賢者は拳で語る
帝都にある、とあるカフェ。
お洒落な雰囲気のお店に、ミレイと九条、そしてパーシヴァルの3人は居た。
ミレイと九条はメニューとにらめっこをし、パーシヴァルはそれを眺めている。
「……悩むな。」
優柔不断なミレイは、真剣な表情でメニューを見る。
自分に食べられるもの、今の自分が食べたいもの、胃のコンディションなど、様々なことを考えていた。
「わたしは、この一番高いパフェにしようかしら。」
九条は、大して悩まずにメニューを決める。
何をするにも、彼女は”一番”が好きだった。
「それ、全部食べれるの?」
「ふふっ、わたしを誰だと思っているの?」
九条は胸を張って答えた。
まったくもって、”説得力”のある胸である。
「師匠はどうします?」
「そう、ですね。」
すでに決まった九条からメニューを受け取り、パーシヴァルはそれを見る。
「わたしも、この一番高い、……いいえ、止めておきましょう。」
少々、悩みつつ見ていたが、そっとメニューを閉じた。
「食べないんですか?」
「ええ。”今のこの姿”だと、胃に負担がかかるので。」
「?」
今のこの姿。その言葉の意味を、ミレイはまだ知らない。
◇
九条の前に豪華なパフェが、ミレイの前には小さなパフェが置かれる。
2人は夢中でパフェを食べ、パーシヴァルはそれを見ながら微笑んでいた。
「ところでミレイさん、魔法はどの程度上達しましたか?」
その言葉に、ミレイの手が止まる。
痛い所を突かれたと、その表情が物語っていた。
「あ、あはは。」
乾いた笑い。それが、”答え”である。
「なるほど、よく分かりました。」
パーシヴァルは変わらず笑顔のまま。
ミレイには、それがとても恐ろしく見えた。
パフェを食べるスピードが、目に見えて低下する。
「そちらの瞳さんは、魔法を習得したいとか。」
「ええ、ぜひともお願いしたいわ!」
返事をしつつ、九条は物凄い勢いでパフェを平らげていく。
その様子を、ミレイは神妙な表情で見つめる。
(……あれ全部、胸に行ってそう。)
そうとしか思えなかった。
「何のために、魔法を?」
「もちろん、来週の大会で勝つためよ。」
「大会で勝ちたい理由は?」
「”わたしが最強”だって、世界に知らしめたいの!」
九条の口から出るのは、迷いのない言葉。そこに、嘘など微塵もない。
彼女は”てっぺん”しか見ていなかった。
今は、まだ手が届かないが。必ずそこに辿り着くと信じている。
「なるほど。」
九条の言葉を受け、パーシヴァルは笑みを浮かべる。
ある意味で、それは彼女の”理想”とする答えであった。
――こういう馬鹿が、この世界に欲しい。
「……しかし、あまりにも時間が足りません。”余程の才能”がない限り、付け焼き刃にすらなりませんよ?」
ただ、強くなりたいのではない。その先を目指すのであれば、絶対的な天賦の才能が必要になる。
それこそ、キララにも近いものが。
「貴女に、その”可能性”はありますか?」
「……そうね。」
パーシヴァルに問いかけられ、九条は少し悩むと。
右の手のひらを、前に差し出した。
そこに、光が集っていく。
なんてことはない、ただアビリティカードを具現化するだけ。
だが、しかし。
その輝きの強さに、ミレイは唖然とし。
正面から見つめるパーシヴァルも、思わず冷や汗をかく。
「――これが、証明になるかしら。」
そう言って、九条の手に出現したのは。
”虹色”の輝きを放つアビリティカード。
フェイトにも匹敵する、最強の”5つ星”であった。
◆
自らの可能性を証明し。
晴れて、九条瞳はパーシヴァルに弟子入りすることに。
早速、魔法の習得を行うため、彼女たちは場所を移動する。
姉弟子であるミレイも、それに一緒についていく。
自分たちの時と同じように、どこか適当な空き地で教えてもらう。
そんな軽い考えで、ミレイはついて行くものの。
”たどり着いた場所”に、唖然とする。
ミレイだけでなく、九条も同様に。
そこは、”宮殿”であった。
大きな柱に、大きな建物。
