第二十一幕 ちっ……ポテチを人質にするなんて……あむあむ。なんて外道なのよ……あむあむ。
魔女。
我の師匠も魔女だった。おとぎ話に出てくるような魔女ではなくて猿のように跳び跳ねては襲い掛かって来るような……そんな魔女だった。
……多分世間一般から見たら魔物であるな。我も自信無いし。でも師匠は確かに人間であった。寿命で亡くなるまですこぶる元気ではあったがな。
でもエゲツないパンツは履いてなかった。普通に地味なおばちゃんパンツであったよ。
と、いうわけで魔女攻略会議である。今回はクラウザーの抜け毛を使うという裏技で復讐を果たしてみたいと思う。あの若作り魔女に相応しき復讐をな。
プラン1
『魔女のパンツはショッキングパープルゥゥゥ!』と魔女の前で拡声器を使って周囲に言い触らす。多分目の前で殺される。
プラン2
『げっへっへ。お前さんのパンツの色……知ってるんだぜ?』と脅して校舎裏に呼び出す。その先はノープラン。
プラン3
『魔女は派手なパンツしか履けない』と噂を流して地味なダメージを与える。魔女が元々そういう趣味だとノーダメージ。
我が思い付いたのはこれくらいである。相手はあの『世界最強』である。真っ向から立ち向かうのは愚策。でも一番効果的なのが多分プラン1である。
あの魔女は露出狂であるからな。見せる前にどんな下着か分かってしまえば見せる楽しみも半分以下になるだろう。その分激怒しそうであるが。
「……わふぅ」
ワンコの『……また頭の具合が』という突っ込みはスルーさせてもらう。最近我に遠慮しなくなってきたドーベルワンコである。ちょっと前までは我の前ではシャキン! としていたのに今では……もっとシャキン! としているではないかっ!?
……まさか最初は手を抜いてたのか?
そ、そこまでドーベルワンコは優秀だというのかっ! なんてこったい……。
とても冷めた瞳で見つめてくるがそれはそれでご褒美です!
とまぁ冗談はこれくらいで。
「ふっ……これはまだ奥の手を加味しておらぬ。我が真髄を見せてやろう」
プラン1改め
魔女に殺されそうになったら『いやぁぁぁぁ! 魔女にパンツを奪われるぅぅ!』と叫んで逃げる。社会的に魔女を殺すのだ。もし叫ぶ前に殺されるそうになったら『クラウザーの抜け毛』で変わり身の術を使う。多分いけるだろう。
プラン2改め
校舎裏に呼び出してラブレターを渡す。『これ……読んでくださいっ!』と渡してすぐに逃げる。ラブレターの中身は『ハズレ』とだけ書いておく。精神的に大ダメージ確実である。抜け毛は特に使わない。
プラン3改め
派手なパンツを魔女名義で買い漁り送りつける。その際、送り状には『魔女の派手なパンツ』と記載する。運ぶ者、受け取る者全てが何となく恥ずかしい思いをするだろう。クラウザーの毛はパンツに加工して紛れ込ませる。そして手紙を添えておく。『魔女には毛皮のパンツがお似合いだ』と。女の子に冷えは大敵であるからな。
「どうであるか。我が考えた復讐プランは」
「……わふ」
ドーベルワンコだけでなく他のワンコも可哀想なものを見る目で我を見てきた。うむうむ。
尊敬の眼差しであるな!
ふはははは!
さてさてどのプランでいこうか。あの魔女の性格からすると全部激怒するだろう。間違いなく周辺地域の地形が変わるレベルで怒るだろう。
だがそれも仕方無し。我の復讐の前に犠牲は付き物なのだ。億の命を以て我の復讐は完結するのである。ぐはははは!
