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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
82/153

そんなに見つめないで






「ねぇ、わたし達これから飲みに行くんだけど、2人もどう?」




 最終日の仕事も終わり、ミレイとイーニアが人の居ないギルドでまったりとしていると。サーシャたち、他の受付嬢に飲みに誘われる。

 数日間、一緒に仕事をし、普通に仲良くなったため。素直に嬉しいお誘いであったが。

 ミレイには1つ、気になることがあった。




「……わたしも、お酒飲んでいいのかな?」




 今までミレイは、お酒を飲んでみたいと思いつつも、イリスやカーミラによって阻まれてきた。

 そして今、この街に彼女たちは居ない。


 ミレイはとにかく、お酒を飲んでみたかった。




「そういえば、20歳だったわね、貴女。……見た目的には、アレだけど。飲んでもいいんじゃない?」


「いやぁ、その。」




 ミレイが気にしているのは、そんな当たり前の事ではなく。




「あぁ、”例の問題”ね。」




 それを思い出したイーニアは、ミレイのお酒事情をみんなに説明する。




 その1、ミレイはお酒を飲んだら大きくなるらしい。

 その2、大きくなったミレイは、普段の彼女とは比較にならないほど強くなる。

 その3、おまけに性格が豹変し、悪魔のように凶悪になるらしい。




 以上の内容を、他の面々に伝えるものの。

 彼女たちにはどうしても信じられない様子。




「強くなるって、どの程度なの?」


「そうね。聞いた話が確かなら、”イリス”を一方的にボコボコにしたらしいわ。」




「「「イリス!?」」」




 その具体的な名前に、受付嬢たちは驚きをあらわにする。




「イリスって、あのSランクの?」


「めちゃくちゃ強い人ですよね。」


「あの能力も態度も身体もデカい人を?」


「ちょっと、信じられないわね。」


「そうそう。逆なら全然あり得そうだけど。」




 とはいえ、普段のミレイを散々見てきた彼女たちには、到底信じられることではなかった。




「まぁ確かに、初めて会った日に、デコピンで気絶させられたけど。」




 ミレイは苦い記憶を思い出す。




「それで貴女は、お酒が飲めないってこと?」


「うん。でもせっかく20歳になったんだから、やっぱり飲んでみたくて。」




 正確には、何度か飲んだことがあるのだが。ミレイには記憶がなかった。


 お酒を飲んでみたいというミレイの主張と、イーニアから聞かされた、”例の暴走”のこと。それらを加味して、サーシャたち受付嬢は今日の飲み会について考える。




「どうする?」


「彼女がSランクをボコボコにって、正直信じられないんだけど。」




 やはり気になるのは、例の暴走の信憑性について。

 普段のミレイは、”触手の生えたちっこい奴”という印象であり。たとえお酒を飲んで性格が豹変したとしても、大した問題になるは思えない。




「イーニア。友達の貴女から見て、その話は本当だと思う?」


「そうね。……確かに、普段のこいつから考えて、そんな事はありえないと思うけど。」




 ミレイという人間と出会って、今まで側で過ごしてきて。総合的な観点で、イーニアは判断する。




「”ポテンシャル的”には、可能性があると思う。」


「……マジ?」




 普段のミレイを見ていれば、確かに人畜無害な普通の人間である。

 しかし、フェイトを筆頭に。明らかに”人の手に余る能力”を、その身に宿しているのも事実であった。

















 夜、お洒落なバーの店先にて。




「それで、わたし達が呼ばれたわけね。」


「ふふっ。」


「ええ。」




 ミレイとイーニアだけでなく、フェイト、キララ、ソルティアといういつものメンバーが集まっていた。




「いや〜、飲みに誘われちゃったからさぁ。」




 全ては、ミレイの暴走を抑制するため。

 もし仮に、本当にミレイが豹変したとしても。これだけのメンバーが揃っていれば、大した問題にはならないであろう。という理由で集められた。




「実際に見たことあるのは、キララとソルティアよね? どうかしら。この面子なら、ミレイを止められそう?」


「……とめる?」


「どう、でしょう。フェイトさんもいるので、大丈夫だとは思いますが。」




 キララもソルティアも、その問いには回答を濁らせる。

 実際のところ、その問題を左右するのは2人ではなく、一番強い”フェイト”なのだから。




「……その暴走したミレイが、”ブラックヘッド”を倒したのよね?」


「はい。間違いないです。ついでに、アマルガムも真っ二つにしてました。」


「そう。」




 ソルティアの証言を加味して、フェイトは考える。




(昔のわたしでも、ブラックヘッドを倒せるだけの実力はあったはず。それに、今は当時よりもずっと強い。)





