最終幕 ポォォォ……あ、最終回なの? そう……。……私のポテチは?
我は無限の愛を誓いし闇の魔導師である。名前はホープという。
この名前は師が我に付けてくれたもので我は『ノッキングパンダー』を推していた。
あの頃、我は若かった。
格好いいと本気で思っていた。
で、今現在の我は二人の奥さんを持つリア充生活を送っている。勿論『封印の洞窟』の中での話である。
色々あったのだ。本当に色々とな。一言でまとめると『聖女に負けた』になるのだが……我も男であるからな。少しくらいの意地は張りたいのだ。
「やみさーん! 早くお肉を焼いてくださーい」
遠くダイニングキッチンから女性の声が聞こえた。我の妻が我を呼ぶ声である。
……奴は我の事を今でも『闇さん』と呼ぶ。ちゃんと名前も教えたのに。
まぁそれは良い。我も奴を『ペレノール』と面と向かって呼ぶのはまだ照れ臭いからな。
「あなたー! 早くしないと……くっ! この肉は私達のよ!」
……この声はペレノールではない声である。奴よりも明らかに甲高い声はまるで子供のような声であった。例えるならばメイちゃんみたいな幼女ヴォイスである。
イエス 幼女!
オオイェアー! 幼女……。
である。二回目の『幼女……。』は余韻を残した感じで遠い目をするのがポイントであるな。
「ああっ!? 魔女さん! それは私のですよ!」
「お黙り小娘! 私はたくさんお肉を食べて早く大人になる必要が……ああっ! 背中から手が! くっ、ペレノール! 援護しなさい!」
…………うむ。何をしているのか容易く想像がついてしまう。パグぅかな、それともブルかな。多分両方かなー。
我は魔晶石からにゅるりと精神体を出して妻達の元へとゆっくりと進んでいく。
……なんか戦闘音がするから行きたくない。激しい戦闘がダイニングキッチンで行われている音がするから足はとっても重いのだ。
……行きたくねぇな。あの片付けも我がやるんだぜ?
はぁ……。
それでも我は足を止めることはない。ゆっくりだけど進んでいく。
我の愛する妻達と……クラウザーとワンコ達とフヌリー達の元へ。一歩一歩自分の足で。
我の復讐劇 完
あ、フヌリーというのは新たにこの洞窟に移住してきたカエルである。二話で出てきた聖王国のカエルであるな。バスケットボールサイズの真ん丸なカエルである。群れで洞窟に移住してきたのだ。
……色々あったのだ。本当に色々とな。
……ありすぎたのだ。洒落にならぬ量で。
とりあえず気になっているだろうからあの話の続きを記しておこう。
復讐の最後としてモンドール城に乗り込んだあのときの事を……。
結局というか当然というか、最初から破綻していた『花嫁奪還計画』は途中からひっちゃかめっちゃかになり、モンドールの城が半壊したりメイちゃんとザッハークも参戦したりとか、すっかり忘れていた亡霊ドラッサたんがひっそりと勇者に止めを差していたりとか……色々起きた。
これらの突発的事項が一気に起きたのだ。全て我の与り知らぬところでな。
さしもの我もヤバイと悟ったね。これ、収拾つかなくね? と。なので聖女(主犯)を連れて我は逃げ出したのだ。我の秘密基地である封印の洞窟へと。全てをうっちゃらかしてな。
なお、そのときの我は頭蓋骨オンリーなホネホネであった。体は全て粉砕されていた。ウェディングドレスのスカートの中に収納されるのは我も初めての体験であったな。うむうむ。
