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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
88/153

異世界講座とお寿司






 極度の緊張感から、ミレイは空気を飲み込む。

 震える手には、一丁の”拳銃”が握られており、表情は強張っていた。



 緊張のさなか、引き金を引き。

 連続して、3発の銃弾が放たれる。



 おもちゃではない、正真正銘の実弾。

 殺傷能力を有する、それを。


 フェアリーの受付嬢、シャナが魔法で受け止める。


 特殊な力場が空間に作用し、弾丸の速度が目に見える速さにまで低下。

 やがて停止し、3発の弾丸は地面に落ちた。





「これが、多くの世界で使われる武器、”鉄砲”です。ご覧の通り、ある程度の魔力障壁、緩衝を用意することで防ぐことが出来ますが、予備動作も少ないので非常に危険です。頭部に当たったら”イチコロ”なので、最優先で無力化してください。」



 シャナが鉄砲についての説明を行い。




(……て、手が痺れた。)



 何故か実銃を撃たされたミレイは、涙目になっていた。







 冒険者ギルドの一室にて。大勢の冒険者、魔法使いが集められ、緊急の”異世界講座”が開かれていた。

 ここ最近になって、異世界、異界の門絡みの事件が多発しているために。


 ギルド側が主導となり、異世界人の使う武器への対処法や、知っておくべき情報を共有する。

 そのため、”身近な異世界人枠”ということでミレイが実演をさせられていた。


 しかし当然ながら、ミレイは拳銃とは無縁の人種である。

 もっと、適切な人材が居たのではないかと、疑問に思うも。ギルドの諸先輩方には逆らえなかった。





「ちなみに、鉄砲にもかなりの種類があり、これはその中でも弱いほうです。」




 ミレイの持っていた拳銃を片付けて、続けてシャナは別の銃を用意する。


 魔法の力で持ち上げられ、運び込まれたのは、”ミレイの身長とほぼ同等の大きさ”を持つ巨大な銃。


 SFチックな、キャノン砲である。





「え。」



 運び込まれたそれに、ミレイは唖然とする。




「ミレイさん、次はこれをお願いします。」


「いや、その。」




 貴女ならこれを使えるはず、的な視線をシャナが送ってくるも。

 残念ながら、ミレイとはそもそもの世界観が違っていた。




「……撃てません。」




 結局、ミレイはトライしてみるも、銃を持ち上げることすら出来ず。

 先輩受付嬢のナナリーが、代わりにキャノン砲を撃ったのだが。



 諸々あって、部屋の壁が吹き飛んだ。















 異世界講座も進んでいき。

 続いて、陰陽師ユリカによる”異界の門対策”のコーナーに入る。



 ユリカは1枚の御札を起動し、異界の門を模した”光の輪のレプリカ”を出現させる。




「これはあくまでも再現ですが、本物と似たような性質を持たせてあります。わたしが実際に閉じてみるので、皆さんも参考にしてください。」




 異界の門の閉じ方を教えるため。

 あえて御札は使わずに、その場で構築した術式のみで門に干渉する。


 特定の術式を組み込まれた魔力が、門の全体に作用し。

 徐々に光の輪が小さくなっていく。


 仕組みを理解できる魔法使いたちは、感心した様子でそれを見つめていた。




「いくつかレプリカを作るので、皆さんもぜひ練習してみてください。」




 ユリカは門のレプリカを複数生み出し。

 魔法使いたちは、こぞって練習をし始めた。


 ギルドの受付連中も、それに参加する。




 和気あいあいとした雰囲気で。

 一見すると、楽しいお菓子作り体験のようにも見える。


 それでも、ミレイは参加せず。

 なんとも言えない表情で、それを見つめていた。



 そこに、ユリカの付き添いでやって来た、シュラマルが近づいてくる。




「おや、ミレイちゃんは練習しないのかい?」


「う〜ん。そもそも、さっきの実演を見ても、ちんぷんかんぷんで。」



 ミレイは、魔力を見ることが出来るものの。

 術式の意味や、仕組みに関しては毛ほども理解ができない。




「分かるなぁ。僕も基本的に脳筋だから、魔力を刀に纏わせるのが精一杯だよ。」


「……ですね。」




 そう言いつつも、ミレイは知っていた。


 シュラマルやソルティアなどの武闘派も、実は細かな魔法を使えること。

 ミレイが1人で扱えない、魔水晶の利用も可能なことを。






 なんとなく、ミレイは練習の様子を見つめるものの。


 やはり、自分だけ何も出来ないのは納得がいかず。



 ”黒のカード”を取り出しつつ、門のレプリカへと近付いてく。




 どこにも繋がっていない、異界の門のレプリカ。

 それと正面から向き合い。




「ふん! ふん!」




 黒のカードを突き刺したり、振り回したり。何とか門を閉じられないかと、ありったけ試してみる。


 けれどもやはり、うんともすんとも言わず。




「うわぁ。」




 それを間近で見ていた、受付嬢のサーシャが。

