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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
83/153

ほんとのちから

感想等、ありがとうございます。






『市民の皆様へお知らせします。現在、緊急事態発生のため、都市防衛機能が発動しました。”非常に大規模な戦闘”が予想されるため、市民の皆様は該当地域からの避難、及び屋内での待機をお願いします。』





 帝都全域で警報が鳴り響き。防衛機能の1つなのか、帝都を覆うような形で”分厚い金属製の壁”が出現する。

 魔法というよりかは、機械的にも見えるその防壁。他国だけでなく、”異世界の技術”をも取り入れて開発された最強の防壁であった。


 この防壁の存在により、帝都は外部からの脅威には非常に高い防御力を持つ。

 しかし、”今回発生した脅威”に関しては、防壁程度でどうにかなるような問題ではなかった。





『事態への対処は”マキナ”によって行われているため、他の冒険者の方々は決して手を出さないようにしてください。また、陛下の安全確保のため、騎士団の方々は宮殿へ集結してください。』





 波乱の夜の幕開け。

 帝都全域がパニックに包まれる中。


 崩れかけのバーで、フェイトとマキナという世界最強クラスの2人が、”恐怖の体現者”と対峙する。



 ミレイの体からは、怒りに満ちた”どす黒い魔力”が溢れ出す。

 それと、真っ向から立ち向かえる存在は、世界広しと言えど彼女たちくらいなもの。




「フェイトさん。出来れば戦場を、街の外へ移したいのですが。」


「分かってるわよ、それくらい。」




 この場で戦闘を始めれば、確実に膨大な数の死人が出る。


 知らない人間がどれだけ死のうが、フェイトにはどうでもいい。

 だが、もしもミレイが元の姿に戻って、”自分の起こした惨劇”を知ってしまったら。


 そんな未来だけは、絶対に避けなければならない。




 ミレイを街の外に連れ出すため、





「――この”ちび女”!! 悔しかったら、かかってきなさい!」





 フェイトは挑発を行うと。

 翼をはためかせ、超スピードでその場から離脱する。



 マキナは、一瞬唖然としていたが。

 すぐさま光を纏い、フェイトに追従した。





 夜空の下を、フェイトとマキナが飛翔する。





「フェイトさん、もっと挑発に相応しい言葉があったのでは?」


「うっさい! そんくらいしか思い浮かばなかったのよ!」




 ちび女。敵を誘い出すための言葉としては、あまりにも幼稚なワードであったが。


 ”沸点の低い彼女”には、それだけで十分だったのか。




「貴様ら、全身を引き裂いてやるッ!!」




 機械の翼を展開したミレイが、鬼のような形相で追いかけてくる。


 とりあえず、誘導には成功した。





「……なるほど。」



 追いかけてくるミレイに、マキナはなんとも言えない表情をする。




「服装と髪の色からして、まさかとは思いますが。あれは、ミレイさんですか?」


「そうよ。酒を飲んだら強くなるとか、暴走するとか言ってて。まぁどうせ、大したことないんでしょって、思ってたんだけど。」




 フェイトは、先程までの慢心をひどく後悔する。




「とんだ”化け物”だわ。」


「ですね。」




 まさか、夢にも思わない出来事である。

 小さくて、人畜無害にしか見えないミレイが、酒1つでこうも変わってしまうとは。


 何かが、おかしかった。

 世界の理に触れるような、致命的な”バグ”のように。




「とりあえず、あいつは翼が無いと飛べないから、優先して――」




「――ごちゃごちゃと、やかましいッ!!」




 2人を追いかけるミレイが、その手に”聖女殺し”を展開し。


 巨大な漆黒の斬撃を放つ。




「ここはわたしが。」




 ”光の剣”を生み出し。

 マキナが漆黒の斬撃を迎え撃つものの。




「ぐっ。」



 今のミレイが放つ一撃は、込められた力が尋常ではなく。


 マキナは斬撃を受け止めきれず。

 凄まじい勢いで、地面の方向へと吹き飛ばされる。





 落下地点には川があり。

 マキナの墜落と共に、激しく水しぶきが舞った。





 そして、ミレイの攻撃はそれだけに留まらず。


