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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
93/153

ロマンティックは似合わない






「来たな、海。」


「うん! きたー!!」




 白銀の竜、ミーティアの背中に乗って。ミレイとキララは、ピエタから東に位置する浜辺へと到着した。

 頭上には青い空と太陽と、最高のコンディションである。


 他に人がいる様子もないため、2人はテンションが上がっていた。


 海にやって来るのは久しぶりだが。いつ来ても変わらない美しさに、ミレイは海風を感じ取る。





「ありがと、ミーティア。少なくとも、今日すぐに帰るってことはないから、しばらく好きにしてていいよ。」


「ピー!」




 ミレイに自由を言い渡されると、ミーティアは真っ直ぐ空へと昇っていった。

 肉眼では捉えられないほどに加速し、雲の向こう側へと消えていく。




「はっや。」



 次元の違うスピードに、ミレイは唖然とした。










 ミレイは懐から、1枚の紙を取り出す。





 Cランク グローバルクエスト


『虹色の魚を求めて』


 最近、内海にて”虹色に輝く魚”の目撃例が発生しています。まだ見ぬ新種、もしくは異世界由来の生物の可能性があるため、ぜひとも生きたままの捕獲をお願いします。1匹につき200G、最大で5匹まで報酬を支払います。


 報酬金 200G〜1000G

 サルモアイン魔獣研究学会 エギルン・アズーラ





 これこそが、今回2人が海に来た”一応の目的”である。

 珍しい魚を、出来れば5匹捕まえる。


 とはいえ、ミレイは依頼票を懐にしまい込む。




「とりあえず、今日は遊ぼうか。」


「そうだね〜」




 所詮こんなものは、海に行く口実に過ぎない。クエストは明日に後回し。

 ミレイたちは水着に着替えることに。















「ふぅ。」




 つつがなく、ミレイは水着に着替え終わる。フリフリとした、水色の水着に。

 このレベルの肌面積で屋外に出るのは久しぶり。というよりほとんど皆無なため、流石に恥ずかしさが顔に出る。他に人が居ないのが救いであった。




「あっ、ミレイちゃん可愛い〜!」



 キララもすでに着替え済み。

 ミレイとお揃いの水着である。




「そ、そうかな?」



 可愛いと褒められれば、流石に顔も赤くなる。




「キララのほうが似合ってるよ。」


「ううん。そんなことないよ。」


「いやいや! 絶対にキララだよ。」


「違うよ! ミレイちゃんだって。」




 しばらく、不毛な口論が続いた。








 ミレイはカードの力を使い、浜辺に”デラックスワゴン”を召喚する。




「おお〜」



 久々の愛車に、ミレイは抱きついた。



 着替えなどの荷物は、全て車に積んでおくことに。

 夜は座席を倒せば、2人で車中泊も可能である。

 どんな世界でも、ワゴン車は非常に便利であった。




「さてさて。」



 カードの入った魔導書も、当然ながら車に置いておくつもりだが。その前に、ミレイは何枚かを見繕う。

 せっかくの海なのだから、”動物たち”にも羽根を伸ばしてもらいたい。


 カードを起動し。

 巨大な狼、フェンリルと。尻尾の燃える猫、ヒニャータを召喚する。




「よーし! みんな遊んでいいぞ〜!」




 ミレイが、そんな声を上げるものの。召喚された2匹は、あまり仲がよろしくないのか。

 フェンリルは海へと向かっていき、ヒニャータは車の中へと入っていった。




(まっ、犬と猫だしな。)