 とても残念そうな表情を向けていた。


 哀れみ、もしくはかわいそう。




「……先輩。うわぁは、酷いです。」




 流石のミレイも、それには傷ついた。




「ごめんなさい。単純に、”何やってんだろこの子”って思っちゃって。」


「うぐ。」



 情け容赦ない言葉が、心に突き刺さる。




「前にちょっと、これで門が閉じたことがあって。でも、仕組みが分かんないんです。」



 不思議ちゃんイメージを払拭するため、ミレイは理由を説明する。




「あー。そういえば、その黒いのが貴女のカードだったわね。どうやって門を閉じたの?」


「えっと。今まで機能したのは2回だけで、異常検知?みたいなことを言って、門が勝手に閉じ始めたんです。」




 花の都での件と、ピエタ付近のダンジョン最深部での件を思い出す。




「カードが喋ったってこと?」


「どちらかと言うと、機械的な音声です。」


「いや、そこはどうでもいいんだけど。」




 おもむろに、サーシャも自身のアビリティカードを具現化する。

 その手に出現したのは、3つ星を示す”銀色のカード”。




「先輩のカードって、どういう能力です?」


「乗り物を召喚する能力よ。”バイク”って言うんだけど。」


「あっ、分かります! わたしの世界にもあったので。」


「そう。まぁ、機会があれば乗せてあげるわ。」



 と、サーシャは言うものの。




「死にたくなかったら止めとけよ〜」



 同僚である、タバサから忠告が入った。




「ふん。」



 そんなことは気にせず。

 サーシャは具現化したカードを門のレプリカへと通してみる。




(……干渉する気配はなし。)



 僅かに動かしてみるも、カードと門は干渉しない。




(それ以前に、カードが喋るってどういうこと? ……この子はかなり”特殊”だから、別に不思議じゃないけど。)



 大人しく、カードを引っ込める。




「考えるだけ無駄ね。」



 無駄な行為をしてしまったと。

 そう実感すると、サーシャは深くため息を吐く。





「ねぇ、お腹空かない?」


「すきました。」



 ミレイは即答する。




「貴女、何か好きな食べ物とかあったかしら。」


「えっと、”お寿司”とか。」


「オスシ?」



 知らない単語に、サーシャは首を傾げる。




「まぁ、今日は講座に付き合ってもらったから、お昼奢ってあげる。そのオスシって、どこか店で食べれるの?」


「……そう、ですね。一応、それらしき店はあったような。」




 帝都は、様々な文化が入り乱れる街である。

 それっぽいお店の存在を、ミレイの脳は記憶していた。




「なら、そこに行きましょ。」


「はい!」




 気だるげな先輩に連れられて。

 ミレイは、お昼ごはんを奢ってもらえることになった。










 記憶を辿り、2人は街中にある寿司屋に。




「おお! 意外と本格的〜。」




 異世界由来の文化なのか、それとも武蔵ノ国から来た文化なのか。

 お店の中は、ミレイの知る寿司屋とそう変わらず。


 提供されたお寿司に、ミレイは興奮する。

 だがしかし、




「え。」



 サーシャは凍りついていた。




(白いのは分かる。米よね、食べたことあるもの。でも上に乗ってる”これ”って、まさか。)




 本当に、これをこのまま食べるのか。

 知らない文化に、体が拒絶反応を示す。




「大将、これってなんの魚ですか?」


「アトランティス産の”グルゥ”だよ。」


「グルゥ! 知らん魚だ。」




 好奇心そのままに。

 サーシャが見つめる中、ミレイは未知なる寿司を口に運んだ。




「うまい!」



 お寿司大好き、ミレイには好評の様子。




(魚を、生で食べてる。)




 サーシャは、すでに得体の知れない恐怖を感じていた。

 とても、気軽に食べられるような食品ではない。




「……あの、ちょっといいかしら。」


「はい?」



 店主に、声をかけ。




「わたしの方には、ちゃんと火を通してちょうだい。」



 若干怒り気味に、サーシャは要求した。










◇ 今日のカード召喚 62日目









 寿司屋にて。

 ミレイはトイレに行き、サーシャはカウンターでげんなり中。



 何かしらの力が使われたのか。

 トイレの中から、若干の光が漏れていた。





「貴女、トイレでカード使ってた?」



 戻ってきたミレイに、サーシャが尋ねる。




「……すみません、つい癖で。」




 トイレから光が漏れるなど、事情を知らなければ驚きである。




「で、どういうカードが手に入ったの?」


「えっと。」




 何もといえない表情で、ミレイは新しいカードを具現化する。






 1つ星 『ジャイロウィングの模型』


 大人気のロボット戦士、ジャイロウィングの模型。定価7500円。






「……ジャイロウィングってなに?」


「……さぁ。」




 きっとそれは、永遠の謎である。






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