 落下地点の上空で停止し、その右腕に真っ赤なガントレット、”RYNO”を展開。

 下に向かって、砲撃を放つ体勢で魔力をチャージし始める。





「させるかっての!」



 当然ながら、フェイトはそれを黙って見ているわけもなく。


 RYNOに対抗するべく、右手に冷気を凝縮。



 急接近して殴りかかり。

 それに対してミレイも、炎の砲撃を解き放つ。





 RYNOの火炎と、フェイトの冷気がぶつかり合う。

 双方ともに、尋常ならざる力が込められていたが。





「チッ。」



 やはり、4つ星のRYNOと、5つ星のフェイトでは根本的な能力差があり。

 攻撃がぶつかり合う中、徐々にミレイのガントレットが凍りついてく。



 そのまま、押し切れるかと思われたが。



 ミレイの怒りに呼応する、いや、引っ張られるように。

 ガントレットが、その形状を変化させていき。



 ”真っ赤な装甲”が、ミレイの肩付近まで覆っていく。


 すると、放出される火炎の勢いが更に上昇し。




『ガアアアアアァァァッッ!!』



 RYNOの悲鳴が上がる中。




 火炎と冷気。

 拮抗する両者の力が、互いを打ち消し合った。





「嘘でしょ。」




 まさか、力が拮抗するとは思わず。

 驚きつつも、フェイトはミレイとの距離を取る。



 そのまま、睨み合う両者であったが。





「――腕の一本、我慢してください。」





 目にも留まらぬ速さで、光り輝くマキナがミレイの背後を取り。

 聖女殺しを持つ左腕に、光の斬撃を叩きつける。



 命さえ無事なら、いくらでも治療はできる。

 それを前提にした、覚悟の一撃であったが。



 光の斬撃がミレイの肌に触れた瞬間。

 剣を構築していた”光の魔力”が、ものの見事に散ってしまう。




「なっ。」


「忘れたのか? ”こいつ”を。」




 ミレイの体から、無数の”真っ白な触手”が伸び。

 拘束するように、マキナの体に巻き付く。




「ぐっ。」




 フェイトとマキナ。彼女たちの意識からは、その存在が完全に抜け落ちていたが。

 ミレイと一つになっているサフラは、あの”緑の巨獣”とも融合していた過去があり。


 ”光と冷気への耐性”をも、そのまま受け継いでいた。




「ふっ、そのまま首を落としてやる。」




 右腕のRYNOでフェイトを牽制したまま、ミレイは聖女殺しを構えると。


 マキナの首をはねるため、漆黒の斬撃を生み出し。





 その腕が、止められる。

 他でもない、”白い触手”によって。





「なに?」




 マキナを拘束していた触手が解け。

 その代わりに、ミレイの体に巻き付いていく。


 彼女の暴走を止めるために。


 その気になれば、サフラは巨大な化け物をも制御可能である。

 しかし今のミレイは、それよりも遥かに強く。




「どいつもこいつも、わたしの邪魔をするな!!」




 自分の体からサフラを無理矢理に引き剥がし。

 無造作に放り投げる。




「ったく。」



 落下していく触手の塊を、フェイトが受け止めた。




「アンタ、ほっといたら死んじゃうんでしょ? 今だけ特別、わたしにくっついてなさい。」




 サフラがフェイトの腕に絡みつく。




『すまない、止めようとはしたが。』


「ええ。ほんっと、とんだじゃじゃ馬だわ。」





 滞空状態で、ミレイの動きを見つつ。

 そこにマキナも合流する。





「これは、一筋縄では行きませんね。」


「ええ、どういう理屈か知らないけど。カードの能力も、あいつが普段使ってるときより強化されてる。少なくとも、あのガントレットをどうにかしないと。」




 ミレイの肩まで覆うほど、形状変化をしたRYNOのガントレット。


 その威力は、平常時よりも数段上がっており。

 明らかに、4つ星の域を超えていた。




「なるほど。ではやはり、腕の一本、我慢してもらうしかないですね。」




 マキナは能力を起動し。

 体から、光の魔力が溢れ出す。



 フェイトの相性が悪いのなら、などという理由ではなく。

 ”最強の冒険者”として、自分自身の手で問題を解決するために。





「アンタの能力って、”光を操る力”、でいいのよね?」



「いいえ、正確に言えば。4つ星カード、聖剣IV(イヴ)=ミューラーの、……”残骸”です。」





