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我の復讐劇  作者: スモークされたサーモン
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第二幕 プロローグ 事の始まりは拉致だったの。犯罪なのよ?



 始まりはあの時。我が釣りをしているときであった。




「…………」


「闇の魔導師……『闇』殿で間違いないか?」


 あの時、我は近所の川で魚を釣ろうと糸を垂らしていた。人里離れた森の奥。そこに住まう我は基本的に自給自足で暮らしていた。訪ねて来るものなど月に数えるほどしか居ない引きこもり……いやいや、世捨て人である。


 そんなスローライフ満喫な我に客が来た。


 我の釣りを邪魔しに来たのは遥か遠くにある聖王国の騎士と神官であった。我は正直言うと聖王国が嫌いである。あいつら聖属性とかずるい。こちとら闇一本で不人気大爆発である故。


 だから無視していた。


「…………」


 我は闇の魔導師。闇の魔法しか使えぬ魔導師の面汚し。そして呪われた者。聖王国とはその存在意義すら正反対な人間である。聖王国嫌い。あいつら我をバカにしたし。我、覚えてるもん。


 『闇とかありえんてぃー!』とか陽気に言われた事を。それも聖王国のシスターにな。とりあえず、ぶん殴っておいた。年頃の女子であったが慈悲はなし。


 顔面に助走をつけたグーをぶちこんでやったとも。すごく騒ぎになったけど後悔なんてしていない。我の指も折れたからな。そこはちょっと後悔してる。超痛かった。


「……予言が……世界の終わりが予言されました。それを救うためにあなたのお力が必要なのです」


 我の背中に声が掛かる。それは感情を圧し殺した声。先程我に誰何(すいか)した騎士とは違う声であった。多分もう一人の客である。我の大嫌いな聖王国の神官である。


「……我は知らぬ。我が力は闇。それに……貴様ら、我に抜かした言葉を忘れた訳でもあるまい」


 こいつら我に向かって『この汚れた存在め! 滅せよ!』と言い放ったのだ。その上、我のしたことを他の国にもチクリやがった。それのせいで我は何処の国にも居られなくなった。


 ……殴ったシスターの親が大神官であるとか反則だと思う。


「あれは……一部の者の勘違いによるものです。我らの教義では闇もまた光の一部でありますゆえ」


 我、思う。闇が光の一部ってどゆこと? 


 光の裏にあるのは影である。闇は光を飲み込む深淵であると我は知っている。こやつらの光信仰は狂気だ。強すぎる光もまた闇と同じく危険であるというのに。


 しかし、こやつらはそれに疑問すら抱かぬ。光こそ至高であるとして自分らに従うのが当然であると、そう振る舞う。考えが傲慢なのだ。力を甘く見すぎなのである。


「どうか我らと同道してもらいたい。世界の滅びを防ぐ為に」


「……断る。世界は滅びぬ。滅ぶとすればそれは人の世界。我は知らぬ」


 我の闇花占いでも世界の滅びは予知していない。花びらを一枚ずつ千切っていくという古より伝わる恐ろしい邪法。それをもってしても、そんな未来は見えなかった。我は呪にも明るいのである。おまじないなら本だって実は出してるのである。


『乙女のラブラブ恋まじない!』という本をな。結構売れてて我は印税で隠居生活である。ペンネームは〈マジカルプリリン〉だけども。


 絶対に人前に出れなくてここに引きこもってるとか……ダレニモイエヌ。何故あんなペンネームにしたのか。あのときの我を説教してやりたい。


 遠く過去に思いを馳せる我。そんな背中にまたしてもおっさんの渋い声が掛かる。


「どうしても聞き入れてもらえないのか?」


 我、意外と驚いた。聖王国の騎士ならば有無を言わさずに切りかかるぐらいの事をすると思っていた。背中を向けていても我は警戒だけは怠っていない。というか普段着で釣りをしてるから無防備もいいとこなのだが。


 ……やっべ。どうしよう。警戒してても切られたら死ぬ。我はそんなに強くないのである。


「これは聖王国に降された神託。それを拒むとは……この世界に背くと知ってての狼藉か!」 


 激昂した神官が大きな声を上げる。湖に波紋が広がり魚の気配が消えていく。


 ……まぁ釣果はこいつらが来た時点で諦めていたけども。


 奴等は自分達こそが世界を支えてると本気で思っている。我、ドン引き。神託なんて八割が適当なでっち上げだと言うのに。


「我は知らぬ。世界は貴様ら人の物ではない。滅びが定めなら滅びよ。それが神託だ」


 我も滅びはちょっと困る。しかし世界がそれを望んだのならばそれは起こるべくして起きるものだ。魔導師ならば皆がそれを知っている。知っているからこそ魔法は魔法足り得るのだ。


