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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
96/153

この星の深淵で






 深い深い海の底。

 日の光の届かず、淡い魔力の輝きに照らされた地にて。


 悪魔の力を宿した少女と、怒れる怪獣が対峙する。

 その様子を、後方からキララが見守っていた。





『マスター。一応聞くけど、今の状況は理解できてる?』


(あー、うん。多分だけど。わたしと聖女殺しが、”一つ”になってるんだよね。)



 ミレイは、脳内でイマジナリーフレンドと会話をする。



『ビンゴ! それと、わたしのことは”アクメラ”って呼んで。』


(……アクメラ?)


『あんたが聖女殺しって呼んでる武器の、”大本”の存在よ。』


(なるほど。つまり、中の人ってことか。)


『……中の人?』



 聖女殺し、その中の人と会話をするミレイであったが。



『それはそうと。あんた、”呼吸”は平気なの?』


(へ!?)




 ミレイは聖女殺しと融合した結果、人魚への変身魔法が解けてしまっていた。

 つまり、今のミレイは生身の人間に近く。



 とりあえず、口をふさいでみる。

 だが、そんな事をせずとも。




『――ミレイ。生命維持はわたしが行おう。』



 脳内に別の声、サフラの声が聞こえる。




 一時ではあるが、人魚に変身していたことでサフラはその生体機能を学習。水中でも活動できるように、ミレイの身体構造を変化させていた。


 そして、聖女殺しと一体化している間は、その強大な魔力によって水圧も無効化している。



 ”多くの力”に支えられながら、今のミレイは存在していた。





『いい? 今まであんたが使ってたのは、わたしの力の”ほんの一部”に過ぎないの。でも、こうして一つになった以上、本物の”悪魔”としての力をあんたに――』



 ミレイが、アクメラの話を聞いていると。



 様子見をしていた怪獣が、再び口を開き。



 先程と同じように、ビームの第二射を発射する。





(やっば。)


『鬱陶しい。ブッタ斬りなさい!!』




 敵の攻撃に驚きつつも、ミレイは脳内の声に従い。

 聖女殺しを、思いっ切り振り下ろした。


 すると、今までの比にならないサイズの斬撃が放たれる。



 斬撃はビームを真っ向から引き裂き、そのまま怪獣めがけて直進し。



 怪獣の顔に、大きな傷を付けた。





――ギャァァァ!?





 先程のかすり傷とは違う明確なダメージに、怪獣は叫び声を上げる。


 今までずっと、絶対的な捕食者として生きてきた怪獣である。

 ここまでのダメージを負ったのは、生まれて初めての経験であろう。




(すっご。)


『これが本来の出力よ。普段のあんたは、敵への攻撃衝動が弱すぎね。』


(へぇ……)



 聖女殺し、その本来の威力に。ミレイは驚くばかり。



『あと、わたしは”悪魔”なのよ? 大鎌を振るうだけじゃなくて、もっと多彩な攻撃をしたら?』


(……例えば?)



 今のこの状況で、ミレイは多彩な攻撃が思い浮かばない。



『”使い魔”を生み出しなさい! 敵を滅ぼすことを目的とした、無慈悲な殺戮マシーンを生み出すのよ!』


(えぇ!?)



 アクメラからの無茶振りに、ミレイは動揺する。


 だがしかし、何となく逆らえない雰囲気なので。

 ミレイはそれっぽく念じてみる。




(来い、使い魔!)




 すると、ミレイの体から魔力が溢れ。彼女の周囲に、無数の存在が発生する。


 それらは、みな真っ黒な体を持ち。それでいて、とても小さく。

 自身よりも、大きなフォークを持っていた。


 完全に、悪魔というより”虫歯菌”である。




『なんてお粗末!』


(すみません!)



 ミレイの想像力の乏しさに、アクメラも呆れ果てる。



『まぁでも、込められた魔力は本物よ。敵に突っ込ませれば、ある程度の働きはするはず。』



(了解。――お前ら、突撃だ!)




 ミレイの指示に従って、使い魔たちが怪獣めがけて泳いでいく。


 とても小さな体で、泳いでいる姿も可愛らしい。

 だが、その体に込められた魔力は洒落にならない。


 一生懸命、使い魔たちは怪獣に向かっていくも。




 パクリと。

 何かをする前に、怪獣によって食べられてしまう。




(ああっ、そんなぁ!)


