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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
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もっと早く教えなさいよ






 大きな桶の中で、大量の衣類が洗われている。

 手作業でも、機械でもなく。キララが指先をくるくると回すことで、桶の中で渦巻きが生じていた。


 その隣では、ミレイが小さな桶を使って下着類を洗っている。

 当然ながら、魔法ではなく手洗いである。



 そんな2人の様子を、フェイトは座りながら見つめていた。





「なるほど、勉強になるわね。」



「フェイトちゃんの世界には、洗濯がなかったの?」


「そうじゃないわ。正確には、”同じ服をもう一度着る”っていう概念がなかったのよ。」



 それゆえに、フェイトは洗濯をしない。




「あー、セレブってやつだね!」


「違う違う、”常識”がないんだよ。」




 同じ異世界、地球という名の世界とはいえ。

 ミレイとフェイトでは、”育った環境”が違った。




「あんたの暮らしてた世界って、戦争も怪物もいない、平和な世界でしょ? こっちはとっくに社会が崩壊して、服とかは店の残骸から”持ち出し放題”だったの。」


「……ちなみにこれって、全部買ってるんだよね?」



 唐突に、ミレイは洗っている下着の出処が気になってしまう。




「あったりまえじゃない! ここにはちゃんとルールもあるし。それに、お金を払って物を買うのって、案外楽しいし。」




 ”終末真っ只中の世界”から、この世界でミレイに召喚されて。

 フェイトは、買い物の楽しさに目覚めていた。




「へぇ〜」



 少女らしい一面を持つのは良いことだが。

 その前に、掃除と洗濯という概念は覚えてほしかった。






「いい? 普通の一般人はね、こうやって洗濯をやるんだよ。」



 ごしごしと、ミレイは手洗いを続ける。




「これを毎日やってるわけ? みんな?」


「まぁ、人によるかな。家によっては、お母さんが家族の分をやったり、子どもが手伝ったり。この女子寮だと、”シャナ”さんがやってくれるかな。」


「うそっ、あの小さいのが?」




 ギルドの2番窓口を担当する、フェアリー族の受付嬢、シャナ。

 彼女は女子寮の寮長でもあり、入居している冒険者のために様々なサービスを行っていた。


 入居者の洗濯物も、そのうちの1つである。




「体は小さくても、魔法は上手だから。みんなの分もちゃちゃっとね。」


「うんうん。お風呂場にあるかごに入れておけば、フェイトちゃんのもやってくれるよ?」




 今日に関しては、フェイトに洗濯というものを教えるために、ミレイとキララがやっているが。

 本当は毎朝、入居者全員分の洗濯物をシャナが1人で洗っていた。




「そんな仕組みがあるなら、教えてくれればよかったのに。」


「……お風呂場の張り紙、読めなかったんだな。」




 なんとも、残念な話である。















「ふぃ。この後どうすんよ。」




 大量の洗濯物を干し終わり。

 ミレイたちは今日の予定について話し合う。




「あんたの要望は?」


「う〜ん。ギルドの受付で、5連勤くらいしたからなぁ。やっぱ遊びたいかも。」


「じゃあ、みんなで遊ぼう!」



 仕事、という選択肢は真っ先に無くなった。




「わたしの脳みそは、多分スイーツを欲してるね。」


「なら、今日は巡ろっか。」



 予定は、スイーツ巡りに決定。




「フェイトは何好き?」


「いや、スイーツどうこうよりも。わたし、まだ朝も食べてないんだけど。」




 フェイトは右腕に包帯を巻いており。

 若干、生活に不自由をしていた。




「ふふっ。なら、わてらが食べさせたるで。」


「たるで〜」


「うっざい。」




 というわけで、ミレイたちは腹ごしらえに行くことに。











 中華なのか、タイ料理なのか、そもそもどこの世界の料理なのか。

 お肉とナッツを炒めた、ピリ辛の料理を食べる。


 とはいえ、食べるのはフェイトだけであり。

 ミレイとキララは、交代でフェイトの口に料理を運んでいた。




「美味しい?」


「そうね。……なんか、太りそう。」




 残念ながら、フェイトの口には合わなかったようで。

 半分程度残して、残りはミレイが食べることに。



 新感覚のナッツ料理を、ぱくぱくと口に運んでいく。

 そんなミレイを見つめながら、フェイトはあることを思い出す。




「そういえば、”クエスト”受けてたの忘れてたわ。」


「クエスト?」


「イーニア経由で、難しそうなやつを回してもらってたのよ。」


「ふぅ。どんなの?」




 フェイトの残り物を食べて、汚れたミレイの口元をキララが拭う。




「夜に出没する、”通り魔”退治。」


