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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
86/153

オバケなんてないさ






 ギルドの提供する、女子寮の中庭にて。


 3つのハンモックが張られ、そこで、ミレイ、キララ、フェイトの3人が横になっている。


 天気のいい真っ昼間、木陰で風に揺られつつ。

 真ん中で眠るミレイは、魔導書を抱き締めながら熟睡していた。



 とはいえ、無条件で寝られるほど、全員の神経は図太くはなく。




「ねぇ、キララ。」


「なーに? フェイトちゃん。」




 フェイトとキララは、未だに起きていた。




「ちょっと、気になったんだけど。ピエタでの戦いの時、もしもミレイが、”あの力”を使ってたら。どうなってたかしら。」


「うーん。」




 フェイトが、ふと気になったこと。


 全員の力を合わせ、異世界から来た巨大な植物に立ち向かった、あの戦いのさなか。

 サフラが自死を選び、それをフェイトが止めた時。


 もしもミレイが、あの力を行使していたなら。結末はどうなっていたのか。




「そうだね。”止めることは出来ても、助けることは出来なかったかも”。」



「それってつまり、サフラを殺してたってこと?」


「うん。そうなる、かな。」




 ミレイが熟睡する中、2人はちょっと真面目な話をする。




「……どっちが、本当なのかしら。あっちのミレイと、こっちのミレイ。」



 フェイトは、不安そうにミレイを見つめる。




「わたしも、そうなんだけど。こいつの持ってる力って、どちらかというと”悪寄り”が多いでしょ?」




 かつて、生前のフェイトも正義と呼べるような人間ではなかった。むしろ、その対極に位置していたとも言える。

 RYNOに封じ込められているのは、”悪しき竜王”の魂。

 聖女殺しは、見るからに真っ当な力ではない。

 フェンリルも、その根底は人類に仇なす”怪物”である。



 黒のカードから呼び出された、それらの力。何の法則性もない、ランダムと言ってしまえば、その通りではあるが。

 あまりにも、”偏り”が過ぎるような気がした。

 ミレイとの間に、何の関連性もないとは思えない。



 それについて、真面目に悩むフェイトであったが。

 話を聞くキララは、優しく微笑んでいた。




「ちょっと、なに笑ってんのよ。」


「えー、笑ってないよ〜」



 そう言いつつも、やはりキララは笑っている。




「まったく。」



 真面目に話す自分が馬鹿だと、フェイトはため息を吐く。





「大丈夫だよ、フェイトちゃん。」


「あんたの言う”大丈夫”って、なんか根拠でもあんの?」




 フェイトから見て、キララは掴みどころのない人物である。


 ミレイと同じくらい、平常時はヘラヘラと笑っていて。何が、そんなに愉快なのかは分からない。


 しかし、ある種の”感覚”という部分では、フェイトをも凌ぐ勘の鋭さを持っていた。

 まるで、心を見透かすように。




「わたしもね、良くは分からないんだけど。」




 ”それ”を、言葉にして表すのは難しい。

 けれども、言葉では説明できない何かを、キララは知っている。




「ミレイちゃんは、ミレイちゃんだから。どっちも本当だから、信じてあげて。」



「……意味わかんない。」





 ”彼女たちの物語は、まだ始まったばかり”。

 いつか遠い日に、全てが理解できるだろう。



 きっと、何よりも強い。

 しかし目覚めは、まだ遠く。










◆◇










「さてと、頑張ろっか。」


「うん!」




 夜の帳が下り、冷たい風の吹く住宅街。

 道のど真ん中に、ミレイとキララは堂々と立っていた。


 昨日の傷の影響で、未だ本調子ではないため。フェイトは魔導書の中で待機し、いざという時のために備えている。


 意気揚々と、2人は歩き出した。





「……ねぇ、キララ。」


「なーに?」


「通り魔っていうくらいだから、相手は刃物を持ってるんだよね。」


「そうだろうねぇ。」


「もし目の前に現れたら、どうする?」


「うーん。とりあえず、撃っちゃうかな〜」




 中々に恐ろしい言葉だが、この場においては正論である。


 戦う準備の完了しているキララを見習って。

 自分も武器で固めようと、ミレイは魔導書を開いてみるも。




「……あ。」



 主力である、RYNOも聖女殺しも”破損”しており、今現在修復中であった。




(そっか。昨日、わたしが暴れたから。)




