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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
89/153

寒風と修羅






 冷たい風の吹く、帝都ヨシュア。

 ギルドの運営する女子寮にて。


 入居者の1人、フェイトの部屋の扉には、1枚の張り紙が貼られていた。





『ミレイへ。日帰りで穴掘りに行ってきます。今日の掃除は大丈夫です。』





 覚えたてであろうか、張り紙にはフェイトの手書きの文字が書かれている。


 若干角ばって、歪んだ文字だが。

 少なくとも、キララの書く文字よりは綺麗だった。









 そして、ミレイとキララの部屋では。




「ねぇ、ミレイちゃん。起きようよ〜」


「うぅん。」




 布団の膨らみを、キララが揺するものの。中身は起きる気配がなく。

 うなりながら蠢くのみ。




「ミレイちゃん、もうお昼だよ? ご飯食べようよ〜」


「うぅ〜」




 声をかけられて、もぞもぞと布団が蠢き。


 中から、ミレイがひょっこりと顔を出す。

 その表情は不満げであった。




「”寒い”。」


「え?」



 ミレイの言葉に、キララは首を傾げる。



「部屋が寒いんだよ。」


「そう?」


「うん、絶対にそう。」




 残念なことに、キララはその”魔力の高さ”から、寒さに鈍感になっていた。


 身体からみなぎる魔力によって、無意識下に環境に適応している。

 砂漠の暑さに、素で耐えきったように。




「流石に、ピエタほどじゃないけど。薄着じゃちょっとキツイかも。」



「……なるほど。まっかせて!」




 良いことを思いついたとばかりに、キララは両手に魔力を込め。


 ”それ”を、部屋中に解き放つ。




「どう?」


「あー。」




 布団から顔を出しながら、ミレイは部屋の空気を感じ取り。


 数秒間、停止。


 すると、若干焦った様子で、もぞもぞと布団から這い出てくる。




「――”あっつい”!!」




 今度は、キララの魔力が効きすぎたのか。

 ”暑さ”から逃れるために、ミレイは部屋から飛び出していった。














 