 自分の中に残る、聖剣の力を呼び覚まし。


 ”その体は剣のように硬く、光を放つ特性を得た”。





「アンタまさか、自分のアビリティカードと?」


「はい。これが、”最も愚かな冒険者”の末路です。」




 マキナは、人間でありながら、同時に剣でもある。

 敬愛する皇帝セラフィムと、帝国を守るための”武器”。


 ゆえにこそ、これほどまでの力を手に入れた。




「彼女を止めましょう。」




 その身を光に変えながら。

 ミレイを止めるべく、マキナは”加速”する。

















「隊長、陛下の姿が見えません!」


「またかっ!」




 ハートレイ宮殿にて、騎士たちが混乱する中。




 出現した防壁の上では。


 飛行可能なキララと、彼女に連れられたイーニアが、遥か遠方の戦いを見つめていた。





「……何よ、あれ。」



 目に映る風景に、イーニアは言葉を失う。




 炎と氷。


 巨大な力は形を変え、2体の竜となり、激しい衝突を繰り返す。

 人の身では抗えない、天災のように。


 そんな、巨大な力の渦の中を。

 確かな輝きを放つ、1つの”流星”が駆け巡る。


 力の大きさでは敵わなくとも、より速く、より鋭く。

 2つの巨大な力に食らいついていく。




 ”炎と氷と、一筋の光”。




 その光景は、とても恐ろしくもあり。

 同時に、美しかった。





「――まったく、驚きだな。」




 突如、すぐ近くから聞こえた声に、キララとイーニアは驚くと。


 そこには、映像でもよく見た白髪の美女、”皇帝セラフィム”が立っていた。


 目の付近には魔法陣が展開されており、遠方の戦いをより詳細に見つめている。




「陛下!? お、お久しぶりです!」




 腐っても、相手は国のトップ。

 イーニアはささっと姿勢を正すも。




「ん?」



 初対面であるキララは、不思議そうに首を傾げる。




「そうかしこまる必要はない。気軽に、”セラフィム・アルバ・ボルケーノ皇帝陛下”と呼ぶがいい。」


「……あ、はい。」



 よく分からない冗談に、イーニアも緊張が解けた。




「それにしても、久しぶりだなイーニア。そっちの少女は、”初めまして”か。」


「えっと、わたしは……」




 田舎暮らしのキララには、本当に縁のなかった、皇帝陛下との遭遇。


 失礼にならないよう、自己紹介をしようとするも。

 やはりキララには、何かが引っかかり。





「……もしかして、”師匠”?」




 自分の直感に従って、セラフィムにそう呼びかける。


 イーニアからしてみれば、またいつもの天然かと、呆れ果てるも。



 セラフィムは、驚きに目を見開いていた。




「ふっ。相変わらず、異常なほどに勘が良いな、キララ。」


「あー、やっぱり!」




 見た目も雰囲気も立場も、何もかも違うものの。


 自分たちに魔法を教えてくれた師匠、”パーシヴァル”との再開に、キララは喜びをあらわにした。









「”異世界からの脅威”。それに対抗するための戦士を育てるために、武道大会の開催を決めたが。まさか身近に、あれ程の存在がいたとはな。」




 皇帝セラフィムと共に、キララとイーニアは超越者たちの戦いを見つめる。




「わたしの知る限り、最強は間違いなくマキナだったが。あの2つの存在の前では、奴ですら霞んで見える。」



 セラフィムとイーニアに関しては、とても真剣な眼差しで見つめていたが。





「師匠! お婆ちゃんの姿が本当なんですか? それとも、今の姿が本当ですか?」


「……あの変身は、かつての”わたしの師”を模したものだ。ゆえに、今の姿が本当だ。」




 久方ぶりの師匠との再会に、キララはテンションが上っていた。




「すっごく綺麗で若いけど、それも魔法の力なんですか?」


「強い魔力の持ち主は、老化が遅いだけだ。」




 戦闘をそっちのけで、セラフィムに質問攻めをする。




「すっごく偉い人なのに、どうしてあちこち旅してたんですか?」


「……おい。」




 あまりの質問攻めに、流石の皇帝陛下も呆れ果てる。




「キララ。貴様はあれが恐ろしくはないのか?」





 まるで、”これまでの常識を破壊するかのように”。

 最強の冒険者をも凌駕する、異世界からの来訪者たち。


