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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
80/153

君の始まり、世界の終わり






 この世界は、アヴァンテリア。






 君にとってこの世界は、眩しくて温かくて、とても居心地の良い世界。



 鋼鉄の男にとってこの世界は、事故によって迷い込んだ、仮初の居場所。



 黄金の少女にとってこの世界は、未知なる戦いの待ち受ける、最強への登竜門。



 機械戦士にとってこの世界は、流浪の果てに辿り着いた、新しい故郷。



 悪魔にとってこの世界は、誰もが日の光を享受できる、夢のような楽園。






 思えば、疑問があった。

 なぜわたしが、わたし達が、この世界にやって来たのか。


 多発する、異界の門を起因とする異世界との接続現象。これが全ての元凶だと、全ての理由だというのなら、そう納得するしかない。

 だが、本当にそうなのだろうか。ただ偶然門が開き、偶然そこに居合わせていただけ。そんな理由で、わたし達はこの世界にやってきたのか。




 それぞれが異なる世界で生まれ、異なる立場で暮らし、異なる理由でその日を迎えた。




 エドワードは、ブラックヘッドとの決戦の際、突如現れた門に引きずり込まれたという。



 九条は他校の女子と喧嘩をしていた際、背後に門が現れたらしい。



 ブラスターボーイは、ミレイや九条など、様々な要因の巡り合わせでこの世界にやってきた。






――”なら、わたしは”?















 もしも、元の世界に戻れるとしたら。

 エドワードにそう問いかけられ、ミレイは何も答えることが出来なかった。




「いや、気にしないでくれ。深い意味はないんだ。別に、転移を可能にする方法が見つかったわけでもない。」




 困った様子のミレイに、エドワードが訂正する。




「ただ、もしも”その手段”が見つかったとして、君がどう選択するのかが気になっただけだ。」


「……なら、エドワードは?」


「わたしはもちろん、”帰る”つもりだ。」




 迷わず、振り返らず、彼は選択した。




「そう、なんだ。」


「ああ。」





 ミレイとエドワード。生まれた世界が違えば、歩んだ歴史も違う。

 ”この世界で見ている景色”も、また然り。





「娘と瓜二つな君と出会い、他に友人も出来た。だが向こうの世界にも、守るべき仲間がいる。」


「えっと、すかーどらいぶ部隊、だっけ?」


「いや、”ライザー部隊”だ。」




 それは、エドワードが向こうの世界に残してきた仲間たち。ネオ・モンスターと戦うために集められた、傷を持つ少女たちである。




「そう簡単にくたばるような連中じゃないが、やはり心配だからな。……それに、”力を与えた責任”もある。だから、どちらかの世界を選べと言われたら、わたしは向こうを取るよ。」




