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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
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ディープダイバー

感想等、ありがとうございます。






 一隻の帆船が、大海原を進んでいく。

 帆には血塗られたドクロマークが描かれ、船体には歴戦の傷が刻まれている。その船の名は、”キャプテンハイドの海賊船”。ミレイの持つ3つ星カードの1つである。

 本来であれば、10人以上の乗組員が必要な船だが。執事ロボットのバーバックが全身からワイヤーを張り巡らせ、力技で帆船を動かしていた。



 『宇宙船の操縦ができるなら、この船も動かせるよね?』



 小さな主に、そのような無茶振りをされながらも。執事ロボットは与えられた仕事を全うする。





 そんな船の上で、水着姿のミレイとキララは心地よい海風に当たっていた。

 遊びだけの昨日とは違い、今日はれっきとした仕事モード。本格的に”虹色の魚”を入手するために、より沖の方へと向かっていた。


 とはいえ、ちょっとした悩み事も吹き飛んだため。2人の表情は、昨日以上に晴れやかである。




「さてと、やろっか。」


「うん!」




 虹色の魚を入手するため、キララはその手に魔法を構築する。

 少し集中した様子で、器用に魔力を練り上げていき。

 やがて、”一本の釣り竿(?)”が出来上がった。




「どうかな?」


「うむ。」




 謎の素材で出来た棒部分に、ふにゃふにゃとした糸。糸の先には、鋭い”縫い針”がくっついている。

 キララのイメージで出来上がった、精一杯の釣り竿である。




「……いける。」



 そしてミレイも、釣り竿をよく知らなかった。





 昨日の晩飯の残り物、鳥肉の破片を縫い針に刺して。ミレイとキララは釣りを行うことに。

 その胸に、希望を膨らませて。



 



 2時間後。






「絶対無理じゃん。」



 ミレイは絶望していた。

 虹色の魚を釣るどころか、釣り竿がピクリとも動かない。


 餌の内容と、釣り竿の構造に致命的な欠陥があるのだが。だからといって、改善点を思いつくようなこともない。

 そもそも、このポイントで目的の魚が釣れる保証すら無い。




「ミレイちゃん、水分取ろう。」


「うん。」




 キララの魔法で、水を全身に浴びながら。

 頭の冷えたミレイは、別の方法を試すことに。




「なにか、未来の釣り竿的なのが出てくれれば。」



 そんな願望を抱きながら、黒のカードを起動。

 本日のカードを召喚する。





 2つ星 『チャクラム』


 古代インドの投擲武器。鋭い切れ味を持つ。





 薄く鋭い、輪っかのような武器が具現化する。




「……これじゃ、流石にな。」



 少なくとも、釣りに使える道具ではない。

 そう思いながらも、ミレイは人差し指でくるくるとチャクラムを回転させ。


 不意に、すっぽ抜けた。



 すっぽ抜けたチャクラムは、ミレイの左頬を掠め。

 勢いそのままに、海へと落下していく。



 左頬から、微かに血が垂れて。

 その一瞬の出来事に、ミレイは静かに涙した。















「こうなったら、こいつの出番か。」




 左頬はキララに治療してもらい。

 ミレイは魔導書を開くと、1枚のカードを起動する。




 3つ星 『変身魔法マーメイド


 美しき海の生き物、マーメイドへと変身する魔法。下半身が魚のようになり、水中での活動が可能となる。




 カードの能力が起動し、ミレイの体が光の粒子に包まれる。

 上半身は、変わらず水着のまま。下半身が、魚のようなフォルムへと変化する。

 紛うことなき、人魚であった。




「ちょっくら、海の様子見てみる。」




 人魚に変身したミレイは、海の様子を確かめるべく船体から飛び降りた。


 人魚なら、水中でも平気なはず。むしろ、無敵ではないか。

 という安易な考えで、海に飛び込んだが。




「――うげっ。」




 下手な飛び込みにより、盛大に水しぶきが上がる。

 ミレイは、水面で全身を強打した。




(痛たたた。)



 ブクブクと息を吐き、沈みながら。

 ミレイは痛みに悶える。




(でも、苦しくない。)



 とはいえ、人魚への変身は伊達ではなかったのか。

 着水こそ失敗したものの、水中での活動は可能な様子だった。




(よし、これならいける。)



 人魚の体を手に入れたことで。

 優雅に泳いでみようと、ミレイは体を動かしてみる。


 しかし、魚っぽくなった下半身を、上手く動かすことが出来ず。

 人間の足とは、まるで勝手が違っていた。




(やばい、進まねぇ。)




 人魚に変身しても、泳ぎのセンスまで身に付くわけではないのか。

 陸に上がった魚のように、ミレイは水中でもがきまくる。


 そうやって、悪戦苦闘していると。


 小さな衝撃と共に、続いてキララも海に飛び込んでくる。

 当然、人魚の姿などではなく、水着姿のままである。




(キララ、平気なの?)