「わふわふ」
「……ん? どうしたのであるか。お客……ではなくて拾った?」
見回りワンコから報せが入ってきた。我が悪の復讐者に酔いしれていた所にパグぅの伝令である。パグって人面犬……いや、何でもないのである。
パグぅによると近場の川を探索していたらプカリプカリと何かが流れてきたそうだ。それを調べたらどうやら人間だったようである。
そしてそのドザエモンを調べたらまだ生きていたとのこと。
「わふ?」
『殺っとく?』とパグぅに言われた。
……うむ。突っ込みたい所が沢山ある。封印の洞窟から出れんの? とか。パグなのに背中に鬼が見えるよ? とか。
だがとりあえずは人命救助が最優先である。
「そのドザエモンのもとへ連れて行くのである」
まだ生きてるからドザエモンではないがな。
我はまたしても復讐を中断してパグぅの案内で洞窟を進んでいった。
なんか最近こういうの多いなぁ。まぁいいけど。
……。
……洞窟の奥に我の知らない穴が……。
いや、これは……封印の意味が……。
……まぁクラウザーであるからな。うん
……うん。
……我の全てを懸けた封印術だったのになー。こっそりと改築されてるー。こりゃもう我の意味が無いのではー? あはははは。
我は心を無にしてパグぅを追った。短いあんよをてしてし動かして走るパグぅは、めっちゃ速かった。我も両手を振って全力疾走である。洞窟内部ならば以前の肉体を魔法によって再現出来るが洞窟の外になるとまたしてもスケルトンのお世話になるのが我である。
出来ればワンコに運んでもらいたい所だが多分地面で削れるだろう。ドザエモンを削るのはちょっとね。
そんなわけで我はパグぅの後を必死に追ったのである。
長い……結構な距離を走ったのである。そしてついに日の光を感じる時がきた。洞窟というか最早通路としか言えない道を駆け抜けて見えてきたもの。
それはワンコが通れるだけの巨大な出口。もう洞窟ではなくトンネルであった。外、超明るい。
間違いなくクラウザーもここを使って外に出ていたのであろう。多分馬車も楽勝である。そしてそんなトンネルの外は深い森であった。
……マジだ。
マジで封印の洞窟に穴が空いておる。というかトンネルが開通しておりますわ。
……マージでー?
「わふっ!」
「お、おう。ドザエモンは……あ、これ?」
トンネルを抜けるとそこには……ドザエモンが転がっていた。
現実にまだショックを受けているがとりあえず人命救助である。
恐らくパグぅが川からここまで運んできたのだろう。うつ伏せの……これは老婆であろうか。病的に白いしわしわの背中と尻が丸見えである。髪の毛は白髪で首までの長さという女性にしては短めに見えるが……全裸である。全裸の老婆がうつ伏せで横たわっているのだ。うつ伏せだから見えてない。我にダメージは発生していない。うん。軽傷だ。
そんな老婆っぽいドザエモンはピクリとも動かない。
トンネルのすぐ前に老人の死体が落ちてるように見える。森の中を運んだにしては随分と綺麗だがそれも当然であるな。
トンネルの前には深い森が広がっている。
……広がっているんだよ?
だがそのド真ん中を貫くように道が作られているのだ。石板っぽいのが敷き詰められた広い道が。まるで大国の大通りに匹敵する道幅の道が。馬車なら三台は同時に進めるくらいの綺麗な道がっ!
深い森の中にな!
そんな舗装された石板の上に老婆っぽい死体である。
……なにこれ。
「……うん。我もお腹いっぱい。とりあえずこの人を洞窟に運んで欲しいのである」
むずかしいことは わからないの ぼく まだ やみのかりゅうど だもん。
「わふ!」
パグぅはドザエモンを…………。
……うむ。
…………うむ。
ぼく やみのかりゅうど やめる
ふつうの まほうつかいに もどるの
わんこの ことなんて しらないもん
わんこの せなか ぱかっ
うで にょきっ ぐわし
したい つかんで てけてけ
ぼく なにも みてないよ
ほんとだよ