「なんと……なんと罰当たりなことを! この外道めが、こうしてわざわざ貴様なんぞの元へと我らが会いに来てやったというのに!」


 神官の化けの皮が剥がれた。多分真っ赤な顔で鬼の形相をしているのだろう。


「……神官殿はしばらく黙っていてくだされ。私が話をつけますので」


 ……我はこうなると思ってた。最初から。


 我は嫌われもの。我は、いらない子。こんな仕打ちは慣れっこであった。


「……去れ。釣りの邪魔である」


 決裂である。


 しかし騎士は去らなかった。


「……この川では何が釣れますかな」


 何故か騎士はそんなことを聞いてきた。我の隣に腰を下ろして。ガチャンと鎧が音を立てた。既に釣りにはならんと諦めているので水面に糸は垂れていない。水面は静かに風で揺れるのみである。


「……今はファルディンが旬であるな。ゴースも玉に釣れる」


 我も大人だ。騎士の話に付き合うことにした。


 油が乗っているファルディンはこの辺りではご馳走である。竿を折られるぐらいに大きいので釣るのにはコツがいる魚である。ゴースは……まぁ鯰だ。水の綺麗な川にしか棲めぬが、そんなに旨くない。ただその肝は薬となる貴重な魚でもある。この川は豊かというよりも貴重な魚の宝庫なのだ。


 まぁ普通の人間には立ち入りが禁止されている禁足地であるからな。ここは。


 ……こいつら許可取ったのかなぁ?


「ここは豊かな川ですな。ペレーヌ川で釣れるのはヘヌリーぐらいですぞ」


「……そうであるか」


 ……ぬ? ヘヌリーは蛙ぞ? マジか? ペレーヌ川と言えば聖王国で一番でっかい川なのに……蛙とな? あれは雑食でどこでも生きられる強い蛙であるが……食用には適さぬぞ?


「……ここも滅びの影響は避けられないでしょうな。滅びは遍く訪れるとの予言ですゆえ」


「……それも定め」


 い、いかん。川で合唱しているヘヌリー達のヴィジョンが頭から離れぬ。川縁に緑色でまんまるとしたヘヌリー達が仲良く並んでゲコゲコと歌を……ふむ。


「……それで予言はそれをなんとした?」


「英雄達の手により回避されるだろうと。あなたと……あと九人の勇士達が滅びの未来を覆すだろうと」


 ……あれ? なんか多くない? 我を含めて十人て……まぁいいか。我はヘヌリー達に会ったらすぐに帰ってくればいいし。


「……そうか。では行くか」


 ヘヌリー達に会いに。我は可愛いものが好きであるゆえ。とりあえず竿はこの辺に置いておけば良かろう。どうせすぐに戻るし。


「おお! 闇殿かたじけない。では早速モンドールへ向かいましょうぞ」


「……ぬ? 聖王国……ではないのか?」


 我はヘヌリーたんに会いに行くのだが? あれ? なんで聖王国の話をしたの、こいつ。腰を上げたけど……どうしよう。下ろしていいかな。


「こうしてはいられん。神官長、取り急ぎ転移を」


 いや、我はヘヌリーたんに会いに行くのでな? そんな嬉しそうにいそいそとされても。


「……ちっ、承知した。起動……三番ゲート解放申請……接続…………接続成功。飛ぶぞ!」


 いや、だから我はヘヌリー……


「では闇殿!」


 ガシッ!


「あ、いや、我は聖王国にな?」


 モンドールなんぞに用はない。というか肩をガッチリと掴まれて動けぬぞ? え、なにこの人、すごい握力で肩に指が食い込んで……いたたた!?


「ええ、モンドールへ参りましょうぞ!」


 あ、こいつ聞いてねぇ。目がイッてる。


「転移開始!」


 

 ……とまあこんな流れで我はモンドールへと誘拐されることになったのである。そしてそこで我は知る事になる。己の運命と世界の運命を。


 

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