(うん。魔力を酸素に変換すれば、水の中でも苦しくないよ。)




 水中なので、2人は何となくの雰囲気で会話をする。



 キララは持ち前の応用力で、いとも容易く水中に適応していた。

 溺れかけの人魚とは、比べ物にならない才能である。




(……ちょっと待ってて、すぐにコツを掴むから。)




 ミレイが泳げるようになるまで、この後1時間ほどかかった。

















 海の中は、まるで異世界だった。

 無音の空間に水が満ち、名も知らぬ魚たちが自由に泳いでいる。




(解せぬ。)



 とはいえ、これだけの生き物がいながら、なぜ餌に食いつかなかったのか。

 ミレイは不満げであった。



 そんな事を思いつつも、ミレイとキララは海の中を泳いでいく。



 何となく、人魚っぽい泳ぎ方をするミレイに対し。

 キララは空を飛ぶのと殆ど変わらない泳ぎ方をしていた。

 空間を蹴るか、水を蹴るかの違いである。





 大小さまざま魚たちに、クラゲか亀か、浮遊する生き物たち。

 それらを見ながら、




(サメとか出てきたら怖いなぁ。)



 ミレイはそんな懸念を抱き。

 自衛のために、水中でも使えそうな能力を呼び寄せる。


 まず右手には、メインウェポンである”聖女殺し”を。

 左手には、防御のために”フォトンバリア”をセットする。

 そしてダメ押しとばかりに、瞳には”蠱惑の魔眼”を発動しておいた。



 人魚の体に、水中戦モードの完成である。




(完璧かも。これならサメ相手にも戦える。)



 武装で固め、意気揚々とするミレイであったが。




(……ミレイちゃん。”その鎌”があると、魚が逃げちゃうよ?)




 その手に持つ聖女殺しは、禍々しい魔力を放っており。

 本能的に察してか、魚たちが周囲から散っていた。



 ミレイは、無言で聖女殺しを解除した。










(虹色の魚、居ないねぇ。)


(うーん、困ったな。)




 しばらく、海の中を散策する2人であったが。探せど探せど、目的である”虹色の魚”は見当たらない。

 海は広いのだから、当然である。




(なんとなく、きれいな魚って深海にいるイメージがあるような。)


(じゃあ、もっと下に行こうよ。)




 このまま普通に探しても見つかりそうにないので、2人はより深い場所を目指すことに。



 深く潜れば潜るほど、太陽の光は届かなくなり。

 行く先は暗闇に包まれる。


 キララは光る魔力の塊を作り出し、それを投下することで視界を確保していた。



 真っ暗な世界に、自らの意思で沈みながら。

 ミレイの中に、純粋な”暗闇”への恐怖が湧き上がる。




(あれ、魚を捕まえるだけの簡単な仕事じゃ……)




 何か、致命的な選択を間違えたような。そんな事を思いながらも、キララと一緒に深海を目指す。


 キララに関しては、魔力を放つことで周囲の地形を把握しながら進んでいた。




(あっち、もっと深いところがあるよ!)


(うーい。)



 まさに、恐れ知らず。


 もはや引き返すことすら怖いため、ミレイは必死に後を追った。










 魔力の光を頼りに、深海を目指す2人であったが。


 キララは何かに気づき、その場で停止。

 ミレイを手で制した。




(ミレイちゃん、武器を用意して。)


(……まじで?)




 急な指示にビビリながらも、ミレイは聖女殺しを具現化する。


 キララは真っ暗な視界の先を睨みながら、その手に魔力を凝縮し。

 それを周囲に拡散した。


 すると、魔力が弾け。

 深い海の底が明るくなる。



 光によって、視界を確保し。

 ようやくミレイも、それを目にした。




 そこに居たのは、2匹の”巨大生物”。

 巨体と運動能力からして、明らかに”魔獣の域”にある生物たちである。



 しかし、ミレイはその2匹を”知っていた”。



 1匹目は、恐竜映画などで見たことのある巨大な海竜、”モササウルス”。


 対するもう1匹は、B級映画などでお馴染みの巨大生物、”メガロドン”。



 映画の垣根を越えた、夢のバトルが繰り広げられていた。




(いや、すご。でかっ!)