 記憶にはないものの、自分がカードを使ったのだと理解する。


 仕方がないので、別の手段を探ることに。




(相手が普通の奴なら、”蠱惑の魔眼”でどうにかなる。いざという時のために、”フォトンバリア”を腕にセットして、”フェンリル”も呼んでおこう。)




 瞳と左手に、魔法の力を宿し。


 すぐ側に、子犬モードのフェンリルを召喚する。

 本来のサイズでは、大抵の人間がビックリしてしまうため。戦闘時以外は、ずっと子犬モードであった。




「……犬の散歩みたいだ。」




 冒険者としての仕事というよりも、日常的な犬の散歩にしか見えない。



 それでも、しっかりとやる気を出して。

 ミレイたちは住宅街の巡回を始めた。















 鼻が効くのか、定かではないが。

 警察犬のように臭いを嗅ぎ、フェンリルがなにかに反応する。




「わふ!」


「おっ、なんか見つけた?」




 フェンリルが反応したのは、光の届かない真っ暗な路地裏。

 音の1つもない、正真正銘の”闇”である。




「……おぅ。」



 怖すぎて、ミレイはあらゆるやる気が失せてしまう。



 とはいえ、やるしかないため。

 キララにくっつきながら、一緒に路地裏へと入っていく。



 恐怖に震えまくるミレイとは対象的に、キララは何一つとして恐怖を感じていない。

 暗闇等に、恐怖を感じるタイプではなかった。




 静寂と暗闇に、ゆっくりと歩みを進め。






「――こらっ!!」






 突如聞こえた、大きな声に。

 ミレイは心臓が止まりかける。



 気を抜いたら、何かが漏れそうな。

 大惨事一歩手前の状態で、後ろに振り向く。




 するとそこには、白い鎧を身にまとう、”騎士のような女性”が立っていた。


 美しく、長い金髪をなびかせ。

 どことなく、”マキナ”と似たような雰囲気を纏っている。





「子どもが出歩くような時間じゃないぞ。最近、通り魔が出没すると聞いてないのか?」



「あ、いやー。わたしたち、これでも冒険者でして。」


「ちょうど、その通り魔を探してるんです!」




 ミレイたちが事情を説明するものの。

 金髪の女騎士は難色を示す。




「お前たち、歳はいくつだ?」


「15です。」


「……は、20歳です。」




 毎回、思うが。

 なぜ年齢を言うだけで、こうも恥ずかしい思いをしなければならないのか。




「なに、20歳だと?」



 女騎士は、ミレイの顔をじっと見つめる。

 どう見ても、20歳には見えないその顔を。




「……随分と、童顔だな。」



 しかし、彼女は普通に信じた。





「わたしは帝国騎士団、第5部隊隊長の”ヘレン”だ。」



「キララです。」


「ミレイです。」




 互いに、自己紹介を行い。


 2人が本当に冒険者なのかを知るために、ヘレンは彼女たちの登録証を確認する。




「Cランクと、Eランク。確かに本物か。」


「……Cランク?」




 記憶よりも高い、キララの冒険者ランクに。ミレイは戦慄する。


 隠し事がバレてしまい、キララは苦笑いを浮かべた。





「とはいえ、お前たちだけでは心配だな。ここはわたしも同行しよう。」



「えっと、いいんですか?」


「ああ。実を言うと、わたしも通り魔退治のためにここに来ている。相手は、Aランク冒険者をも容易く蹴散らす手練れだからな。人は多いほうが良いだろう。」


「へぇ……」




 話は、順調に進んでいくものの。 

 ミレイには、気になることが1つ。




「……ねぇ、通り魔がそんなに強いって、聞いてた?」


「ううん。サーシャさん、言ってなかったと思う。」




 肝心なことを伝えない。

 それが、帝都の受付嬢クオリティである。




 見た目的に、かなり強そうな、ヘレンという強力な仲間を得て。


 ミレイたちは、共に通り魔を探すことになった。

















 ”カラカラ”と、音が鳴る。



 金属同士のぶつかる、激しい音が響き。

 怒号と、悲鳴が聞こえる。



 武器を持った冒険者達が、次々と地に伏せ。



 その中心では。

 鋭い”刀”を持つ、1人の女が立っていた。









「聞こえたか?」


「は、はい。」




