一般の方にしか見えませんが」


 それは真っ白な聖衣をまとった少女。肌の露出が全くない聖教会の正装を着たハシバミ色(ぶっちゃけ茶色である)の大きな瞳の少女であった。ちなみに頭は修道帽というか頭巾で覆っていて……まぁ有り体にいえばまんま修道女であった。見習いの修道女にしか我には見えなかった。


 ……昔殴ったシスターもこんな感じだったなぁと懐かしさを覚えたのである。


「うむ。我はただの一般人である。ゆえに帰らせてもらう」


 思えばここが分水領であった。ここで正直に反応しなければ良かったのだ。でもなぁ……我は普通の人だから他人を無視して立ち去るとか難易度が高すぎなのである。だからこうなるのが『運命』だった……ということなのだろう。


 部屋の中には人影が幾つもあった。ここに集まったのだろう面々は例外無く勇ましい格好だった。鎧を着ていたり立派な弓を持っていたりと。


 普段着の我……超浮いてた。


「ええっ!? まさか人違いでしたの?」


 少女は純真であった。いや、純真とバカは紙一重であることをこの後すぐに証明するのだが。


「いえいえ、聖女様。この方は正真正銘、闇の魔導師で『闇』の異名を持つ予言の方ですよ」


 ヤバイ目の騎士はやはり目がヤバイままであった。それは……『崇拝』であったのだろう。恐らく我は出汁に使われたのだ。この騎士が聖女に会うための。


 この時我はようやく知った。見習いの修道女にしか見えぬ少女が聖教会のトップである『聖女』であると。光の奇跡を使いこなす聖王国の象徴……我とは正反対の存在であると。


 ちなみにであるが、聖王国の実権を握っているのが聖教会である。王もいるが聖教会の傀儡である。昔色々あってそうなったらしい。あの国の闇は深い。


「おほん! 聖女様、そろそろ宜しいですか?」


 騎士が楽しそうに会話していると一人のイケメンが割り込んできた。整った顔に上品な服。そしてサラサラの金髪と涼しげな青い瞳の……細身の男であった。


 このときの我は『こいつ誰だー?』としか思わなかった。だってすごく弱そうに見えたのだ。目がイってる騎士の方が絶対に強いと我は思った。我の肩にアザとか絶対出来てるもん。肩が超痛いもん。実は泣きそうなのをずっと我慢してたんだもん。


 そんな我を無視して話は続いていた。我、立ちっぱである。そこは座ってお茶とかお菓子とか欲しかったなぁ。我、一応呼ばれたんだよね? 既に風景扱いであったよ。壁で控えてるメイドさんにも無視されてたし。


「ほぇ? あ、はい……なんでしょうか、勇者さん」


「いえ、ようやく予言の英雄達が皆揃ったのですから早速使命の話を」


「……え? 自己紹介が先ではないのですか?」


 きょとんとした少女は意外にも常識派だった。聖女なんて言われて奉られているのだから『人は全てわたくしの踏み台になるのが正しいありようなのよ、オホホホホ!』とか言うのかと思ってた。


 いや、そういう輩も居たのである。実際に。でも今回は随分とまともで……我も困ったのだ。いや、まともではないのがすぐに判明するのだが。


「……まぁ、確かにそうですね。では不肖モンドールの勇者である私から……」


「いや、いらん。これだけの面子がいるのならば我が居なくても問題あるまい。伝説の魔女が居るのだ。我ごときの出る幕は無かろう」


 我、気付いた。風景になってたから周りを見渡していたのだ。豪華な部屋の中、でっかいソファに横たわり煙管をくゆらす美しき化け物を見つけてしまったのだ。見た目は妙齢の婦人……なれどその体に纏う魔素の濃さは尋常ではない。我も会ったことはなかった。噂でしか聞いたことがなかった存在がそこに居たのだ。


 それは齢五百を越えるという伝説の魔女。


 まぁ、本当にそんな年月を生きているとは我も思っていなかった。噂では代々その名と力を襲名していると聞いていた。どの時代の魔女も眉目秀麗で妖艶。決して表舞台に現れぬが時の権力者と懇ろであると。そして何故か東方の民族衣装を愛用しているとも。


 ……つまり紅い裾のスリットがエロかったのである。まぁ我は特に欲情しなかったのであるが。ソファに横たわる美女の太ももまぶちぃ! とは思ったけども。


 気だるげに横たわりエロエロな姿を見せつける女性は……見た目は確かに綺麗だが……我は震えない自分を誉めてやりたかった。


 目の前にいる女はそういう次元の化け物だったのだから。


「あら、私に気付くなんて……それなりにやるのね。闇の魔導師……名前が『闇』一文字の魔導師なんて噂も聞いた事がなかったから……私はてっきり自称『魔導士』の類いだと思っていたわ」