 ミレイは気にしない。




 どうせなら、パンダファイターも召喚しようと思ったが。パンダは謎に独自行動が多いため、”急に召喚したら悪い”と思って、選択肢から外した。


 とりあえず、これで自宅に置いてきたペットは召喚し終わる。

 しかし、魔導書を車にしまう前に、ミレイは1枚のカードに注目する。





 3つ星 『チキンハンター』


 人間に食われ続けた怨念が蓄積し、顕現したモンスター。一番近くにいる人間を襲う。





 説明文からして、地雷臭がハンパないため。ミレイが一度も起動していないカードである。

 とはいえ、”凶暴な魔獣っぽい”フェンリルも、普段は犬のように振る舞っている。ならばこのチキンハンターも、いざ召喚してみれば素直にいうことを聞くかも知れない。

 そんな思いのもと、ミレイは思い切って召喚してみる。




「さてと。」



 一体、どんな奴が出てくるのか。

 それなりに経験も積んできたため、ある程度の余裕で見つめるミレイであったが。



 召喚されたのは、予想に反して”人型”の魔獣であった。

 痩せこけた人間のような身体に、鋭くとがった爪。全体的に体の色は黒く、首から上は完全にニワトリである。


 そしてその瞳は、ドス黒い狂気に染まっていた。




「……おぅ。」



 その瞬間、ミレイは全てを察した。



 チキンハンターの特性、”一番近くにいる人間を襲う”。




「――うわぁぁ!!」


「キシャァァアアッ!!」




 全力疾走で逃げるミレイを、チキンハンターが追いかける。



 その後、すぐにフェンリルの”お手”によって倒されたが、ミレイの心には明確な”追われる恐怖”が植え付けられた。

 世の中には、相容れない生き物もいるのだと。悲しくも実感した。















 気を取り直して、ミレイたちは遊び始める。




「ざっばーん!」


「うはー!」




 キララが魔法で海水をまとめ上げ。

 ミレイはそれに思いっきり飲み込まれる。




「あはは。」



 まるで渦潮に巻き込まれるダイバーのようだが。キララの魔法に包まれているため、何も不安に思わない。



 ただひたすら、プカプカと海に浮かんでいるだけでも面白い。







「おおー!」



 浜辺を散策していると、ミレイは手のひらほどの”大きな貝”を発見する。




「これ、食えるかな?」



 拾い上げて、キララに見せる。




「そうだね。ちょっと、”お腹がチクチクする”かも知れないけど、食べれると思うよ。」


「……そっか。」



 ミレイは、変わらず笑顔のまま。

 元いた場所に、そっと貝を戻した。






「う〜ん。なにか食えるもんないかなぁ。」


「ピエタで、なにか買ってくればよかったね。」




 浜辺に座って、海を眺めながら。2人はそんなことを口にする。


 ”気づいたら、お腹が減っていた”。人生とは不思議なものである。

 魚を釣って食べればいい、食い物くらい普通に見つかるだろう。さっきまでそう思っていたものの、いざお腹が減ると”釣りをする気力”すら無くなってしまう。

 そもそも、釣り竿だって持っていない。仮に釣れたとしても、調理に時間がかかる。



 お腹は、今減っているのである。



 1つ星 『キャプテン・バーガー』


 仕方がないので、昼食は”カードの能力”で済ませることに。


 海で食べるハンバーガーは、また格別であった。





(晩飯はどうしよう。)



