第十九幕 世界は半ズボンなの。あの儚い泡沫の夢は全ての苦しみを癒してくれるの。……接近禁止命令喰らったけども。ポテチは解禁されたけど。
「ザッハークさん。あなたは女性だったのですか?」
我は聞いた。ワイドショーのゴシップレポーターの如く聞いてしまった。
「……そうだ。既に戦士は辞めた。これからは女として幸せを掴もうと思う」
「そうですか」
厳つい顔の二メートルを越える巨漢は巨女だった。ムッキムキやで? それはもう……ムッキムキやで?
……で、女? ほ、本当に女? それは自称レディなのかな?
メイちゃんを肩に乗せて、おにーたんをお姫様抱っこしているオークはどうみても……『お父さん』だ。
これが……ウーマンですか。
「……お前は誰だ? その気配は覚えがあるぞ」
「あ、『闇』です。いつまで経っても助けに来ないので復讐しに来ました」
お父さんではなくラスボスだった。すげぇ存在感と圧力である。思わず我も『気を付け』の姿勢をとってしまった。だって筋肉の塊で二メートルであるよ? 我は骨しかないホネホネであるよ? そりゃ下手にも出るって。
「……そうか」
うっ……なんて重厚感溢れる野郎であるか。まるでこの物語の主人公のような……
……いや、女性だっけ?
空気が軋んでいるような感覚のなか、動いたのはメイちゃんであった。
「ホネホネさんはメイのせんせいなのー!」
うん。自己紹介は大切であるな。でもここはまだ闘技場である。闘技場のど真ん中である。おにーたんが乱入した時もビックリしたがそれ以上に観客がみんな静かになっていて……いや、驚くよな。あのザッハークが実は女で戦士を引退すると宣言した途端にプロポーズされたのだから。
「ホネホネさんのお陰で理想の人に出会えたよ! あんた……本当はキューピッドだったんだな」
お姫様抱っこされている男の子はすごく良い笑顔で親指をぐいっと上げていた。
……このおにーたんをどうにかしたい。我はそう思った。でも目の前でパネェ圧力を放つ筋肉の塊に立ち向かう勇気は我にはない。我は駄目な男であるな。少年一人救うことが出来ないのだ。我に出来る事は限られている。我は……無力だ。
「……おめでとう」
とりあえず祝福しといた。お約束であるな。
「う、うむ。なんだか照れるな」
違う。お前じゃない。おにーたんに言ったんだ。照れるな巨漢。いや、女だけども。
こうして残り四人。我の復讐前半戦はこうして終わった。なんか幸せそうにしているが復讐は復讐である。
……真の復讐とは幸せになることだと聞いた事がある。
これは多分……そういう事なのだろう。
……多分。
……。
……。
……おにーたん……すげぇなぁ。
その後の話である。我がメイちゃんに魔法を教えに孤児院に行った時の話である。
分かるだろ?
もうオチは読めただろ?
そう。シスター姿のオークがいたのだ。
体長二メートルを越える分厚いシスターが孤児院に鎮座していたのである。
その様はまるで仁王であった。
我は開けたドアをすぐに閉めて逃げようとしたのだ。しかし背後には幼女がいたのだ。
前門の仁王に後門の幼女である。我は『終末』を覚悟した。
最強に最強をぶつけては、ならぬ。我はひとつ賢くなった。賢くなったが終わったのだ。