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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
84/153

洗濯って知ってる?






 超越者たちの衝突から一夜が明け。帝都ヨシュアはいつも通りの一日を迎える。


 帝都から南に行った地点には、巨大なクレーターが出来ており。

 昨日の戦いの大きさを物語っていた。



 街を覆っていた防壁は再び地面の中へと収納され。

 しかしながら、そのうちの一部分は、未だに展開されたまま。


 防壁の上では、タマにゃんが鼻歌交じりに作業を行っていた。




「にゃにゃにゃにゃ〜ん。」




 防壁はかなりの高さであり、タマにゃんは完全に1人モードで作業をしている。


 するとそこに、1人の訪問者が。




「精が出るな。」


「にゃにゃん! これはこれは、”陛下”にゃん。なにか用にゃん?」




 訪問者の正体は、フットワークの軽いこの国の最高権力者、皇帝セラフィム。

 タマにゃんとは知り合いなのか、普通に会話をし始める。




「昨日、防壁が起動するのを見た。街を一瞬で覆い、素晴らしい出来映えだった。」


「にゃは〜ん。照れるにゃん。」




 タマにゃんは照れくさそうに頭をかき。

 ”付け耳”が若干ずれるも、すぐに元に戻す。




「それで、防衛機能の開発はどうなっている?」


「まだまだにゃん。完成度は30%、防壁内部に搭載予定の兵器も、試作機がやっと出来た程度にゃん。」


「”例の兵器”か。」


「ちょっと、見てみるにゃん?」




 都市防衛のために、タマにゃんが開発している”兵器”。

 それを見るために、セラフィムは彼女の研究室へと向かうことにした。











「……これが、そうなのか。」




 そこにあったものを、セラフィムは感心した様子で見つめる。


 明らかにこの世界の技術ではない、”人型の機械人形”。

 ピカピカの”黄色の塗料”でカラーリングされ、右腕だけが存在しない。


 そんなロボット。

 体育座りをした、”ブラスターボーイ”と見つめ合う。




「やあ、人間さん。」


「おお。言葉を話すとは。」




 ブラスターボーイとの邂逅に、感動するセラフィムであったが。




「にゃん! そっちは単なるお隣さんにゃん。ミーの研究室はこっちにゃん。」




 全くの見当違いであり。

 隣の建屋にある、タマにゃんの研究室へと向かう。









「ほぅ、これか。」




 そこにあったのは、1体の”蜘蛛”だった。


 鋼鉄のボディを持ち、手足は刃物のように鋭い。

 大きさは先程のブラスターボーイと同等程度か。


 しかし、あくまでも人間型、生命体としての色を持つ彼とは違い。

 その蜘蛛は、”完全なる兵器”であった。




「自律型魔導兵器、”スキュラ”にゃん。」



 開発者であるタマにゃんが、蜘蛛型ロボットを紹介する。




「動くのか?」


「にゃー。実はまだ、動力源が出来てないから起動は無理にゃん。」




 まだ、動くことは無いものの。

 スキュラはすでに大部分が出来上がっていた。




「強さは?」


「もしも、100%のパーフォマンスが発揮できるなら、”Sランク冒険者”とも渡り合えるにゃん。」


「それほどか。」




 感心した様子で、セラフィムはスキュラの足に触れる。




「確かに、これが”4つ星の能力”と言われれば、納得はできるか。」




 とても鋭く、美しく。

 恐ろしい力を秘めた、最強の魔導兵器であった。 




「量産は可能だな?」


「にゃん。要望通り、”50機”ほど造る予定にゃん」


「ああ、それで頼む。」




 自律型魔導兵器、スキュラ。

 もしも完成すれば、Sランク冒険者にも匹敵するという兵器を、50機も量産する。


 セラフィムは、本気でそれを求めていた。




「……にゃん。」




 これを50機も製造しては、世界のパワーバランスが崩壊してしまう。