封印の洞窟に無事たどり着いた我と聖女。我はホネホネから影を回収し本体へと戻り、さて精神体をにゅるりとするかなーと思った矢先である。
我の寝室に幼女がいたのだ。
それも、うさたん幼女が。
我は巨大魔晶石から精神体が半分出た状態で固まったね。天井からデロリである。だってすっごく目付きの悪い幼女が可愛らしいウサグルミであったのだ。ダボうさであるよ、ダボうさ。
うむ。このダボうさ幼女はクラウザーではないぞ。このウサグルミ幼女はあの『おばあちゃん』だったのだ。寝込んでいたはずのおばあちゃんは幼女に極限進化したのだ。
だぼっとしたウサグルミにその幼い肢体をくるませた妖艶な笑みを浮かべる幼女……でも目付きはすっごく悪い……は未だ動けない我に飛びかかりしがみついた。そして三日月のような口をしてこう言ったのだ。
「責任取りなさいよ」
我は魔晶石に引っ込んだ。にゅるりとな。
そして幼女が魔晶石にしがみつきながら足でげしげしするのを中から震えて見ていたのである。魂も震えるんだね。我はあのとき賢くなったよ。
そしてその場にドーベルワンコ達と聖女もやって来て……まぁ大変だったのだ。幼女を『魔女』と一瞥で見抜いた聖女と幼女魔女との女の戦いとか。
あ、この時クラウザーは床でヘソ天状態になって寝てた。クラウザーは大物であるからなぁ。
魔法が当たっても寝てた。まぁクラウザーだからな。遠足が楽しみで前日にテンション上げすぎた挙げ句、当日はグロッキー、みたいな子供のような事をしていたので……まぁ仕方無い。
クラウザーは放置でいいとして、問題はダボうさ幼女である。
我は全く気付かなかったが、あの『おばあちゃん』が『魔女』だったのだ。我の復讐相手である『世界最強』の魔女であるな。でも何故か老婆になっていて、しかもドザエモンになりかけていたので我にはちっとも分からなかったのだ。つーか分かってたまるか。
最初の出会いからしてノーパンだったし。そのあとはクラウザーパンツ着用だったし。派手なパンツを履いてないと分からない、と我は抗弁するね。
んで、すったもんだの結果、我は二人の奥さんを得る事になったのだ。
すごいよねー。我、おいてけぼりだったー。二人だけで話をつけてたし。寝室は倍に拡張されたけど。それでもクラウザーは寝てた。クラウザーしゅごい。
ペレノールは何となく分かるけど魔女は分かんなかった。話を聞こうにも我の手を握ったまま彼女……幼女は真っ赤になって俯いてたし。まぁ反対の手はペレノールが握っていたので……うむ、これが楽園か! と我は有頂天になったがな。
男とは単純なものなのである。普通に我はデレた。
でも、すぐに両腕をもがれた。精神体を損傷させるのはマジやめて欲しい。魂にダイレクトダメージであるからな。
まぁこの時の我はそれだけ脆くなっていたのだ。
何せ全てを終わらせて後は消えるだけであったからな。
我はこの時既に限界であったのだ。復讐をするという酔狂に身を投じたのは、これが理由でもあった。
封印で使用した我の命と魂は時間と共に磨耗していたのだ。こうして魔晶石の外に出れる時間は残り僅かになっていた。
我が洞窟に封印を施して半年が経つ頃。つまり我の限界が近付いた頃であるな。もふもふのクラウザーと遊んでて我は思ったのだよ。
我が消えればクラウザーは、また一人になってしまうと。それは寂しかろうと。
この時はワンコ達も居なかった。今では側に誰かしら居るのが当然であるがな。というかクラウザーの胸毛にチワワが潜んでいたりしてびっくりする。羨ましいぃ!
