第二十三幕 ……ぁぁぁ。孫が……。孫が……マッチョに……。……ミシェェェェェルッ! プロテインを何故あげたのよぉぉぉぉぉ! まだ青い蕾だったのにぃぃぃぃ!
「ではこれより復讐会議を始める」
「……あんた。何を言ってるんだい?」
ウサグルミのおばあちゃんがいたことを忘れていた。
ついうっかり。
我……いや、でも今更止まるのもあれだし。ということでおばあちゃんにも説明をすることにした。我の境遇と今までの復讐劇を。
つまりおばあちゃんも共犯にするのだ!
ここに住むならそうなるよねー。
……さて、説明、説明っと。
……あれ?
我の復讐劇は文字に換算すると読み終わるまで二時間掛かっていないだと!?
書くのは十倍以上の時間が掛かっているというのに!?
なんてこったい。
我がショックを受けている横でおばあちゃんもショックを受けていた。
まぁそうであろうな。我の言っている事が正しければモンドールの『英雄』達がみんな嘘っぱちであるという事になるのだから。
そして遊び疲れてヘソ天で寝てるクラウザーが『終末の獣』であるということも多分ショックだろう。色々とな。
しかし鼻提灯もクラウザーのは大きいなぁ。ぷくーって。あれを割るとすごい音がするのだ。ワンコ達の度胸試しに使われるくらいであるからな。
まぁ割ってもクラウザーは起きないので娯楽のひとつである。
それはさておき。
おばあちゃんは固まっていた。
我の『ペチパニ攻略記』と『マッケンジー異聞録』そして『オーク奇譚』に『ブリー屠殺伝』。更にはオマケで『アサシンされたドラッサたん』も追加しておいたのがショックだったのだろうか。
ふっふっふ。我の復讐劇もかなりのものになっているな。ここに『魔女征服絵巻』も追加される予定である。計画は中断しているが……どのプランが良いかな。おばあちゃんの意見も聞いてみるべきだろう。何せ年の功であるからな。
「おばぁちゃんはどんな復讐がいいと思う? プランはこんな感じ」
対魔女用の作戦ボードをおばあちゃんにも見せてみた。今回は我の主導だったのでボードの肉球汚染は少な目である。ちゃんと人間にも読めるのだ。肉球だらけも可愛いのだが読みにくくて仕方無い。
みんなでボードをペコペコ捺してるのは長閑な風景であったがな。やってるのは復讐の計画なんだけど。
ま、それはともかく。
「……あんたは……あの『魔女』が憎いのかい?」
おばあちゃんが静かに聞いてきた。なんだかおばあちゃんだけが真面目な空気を出している。
……何故だ。我も真面目に復讐してるのに。この差はなんだ? とりあえず答えておこう。
「憎い訳じゃないよ。ちょっと露出癖が強いけど真面目でまともな人だったし」
あれも年の功と言えるのだろうか。うむむ。性癖で台無しであるな。
「露出なんてしてないわよ!」
「へ?」
おばあちゃんが突然叫んだ。我も困惑である。
「あ、ええと……あたしもその……知り合いなのよ。その『魔女』の」
ふむ。確かにおばあちゃんは凄腕の魔法使いである。あの『魔女』とも面識があってもおかしくはないだろう。我は面識無かったけどな。あの人って表舞台に出ない事でも有名であったからな。まぁその分派手なパンツになっていったのだろう。
おばあちゃんは魔女の友達っぽかった。なら悪いことは言えないのである。
「あの人って怒ると怖いよね」
これならきっとおばあちゃんも同意してくれるはず。我も何度怒られた事か。軽くトラウマである。
「うぐっ……そ、そうね」
お? おばあちゃんの顔色が悪いぞ? これはこってりと絞られた経験があるのだな。我と一緒である。
「げふん! そんなことより! この復讐談は全部本当なの……かい?」
おばあちゃんが怪訝な顔で聞いてきた。確かに突拍子も無い展開が多いと我も思う。特にマッケンジーな! 復讐する前に終わってるとかな! 新たな世界に旅立ってるとかさ!
「うん。もっと脚色しようとしたらワンコにどつかれた。全部ノンフィクションだよ」
ドーベルワンコだけでなくクラウザーもパンチしてきた。我は鬼門である『マッケンジー異聞録』も頑張って書いたのである。
しかしおばあちゃんは我の応えに納得いってないみたいである。しばらく考えたあとでこう切り出した。
「聖女に……会いに行ったの?」
「行ったけど……タックルされたよ?」
聖女が物理的に強いとか、おかしいと思う。おばあちゃんも『聖女』には幻想を抱いていたのであるな。うん。我も分かる。普通の人だったらまず信じないと思うし。『聖女』ってのはみんなの希望みたいなものであるからな。決してパンツではない。
でもおばあちゃんは更に変な事を聞いてきた。
「聖女の事が……好きなのかい?」
「え、あれは無理だよ。そういうのは良くないよ」
断言出来る。奴は無い。
そして何でも恋愛に結び付けるのは良くない。あれは神託の旅だった。そこに色恋が混じってはならぬ旅だ。
大いなる目的のために我らは集められたのだ。色恋にうつつを抜かすような惰弱な精神で挑む旅では無かったはずである。
だというのにおばあちゃんはまだ聞いてきた。
「でもこの聖女奪還計画には結婚式に乗り込んで聖女を勇者から奪うって書いてあるわよ?」
おばあちゃんの手には割りと分厚い紙束があった。そしておばあちゃんの手の中でヒラヒラされていた。
「なんだとー!?」
我はそんなの書いてねぇ! と思う!
はっ!
ドーベルワンコがしれっと尻尾を振っている。澄ましたお顔で壁を見てやがる。
……こいつ。やりやがったな?
「あんなのと結婚とか無いから!」
我はノーと言える男である。流されるような意思薄弱な男ではない!
というかあんなのと結婚とかあり得ぬだろうに!
「わふっ!」
『結婚式と言えば花嫁の奪還計画! これは鉄板です!』
「わふっ! わふっ!」
『そうだ! そうだー!』
「ぐぬっ!? ワンコ達が後押しだと!?」
なんてこったい。我、孤立無援。いや、今この場にはおばあちゃんがいる! 我には仲間がいるのだ!
「おばぁちゃんはどう思う!?」
「やっぱり若い娘がいいのね」
おばあちゃんは何故か煤けていた。ウサグルミでどんよりしてた。
「おばぁちゃーん!」
「……わふ?」
パチーン!
復讐モフモフ超会議は大いに荒れた。
荒れ狂ったのだ。
そして誰も居なくなった。
……うん。暴れすぎてみんなお腹が空いたんだって。なので今回は川に行きました。魚を獲るそうです。おばあちゃんも一緒に行きました。
おばあちゃんがどんぶらこしていた川にみんなでバーベキューです。
……ドーベルワンコの弱点ってなんだろう。