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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
90/153

あたたかなちから






 帝都から、遠く北西に離れた地点。自然も少ない荒野の真っ只中に、その場所はあった。

 人為的に掘られた巨大な穴。穴の中には建築物らしきものがあり、多くの人々が集まって、それを地面から掘り起こそうとしている。


 謎に包まれた、巨大な”古代遺跡”の発掘現場。その中心部で。

 ”氷のドリル”が稼働し、凄まじい速度で穴を掘り進めている。


 ドリルを操るのは、”新進気鋭の冒険者フェイト”。完全復活したその力で、遺跡の発掘作業を手伝っていた。

 そんなフェイトの様子を、他の人々は感心した様子で眺めている。




「凄い力だな。」


「ああ。流石は、Sランクの紹介だ。」




 自室の張り紙にも書いてあった、”日帰りで穴掘り”。遺跡の発掘作業をフェイトはクエストとして手伝っていた。

 彼女の力の規模は非常に大きく、他の人々はみな距離を取っている。

 まさに、フェイトの独壇場であった。



 護衛の冒険者であろうか。無骨な大剣を背負った、真っ赤なフルプレートアーマーの大男も、フェイトの様子を見つめている。

 その力に感心するように。


 フェイトの力によって、発掘はあっという間に終わるかと思われたが。


 鎧の男が、違和感に気づく。




「……何だ、あれは。」




 地面、そして壁から。”透明な手足”のようなものが飛び出ている。

 先程までは、存在していなかったはず。そう思った矢先。


 手足が動き出し。

 壁の中から、透明な”クリスタル製の巨人”が現れた。




「皆、下がるんだ!」




 突如現れた、得体の知れない存在。

 鎧の男の声に従い、学者や作業員たちは一目散に逃げ始める。


 クリスタルの巨人は、逃げ惑う人々を敵と認識しており。


 その前に、鎧の男が立ちはだかる。

 無骨な大剣を構えながら。




「古代文明の遺産。衝撃で目覚めたのか。」




 男を敵と認識し、クリスタルの巨人が襲いかかる。

 だが男は冷静に、凄まじい速度で大剣を振り払い。


 巨人を、一刀両断に斬り伏せた。




「意外と硬いな。」




 一撃で、容易く倒しながらも。男は決して敵を侮らない。


 そして、敵は一体だけではなく。壁や地面から、次々と湧き出てくる。

 巨人だけでなく、中には小さな獣のようなタイプも存在した。




「防衛機構か、面白い。」




 それでも臆することなく、鎧の男は立ち向かう。護衛としての仕事を果たすため、決して背を向けることなく。


 すると、地面が激しく揺れ始める。




「ッ、何だ。」




 激しい揺れで、地面が大きく割れ。

 そこから、巨大な体を持つ”クリスタル製のドラゴン”が出現する。

 明らかに、他の敵とは次元の違う存在であった。




「まさか、こんなものが眠っていたとは。」




 衝撃を受けながらも、やはり男は背を向けない。

 むしろ困難に直面し、気力をみなぎらせていた。




「そこの君も、作業を中断して避難するんだ! 敵は俺が食い止める。」




 鎧の男が、フェイトに声をかける。

 しかし、聞こえていないのか、フェイトはドリルを止めようとしない。


 ただ、愉快そうに笑うのみ。





「この程度で? 冗談ッ!!」





 敵の出現に、フェイトは気分を上げ。

 正真正銘のフルパワー、天使モードへと変化した。

















 帝都、ナナリーの武器屋にて。


 ソルティアが漆黒のブーツを身に着け。履き心地を確かめるように、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。