 指をぺろりと舐めながら、ミレイは考える。

 残る食べ物系カードは、”爆弾おにぎり”と”ペロペロキャンディ”、”ポテトチップス”くらいである。せっかくの海で、それを晩飯にはしたくない。


 長考の末、ミレイは神頼みをすることに。

 黒のカードを起動し、新しい食べ物系カードを引き寄せる。





 2つ星『寒がりスノーマン』


 氷の国からやって来た風来坊。寒さが苦手らしい。





 手に入ったカードを、その場で召喚し。

 ”厚着をした雪だるま”、のような生き物が浜辺に出現する。


 ミレイよりも更に低身長で、フォルムも可愛らしい。

 まるで、マスコットキャラクターのような見た目だが。




「こいつは、食えんな。」


「そだね。」




 召喚されて、まさかの第一声に。

 スノーマンは戦慄した。







 その後、新しく仲間になったスノーマンも交えて、ミレイとキララは海を遊び尽くした。


 スノーマンは海が大好きなのか。言葉こそ話せないものの、とても楽しそうであった。

 身体が溶けたりしないのか、ミレイは気が気でなかったが。




 食料に関しては、帰ってきたミーティアが”やたらと大きな鳥”を捕まえてきたため、それを晩飯にすることに。

 執事ロボットのバーバックを召喚し、全自動で調理をしてもらった。





 そして、静かな夜が訪れる。
















 デラックスワゴンの屋根に寝転んで、ミレイとキララは星を見る。

 とても、美しい空である。かつての世界、地球ではきっと見られないほどに。

 遥かな上空では、ミーティアが優雅に空を舞い。流れ星のように煌めいている。


 これ以上なく、最高のひと時を過ごしていた。




 しかし、





「ねぇ、ミレイちゃん。」


「んー?」




 キララは、ずっと気になっていたことを口にする。




「なにか、あった?」


「なにかって?」


「む〜、悲しいこと?」


「……ないよ、そんなの。」


「ほんと?」


「ほんと。」


「絶対?」


「絶対ほんと。」


「そっか。じゃあ、信じる。」


「……うん。」





 また、空を見つめても。

 同じ星空には見えなかった。





「ねぇ、キララ。」


「なーに?」


「手、繋いでいい?」


「……うん、もちろん。」





 車の屋根に寝転びながら、2人は手を繋ぎ。

 しばらくの間、無言で夜空を見上げた。





「少し前にね、エドワードに言われたんだけど。」



 ミレイはゆっくりと話し始める。




「元の世界に戻れるなら、戻りたいかって。」


「……ミレイちゃんは、戻りたいの?」



 キララの口から、不安そうな声が漏れる。

 繋いだ手からも、それが伝わってくる。




「ううん。わたしは今が一番楽しくて、一番幸せだから。出来ればずっと、この世界に居たいかな。」


「ほんとう?」


「うん、本当。」



 ギュッと手を握る。

 そこには、嘘偽りは存在しない。





「……でもね。わたしがこうやって楽しんでる間に、”お父さんとお母さん”は、どうしてるのかって思っちゃって。」





 それが、ミレイの抱いた疑問であった。

 自分は当然、異世界にやって来たことを知っているが、向こうはそうではない。きっと何の前触れもなく、”娘が行方不明になった”と思っているはず。

 娘が行方不明になって、平気な親など存在しない。





「キララや、みんなと一緒にいるとさ。毎日楽しくて、すっごく幸せなんだけど。もしかしたらその間も、向こうじゃわたしを探してるのかもって。」




 ピエタの上空で、あの美しい光景を見た際に。その考えが、ミレイの脳裏をよぎった。


 向こうじゃ、両親が必死に探してるのかも知れないのに。自分はのうのうと楽しんでも良いのか、笑っても良いのか。

 一度それを考えてしまうと、胸が苦しくてたまらなくなる。




「楽しくて嬉しいと、向こうのことなんて忘れちゃうから。本当に、”ずるい”なって。」




 当たり前。

 当たり前のことである。


 親の愛情を受けて育った子供なら、当たり前に抱く感情。



 ただ一言、自分が無事だということを伝えられれば、この苦しみからも解放されるのに。




「……ミレイちゃん。」





 手の熱と、震えから。悲しみが伝わってくる。

 魔法じゃ解決できない、心の痛み。





「ねぇ。ミレイちゃんのご両親って、どういう人なの?」



 キララに、そう尋ねられ。




「……えっと。」


 

 ミレイはゆっくりと話し始める。

 自分の両親について。




 タイプは違うけど、どっちも優しい両親であること。


 2人とも言葉数は少ないが、別に仲は悪くない。


 普段の言葉使いはお母さんのほうが荒いが、ちゃんと怒るのはお父さんの方。


 お母さんはお笑い番組が好きだけど、まったく笑わずに見てて、ちょっと変わってる。


 お父さんはドラマが好き。


 お母さんはニュースに興味がないから、時々会話が通じない。


 お父さんがDIYに興味を持って、色々買って頑張ってたけど。下手くそで全然出来なくて。


 器用なお母さんが代わりにやって、わたしもそれを手伝わされたり。




 つい昨日のことのように、思い出話が止まらない。


 涙も、止まらない。





「優しそうだね、ミレイちゃんのご両親って。」


「……ううん。普通だよ、これくらい。」




 ミレイにとっては、これが普通のこと。これが自分の両親なのだから、それ以外のことは分からない。


 愛情を注がれて、大事に育てられて。

 普通に大人になったのだから。

 普通に涙だって流す。

 




「わたしもいつか、会いたいなぁ。」



 ギュッと、手を握る。





「もしも、ミレイちゃんの世界に行けることになったら、わたしも一緒に行きたい。」



「……うん。わたしも、会って欲しいな。」





 不思議と、胸の痛みが引いていく。


 不安や悲しみは消えないけど、もっと温かいものがそこにある。

 寂しいけど、一人じゃない。





 ミレイは1つ、心に決めた。

 自分が生きる上での、”明確な目的”を。





――とりあえず家に帰って、死ぬ気で親に謝る。





 それまでは、絶対に。

 そして、その先もずっと。



 ”この繋いだ手は離さない”。







 美しい星空を見上げながら、ミレイは”ある言葉”を思い浮かべる。


 とても安易な言葉だが。

 どうしても、口に出してみたくなった。





「……ねぇ、キララ。”月が、綺麗じゃない”?」



「ん? そうだね。お空がとっても綺麗。」




 ちょっと特別な言葉だが。

 残念なことに、キララはその意味を知らない。


 文化も世界も違うのだから、仕方がない。

 そして自分も、知ったかぶりに過ぎない。




「ごめん。」




 やはり、ロマンティックは似合わない。







「――”大好き”って、言おうとしただけ。」







 その言葉に、キララは目を見開き。


 それでも言葉はなく。




 空には、流星が煌めいていた。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 尊…バタッ(尊死)
[一言] <月が綺麗ですね!          え?あぁ、月見バーガー美味しいよね> <そっすねー (異世界で夏目漱石はさすがに無謀)
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