 たとえ、世界を守るためとはいえ。

 ”こんなもの”が、本当に必要なのか。



 タマにゃんには分からなかった。










◆◇










 驚くほど、軽やかに。

 ミレイは目を覚ます。


 ベッドの上に寝たまま、目をぱっちりと開き。自らの覚醒を自覚する。

 それがどれほど久しぶりか、ミレイには分からない。


 ゆっくりと、ベッドから起き上がると。

 隣の部屋で朝食を作る、キララと顔を合わせた。




「わっ、ミレイちゃんが起きてる。」


「んー、おはよう。」




 何気ない朝の挨拶だが、キララは少し驚いた様子。


 しかし、ミレイは気にした素振りもなく。

 指を咥えたまま、料理をするキララを見つめる。




「あっ、そうだ。朝ごはん食べ終わったら、お風呂に行こうよ。」


「へ?」




 一瞬、言葉の意味が理解できず、ミレイは固まる。




「く、臭い?」


「ううん! ミレイちゃんは臭くないよ!」




 キララの否定は早かった。




「そう?」


「うん。なんだったら、2~3日は全然オッケーだと思う。」


「いや、オッケーじゃないと思う。」




 よく分からない会話をする2人であったが。


 キララの口から、ミレイが昨日お酒を飲んで暴走したこと、それをフェイトとマキナが止めたこと。

 戦いが終わった後、そのままミレイは眠ってしまい、お風呂に入っていないことを説明される。




「お風呂終わったら、フェイトちゃんの部屋に行ったほうが良いよ?」


「おぅ。」




 起きて早々、ミレイは絶望した。















 寮の大浴場にて、ミレイは朝風呂を満喫する。

 ”当然のように、キララも一緒である”。




「昨日、入ってなかったの?」


「え? 入ったけど……」




 首を傾げるキララを見て。

 自分がおかしいのだろうかと、ミレイは混乱する。






「「ふぃ〜」」





 とはいえ、やはり朝風呂にはいつもと違う良さがあり。

 2人は心地良くまったりする。



 そんな中、ミレイは何となく黒のカードを起動した。


 久々のお風呂召喚。

 面白いおもちゃでも出てこないかと、期待してみるものの。





 1つ星 『クロゴキブリ』


 家の中で見かけるタイプのゴキブリ。1匹いたら、100匹はいる。





「ひぃ。」




 あまりの恐怖に、ミレイは召喚したカードを湯船に落とした。


 おそらく、もう2度と見ることはないであろう。















「ふぅ。」




 朝風呂に入った後。

 ミレイは1人で、寮にあるフェイトの部屋の前にやって来る。


 キララから聞いた、昨日の戦いの話を思い出しながら。

 恐る恐る、ドアをノックする。




「……あの、清掃業者の者ですけど。」




 それで、態度が軟化するとでも思ったのか。

 清掃業者を名乗るミレイであったが。




「――っ、ちょ、ちょっと待ってなさい!」




 不思議と、部屋の主は慌てていた。











「おぅ。」




 フェイトに招き入れられ、部屋に一歩踏み込んだ瞬間。


 ミレイは言葉を失った。




「なっ、何よ。」




 部屋のど真ん中では、腕に包帯を巻いたフェイトが顔を赤らめている。

 それはそれで、中々に衝撃的だが。



 それ以上に、”汚い部屋”に目を奪われる。



 流石に、入居して5日程度。カミーラのゴミ屋敷ほどではないものの。

 大量のゴミが床に散乱し、どこから持ってきたのか分厚い本が、無造作に積み上げられていた。




「汚いなら汚いって、そう言えばいいじゃない。」


「いや、まぁ。もっと酷いのも知ってるし。」




 僅か数日でこれなら、大したものだが。ゴミ屋敷に比べれば可愛いものである。


 ちゃちゃっと掃除をしようと、意気込むミレイであったが。





 頭の上に、”真っ白なパンツ”が落ちてくる。





「……なんで?」




 フェイトの物と思われる、その下着を握りしめながら。