「良いフィット感です。」



 履き心地には満足した様子。



「つま先からナイフが飛び出るような、ありきたりな仕込み靴とは違うわ。試しに、回路に魔力を流してみて。」


「はい。」




 片足を軽く上げた状態で、ソルティアはブーツに魔力を通す。


 すると、靴底から鋭利な刃が出現した。

 例えるなら、スケート靴のような形状である。




「どうかしら。」


「良いですね。蹴り技が映えそうです。」


「もちろん、血がいっぱい出るはずよ。」




 笑顔で、そんな物騒な会話した後。

 ソルティアはブーツを購入した。


 すらりとした足に漆黒のブーツと、とても似合っていたが。

 物が物だけに、ミレイは羨ましいとは思わなかった。




 そして、ミレイたちの帰りの際に、ナナリーはあることを思い出す。




「そういえば。あの金髪の、”氷使いの子”って、貴女たちの友達よね?」


「……そう、ですけど。」



 金髪の氷使い、該当者はフェイトしかいない。



「フェイトがどうかしたんですか?」


「いや、まぁ。どうかしたと言うよりも、実は最近、”街の気温”が急激に下がってて――」




 ちょうど、そんな話をしていた時に。


 帝都から離れた、遥かな遠方から。

 ”強烈な魔力”の波動が発生する。


 その力に、ミレイ以外の面子は気づいた。




「……この力って。」




 一体、何が起こっているのか。確かめるべく、一同は外に出る。



 あまりにも遠い場所なため、帝都からでは状況が把握できない。

 それでも確かなのは、”見知った存在”がフルパワーの魔力を出しているということ。




「……さむ。」




 魔力に鈍感なミレイでも、気温の変化には敏感であり。

 口から、”真っ白な吐息”が漏れた。






 その日、フェイトが遺跡の発掘現場で”本気”を出した結果。


 翌日、大陸の一部では雪が降った。










◆◇










「えぇっと。」 




 冒険者ギルドの3番窓口。

 とある冒険者を前にして、受付のナナリーは顔を引き攣らせる。




「遺跡の全体部分の発掘に加え、作業員の護衛に、敵対勢力の殲滅。若干氷漬けではあるものの、遺跡の保存も完了。諸々の功績を加味して、報酬は上乗せしておくわ。」


「ええ、どうも。」




 自らの功績を読み上げられ、冒険者フェイトは上機嫌に。

 ほくほく顔で、クエストの報酬金を受け取った。


 このお金で何を買おうか、考えるだけで楽しくなってしまう。

 そのままギルドを出ようとするフェイトであったが。


 彼女の前に、主であるミレイが立ち塞がる。

 わざとらしく、腕を組んだ状態で。




「……なによ。」



 フェイトもいつもと違う空気を感じ取る。



「ちょっと、お話があります。」








 ギルド内の端っこのテーブルで、ミレイとフェイトが向かい合う。

 ミレイは真剣そうな顔をしており、フェイトはそっぽを向いている。




「で、何のよう?」



 今この状況について、フェイトはまるで見当もつかなかった。



「寒いん、だよね。」


「寒い?」


「うん。」



 呼び止めた理由を、ミレイは説明する。



「ギルドの先輩に言われたんだけど。ここ1週間で、街中の気温が下がってるんだって。」


「……それが何だって言うのよ。」



 感の鋭いフェイトは、話の流れが読めてしまい。わざと不機嫌そうに聞き返す。



「先輩が言うにはね、”強烈な冷気を帯びた魔力”が街中に漂ってて、気温が一向に上がらないんだって。」


「うぐ。」



 そこまで言われては、フェイトも言い逃れが出来なかった。



「だからね、その。ちょ〜と、力を抑えられないかなぁって。」


「……わたしだって、わざとやってるわけじゃないのよ?」


「うん。それはもちろん、わかってるよ。」




 ミレイもフェイトが悪いとは1ミリも思っていない。身体から冷気が漏れているのは、召喚した当初から分かっている事である。

 フェイトの体質は困ったもので。女子寮の大浴場も、彼女が入った後には水風呂になってしまう。そんなことですら、ミレイは”可愛い”と思っていた。

 自分だけなら、どれだけ寒くても問題はない。だが、その規模が街全体ともなれば、流石に話は別である。