「――安心しなさい。このわたしがいる限り、絶対に問題は起こらないわ!」





 フェイトは力強く宣言し。

 一行は、バーの中へと入っていった。















 客の少ない、ほぼ貸切状態のバーで。受付嬢たちと、年齢的に問題のないソルティアはお酒を飲み。他のメンバーは食事のみを楽しむ。

 受付嬢も冒険者も、双方共に癖の強い連中の集まりであり。こいつらは、”遠慮する必要のない連中なんだ”、という認識になると。またたく間に打ち解けていった。



 そして、ある程度食事も進んだ所で。

 本日の”メインイベント”が始まる。



 バーの一角、小さなステージのような場所に、グラスを持ったミレイが立つ。

 他のメンバーはそれを面白そうに見つめており、ミレイは若干顔が引きつっていた。




「ほらほら、さっさと飲みなさいよ!」


「う、うっさい。見世物じゃないぞ。」




 フェイトからのヤジに、ミレイは一層緊張してしまう。




「ミレイちゃん、頑張って〜」


「この店なら、最悪吐いても大丈夫だから!」




 店のマスターからしたら、たまったものではない。




「……うぅ。わたしは純粋に、お酒を飲んでみたいだけなのに。」




 みんなの視線を浴びながら、ミレイはゆっくりとグラスを口に近づけていく。

 キララも、フェイトも。受付のメンバー達も。お気楽にそれを見つめていたが。


 その中で、イーニアは唐突に頭が冷える。


 脳裏に浮かぶのは、ピエタで行ったミレイの復活記念パーティでの光景。

 酒を飲もうとするミレイと、それを全力で止めようとするイリスとカミーラ。

 その時と今とでは、状況も何かも違い、フェイトという絶対的なストッパーも存在する。


 だがしかし、実際に暴走した様子を見たことのある2人のうち、頭の緩いキララは置いておいて。



 もう一人、ソルティアが。

 静かに”刀”を具現化させていたのを、イーニアは見逃さなかった。



 そして、ミレイがグラスに口をつけ、その中身を飲み込むと。






 瞬間、光が弾けた。






「――くッ!?」



 溢れ出すような、爆発的な魔力の濁流を浴びせられ。

 のんきに見つめていた面々は、衝撃によって吹き飛ばされる。



 唯一、すでに臨戦態勢に入っていたソルティアは、自身に向かってくる魔力の波動を切断し。

 フェイトは、自身も同等の魔力を発することで衝撃を受け止めていた。





「イッたた。」



 知っていながらも、キララは楽しそうに吹き飛ばされ。

 イーニアと他の受付嬢たちは、突然の衝撃波に唖然となる。




 衝撃を打ち消したフェイトと、斬り捨てたソルティア。

 その2人が見つめる中。





 ”圧倒的な魔力を放つ生命体”が、この世界に降臨する。





(……冗談でしょ。)




