最強へと至る道
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「さぁ、あの建物が冒険者ギルドよ!」
巨大な金属の足が、大地を踏みしめる。
人の十倍はある、巨大な金属の身体。カラーリングは黄色で、失われていた右腕も修復済み。
完全復活した”ブラスターボーイ”が、帝都の道を歩く。
その肩の上には、”九条瞳”が立っていた。
相変わらずの金髪縦ロールである。
異様なコンビの出現に、人々はざわめき立つ。
九条瞳とブラスターボーイは道のど真ん中を歩き続け。
ひときわ大きな建物、冒険者ギルドの前へとやって来た。
用事があって、彼らはここへ来たのだが。
冒険者ギルドは、あくまでも人間用の建物。ブラスターボーイがそのまま入れるほど大きくはない。
「どうしようか。」
「……そうね。」
九条は考える。
「姿勢を低くすれば、問題無いんじゃない?」
「分かったよ。」
九条の言葉を信じて、ブラスターボーイは姿勢を低くし。
冒険者ギルドへと突入する。
バキバキと、破壊の音が鳴り響く。
入り口を突き破りながら、ブラスターボーイはギルドに入ってきた。
姿勢を低くし、いわゆる”はいはい”のような格好で。
入り口を壊し、床を傷つけながら進んでいく。
突如現れた、謎の巨大ロボットに。中に居た冒険者たちは動揺する。
明らかにこの世界の存在ではない異文明の産物。多くの人々には、”ロボット”という概念すら理解できない。
ブラスターボーイの登場に驚くのは、冒険者たちだけではなく。仕事中の受付嬢たちも、その存在に呆気にとられていた。
「……嘘だろ。」
1番窓口に遊びに来ていたミレイも、同じく唖然とする。
ブラスターボーイの登場。というよりも、その”被害”に。
面識のあるミレイなら、彼が敵ではないと理解できる。
しかし、他のメンバーはそうでもない。
「とんでもない馬鹿が現れたわね。」
ミレイと駄弁っていた”サーシャ”が、重い腰を上げた。
「……大丈夫なのか? 色々と壊れているような。」
「ふふっ、問題ないわ! もっと堂々としていなさい。」
這うようにして、ブラスターボーイは前に進む。
彼は完全に、頼る人間を間違えていた。
九条瞳には、ぶっちぎりで常識がないのだから。
そんな、彼らの前に。
「――何が、問題ないって?」
受付嬢の筆頭、サーシャが立ちはだかる。
その体には、微かに”電気”を帯びていた。
「あぁ貴女、受付の人よね? 実はここに居る彼を、冒険者として登録――」
「――とりあえず、出てって!」
サーシャは聞く耳を持たず。
激しい怒りとともに、その体から”強烈な雷撃”を解き放つ。
その直撃を受け。
ブラスターボーイと九条は、ギルドの外まで弾き飛ばされた。
「うわぁ……」
衝撃の一部始終を見て。
サーシャの想像以上の実力に、ミレイは驚いた。
ギルドの外では。
強烈な電撃によって、ブラスターボーイは完全にノックアウト。
九条は、髪の毛で自分を包み込むことで、かろうじてガードしていた。
そこへ、サーシャがゆっくりと近付いていく。
「ちょ、ちょっと! 彼は冒険者になるために、ここへ来たのよ!」
「……え?」
サーシャは立ち止まって、言葉の意味を考える。
「その、”鉄の塊”が?」
ほんの少し、選択肢を間違えるだけで、結果は散々なものになる。
人生は難しいと、ミレイは悟った。
◆
「えぇっと。それではまず、お名前を教えて下さい。」
「ブラスターボーイだ。」
ギルドの外で。
倒れたままのブラスターボーイと、受付嬢のシャナが話す。
「年齢は分かりますか?」
「……2000か、3000の間くらいだと思うけど。」
「へぇ、ご長寿なんですね。」
巨大ロボットと、小さなフェアリー族。
そのサイズ差は凄まじかった。
ギルドの入口付近では、サーシャが壊れた部分を見つめている。
「……まぁ、明日でいいか。」
幸いにも、雨は降っていない。
故に、修復は後回しにされた。
ギルドの待合スペース、その一角のテーブルにて。
「瞳ちゃんも、大会に出るんだね。」
「えぇ、もちろん。最強を目指す者として、このイベントは見逃せないわ!」
ミレイと九条が会話をしていた。
