極東の狂犬
「カチャカチャ・・カチャカチャ・・」
せわしなく響くタイピングの音の横から聞こえてくるニュース
『首都機能すべてを・・』
１５０年ぶりの遷都・・
「なるほど・・これが始まりか・・」
ここ数か月の違和感の理由・・・
そして株取引の板を見て・・
※板
買い注文と売り注文の数量を並べたもの。売買の注文量が分かる物。
「・・・まだ厚いな・・」
そう言って何枚も机に並べられたモニターを見て独り言をいう男
数か月前に僅かな異臭を感じ取った。
売っても売っても出てくる買い方の注文
それも電気事業関連すべて。
「原発の廃止・・もしくは輸出・・」
まず考えられるのはこれだ。
もしくは・・
「・・・プラグや電圧の世界統一・・」
これも大きく金が動く案件だ・・
実際この関連株も上がってる。
「ふぅ・・・」
このうす暗い部屋にはこの男しかしない。
無駄に潔癖症で、とにかく無駄を嫌う男。
「ピンポーン・・」
「ウバった。（ウーバー来たな）」香月
この香月という本名ではまだ無名の投資家だ。
だがよくネットのスレにはたびたび話題になる人物。
『また狂犬銘柄か？』
『電気関係、値が荒れてんな仕手入ってんだろ？狂犬か？』
『個人トレーダー過去最強だろ狂犬って』
『総資産いくらなんだよ。兆は行ってるだろ』
『世界から恐れられた個人投資家って狂犬だけだろｗ』
ロンドンやニューヨークからも恐れられた個人投資家・・
名義を変え各国に口座を持っているので、
どこの誰が本尊（大口取引の中心人物）かは分からないが・・
この男と思われる取引履歴や口座履歴から分かるのは・・
アジア・・
それも多分東の方・・
こいつは僅かな異臭をかぎつけたら狂ったように噛みついてくる・・
そこから付いたあだ名が極東の狂犬
「ふぅ～・・さて寝よう」香月
日本の株式が終わる１５時から仮眠を取る変則な生活リズム。
夜にまた起きて朝まではFXや原油、アメリカ株などの取引。
住まいのマンションから出ていくのは相場の休みの土日と、
食事と軽い運動くらい。同じマンションの住民ともなかなか会わない。
基本ずっとパソコンモニターの前だ
「・・・夜、キャバろう・・（キャバクラで取引しよう）」香月
だが引きこもりニートでもない。
「・・・だが他の大型株はすべて売りが厚い・・」香月
寝れない・・いや、本能が異変を察している
木を見て森を見ず・・森を見て木を見ず・・
ここまでならただの一流トレーダーだろう・・
もっと広く・・別の視野を・・想像、妄想も・・
「カチャカチャカチャ・・」
またパソコンに向かいキーボードを叩く
何か他にまだヒント・・異臭がどこかに・・
（外国株・・・・）香月
これもずっと異臭がする・・
もうすぐ頭の中のパズルが解けそうだ・・
他にも原油、金、為替、国債、土地、ニュース・・・
銅の価格が少々加熱ぎみ・・電線か？やはり電気関連
きっとリーマンショック級のレベルじゃない・・
異様・・自分の直感がそう教えている
（水道事業関連は相変わらず取引量量が多い・・・）香月
後は・・
豊後水道沿線の土地価格が上がり続けている事・・
これは首都移転でと思うが・・
（少し過剰で・・少しフライングぎみだった・・）香月
個人投資家が一番困るし、知り得れば一番儲かるのが・・
（インサイダーもどきか・・）香月
※まだ公開されてない有益な情報を知って取引をする事。
誰かが息を止めながら張り続けている・・
気配を殺し・・絶対に外れない馬券を・・
だが誰かがいつかボロを出すはずだ・・焦りと不安で。
インサイダー情報を得てるのは一人じゃないはず・・
どこの企業（誰）がどこの銘柄を狙う？（買う？売る？）
「ふ～・・寝よう・・」香月
夢でヒント出ないかなぁ
あ、夜、キャバるんだった・・
もう金曜か・・明日はシンガポール行くかな・・
相場が休場の土日はいつも移動日にあてるか旅行だ。