最初の予定では聖女を拉致してそれで終わりだった。奴ならばクラウザーとも仲良くやっていける……我はそう確信していたから。
だから野良ワンコがここの住人になって……我はそこで満足してしまった。もう目的は果たせたのだ。我の最期の友人……終末をもたらす獣、クラウザーは一人ではなくなった。
多くのワンコに囲まれて楽しそうに毎日走り回っている姿に……我は毒気を失ったのだ。
復讐なんて、もうどうでも良かったのだ。
我は終末をもたらす獣を討伐するために集められた『英雄』の一人。こう言ってはなんだが……世界で二番目に強い自負はある。そんな我が本気で復讐を考えていれば既に世界は滅んでいる。
我は既に死んでいたのだ。世界を毒で満たせばすぐに復讐は終わる。それで終わりだったのだ。
ペレノールさえ手元にあれば世界など要らん。それが出来る力があったのだ。復讐の黒い炎に身を焦がしていたあの頃は。
洞窟を封印してしばらくは我も信じていた。
あんな奴らでも助けに来るだろうと。
しかし待てど暮らせど奴らは来なかった。そして我の終わりが先に来た。
我の魂は呪詛に染まっていた。怨嗟に囚われたのだ。
たとえクラウザーがもっふもふであろうとそれはそれ。我も死ぬつもりなんて最初から無かったのだ。魔女と聖女が居ればなんとかなる。我は封印術で命と魂を懸けてはいたが希望を持っていたのだ。
しかし希望は絶望へと変わった。時間切れが来たのだ。
我の肉体は完全に死んだ。魔晶石に閉じ込め誤魔化しても半年が限度であった。肉体と魂の繋がりは完全に断たれ、後は魂が消えるのを待つのみとなった。
奴らは結局来なかった。
我の命は……死は無駄になる。
それが分かった時、我は影を飛ばしていた。何故だ、どうして来ないのだと。
そして知ったのだ。奴らのしたことを。我を見捨てて無かったことにしたことを。
我の怨嗟はこうして形を成した。我は成るべくして復讐の狩人になったのだ。
そのあとの顛末は……既に書いた。我の復讐は順調に狂っていった。恐らくクラウザーの仕業だろう。愛い奴め。
我が世界を滅ぼさぬように野良ワンコとの出会いを繋げたのだろう。終末の獣はこの星が生んだ免疫。それは本来、世界を守る為に存在するのだからな。
毒気を失った我の復讐は当然の如く復讐の体をなさなくなった。何せやる気がないからな。
しかし我を置き去りにし……まぁ『ここは任せて一旦引け!』 と言ったのは確かに我ではあるのだが……。
そんな男気溢れる我を助けに来なかった薄情者達はみんな酷い目に遭っていた。
特にマッケンジーは……今現在が幸せそうだから尚更アレであったし。
我は因果応報という言葉を思い出した。我が手を下さずとも天はそれを裁いていた。それでも我が復讐を続けたのは……何でも良いから残しておきたかったのだ。
我の生きた証を。
我の存在した記憶を。
我の想いを。
どんな形であれ残しておきたかったのだ。
この世界に我が生きた証を残しておきたかった。我は遅からず消滅を免れぬのだからと。
「やみさーん!」
そんな我に妻が出来た。変態でおバカな聖女だが大切な妻だ。
「あなたー!」
……こっちは……ど、どうなんだ? 実年齢は五百才を越える幼女であるが……と、とりあえず妻である。すっごく目付きが悪いけど。おばあちゃんの時は全然気にならなかったのに。むむむ。
「お肉焼いてくださーい!」
うん。何故に我が肉焼き係なのだろうかね。
今はシメであるぞ? 最終話のシメのシメであるよ?
そこで肉ぅ?
「赤ちゃんの為にもお肉を食べないと!」
「ちっ……私だってあと三年もすれば十才ぐらいの体になるわ。そしたら二十人くらいポンポコ産んでみせるわよ!」
産んでみせないでくださいお願いします。二十人はおかしいです。いえ何でもないですごめんなさい。でも十才って明らかにアウトいえ何でもないですごめんなさい。
……はっ! い、いかん。いつもの癖ですぐに謝ってしまうな。
クラウザーの『終末パワー』を半年も浴び続けていた我がこんなにも簡単に陥落するとは……やはり魔女って怖いなぁ。
……。
……うむ。我は変質していた。
なんか……変な存在になってしまったようである。
ちなみに今は『花嫁奪還計画』から半年経っている。だから正味一年は『終末パワー』を浴びてる計算になる。
……我は消滅しなかったみたい。
……やったー。
……ひゃっほー。
……うっきゃー。
……うん。
……なんか……恥ずかしくて……辛い。何であんなに我は……ぐはっ! 口から……口からなんかエクトプラズマっぽいのが出る! 恥ずかしくて死にたい! ぐぉぉぉぉぉぉ!