 その紅く蠱惑的な唇から煙をぶはー、っと吐き出して魔女は金色の目をすがめた。どこか愉快そうであった。確かに美女である。男が百人いたら百人が魅惑的な女性と答えるだろう。太もも白いし。


 でもこの態度には我もカチンと来た。紫煙を吐き、ソファに寝そべりながらの舐めた発言に温厚な我もカチンである。初対面だぞごらぁ! という感じである。そこはせめて体を起こせやと。色々見えそうで見えないからさぁ! とな。


「であるか。こちらもてっきりミイラのような老婆と思っていた。よく出来てるではないか? なぁ、魔女殿?」


 我の目は魔素の流れを捉える事が出来る。それは我にのみ与えられた特異な力。我が闇の魔導師と呼ばれる由縁がここにある。そしてそれは魔女の逆鱗を貫いた。


「なぁ!? あ、あんたまさか! っぎゃぁ!」


 魔女は我の言葉に驚き体を起こしたのだが……勢いがありすぎてソファから無様に転げ落ちた。


 くくく、ざまぁ。


 この時の狼狽は中々にスカッとした。まぁその後の事を考えれば我も大人げない事をしたとは思う。


 ……。


 魔女が……。


 エロい衣装の魔女がソファから落ちてパンツ丸見えになるなんて。


 そんなの我にも想像出来なかったのだ。


 ……頭から落ちて股全開とかさ。どうなのだ?


 我もバッチリ見ちゃった。部屋にいたみんなが見ちゃった。なんか……これは我が悪かったと思うのよ。流石にね。


「…………」


 豪華な部屋にすごく気まずい空気が流れたのである。魔女は派手に落ちて呻いていたが、その事(パンツ丸見え)には気付いてないみたいであった。というか、よく首が折れなかったと思う。


 しかし……しかしである。ここであの小娘がしゃしゃり出てきたのである。ついに本性を現してな。


「ああ!? 魔女さんのおパンツが! みなさん見てはなりません!」


 誰もパンツに心奪われて見ていた訳ではない。エグいパンツに皆、固まっていたのである。そのドギツイ色と形状に目が離せなくなったのだ。ラッキースケベとは次元が違う。強制的に目を離せなくなる呪いのような物であった。それくらいに色が……すごかった。目にキタ。いや、うん。沁みたね。


「あぁ!? あんたたち何見てんのよ!」


 魔女、遂に気付く。頭から床に落ちた姿勢のまま、目がギョロリである。超怖かった。逆さの顔は美人であるが、とにかく怖かったのである。まさに鬼である。


 しかしあの小娘はそんなことなど気にもしなかった。


「そうです! こんなおパンツとも言えないような紐ですけどおパンツなのですよ!」


 聖女はプリプリとお怒りであった。そして聖女語録に『紐だけどおパンツなのです!』が追加された瞬間でもあった。魔女が逆さのまま真っ赤な顔で股を押さえていたのが何とも印象的な一幕であった。まぁ押さえてもスリットから紐は見えていたが。


「……ではそういう事で」 


 我も大人である。であるからには逃げるのが得策だと思った。この場は急ぎ抜け出して体勢を立て直す。そしてバックレるのだ。


 しかしまたしてもあの小娘がぁ!


「お待ちなさい! おパンツを晒しておいて逃げるとは何事ですか! 責任をお取りなさいませ!」


 きびしい聖女の言であったが……おかしくない?


 我、この時混乱した。パンツ丸出しなのは魔女であって我ではない。そして魔女が勝手におパンツを晒しただけで我は無罪である。そしていくら紐であれ、おパンツの責任をどう取れと?


 我は困惑した。この聖女……アホの子かと。


 しかしながら当の本人は真面目な顔で我を睨んでいた。小柄な体ゆえ我を見上げる形になるが、その視線は貫くようであった。茶色の瞳は正義に燃えていた。


 そして魔女も体勢を立て直していた。床で座り込みながら股間を押さえ我を睨んでいた。パンツを隠すようにであるがスリットが全開で紐パンが『こんちゃ!』状態でどうかと思った。


 だがしかし……魔女は本気でヤバかった。怒りと殺意がメラメラと魔女の瞳に宿っていたのである。早く逃げないと我……死ぬんじゃね? と本気で思った。


「……ほら、我は闇の魔導師だから……」


 そこんところ闇という事で。我は早急にオサラバしたかったのである。


「そんな言い訳が通るとお思いですか!」


 このあとめっちゃ怒られた。まぁそうだろうとは思ってた。うむ。だよね。

 


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