 揺るぎない信念のもと、エドワードは向こうの世界でも戦ってきた。世界を隔てても、それは決して変わらない。

 絆も、戦いも、終わっていないのだから。




「……そっか。凄いね、エドワードは。」




 迷うことなく選択した彼に対し、ミレイはそうつぶやくことしか出来ない。

 選ぶことなど、出来はしない。




 理由も、切っ掛けすら知らずに、ミレイはこの世界にやってきた。そこに自分の意志など関係なく。流され、もがき。


 そして、手を繋いだ。


 毎日がキラキラと輝いていて。次第に、繋ぐ手が増えていって。小さな体では支えきれないほど、たくさんの想いで溢れている。


 だからこそ、エドワードからの問いは苦しかった。元の世界に戻る、それはつまり、今の世界を離れるということ。

 そんな事は考えたくない。そんな未来は、絶対に受け入れられない。


 せっかく友達になれたのに。

 キララやみんなと離れたくない。




 だが、それでも。

 ”地球という世界”、生まれ育った故郷を忘れることも出来なかった。





「……済まない、少々意地悪な質問だったな。」


「ううん。」




 ミレイは普通の人間である。様々な要因が体に変化をもたらしたが、その心は今も変わっていない。


 向こうの世界では”20年”過ごし。

 こっちの世界では僅か”2ヶ月”ほど。


 とても濃厚で、刺激的で、ひたすらに楽しい毎日だが。

 向こうで生まれ育った歳月を塗り潰すことはない。



 今の彼女が存在するのは、”愛情を注いでくれた両親”と、”仲のいい幼馴染”がいたおかげなのだから。



 この世界は、決して故郷になり得ない。





「ミレイ、君の”一番大切なもの”は何だ?」


「……”友達”、かな。」




 少々、照れくさそうに告白する。




「今は幸せか?」


「うん。これ以上無いってくらい、幸せだよ。」






「――なら、もしも故郷に戻る機会があったら、”それを伝えればいい”。親としては、子供が幸せなのが1番だからな。」



「……うん。ありがと、エドワード。」








 最後の記憶は、こちらに迫ってくる車。


 そこから先は思い出せない。気づいたら草原で眠っていて、”そこはかとなく若返っている”ような気がした。


 この世界に来た理由も分からない。きっと、この先も思い出せないのかも知れない。

 でも、それでいいと思っている。


 なぜなら、今がとっても幸せだから。






 親愛なる両親と、親友へ。

 わたしは元気でやっています。

 黙って消えてしまい、本当にごめんなさい。


 もしも、そっちに戻る機会があれば、一緒に暮らしてる友達を紹介したいと思います。










◆◇ 59日目のガチャ





 1つ星 『キャプテン・バーガー』


 大人も子供も大好き、定番のハンバーガー。高カロリー過ぎるのが玉にキズ。




ミレイ「……ソルティアに食わせたら、どんな反応するかな。」





◆◇










 ”60日前”。





「――最高。」





 20歳の誕生日、仕事終わりの夜に。

 最悪の気持ちの中でミレイが見たのは、こちらに迫ってくる車の光。



 ようやく大人の仲間入りをして、友達とお酒を飲んだり、遠くに旅行してみたり。いつかやってみたい、そんなことが現実になるはずだった。

 それなのに、唯一の親友である幼馴染は結婚報告をしてきて。

 ミレイは、分からなくなってしまった。自分が1人になってしまったような。とても恐ろしい、悲しい気持ちが胸に溢れて。


 思わず、道の真ん中で立ち止まってしまい。

 そこに運悪く、車がやってきた。


 不運か、それとも自業自得か。

 子供のように小さな彼女に、猛スピードの鉄の塊が突進し。




 ミレイは、”それをギリギリで回避した”。




 彼女自身の反射神経によるものではない。

 ”何者か”に引っ張られ、後ろに倒れたからである。





「……あ、……な、なに?」




 九死に一生の体験をして、ミレイは頭が真っ白になっていた。

 車にはねられかけた、その事実を理解して、恐怖が遅れてやって来る。


 道端にぺたんと座り、恐怖に慄く彼女に。

 助けた人物が声をかける。




「なにって、こっちのセリフ。あなた、なにやってるの?」




 ”その少女”は、真っ暗な夜道には不釣り合いな風貌をしていた。


 真っ白な髪の毛に、青い瞳。

 身長はミレイと同じくらいか。

 真っ白なワンピースに身を包み、大きな白い帽子をかぶっている。


 まるで、どこぞのお嬢様のような少女であり。

 当然のように、ミレイには見覚えがない。




「ご、ごめんなさい。ちょっと、ショックな事があって。」




 助けてくれた少女に、ミレイは謝るものの。

 少女は何かを考えているようで、じーっとミレイの顔を見つめるのみ。