 それと、真正面から対峙しながら、フェイトは思わず冷や汗を流す。


 どれだけ前情報を聞かされても、所詮は”自分よりも弱い連中の言葉”。いざ勝負になったら、自分が負けるはずがない。そんな絶対的な自信を、フェイトは持っていた。


 だがしかし、実際にそれを目の当たりにして。

 フェイトは初めて、明確な”危機感”を抱いた。





 そこに立っていたのは、先程まで”ミレイだったモノ”。


 髪の色や顔立ちなど、確かに類似性は存在するが。圧倒的に、サイズが違った。

 身長は年齢相応の大きさになり、胸部の主張も激しくなっている。

 カバンに入った魔導書も、今の彼女と比べては小さく見え。何らかの力が働いているのか、着ていた服まで大きくなっていた。


 急激に成長した、などというものではなく。

 明確な、”別の存在”への変身である。





 話と何も違わない、”大人モード”のミレイを目にして。キララとソルティア以外の、ほとんどのメンバーが驚きをあらわにする。


 正面に立つフェイトも、それは例外ではなく。

 唯一、ソルティアのみが、最初から分かった上で、ミレイと対峙していた。


 強者との”真っ向勝負”に挑むために。




「それにしても、嫌な魔力ね。」


「ええ。殺意剥き出し、ですね。」




 ここは戦場ではない。目の前にいる人間も、決して敵ではない。頭ではそう理解していても。フェイトとソルティアは、臨戦態勢を解くことが出来なかった。

 一瞬でも目を離せば、命を奪われかねない。本能がそう訴えている。



 緊張の眼差しが、周囲から向けられ。

 大きくなったミレイは、冷たい視線を送り返す。


 他人に興味のない。友達とも仲間とも思っていない、孤独の瞳を。





「――あぁ。度し難い。」





 周囲に対する、明確な意志を宿し。

 より鋭く、”怒り”に満ちた魔力が発せられる。


 単純な出力だけなら、フェイトとそう変わらない魔力量だが。

 込められた感情の強さは、まさに段違い。



 純粋な”悪意”が、溢れかえる。




(マズいわね。)




 ただ一言発しただけ。ただそこに立っているだけ、だというのに。

 魔力の強い彼女たちには、理解できてしまう。




――”この化物(ミレイ)”は、暴れたがっている、と。




 フェイトとソルティアだけでなく、他のメンバーも立ち上がり、一応の臨戦態勢に入る。


 そんな彼女たちを見つめながら、ミレイは更に魔力を解放した。




「ゴミクズ共が、揃いも揃って。」




 その圧は凄まじく、対峙するだけで恐怖がこみ上げてくる。

 だがしかし、唯一対抗しうる存在であるフェイトは、負けじと前に出てくる。




「随分と口が悪いじゃない。身体と魔力が大きくなったからって、調子に乗るもんじゃないわよ。」



「うるさいぞ、小娘。わたしの能力の分際で、楯突こうなどと思うな!」




 怒りをあらわにするミレイと、フェイトの魔力がぶつかり合う。


 直接的な攻撃ではない、感情の衝突に近い現象だが。

 2人から発せられる力は、すでに常識の範疇を超えており。


 この店だけでなく、街全体が揺れ始める。




「……うそ。」




 その魔力に当てられて。受付嬢たちだけでなく、Sランク冒険者であるイーニアすらも、戦意を失ってしまう。



 これまでの人生で対峙したことのない、人の形をした悪夢。


 ”怒れる神”への恐怖に。





「くッ。」



 あまりにも、魔力の差が大きすぎるため。

 意志では負けないソルティアも、本能的に恐怖が勝る。




「ミレイちゃん。」



 そして、このような状況においても。

 キララだけは、そもそも戦おうという意思すら見せなかった。


 ”ミレイに武器は向けない”。それを貫くように。




 キララ以外の、多くのメンバーが恐怖に染まる中。





「”わたしの能力の分際で”、ねぇ。まさかアンタの口から、そんな言葉が出るなんてね。」




 唯一、力負けしていないフェイトが、ミレイに堂々と立ちはだかる。




「今なら許してあげるから。さっさと席に戻って、”ごめんなさい”って謝ったらどう?」




 一歩も引かず。

 普段通り、軽く煽るような口調で話しかけ。



 それが、ミレイの逆鱗に触れた。





「――皆殺しだッ。」





 その体から、爆発的な魔力が放たれ。




「「ひぃっ!?」」



 何人かの悲鳴が漏れる。





「――ッ、仕方ないわねッ!!」




 こうなったら、自分がどうにかするしかない。

 意を決したフェイトが、同様に魔力を全開にし。


 ミレイを止めるべく、持てる全ての力を覚醒させる。






 ミレイが、”大人モード”なら。

 対するフェイトは、”天使モード”。



 魔力の濁流で、崩れ始める店の中で。

 ”2つの極み”が対峙する。






「急いで離れましょう。あれに混ざるのは自殺行為です。」


「ええ。」




 化物連中を尻目に、他のメンバーは距離を取り。




「――みんな、逃げなきゃ死ぬぞ!!」




 近隣住民たちの避難を行い始める。









 得体の知れない魔力の衝突に、”帝都全域”が震える中。

 一触即発のその場所へ。 




 ”まばゆい光”が降り注ぐ。





「――脅威を検知。防衛行動に入ります。」





 皇帝の懐刀である、最強の冒険者”マキナ”が参戦し。

 フェイトの隣に並び立つ。






 ”最強を決める大会”が始まる前に。


 特に理由のない、ぶっちぎりの頂上決戦が幕を開けた。






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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ…フェイトさんやらかした笑
[一言] あ、うん…………あれだね。ミレイに酒を飲ませた方々は今回の事件を通して"ミレイに酒を飲ませてはいけない"教訓を得て貰えば十分に採算が……取れないですね。(ToT) 得たものは小さいのに被害が…
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