 明かりが存在することで、恐怖は和らぎ。

 ミレイは単純に2匹の大きさにびっくりする。


 モササウルスとメガロドン。両者ともに巨大さで有名な生物ではあるが。

 この世界で魔力を浴びた影響か、30mを優に超える巨体に変異していた。


 そんな2匹が争う様は、もはや怪獣映画である。



 しばらくの間、体当たりなどで争う2匹であったが。

 周囲が明るくなったことで、ミレイとキララの存在に気づき。


 ”新しい食料”の出現に、意識が切り替わった。




(マジか!)




 戦いよりも、食料のほうが大事なのか。

 争っていた2匹が、同時にミレイたちに向かってくる。


 キララは弓を構え、完全に戦う準備をしていた。





(ちょっと、”こっち来んなよ”!!)



 迫りくる2匹の怪物に対し、ミレイは心からの叫びをぶつけた。


 それと同時に、”瞳に宿る力”が作動する。



 力の影響を受けた2匹の怪物は、ミレイによって”魅了”され。

 彼女の命令に従い、方向転換を行った。




(えっ。)




 2匹の怪物は、ミレイたちのそばを通り過ぎ。


 そのまま争うことなく、彼女たちの周囲を漂い始める。




(お〜?)




 ”蠱惑の魔眼”、その効果を使いながらも。何が起こったのか、ミレイは一瞬わけが分からず。

 少し間をおいて、魔眼を起動していたことを思い出す。




(……この魔眼、人間以外にも効くのか。)




 凶暴な生き物であろうと、ただ見るだけで支配下における。

 ここに来て、ミレイは魔眼の強さを再認識した。




(神スキルじゃないか!)




 騙すようで心が痛むため、あまり使用したくない能力だが。

 これからは戦闘回避のために、バンバン使っていこうと決意する。



 魔眼の効力の及ばない、”格上相手”には。

 ほぼ無力な力ではあるが。










(ふむふむ、なるほどね!)



 キララが、モササウルス&メガロドンとコミュニケーションを図った結果。

 何となくのニュアンスで、”キラキラ輝く存在”の場所が判明する。


 それこそが、目的である”虹色の魚”であると信じて。


 2匹の怪物に案内され、ミレイとキララはその場所へ向かうことにした。





(それにしても、こんな怪物がうろついてるなんて。海って怖いな。)


(わたしも、”こんなの”がいるなんて驚きかも。海の怪物って言ったら、”クラーケン”か”リヴァイアサン”が有名だから。)




 モササウルスと、メガロドン。

 魔獣と化した2種の生き物は、この世界の常識においても”異質”な存在であった。















 2匹の怪物に連れられて、ミレイたちはさらに深い場所へと潜っていく。


 生身のまま、こんな場所まで来て大丈夫なのかと、不安になるも。

 人魚の体は水圧への耐性があるのか平気であり。

 キララに関しては、素で水圧に耐えていた。




(――おっ?)




 潜っていく中で、2人は目指す先に”光”があることに気づく。


 真っ暗な世界でなお、輝きを放つ存在。

 探していた”虹色の魚”なのでは、と。


 期待する2人であったが。




(……うそ、あれって。)




 姿を現した”それ”に、キララは驚きを隠せない。

 ミレイも、同様に言葉を失っていた。






 海の底にあったのは、光り輝く”無数の輪っか”。



 異界の門とも呼ばれるそれは、2人にとってはもはや馴染みのある存在であったが。



 その”数”に、圧倒されてしまう。



 1つや2つではない。

 軽く見積もって、”20”を優に越える数の門が乱立していた。





 何かの見間違いではないのか、そう思いたくなるも。現に視界の中で、無数の生き物たちが門を潜り、世界と世界とを行き来している。

 もしかしたら、モササウルスとメガロドンも、あの乱立する門のいずれかからやって来たのかも知れない。






 あまりにも常識外れな光景に、呆然とする2人。

 そこから離れた、さらに深い場所では。





 ”山のように巨大な何か”が、蠢いていた。






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