『……いや、まだ分からないわよ。』




 パックリといかれた使い魔たちに、ミレイは悲しむ。


 しかし、しばらく怪獣を見つめていると。





 重い、衝撃とともに、怪獣の体が僅かに膨らみ。


 その直後、”大量の血液”を口からぶち撒けた。





(……うっわ。)




 大怪獣の口から出た、大量の血液。

 その地獄絵図に、ミレイは完全に引いてしまう。




『あいつら、自爆したっぽいわね。』




 いわば、超強力な爆弾である。

 それが体内で爆発しては、流石の怪獣もダメージが甚大であった。



 怪獣は、その一撃で”戦意を喪失”し。

 身を翻して逃げていく。




(やった!)




 怪獣逃げる=こっちの勝ち。

 ミレイはぐっと拳を握り、勝利の余韻に浸る。



 だが脳内ボイスは、そうは思わないらしく。




『何してるわけ? さっさと追いかけて、引導を渡しなさい!』


(えぇ……)



 アクメラの言葉に、ミレイは流石に気が引ける。



『中途半端が一番ダメよ。地の底まで追いかけて、息の根を止めるのよ!』



(いやいや、それは流石に。)


『なに甘っちょろいこと言ってんの?』


(いやだって、別にあいつを殺すのが仕事じゃないし。)


『あれはどう見たって害獣よ! 死んで悲しむ友達だって居ないわ!』


(それは分かんないじゃん!)




 ミレイとアクメラが、無益な言い争いを続けていると。

 魂の”同調率”が下がったのか、融合していた力が解けそうになる。




『――っ、マズっ。』


(ふぇ?)




 流石にそれは不味いと。

 アクメラ側の”根性”で、なんとか変身を維持する。




『めんごめんご。今変身解けたら、あんた死んじゃうものね。』


(ひぇ。)




 人魚でもなければ、強大な悪魔でもない。

 普通の人間に戻った時点で、ミレイはお陀仏である。




『仲良くしましょ。』


(そ、そうしましょう。)




 今のこの状態は、2人の信頼関係によって生み出された”奇跡”ようなものである。

 その奇跡を長引かせるため、ミレイが内なる戦いを行っていると。




(ミレイちゃん。)



 そこに、キララが合流する。




(どうよ、キララ。これぞわたしの新しい力、名付けて”仲良しフォーム”。)


(すっごーい!)



 何とも頭の悪い名前だが、キララは純粋に褒める。



(この服とか、黒くてカッコよくない?)


(うん! すっごく似合ってる。)




 怪獣の血液が漂う、地獄のような環境で。

 新衣装のお披露目会が行われる。




(”背もおっきく”なってるし、ほんとに凄いよ〜!)


(……へ?)




 キララの言葉を聞いて、ミレイはおもむろに自分の体に触れてみる。

 手から腕へ、そして脇腹へ。

 最後には、一番気になる”胸元”へ。




(なっ、なんじゃこりゃ!)




 ミレイは、激しい衝撃を受ける。

 ”触った感覚”が、全くもって違っていた。




(ちょっと、鏡! 鏡とかない?)




 ”今の自分”を、確かめたくて仕方がない。

 予想外の成長に、ミレイは興奮を隠し切れず。


 そんなミレイのために、キララは魔法で鏡を作ろうとしていた。



 だが、しかし。




『――ちょっと、自分の胸を揉むのは結構だけど、気づいてないの?』


(へ?)



 アクメラの声に、ミレイは停止する。



『”敵の反応が消えたわ”。』

















(確かに、魔力を感じないかも。)




 敵の反応が消えた。アクメラだけでなく、キララもそれを感じ取り。

 不思議に思ったミレイたちは、怪獣の逃げた方向へと向かうことに。



 より深く、より暗い。

 この星の深淵へと潜っていく。




(死んじゃったとか?)


『どうかしら。それにしては、かなり不自然だけど。』





 魔力の残滓、血液の跡を追って。


 ミレイたちは、”そこ”へ到達する。





(……はっ。)





 そこを見た瞬間、ミレイは完全に思考が停止してしまった。



 それが、一体何なのか。

 理解ができない、したくない。


 だが、今までの経験から、その答えが導けてしまう。





 ミレイたちの見下ろす先には、”光り輝く領域”があった。





 おそらく性質は、異界の門と同様のものであろう。

 しかし、あれがあくまでも”門”だとしたら、こちらは”領域”。



 ”海底一帯”が、他の世界と繋がっていた。



 広さにして、数百メートルか。いや、それ以上かも知れない。

 領域を覆う光は、すでに門としての形を成しておらず、とても歪に広がっている。


 確かに、これだけの広さがあれば、”巨大な怪獣”でも出入りは可能であろう。




(……これって、どうしたら。)




 それはもはや、人の手でどうにか出来る次元ではなかった。


 魔法や能力では届かない、致命的なダメージ。

 ”世界そのもの”に、重大な欠陥が発生していた。

 