 遠方から聞こえた、戦いの音に。

 ミレイたちも気づく。




「行くぞ。」



 急いで、音のした方へと向かった。








 とある、路地裏へと到着し。

 そこに広がる光景に、ミレイたちは言葉を失う。




「……うそ。」




 数にして、10名ほどだろうか。

 武装した男女の集団、冒険者たちが”血まみれ”で地面に倒れていた。



 至るところに血が飛び散り。

 その凄惨さに、ミレイは思わず口元を覆う。




「死ん、でるの?」




 人が大勢倒れ、周囲は血の海。

 ミレイには衝撃が大きかった。




「……いや、違うな。」



 周囲を警戒しつつ、ヘレンは路地裏へと入っていく。

 それに続いて、キララも行く。




「まだ息がある。それに、傷もそう深くはないだろう。」


「うん。他の人達も、見た目ほど酷くないと思う。」




 大量の血が流れていたが。

 ”奇跡的に”、冒険者たちは無事であった。




「いっぱい斬られてるけど、どれも急所は外れてる。運が良かったのかな?」




 冒険者たちの容態を見ながら、キララがそう呟くも。

 ヘレンは、何かを訝しんでいた。




「まだ近くにいるかも知れん。警戒を怠るなよ。」




 通り魔への警戒をしつつ、ミレイたちは倒れた冒険者たちの治療を行うことに。


 キララは治癒魔法を行使し。

 ミレイは2つ星カード”即効性キズ薬”を召喚し、けが人たちにかけまくった。




 そして、ある程度の治療が終わり、けが人たちをまとめて寝かせたところで。


 まばゆい光と共に、魔導書の中から”フェイト”が具現化する。




「ッ、なんだ、こいつは。」



 唐突に現れたフェイトに、ヘレンは驚く。




「えっと、この子は味方なので、大丈夫です。」


「すっごい強いので、頼りになりますよ。」



「……なるほど。」



 多少は警戒しつつも、ヘレンはその言葉に納得する。





「話は全部聞いてたわ。わたしも、魔力で周囲を探ってみる。」


「うん。あんまり無理はしないでね。」





 少なくとも、この場所に”何か”がいたのは確かである。


 フェイトも加わり、ミレイたちは本格的な探索を行うことに。

 フェンリルも、狼の嗅覚をもって痕跡を探す。




 だが、しかし。

 フェイトの魔力、フェンリルの嗅覚をもってしても、何の痕跡も見当たらず。


 捜索に難航するミレイたちであったが。





 ”カラカラ”、と。

 見知らぬ音が耳に入り。


 ミレイはビックリして振り向くものの。

 他のメンバーは、それに気づかない。



 不自然さに、気づかぬまま。

 ミレイは真っ暗な道の先を見つめ。




 横たわる、1体の”人形”の存在に気づく。




(……あれ。さっきまで、こんなの。)




 暗闇に、見知らぬ人形。


 嫌な予感と、恐怖に慄きつつも。

 ミレイは人形に近づいていき。



 両手で、優しく持ち上げる。




 落ちていた人形は、頭身が低めの子供用の人形であった。

 茶色い髪の毛に、可愛らしいドレス。


 手には、カラカラと音のなる”棒のようなおもちゃ”が握られている。




「……これが鳴ったのか。」



 音の出処がはっきりとし。

 一安心するミレイであったが。





 その場に現れた、”新たな人影”に。

 路地裏の空気は一変する。





「――誰だッ。」




 ヘレンは腰に挿した剣を握り。

 他のメンバーも、”現れた人物”に警戒する。



 人形に気を取られたせいで、反応の遅れたミレイも、そちらに目を向け。





 刀を持つ女性。

 ミレイもよく知っている彼女。


 ”ソルティア”と顔を合わせる。





「あー、えっと。彼女も仲間なんで、大丈夫ですよ?」




 ミレイが弁解するものの。

 ヘレンは警戒を解かない。




「本当に、そうか?」




 ソルティアの持つ刀から、僅かに”血”が垂れる。

 彼女はそのまま、ゆっくりと刀を構え。


 こちらを、睨みつけた。




「……と、通り魔って、まさか。」




 ミレイが最悪のパターンを想像する中。

 その手に抱かれた人形の目が、妖しく輝いていた。






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