 人通りの多い帝都の街並みを、ミレイとキララは鼻歌交じりに歩く。


 寒さ対策のために、ミレイの首にはマフラーが巻かれていた。

 対して、キララは普段通りである。


 とはいえ、気温に対する感覚はミレイのほうが正しいようで。

 街行く人々は、みな結構な割合で厚着をしていた。




「ほらね? みんな厚着してるでしょ。」


「ほんとだ〜」




 ミレイたちが帝都にやって来て、1週間が経ち。

 その間に、街では”異常な速さ”で寒冷化が進んでいた。


 紛うことなき、異常事態ではあるが。

 ”こんなもんか”と、ミレイたちは受け流す。


 ほんのちょっぴり、寒さに震えつつ。

 2人は食料品などの買い物へ向かう。



 すると、




「あ。」




 どの街でも浮いてしまう、特異な存在。

 ソルティア&パンダファイターと遭遇した。









「お前、わたしの能力なのに最近見ないな。」


「……わん。」



 ミレイの言葉を受け、パンダは申し訳無さそうに頭をかく。




「パンダさんは、現在修行の最中です。見てください、この筋肉を。」




 ソルティアの言う通り、パンダの肉体は以前とは違っていた。


 全体的にシルエットが細くなり、見るからに筋肉質になっている。

 召喚当時と比べれば、まさに劇的ビフォーアフターである。 


 屈強な肉体を手に入れ、パンダは妙に自信ありげであった。


 だが、しかし。





「え〜。でもパンダに筋肉って似合わなくない?」





 ミレイの一言に、パンダは凍りついた。


 ついでに、隣のソルティアも。




「どちらかと言うと、ぽっちゃりしてた方がパンダっぽいし、暖かそうだし。」




 何の悪気もない飼い主の言葉が、パンダの体に突き刺さる。





「あと単純に、”可愛くない”かも。」





 その言葉に、完全にとどめを刺され。

 パンダは地面に膝をつき、うなだれる。



 隣で見ていたソルティアも、流石に哀れみを抱いたのか。

 パンダに、”お金”の入った袋を渡した。




「これで、好きなものでも食べてください。」




 ソルティアから、お金を受け取り。


 ”失ったもの(脂肪)”を取り戻すべく。

 パンダは1匹、食事に向かった。




「ん?」



 意味も分からず、ミレイは首を傾げた。









「ソルティアは、今日なにしてるの?」


「実は、武器を買いに行こうかと。」


「へぇ。」



 人生で、初めて聞くセリフである。




「ソルティアさん、剣以外も使うの?」


「ええ、まぁ。少々事情がありまして。」




 武器を買いに行く。

 こころなしか、ソルティアの表情は楽しげであった。




「良ければ、ご一緒しますか?」




 そんなこんなで、ミレイとキララはソルティアの買い物に付き合うことに。


 彼女に連れられて、大通りにある武器屋へ向かう。






 やって来たのは、とても大きなお店であった。

 店の外にも展示品らしき武器が飾られており、武器屋という主張が激しめである。


 3人揃って、中に入ると。

 冒険者であろうか、ごっつい体をした男達が何人か大勢居た。


 そのせいだろうか、なんともいえない”男の熱気”が立ち込めている。




「なんか、男の店って感じ。」


「……わたし、ここ嫌いかも。」



 キララは、身体が拒絶反応を起こしていた。




 ソルティアは何ひとつ気にせず、店の中へと入っていき。

 ミレイとキララも、それについていく。




 キララは、ミレイの真後ろにべったりとくっつき。

 ”ミレイの匂いを嗅ぐ”ことで、強引に不快感を中和していた。


 自分の頭部付近で行われている行為に、ミレイは気づかない。





「これを買おうかと。」



 ソルティアが指差す先には、真っ黒なブーツが置かれていた。




「ブーツ?」



 少なくとも、ミレイには普通のブーツに見えた。

 武器というカテゴリーには当てはまらない。




「正確には、つま先に”ナイフ”が仕込まれたブーツです。」


「……あぁ。」



 説明を受け、ミレイはなんともいえない表情になる。




「それって、危なくない?」


「いえ。いざという時、役に立つかと。」




 ソルティアは、いつも通りの無表情。

 無表情に、殺意の塊のような思考をしていた。




「履けるかどうか、試してみます。」



 試着するべく、手を伸ばし。





「――ちょっと待ったぁ!!」





 突如店内に鳴り響く、大きな声。

 それに、ミレイたちが振り向くと。



 そこに居たのは、ミレイの世話になったギルドの受付嬢の1人。

 3番窓口担当の、”ナナリー”が立っていた。



 主張の激しい胸と、長い銀髪がトレードマークの美女。

 ちなみに、あの怖いギルドマスターとは親戚である。




「そのブーツ、ちょっと見せて。」




 ナナリーは店内に入ってくると。

 ソルティアの買おうとしていたブーツを手に取り、まじまじと観察する。




「……ダメね、このブーツ。構造があまりにもナンセンスだわ。とても実戦向きじゃないし、下手に使ったら怪我するかも。」



「なるほど、そうですか。」




 そういったカラクリに詳しいのか。

 ナナリーは軽く見た程度でブーツの品質を看破した。




「正直な話、この店で装備を買うのはオススメしないわね。パッとしない量産品ばっかだし。こんなの使ってたら、素人感丸出しよ?」




 かなり大きな声で、ナナリーはこの店をこき下ろす。

 当然ながら、他のお客、冒険者たちにも丸聞こえである。




(あー)



 ミレイは、なんともいたたまれない気持ちになった。





「では、どこで買うのがオススメでしょう。」




 ソルティアからの問いを受け。

 ナナリーは愉快そうに笑う。




「ついてきなさい。」

















 ナナリーに連れられてやって来たのは。

 先程の店とは打って変わって、こじんまりとした民家のようなお店。


 おまけに、店の中は真っ暗で。

 客はおろか、店員すら居るかどうか分からない。


 隠れ家的お店と言うよりも、むしろ単なる隠れ家である。




「あのー、ここって。」


「”わたしの家”よ。」



 ナナリーが部屋の明かりをつけ。

 