「だからわたしは、折衷案を用意しました!」


「はぁ?」




 どすん、と。

 テーブルの上に、”真っ赤なガントレット”。RYNO(ライノ)が置かれる。




『ヘイヘイヘイッ!! 俺様参上ってなぁ!!』


「冗談でしょ。」



 フェイトにとって、RYNOは大嫌いな存在である。



「これから力を使うときは、こいつを腕にはめて欲しいんだけど。」


「嫌よ!!」



 フェイトは断固拒否する。



「そうかな? 意外といい案だと思うんだけど。」


「絶対に嫌。こんな”格下ガントレット”、装備なんかしたくないわ!」


『格下だとぉ!? テメェ、俺様が本来の姿だったら、一瞬で消し炭になってるぜ!?』


「やってみなさいよ! 口すら無いくせに、よく吠えるガントレットだわ。」



 何が気に入らないのか。フェイトとRYNOは、とにかく仲が悪かった。

 まさに正反対の属性である。



「だめなの?」


「もっちろんよ。というより、あんたが自分で使って、わたしの力を中和すればいいじゃない。」


「えぇ〜、そんなの無理じゃない?」



 ミレイ自身、RYNOを使ってきた経験があるものの。どういう使い方をしても、フェイトに匹敵するほどの火力を出せるとは思えなかった。

 フェイトは5つ星、RYNOは4つ星なのだから。



「頑張んなさいよ。元を辿れば、わたしの力は全部、”あんたの力”なのよ?」


「うっ。」



 そう言われてしまえば、ミレイは反論が出来なくなる。フェイトに何の制限も付けず、野放しにしているのは紛れもない自分なのだから。

 フェイトの力は自分の力。その責任も、自分の責任であると。



 うなだれながらも、ミレイはRYNOを手に取った。

















 冒険者ギルドの屋根の上にて、ミレイとフェイトは帝都の街並みを見下ろす。

 空からは微かに雪が降り、街行く人々は白い吐息を吐いていた。


 フェイトは空中を指でなぞり、そこに漂う力の残滓を感じ取る。




「確かに、わたしの力が残ってるわね。」




 物を冷たく、寒くするのはフェイトの専売特許である。それに関しては、他の追従を許さない。

 しかし、その逆となれば話は別。冷え切った街の異常を正すことは、フェイトには難しかった。




「わたしの魔力の残滓が、街の気温を下げてるなら。あんたのそれで、中和するのも不可能じゃないはずよ。」



 ミレイの右腕には、強力なRYNOガントレットが装着されている。



「どうやってやるの?」


「さぁ?」



 残念ながら、フェイトにも魔力の詳しい理屈は分からない。

 ここに居るのは、ド素人の集まりであった。



「とりあえず、ぶっ放したら?」


「うん。」




 ミレイは、RYNOガントレットを上空へと向けて。


 魔力をチャージする。




「――えっと、ドラゴンファイア!!」




 ミレイの掛け声と共に。

 ガントレットから、竜の形をした”巨大な炎”が放たれる。



 炎は勢いそのままに上空まで飛んでいき。

 雲に大きな穴をあけた。



 とはいえ、起きた現象はそれだけであり。どうひっくり返っても、街の気候を左右するほどの火力ではない。




「……なに? そのダサい名前。」


「え? いや、技の名前みたいのがあった気がして。」



 ミレイは何となく思い出す。



「ねっ、ライノ。」



『……技の名前は、”覇竜滅来砲(はりゅうめつらいほう)だ。』



「だってさ。」


「ぜんぜん違うじゃない。」




 いい加減な”コンビ”に、フェイトは呆れ果てる。


 何だかんだ言いながらも、RYNOは”一級品の武器”であり。

 それを扱うミレイは、”平和に浸ったお花畑”。


 これ以上なく、”猫に小判”である。




「もっと力を引き出せないわけ? ”暴走した時のあんた”は、更に桁違いの火力を出してたわよ。」


「えぇ……」




 暴走していた時の自分。

 それに対し、ミレイは複雑な気持ちを抱いていた。


 周囲の人間に散々言われて、自分にそういった力がある事自体は知っている。

 だが、あくまでも知っているだけであり、その時の記憶すら持っていない。




(……ほんと、何なんだろ。)