「……様子見のつもりだったのに。干渉しちゃったら、もうあなたにするしかない。」


「ん?」




 自分の中で結論が出たのか。少女は心を決めると、右手を横に伸ばし。

 すると、何らかの力が働いて、光と共に空間が歪み。




 世界と世界を繋ぐ扉、”異界の門”が出現する。





「んんんん!?」




 唐突な超常現象に、ミレイは驚き言葉を失う。

 その現象の名も、力の源も、少女の名前すら知らず。ただ、闇夜の運命を見つめるばかり。




「君って、何なの?」


「わたしが誰かはどうでもいい。重要なのは”あなた”のほう。」





 残念なことに、その記憶は”諸事情”で消えてしまったものの。


 他の誰とも違う、明確な運命に導かれ。





「――”わたしの世界、アヴァンテリアを救って欲しい”。」





 ”自分自身の意思”で、ミレイはこの世界に足を踏み入れた。










◆◇










 この世界のどこにもない空間。人の手には触れられない、内なる世界。そこに存在する、”崩れかけの城”にて。

 眠っていた少女が目を覚ます。白い髪の毛に、青い瞳。着ているのは白のワンピース。


 かつて、ミレイをこの世界へと呼び込んだ、不思議な少女である。




「……はぁ。」




 少女はため息混じりに立ち上がり。視界の隅にある、”小さなモノリス”に目を向ける。

 大きさこそ違えど、それは地上に存在する巨大モノリスと似たような形状をしており。


 その上には、”世界地図のような立体映像”が浮かんでいた。


 世界地図には、渦のような”歪み”が大量に存在し。

 そのうちの1つが、凄まじい大きさへと変化している。




「思ったよりも、ずっと早い。」




 世界の歪みを見つめながら、少女は憂いの表情を浮かべる。




「もう猶予もないし、今の戦力で打開するしかない。」




 少女は知っている。アヴァンテリアにいる人間たち、彼らの持つ力の強さを。

 皇帝、聖剣使い、竜王。それらを筆頭に、数多くの強者が地上には存在する。


 だがしかし、たとえそれらの力を集結させたとしても。

 この”歪み”に、抗うことは不可能であろう。





「……”ミレイ”もまだ、全然弱っちい。」





 切り札であるはずのミレイは、残念なことに”少女との約束”すら忘れており。

 そんなうっかりに、彼女は気づかない。




「――やっぱり、”あいつ”の力が必要。」




 終わりを迎えようとする世界のために、自身も身を投じる決心をする。



 全ては、この世界を守るために。



 少女はモノリスに触れ、崩れかけの居城を後にした。










◇ 今日のアルトリウス








 花の都、冒険者ギルドにて。

 相変わらず人も少なく。受付嬢の”ソニー”も、ついついうたた寝をしてしまう、そんな陽気な午後。



 クエストボードの前では、”アルトリウス”が大量の依頼票を見つめている。



 今日も今日とて、彼は依頼票を見つめるのみで、決して手に取りはしない。

 ”自分に相応しい依頼”を探して、こうやって依頼票を見つめるのが日課になりつつあり。未だに彼は、クエストの達成数が”ゼロ”のまま。

 こいつにはどれだけやる気が無いんだと、周囲の面子も呆れ果てていた。



 同じく、ギルドの一角では。この街の担当である”イリス”がだらけているが。Sランクの彼女と、Fランクのアルトリウスでは話が違う。

 彼は冒険者か、それともニートなのか。





「ねぇ、”カミーラ”。魔力って武器にも通せるの?」


「出来んこともないが。お前なら、”能力”を使えば一発じゃないか?」




 カミーラとコンビを組むのは、異世界人である”七瀬奈々”。

 アルトリウスとは違い、2人は真面目にクエストをこなしていた。



 そんな、いつも通りの冒険者ギルドに。

 1人の少女がやって来る。



 白い髪の毛に、青い瞳。

 真っ白なワンピースに、大きな帽子を被った少女である。


 ギルドにやってきた少女は、周囲を見渡し。目的の人物を見つめると、他には目もくれず彼の元へと足を運ぶ。


 怠け者の冒険者、アルトリウスの隣へと。




「おや、何か用かい? お嬢さん。」




 隣にやってきた少女に、彼は気軽に声をかけるも。

 彼女は、その態度が気に食わなかったのか。




「頭が高い。」




 魔力を込めた、強烈な回し蹴りを放ち。

 アルトリウスをその場に転倒させる。




「ど、どういう暴力なんだ!?」


「うるさい。」




 当然のように、彼には暴力を振るわれる心当たりなどなく。

 それでも、彼女にはお構いなし。





「――わたしは”アリア”。お前を鍛えに来た。」





 人も世界も”神”も、様々な思惑が交錯し。


 そして、”帝都最強決定戦”が始まる。






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