「わーお!」




 そこに広がる光景に、一同は驚きをあらわにした。




 お店の中にあったのは、ありとあらゆる武器の数々。


 それも、単なる武器ではない。

 先程の店の商品を一般向けの”道具”とするならば、ここにある武器は”美術品”だろうか。

 素人目でも、明らかに”輝き”が違っていた。


 物によっては、実際に光を放っている。




「ぴっかぴか! 高級品って感じがする。」




 武器を絶賛するミレイに。

 ナナリーは照れくさそうな表情をする。




「高級品って言うより。正確には、”手作り”、かな?」


「えっ。これ全部、ナナリーさんが作ってるの?」



 予想外の答えに、ミレイは驚く。




「まぁ、趣味の一環でね。武器の製造や、販売も少々って感じ。」



「とても、素晴らしい趣味です。」



 ソルティアは、何故か感動しており。

 まじまじと大量の武器を見つめている。




「うん。さっきのお店と違って、清潔感もあるしね。」



 キララは、全く別の理由で感動していた。





「普段は気に入った冒険者にしか販売してないけど、君たちは特別にしてあげる。」


「やった!」



 ミレイは単純に、特別という単語に喜ぶ。

 ”限定や特別”に弱い、典型的な日本人であった。





「ソルティア、だったよね。ちょっと足のサイズ測ってもいい?」


「ええ。」




 ナナリーとソルティアは、装備のために足の採寸をすることに。


 その間、ミレイとキララはひたすらに武器を眺める。








「ほぉ。」




 どうやって造っているのかは定かではないが。

 大好きなゲームに出てきたような、”かっこいい武器”の数々に、ミレイはため息を漏らしてしまう。


 何らかの魔法が込められているのか、中には光を放つ剣等もあり。

 純粋に心を惹かれる。




「ナナリーさん、触ってもいいですか?」


「いいけど、”あんまり触らないで”ね〜」



「……はーい。」



 つまりは、”触るな”ということである。




 この街に来た初日に、ミレイが”重大な器物損壊事件”を起こしたことを、当然ながらナナリーは忘れていない。


 ”子どもは触っちゃダメ”。

 遠回しに、そう言われているようで。ミレイは恥ずかしかった。


 故に、ミレイはただ見つめるのみ。




「キララは、なにか良いのあった?」


「うーん。わたしは師匠に貰った弓があるから、武器はいいかな〜」


「なるほど。」




 武器の性能など、見ただけでは微塵もわからないが。

 ミレイは、それっぽい表情で武器を眺める。




「ミレイちゃん、カードがあるから武器は必要ないんじゃない?」


「……まぁ、そうだけど。」




 ミレイの脳裏に浮かぶのは、つい先日の記憶。

 美しい剣技を披露する、女騎士ヘレンの勇姿。



 強さや、速さなど、そういった部分は難しいが。

 技の美しさは、ミレイにもはっきりと理解できた。




「剣って、カッコいいよね。」




 聖剣や魔剣を握って、舞い踊るように技を放つ。

 そんな自分の姿を、ミレイは妄想する。


 実際にやろうものなら、確実に武器に振り回されるだろうが。





「ミレイちゃん、召喚してみたら? 今日はまだやってないよね。」


「あぁ、たしかに。いっちょやってみるか!」




 自分でも手軽に扱えるような、”都合の良い武器”。

 もしくは、手軽に扱えるようになる、”都合の良い能力”。


 そんなカードが手に入るように祈りつつ、ミレイは黒のカードを起動する。




 最後に4つ星を引いたのは、一月以上昔。

 ここ数日は、怒涛の1つ星ラッシュが続いていた。



 そんな鬱憤を解消するかのように、光の輪から凄まじい輝きが発生する。




「――おおっ!?」





 そこに現れたのは、まばゆい光を放つ黄金のカード。

 久しぶりの、”4つ星”である。





「おおー!!」



 カードを手に取り、ミレイは興奮の声を漏らす。






4つ星 『ミーティア・ドラゴン』


星と星とを繋ぐ伝説の竜。非常に高い戦闘力を持つ。






「ドラゴンだ!」


「ほんとだ〜」




 望んでいた剣ではないが。

 4つ星のドラゴンの登場に、考えは完全に吹き飛んでしまう。




「そうだ。こいつに乗って海に行こうよ。」


「うん! 楽しそう〜」




 剣への憧れは、どこへ行ったのか。

 ミレイとキララは、ドラゴンのカードに大盛り上がりであった。








「……なんてメチャクチャな。」




 一部始終を目撃して。

 ナナリーは、呆れた様子で呟いた。






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