壁は真っ白で美しく、全体的にきらびやかな装飾に彩られている。
ミレイもまだ、この街の全てを知ってはいないが。
この建物、この場所が、帝都で最も重要な場所なのは理解できる。
この場所の名は、”ハートレイ宮殿”。
天使によって設計された、地上で最も美しい建築物にして。
皇帝、セラフィムの居城である。
「さぁ、行きますよ。」
「……まじでか。」
ミレイは開いた口が塞がらず。
パーシヴァルは、正面から堂々と中に入っていく。
続いて、九条も中へと入る。
ミレイは、若干縮こまりながら入っていった。
不思議なことに、”誰とも会うことなく”、3人は宮殿内を進んでいき。
中にある、とても大きな庭園へとやって来る。
手入れの行き届いた、立派な庭園で。
中央には大きな噴水が存在する。
果たして、こんな場所に自分のような人間が来ても良いのか。
若干、ミレイは不安に思う。
3人が噴水の近くまで歩いていくと。そこには、1人の人物が立っていた。
真っ白な服装に身を包む、騎士のような女性。最強の冒険者と名高い、マキナである。
マキナは、若干呆れたような表情をしていた。
「騎士たちが”妙にサボっている”と思えば、これはどういう道楽ですか?」
「ふふ、特に意味はありませんよ。ただ、邪魔をされたくなかったので。」
「……なるほど、今日はそのモードですか。」
主の気まぐれに、マキナはため息を漏らす。
「あまり、羽目を外しすぎないでください。」
「分かっていますよ。」
それで、会話は終わり。マキナはその場を後にしようとするも。
パーシヴァルの後ろから手を振る、”見覚えのある小さな影”に気づく。
マキナは軽く微笑みながら、小さな影こと、ミレイに手を振り返した。
「おや、知り合いでしたか?」
「はい。以前、共に死線をくぐり抜けました。」
「あはは。」
ピエタでの戦い。
まぁ、表現は間違っていない。
「マキナさん、”お腹”は大丈夫ですか?」
「ええ。すでに完治していますので、ご心配は無用です。」
「それは良かったです!」
以前、ミレイがこの街で暴走した時、フェイトとマキナの二人がかりで対処をした。
その際に、マキナの腹には聖女殺しが突き刺さったのだが。
幸いにも、すでに傷は塞がっていた。
以前と変わらず、機械のようにキビキビしている。
「では、また。」
そう言って、マキナは庭園を後にした。
◇
庭園のど真ん中に、ミレイと九条、パーシヴァルの3人が残る。
なぜ、このような場所に連れてこられたのか、ミレイはやはり理解ができない。
「あの、師匠。こんな場所で、なにするんですか?」
「もちろん、”修行”ですよ。」
パーシヴァルは微笑むと。
その体から、強烈な魔力を解き放った。
解放された魔力は物理的な衝撃波となり、ミレイと九条を吹き飛ばす。
「うげっ。」
ミレイは為す術なく宙を舞い。
けれども、空中で九条の髪の毛に抱きかかえられ、衝撃から守られる。
吹き飛ばされながらも、九条は華麗に着地し。
その髪の毛の中から、ミレイも地面に降りた。
「ありがと、瞳ちゃん。」
「何のこれしき!」
そんな言葉を交わしながら、2人はパーシヴァルと対峙する。
「ししょー! もしかして、”そういうアレ”ですか?」
「ええ、そういうアレです。」
パーシヴァルは全身に魔力をみなぎらせる。
明らかな、”戦闘態勢”である。
「なるほど、面白いじゃない!」
九条も姿勢を正し、拳を構え。
髪の毛に神経を集中させる。
双方ともに、戦う準備はできていた。
若干一名、納得はできていないが。
「わたし達の時みたいに、ブワーって感じの奴じゃダメなんですかー?」
なぜこうなったのか。
出来れば、ミレイは戦いたくはない。
「瞳さんの”カードの能力”と、”髪の毛を操る力”からして。おそらく、あの方法では”道”が開きません。」
パーシヴァルは両手を前に出し、そこに凝縮された魔力を発生させる。
「――わたしを倒す気でかかってきなさい。それが、貴女たちの”最低ライン”です。」
攻撃の意思を剥き出しに。
”強力な魔力弾”を、ミレイたちに向けて発射した。