結局の所、我の復讐劇は終わりを迎えた。一番の復讐は『幸せになること』と昔の偉い人は言ったそうだ。
我は幸せになった。
愛する妻達とワンコ達とクラウザーとフヌリー達と暮らす日々は毎日が戦争である。
あ、娘も沢山産まれた。本当に毎日が戦争だ。ガチで世界大戦規模である。
世界は確かにそこにある。我がずっと憧れていた普通の幸せが……いや、多分普通じゃないけどな!
何でフヌリーが豪速球になって洞窟内を飛び交っておるのだ!
あれか! また娘達のオイタか! フヌリーでバレーボールをするなとあれほど言ったのに! ワンコもクラウザーも嬉々として参戦しおってからに!
我にはまだまだやりたいことが沢山ある。沢山出来たのだ。
それは復讐ではない。もっとみんなが幸せになれることだ。
が、ひとまずは娘達をしばくのが先である。よって今回の物語はここまでである。
復讐するは我にあり。だが復讐してこそ我がある。
ぐぼぉ!?
「……ゲコ?」
……いや……シメ……最後のシメで……これは……ぐふっ。
「とーたんアウトー」
……母親にそっくりだねぇ……がくっ。
最終回ですね。後書きも書かないと駄目ですよね?
……えっと……これは『ざまぁ』なのですよ!
サーモンテイストの『ざまぁ』はこうなったんですよ、チクショウ!
ほら、ドロドロしたのを書くのは筆者にもダメージがありますからね。ほらほら、全年齢だし。なので、きっと全てがモーマンタイ……ではないと自分でも思うんですよねぇ。
一応プロットに忠実なんですよ、今回は。かなり話を削りましたが、概ね流れは最初の計画通りになりました。
なのでサーモン的には今回は百点なのです。
話の量も適度に抑えられたので今回の作品は上々なのですよ。満足した物語なのです!
……周りの評価はさておきね。
このお話……実は『ショートバージョン』だったりするんですよね。ペチパニ編が四話くらいでしたか。そのあとにマッケンジーですよね。最初に書いたマッケンジー編は単品で二十話を越えました。
こりゃあかん! と短めを心がけて再度書いたのが今回の復讐劇なのです。
ペチパニ編の後ではキャラクターの独白とか無かったのはその為です。もっと復讐相手の内面を書いていく感じでした。
いや、めっちゃ面白い感じには、なっていたのですよ?
でも勇者に届くまでに百話越えるなぁと。
ぶっちゃけそんだけの気力が持たないなぁと。
コンパクトにまとめる、という目標もあったので……まぁ今回はこんな感じになりました。まだまだ物語で気になる事は多いと思いますが全てを書かないのも大切な事なのかなぁと、今回思いました。
思ったんですけど『逃げたなぁ』と自分でも思います。間違いなく今出せる全力なんですけど……ショボいなぁ。ちくしょう。
あ、タイトル廻りは本編を書き終わったあとで生まれました。びっくりですわ。サーモンもびっくりですわ。
でも面白いのでそのまま使いました。
多分本編を食ってますよね。
まぁ良いのです。面白ければそれで。
今の時代はちょっとおかしいのです。少しでも息抜きになればそれで良いのですよ。
読み手も書き手も満足出来ればそれで良しなのです。
今回は流行りに乗っかったので、きっとポイントがうはうはになる予定なのです。そこは俗っぽく狙いますとも。まぁポイントが100を越えたらバンバンジーですね。
越えるかなぁ。むしろ0かなぁ。それはそれで、すごいけど。
友達いないからなぁ。
……。
では今回はこの辺で。あでゅー!
さ、寂しくなんて無いのよ! サーモンは孤高の鮭なのだから!
ほ、ほんとに寂しくなんてないんだからっ!