 ミレイは、ゆっくりと顔を上げ。




「嘘、だろ。」




 天井には、”もう一つの汚部屋”があった。


 魔法で維持されているのか。

 重力に逆らって、大量のゴミや衣類が天井に張り付いている。



 部屋の汚さを半分に見せ、”見栄を張るために”。

 フェイトは、魔法で隠蔽工作を行っていた。




「ちっちゃいから、気づかないと思ったのに。」


「流石におこだよ。」




 そんなこんなで、フェイトの部屋の掃除を行うことになった。









 右腕に包帯を巻いたフェイトは、ベッドに座ったまま。


 ミレイは鼻歌交じりにゴミを片付けていくも、流石に量に圧倒される。




「ねぇ、”ゴミ捨て場”って知ってる?」


「ええ。ゴミがいっぱい置いてある場所でしょ。」



 フェイトは本気でそう思っている。




「ゴミはかごに入れてさ。いっぱいになったら、ゴミ捨て場に持っていこうよ。」


「それって、わたしがやるの?」



 それも、もちろん本気である。




「フェイトさんや。明らかに、数日で着る量の服じゃないんだけど、どういうこと?」


「試着して、気に入らなかった服よ。」


「……買ってから試着してるの?」




 フェイトの生態に、ミレイは驚きが止まらない。




「洗濯って、普段はどうやってやってるの?」


「センタク?」




 残念ながら、フェイトの辞書には無い言葉であった。





 かわいい年下の世話をする。

 考えようによっては、微笑ましい作業ではあるが。


 フェイトに対しては、なにか根本的な教育が必要なのかも知れない。



 そんな様々な発見もありつつ。

 ミレイは順調にフェイトの部屋を片付けていく。



 そして、積み上げられた大量の本に着手し始め。





「これって、絵本?」



 まさかの大量の絵本に手が止まる。




「フェイト、こういうの好きなの?」


「好きじゃないわ。勉強のために借りてるだけ。」


「へぇ。」




 借りているのなら、もっとしっかりと管理するべきである。




「こんなので勉強になるの?」


「まぁ、初歩的な部分には丁度いいわ。いきなり難しい文章じゃ、単語も覚えられないし。」


「それな。」




 何となく、ミレイは分かった感じで返事をするものの。

 彼女たちの間には、根本的な勘違いがあった。




「そういえばあんた、ギルドに貼ってあった注意書きも読めてたわね。じゃあ、依頼票とかも読めるの?」


「依頼票? いや、まぁ。依頼票は別に、最初っから読めてたけど。」


「最初っからってどういう意味よ。あんただって、この世界の文字は初めてだったでしょ?」


「……え。」




 そして、ミレイは思い出す。


 この世界に来たばかりの時、花の都のギルドで初めて依頼票を見て。

 知らない文字だと思いつつも、何故か最初から読めていたことを。


 ”読めるなら良いや”と、完全にほったらかしにしていた。




「もしかしてわたし、”文字の天才”なんじゃ。」


「なわけないでしょ。」




 何故か、この世界の文字が読める。

 その理由も、ミレイの記憶にはなかった。















「ちょっと、言い忘れてたんだけど。」




 ある程度、部屋の片付けも終わり。

 ミレイは改まって、フェイトに向かい合う。




「その腕、ごめんね。」




 昨日の戦い、ミレイの暴走がもたらしたフェイトの傷。

 それに対して謝罪をする。




「別に、気にしなくていいわ。そもそも、あんたが暴走したのだって、わたし達が”乗せすぎたせい”だし。」




 多少強くなった程度、何の問題もない。

 そう慢心した結果、フェイトは手痛い火傷をした。




「それに、わたしなんて軽いほうよ。マキナなんて、”腹に聖女殺し”がぶっ刺さってたわ。」


「えぇ……」




 どう謝れば良いのか。

 そもそも、どこに行けば謝れるのか。


 ミレイは悩んだ。






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