あ・・キャバ穣、旅行誘ってみよう
来るなら旅行だな・・
・・あ、なぜか消費者金融株も異臭がしたな・・
・・・・
「ピピピピピ♪」
「うおっ！寝てた」香月
２時間ほど仮眠してチャートを見ながらスマホをいじり
「同伴いける？」香月
「いいですよ」キャバ穣
よく行くラウンジの穣と同伴出勤することに
とは言ってもこないだ初めて付いた穣。
「キュッ・・」
「ふむ・・イケっ（イケてる）」香月
エレベーター内の鏡で本日の身だしなみチェック
『チーーン・・・一階デス・・一階デス・・』
「・・・あ、こんばんはぁ」香月
「こんばんは」黒岩
マンションエレベーターの出口ですれ違う二人。
まだ二人はその存在を知らない・・・
はず・・
ふふ・・・
そうか・・・
「・・・チェックメイト」
「・・・ん？」
何かエレベーターが閉まる時にすれ違った住民がつぶやいたような・・
「ろっぽ！（六本木）」香月
「えー・・・はい。六本木ですね」タクシー運転手
ふふ・・
誰かが実働して儲けてくれればいい・・
俺達投資家はその金をマネーゲームで奪うだけ・・
世の中で一番のクズかもな・・俺達投資家が・・
「しーすー？しーすぅ？」香月
「お寿司ですね。予約しますね」リナ
最近六本木の有名店で働きだしたリナ。
見た目は・・いや絶対ヤンキー出身。
「適当にジャンジャン」香月
「はい」寿司店員
（金使いはいいけど、微妙だな・・）リナ
このカズキさんって・・
時計もしてないし、靴とかもブランド品じゃないし・・
会社員って感じでもないし
少しアンダーグラウンドの匂いもする・・
「カズキさんって昔悪かったりしました？」リナ
カズキは苗字ではなく名前だと思ってるリナ
「大悪よぅ付いたあだ名が狂犬よっ」香月
間違いではない。
（そんなの言う人って絶対小物・・）リナ
どうせ高校でタバコ吸って粋がってたくらいの不良・・
でもウチのママと知り合いなんだよなぁ・・
ウチは割と高級なラウンジだ。ママは元不良で超有名人だった人
「あのぅ・・カズキさんのお仕事ってどんな・・」リナ
「ん～何て言うんだろ・・お金を入れたり出したり」香月
間違いではない。
（うわっ・・・・）リナ
出し子かよ・・最悪・・
※詐欺のお金をATMで引き出す役
でもまぁお客さんだし、深入りせず適当に・・
ま、六本木で遊んでる謎の客なんてほとんど詐欺系だし
まぁ納得だわ。
店に着いて・・
「旅行行く？シンガっ」香月
「いやぁ・・旅行はちょっと急ですし」リナ
新賀？神賀？どこだろ東北の方かな？
「いらっしゃい。電話出ないし返信しないよねー本当」ママ
「あー・・着ってたなぁとは思ってた」香月
ラウンジの経営者のかすみママ
何かこの二人仲よさげなんだよなぁ・・
多分・・多分だけど・・
「お二人ってお付き合いとかしてました？」リナ
てか、もしそうだとしたらこのカズキさんって、
実はすっげ～人だったりするのかな？
「嫌いではないです」かすみ
「あ、俺も」香月
うーん・・・分からない・・どっちだ？
そして話の途中でもカズキさんはスマホに夢中
何かなと思ってチラっと見てみると・・
（うわぁ・・・）リナ
投資詐欺もしてるのかよ・・
見えたのは投資の画面と買えとか売れの指示のline
「・・・・・・・・・・・」香月
「・・・・・・・・・・・」かすみ
「・・・・あれ？」リナ
何故か空気を読んでかすみママが静かに。
私もそれに気づいて喋らずにいる。
「・・・・・・・・・・」香月
何か・・ゾーンに入ってるような・・
いや、何かかっこいいような・・
「・・・・ん。帰ろう」香月
「ありがとうございました」
急に帰宅そしてお金も払わず・・
「ああ、大丈夫っ大丈夫」かすみ
いちいち一回一回払う時間が勿体ないからよ。
それに信用もあるし。
・・・あるの？
ただただ謎が深まっただけの夜だった。