「そりゃやばい。」



 予想以上に、危険な仕事である。




「本当なら、昨日の夜に対処する予定だったけど。まぁ、ごちゃごちゃしてたから。」


「あぅ。ほんとにゴメン。」


「別に大丈夫よ。倒した奴に報酬が支払われる、早いもの勝ちみたいな依頼だったから。わたし以外にも、何人か受けてたはずよ。」


「なーるほど。」



 色々な依頼があるものだと、ミレイは感心した。




「その通り魔って、捕まったのかな?」



 キララが疑問を口にする。




「そうね。依頼がどうなったのか気になるから、後でギルドに行こうかしら。」




 そのような話をしつつ。

 ミレイは、フェイトの残り物を平らげた。




「……うっ。」




 そして、少し後悔した。

















「……きもちわるい。」


「大丈夫? ミレイちゃん。」


「だから言ったじゃない。」





 食事を終え、ミレイたちは冒険者ギルドへとやって来る。

 ナッツが体に合わなかったのか、ミレイの顔色は悪かった。





「来たわね、暴れん坊。」



 空いている1番窓口にいくと、担当のサーシャに歓迎される。




「ちゃんと身長も戻るのね。ほんと面白いわ、貴女の体。」


「へへっ。」


「なに照れてんのよ。」



 ミレイの能天気さに、フェイトは呆れる。





「それで、今日は何の用?」



 サーシャはタバコ状の鎮痛剤を吸い、その煙をミレイに吐きかけた。




「めっちゃスースーする。」


「……なるほどね。」




 ミレイは単純な感想しか抱かなかったが。

 毒物、薬物の調合趣味を持つキララは、謎のしたり顔をしていた。




「ちょっと、こいつらがこれ以上バカになったらどうすんのよ。」


「ふふっ。」




 バカになるという部分は否定せず。

 サーシャは笑ってごまかした。






「受付のみんなは、怪我とか無いですか?」


「平気よ、みんなピンピンしてる。」



 昨日の騒ぎがまるで嘘のように、ギルドは平常運転である。




「行きつけのバーが吹っ飛んだけど、それも魔法で直したし。」



 つまり、実害は皆無。




「それに、貴女には”感謝”もあるの。」


「……感謝?」


「ええ。昨日のバカでかい魔力に当てられて、かなりの冒険者がビビったらしくてね。例の大会、”参加者激減中”よ。」


「え。」



 まさかの内容に、ミレイは固まる。




「こっち側としては、”参加者が減れば仕事も減るから”、ありがたい話だわ。」




 というよりも、ひどい話である。















「通り魔事件?」


「そうよ。あの大きめの依頼、もう誰かが終わらせたのかしら。」




 挨拶も終わり、ミレイたちはサーシャに本題を尋ねる。

 

 キララだけは、鎮痛剤の入った箱に夢中になっていた。




「……そう、ね。まだ依頼は完了してないわね。」


「ふーん。」




 未だに、通り魔事件は解決していない。

 その話を聞き。




「こうなったら、わたし達で解決するしかないな。」



 ミレイは決意を固めていた。




「何よ、急にやる気出して。」


「うん。」



 単なる思いつきではない。

 ミレイにはそれを決めるだけの理由があった。




「だって本当なら。昨日、”絶対”にフェイトが解決したはずだから。」


「……あっそ。」




 そう、真っ直ぐに言われてしまい。

 フェイトはバカにする気持ちが失せてしまう。





「あんた、1人でやるわけ?」


「……キララ。」




 名前を呼ばれて、キララはニッコリと笑う。




「夜に備えて、今から昼寝をするぞ。」


「おー!」





 気合十分。


 通り魔事件を解決するため、ミレイとキララは昼寝を決意した。





「……不安過ぎる。」



 2人が調子に乗ると、なぜここまでIQが下がるのか。

 フェイトには、不思議でたまらなかった。















「はいはい、頑張って〜」




 ミレイたちを送り出し。

 再び、暇になった1番窓口にて。


 サーシャは魔水晶を操作し、例の通り魔事件の資料を見る。






『異音の通り魔』



 夜な夜な住宅街に出没し、”カラカラ”とした音を響かせる謎の通り魔。

 目撃情報は少ないが、”人間ではない”との話もあり。






 集められた情報を、暇潰し感覚で眺めるサーシャであったが。



「あ。」



 最新の情報を見て、思わず声が漏れる。






――昨夜、Aランク冒険者のボルテックスとイライザが対処に当たるも、共に返り討ちにあってしまう。


――そのため、本クエストの推奨ランクを、”Sランク”に引き上げた。






「……まぁ、いっか。」




 ミレイたちに伝えるべきか、どうするべきか。

 サーシャは悩んだ末に、面倒くささが勝った。






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