「貴女は何をしに来たの? クエストかしら。」
「ううん、今日は暇つぶしかな。キララは部屋に籠もって、”何かやってる”から。」
キララが、何をやっているのか。残念ながら、ミレイはそれを知らない。尋ねてみたものの、”内緒”にされてしまった。
1人で時間を潰すのも嫌なので、他のメンバーの元へと向かうも、ソルティアやフェイトは見当たらず。
誰か居るだろうと思い、ギルドにやって来たが。
誰も居なかったので、受付でサーシャと暇をつぶしていた。
「あっ、そうだわ。貴女に聞きたいことがあったの!」
「ん?」
首を傾げる。
「――”魔法”を、教えて欲しいのよ!!」
九条の言葉に、ミレイは固まった。
「独学じゃ難しそうだし、エドワードは人に教えられるレベルじゃないって言うから。聞くところによると、貴女も魔法を使えるんでしょ?」
「……うん、まぁ。」
とても声が小さくなる。
「よかったら、教えてもらえないかしら。ほんの基礎程度でいいの。」
「うーん。」
――ごめん、わたし死ぬほどセンスないから。
その一言を、言う勇気が出ない。
「あ、良いことを思い付いたわ。”彼女”に教えてもらうのはどう?」
そう言いながら、九条が指し示す先には。
受付で煙を吹かす、サーシャの姿があった。
「さっきの雷、どう見ても実力者だわ。」
「……そうだね。」
確かに、魔法の実力は高そうだが。
あれほど”面倒くさがり屋”な人間を、ミレイは他に知らない。
「絶対無理だと思うけど、聞いてみよっか。」
弟子入りを請うため、サーシャの元へと向かった。
「……ふぅ。」
サーシャが煙を吹かす。
目の前に立っていたミレイと九条は、それをもろに浴びた。
「スースーする。」
ミレイは、すでに慣れたもの。
「……不良界隈では、これは宣戦布告に等しいわよ。」
流石に、九条は動揺していた。
「魔法を教えて欲しい、ねぇ。」
面倒くさそうに、サーシャは九条を見る。
たまにギルドで見かけるようになった、凄まじい金髪縦ロールの持ち主。
間近で見たら、その毛量に圧倒される。
というより、そこにしか目が行かない。
「……浮遊大陸の1つ、”バラム”って国に専門の学校があるの。何なら、招待状を書いてあげるけど。」
「えぇ……」
想像の斜め上を行く、衝撃の提案を出される。
意地でも、自分で動きたくないのか。
「ちなみにだけど、それって最短でどのくらいかかるの?」
九条が尋ねる。
「そうね。まぁ、筋が良ければ、”5年位”で卒業できるわ。」
「ご、5年?」
まさかの年単位。
「あの、先輩。瞳ちゃんは、来週の大会までに魔法を覚えたいんですけど。」
ミレイがそう話すと。
サーシャはまた、おもむろに煙を吹かす。
「……無理ね。」
それが結論。
しかも、しっかりと考えた上でのことである。
サーシャ自身、なにも邪険に扱っているわけではない。
元後輩の頼みでもあるし、魔法を教える程度ならやってもいい。
だが、しかし。
どれだけの才能があろうと、来週の大会までに間に合うとは思えなかった。
◇
「困ったわね。」
「だね。」
ミレイと九条。
2人は、あてもなく街をさまよう。
「……そう言えば、貴女はどうやって魔法を習得したの?」
「えっと。」
ミレイは魔法を習った時のことを説明する。
自分とキララは、”パーシヴァル”という老練の魔女に魔法を教えてもらったこと。
パーシヴァルは高い実力を持つ魔法使いだが、弟子を取るのは初めてだったらしく。
とてつもない濃度の魔力を浴びせる、という謎の方法で2人は魔法の力に目覚めた。
魔力を認知できるようになったものの、自分はセンスが無いのか向上せず。
しかしキララは、たった数日で実用段階に至っていた。
「それこそ、今のわたしに必要なものじゃない!」
ミレイの話に、九条は活路を見出した。
「それで、その師匠っていうのはどこに居るの?」
「いや、それがわたしにも分からなくてさ。この”魔導書”を置き土産にして、急に消えちゃったんだよね。」
ぽんぽんと、魔導書の入ったカバンを叩く。
すると、
「――ふふ。愛用して頂けているようで、わたしも嬉しいです。」
懐かしい声が、耳に届く。
ミレイが顔を向けると。
話に出ていた老練の魔女、パーシヴァルがそこに立っていた。