 酒を起因として姿を現す、”自分のもう1つの一面”。

 暴走した自分、”年相応に大きくなった自分”。


 友達を蔑ろにするなど、”本来なら絶対にあり得ない”行動をするものの。

 普段のミレイが持っていない、”あらゆる才能”をその身に宿している。




 大人びた姿になり、魔法の力も扱える。そういう意味であれば、まさに”理想的”な存在ではある。

 しかしミレイは、それを自分の本当の姿とは認めたくなかった。




 大切な友達を傷つける可能性があるのなら、”そんな力は必要ない”。




 微かに震える手で、ミレイはガントレットに触れる。




「ねぇ、ライノ。わたしが暴走した時のことって、覚えてる?」


『ああ、そりゃ覚えてるぜ。メッチャクチャに力を引き出しやがってよ。』


「……そう。」




 その言葉に、ミレイは気落ちする。




「やっぱ嫌だよね、そういうのって。」




 ただの道具ではない。RYNOもミレイの大切な”仲間”である。

 カードの能力であろうと、その所有者であろうと。そこに存在するのは、主従関係などではなく。




 ”絆”であると、信じたい。




 ミレイは、両手を重ね合わせる。

 真っ赤なガントレットと、彼女自身の素肌を。




『どうした? マスター』


「……決めたよ、わたし。」




 真剣な顔で、今この瞬間。

 この先の”未来”を左右する、1つの決断を下す。




「もう絶対にお酒は飲まないし、暴走もしない。自分以外の意志に、わたしの体も力も使わせない。」



「そんな力に頼らなくたって、わたしが頑張るから。わたしが、強くなるから。」





「だからお願い、一緒に――」


『ッ!?』





 まるで、錆びついた歯車が、ゆっくりと動き出すように。


 ”目覚めるはずのない力”が、覚醒した。




 それは、人の領域を超えた、”神秘の光”。


 魔力ではない、強烈な光が溢れ出る。




 一体どこから、それだけの力が湧き出るのか。燃えるようなエネルギーが発生し。



 帝都全域に満ちる冷気を、一瞬のうちに掻き消した。





「何よ、それ。」




 変異したミレイの、その”衝撃的な姿”に、フェイトは驚きを隠せない。



 だが、しかし。

 集中力が切れたのか、はたまた別の要因か。




「わわっ、なんだこれ。」




 力はあっという間に拡散してしまい。同時に、ミレイも普段通りの姿に戻ってしまう。


 子どもにしか見えない姿に、右腕にはガントレット。




(気のせい、だった?)




 その目に映った光景は、真実だったのか。それとも幻だったのか。思わずフェイトは、自身の目を疑ってしまう。



 それでも、”何らかの力”が覚醒したは確かであり。

 ミレイが意識したのかは不明だが、街中に満ちていた魔力の残滓は消えていた。





「でも、暖かくなったんじゃない?」


「本当?」





 何が起こったのか、よく分からないまま。

 ミレイとフェイトは街の様子に目を向ける。


 見た感じは特に変わっていないが、冷たい風は完全に消え失せていた。




「……やるじゃん。」




 確かに目覚めた、”その力”。


 真に必要とされるのは、まだ少し先の話。










◇ 今日のカード召喚 64日目








 少し、暖かくなったギルドの屋上にて、ミレイは黒のカードを起動する。





 1つ星 『T字カミソリ』


 男女問わず、使用者の多いカミソリ。刃の当てすぎに注意。





「昨日はドラゴンで、今日はカミソリか。」



 毎度毎度のことながら、手に入るカードは想像通りにはいかなかった。



「良いじゃない。ムダ毛処理とかに使えるし。」


「……うん。」



 実は生まれてこの方、ムダ毛の処理など必要とすらしていないのだが。


 恥ずかしいので、ミレイは黙っていることにした。






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