(ギルドに報告しないと。)


(うん。こんなのがあったら、いくらでも化物が来ちゃうかも。)



 流石のキララも、これをどうにかできるとは思わなかった。


 とても、自分たちだけで解決できる問題ではない。

 ギルドに報告して、大規模な調査を必要とする案件である。


 そう結論付け、2人がこの場を立ち去ろうとすると。





『ターミナルに不具合を検知。遠隔操作による停止を試みます。』





 突如として、黒のカードが起動し。

 今まで何度か聞いた、謎の機械音声が発生する。





『接続失敗、ターミナルにアクセスできません。応急処置のため、該当箇所の修正を行います。』



(……これって。)




 花の都ジータンでも、ダンジョンの最深部でも起きた現象。


 黒のカードの”謎機能”によって、今回も異界の門が閉じられる。


 ミレイは、そう考えるも。




『”修正失敗”、該当箇所が大き過ぎます。』



(へ?)



『解決策として、”ターミナル”の直接操作をオススメします。』




 問題が大きすぎたのか、黒のカードはその機能を停止した。


 予想外の展開に、ミレイは唖然とする。




(……ターミナル? ターミナルの直接操作って、なに?)



 機械音声の最後の言葉に、ミレイが困惑していると。




『”マスターキー”を、ターミナルの差込口に挿入してください。そうすれば、自動で修正が始まります。』


(えっ。)




 黒のカードから、疑問への回答がなされる。

 ミレイも、まさか返事が来るとは思わなかった。




(えっと、その”差込口”って、どこにあるの?)


『ターミナルの座標は、マスターの”真後ろ”です。』




 まるで、ホラー映画のように。


 真後ろと言われ、ミレイはゆっくりと振り向くも。

 そこには、何もない。



 ひたすら真っ暗に、”崖”が存在するのみ。



 だが、キララが魔法で明かりを灯すと。

 その”異常さ”が明らかになる。



 単なる崖だと思っていたそれは、あまりにも黒すぎた。

 どう見ても、岩の色ではない。


 それに加え、一切の凹凸が存在せず。

 まるで人工物のようである。



 真っ黒で、それでいて巨大。

 ミレイとキララには、それに見覚えがあった。




(まさか、”モノリス”?)




 かつて、イリスと共に調査をしに行った、巨大な建造物、モノリス。

 それと全く同じものが、海底にも存在した。


 地上に存在していた物とは違い、バリアに覆われてはいない。





 ”差込口”とやらを探すため。

 ミレイとキララは、モノリスのてっぺんを目指すことに。




(モノリスって、いくつもあるんだね。)


(う〜ん。世界中に、何個かあるって話だよ?)




 数百メートルほど浮上すると、ようやく2人はモノリスのてっぺんへと到着する。

 真っ黒な平面が広がり、一見すると何もないように見えるも。

 中央部分に、その場所はあった。



 他と同じく、真っ黒な”台座”。

 何をするための場所なのかは不明だが。



 真ん中に、”カードの差込口”のような物が存在した。




(……”マスターキー”を、差込口に。)




 これが正解なのか、確証はないものの。

 ミレイは、”黒のカード”を差込口に挿入する。



 すると、モノリス全体に光が走り。

 何かが、起動した。





『ようこそ、管理者さま。』



 どこからか、機械音声が聞こえる。




『システムの修正を行っています。しばらくお待ちください。』




 モノリス、ターミナルの力が起動したのか。




 海底で発生していた”歪み”が、徐々に消えていく。


 文字通り、不具合を修正するように。





『――修正完了。”ターミナル/No.23”は正常に稼働しています。』





 やがて、歪みは完全に消え去った。















(凄いよミレイちゃん! 見に行ったら、全部消えてた!)




 キララは先ほど歪みの発生していた地点へ向かい、綺麗サッパリ消失していたことを確認した。




(まじでか。)



 それに驚きつつ、ミレイは差し込んでいた黒のカードを抜き取る。



 このカードとモノリスに、どのような関係があるのかは不明だが。

 少なくとも、巨大な時空の歪みを修正することには成功した。




(何でわたしのカードで、こんなこと出来るんだろ。)




 その理由を知るのは、ミレイをこの世界に呼んだ”一人の少女”のみ。


 再会の時は、着実と近付いている。





『マスター、そろそろ変身も限界よ。浮上してちょうだい。』



(……うん、分かった。)





 遠くの方から、ボックスを咥えたモササウルスが近付いてくる。




 ギルドに報告することが、山ほど出来てしまったが。


 これにて、”虹色の魚”の捕獲依頼は完了した。






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