 もしも、あれが真に”敵”だったとしたら。

 全てのSランクを集めた所で、果たして対処が可能なのか。


 セラフィムも、イーニアも。

 それを真剣に考えながら見つめていた。




 しかしそれは、守護者としての責務。

 未だ、世間知らずのキララには分からない。





「……確かに、すっごく強いけど。あれはミレイちゃんだから。」




 その瞳には、他人とは違うものが見えている。




「ちゃんと、”そこに居るから”。大丈夫です。」




 初めから何一つ、キララは心配せずに。

 事の顛末を見つめていた

















 巨大な力の渦の中心で、炎を放ち続けるミレイであったが。


 視界の中で、縦横無尽に飛び回る”閃光”に、度々妨害を受け。

 苛立ちを募らせる。




「ちょろちょろと、鬱陶しいッ!」




 閃光を撃ち落とすべく、聖女殺しを振り回し。

 大量に放たれた漆黒の斬撃が、閃光を、マキナを追尾する。



 マキナは斬撃の雨に晒されながらも。

 それでも必死に、ただ一点を見つめ続け。



 一瞬の隙間を縫って、ミレイの右腕、ガントレットに攻撃を届かせる。




「貴様ッ。」


「わたしにも、プライドがありますのでッ。」




 カウンターとして振るわれた、”聖女殺しの刃を身体に受けながらも”。

 剣と化したマキナの腕が、ガントレットに深々と突き刺さり。



 完全に、その能力を打ち砕く。




「くっ、役立たずめ。」


「ふっ。」




 砕けたRYNOに向かって、悪態をつくミレイを見つめながら。

 深いダメージを負ったマキナは、そのまま地面へと落下してく。



 けれども、その表情は柔らかかった。



 炎が消えたことで、”ようやく本領を発揮できる味方”が、視界の端に見えたがゆえに。





「――さっ、終わらせるわよ!」





 荒れ狂う炎の嵐が消失し、自身を阻むものがなくなり。

 フェイトはその手に、持ち得る全ての力を集中させる。




 冷気という単純な力、単純な概念。

 彼女の魂に刻まれた、たった1つの”理想”を凝縮させ。



 力強く握られた、”右の拳”に纏わせる。





「死なない程度に、ぶっ飛ばす!」





 終わりの一撃を放つため。

 フェイトは翼をはためかせ、ミレイの元へと飛翔する。



 それを、睨みつけながらも、ミレイには対抗する手段がなかった。


 RYNOは砕かれ、聖女殺しも刃が欠けている。




「チッ。」




 それでも、ミレイの往生際は悪く。


 とっさの判断で、その手に”黒のカード”を出現させる。

 より強い運命を引き当てるために。





「来い、”全てを破壊する力”を、このわたしに。」





 真っ黒な怒りと念を、カードに込めると。



 ”その願望を拒絶するような”、甲高い音がカードから鳴り響き。



 同時に発生した光の輪から、新たなるアビリティカードが出現する。


 ミレイはそれを、迷わず具現化し。




「なっ!?」




 ”現れたモノ”に、言葉を失う。






 1つ星 『ふわふわボーン』


 骨の形をした犬用のおもちゃ。ぬいぐるみのような柔らかい素材で、飼い主も安心。






 ミレイの手に握られたのは、白くてふわふわとした犬のおもちゃ。

 どうひっくり返っても、武器になるような代物ではない。




「……この、クズがッ。」




 手に入った能力と、それを生み出した黒のカードに、ミレイは悪態をつく。




 ”全てを破壊する力”。


 どれだけ強く願ったとしても、黒のカードは決して”その願い”を叶えはしない。



 60日前、ミレイの手によって初めて起動した時から。

 このカードの”在り方”は、すでに決まっていた。





「クズなんかじゃない。」



 翼を広げ、フェイトが迫る。






「――アンタのそれは、”守るための力”でしょうがッ!!」






「ぐっ。」



 フェイトの言葉を受け。

 今のミレイを構築していた、”何か”がひび割れた。




 揺らぐ、赤い瞳のまま。


 強烈な一撃を、ミレイはその身に浴びる。








 誰も死なず、誰も悲しまず。


 彼女の暴走は、そうして幕を閉じた。






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