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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
79/153

ニャンダフルガール






 帝都に訪れた、季節外れの降雪も終わり。

 ギルドの1番窓口に、フェイトが帰ってくる。




「フェイト、どうだった?」


「……別に、何もなかったわ。何か気になることがあるなら、後でキララに聞いたら?」


「え、あっ。……うん。」




 調査の結果をミレイが尋ねるも、フェイトの態度は素っ気なく。具体的な情報を教えてもらえない。

 とはいえ、ミレイも強くは出られず。




「それにしても、こんなくだらないことでわたしを呼び出すなんて、いい度胸じゃない。」


「うぅ。」




 フェイトの鋭い視線にたじろいでしまう。




「寮のわたしの部屋、掃除、1週間、オッケー?」


「お、おっけー。」




 何だかんだ押し切られてしまい、ミレイは労働で償うことになった。

















 夕方、ギルドの仕事も終わり。

 同じく仕事の終わったキララと合流し、ミレイは帰路につく。

 その途中、




「今日のタマにゃんとの仕事、どうだった?」


「うーん。ちょっと慣れないことだったけど、何とかなったよ〜」


「へー。……具体的には、どういった内容の仕事で――」




 自然な流れで、ミレイは今日の仕事の内容を聞こうとするものの。





「――あら、2人とも! 昨日ぶりじゃない!」





 突然の声が、ミレイの問いを掻き消す。


 誰かと思って見てみれば。相も変わらず、派手な見た目をした”九条”がそこに居た。

 特徴的な髪の毛を器用に使い、”大量の紙袋”を抱えた状態で。





 とりあえず、3人は昨日ぶりの再会を分かち合うことに。


 そのさなか、





「あっ、そうだ。瞳ちゃんって、どこで寝泊まりしてるの? ご飯とか大丈夫? 女子寮紹介しよっか?」




 何気ない挨拶を交わす途中で、ミレイは重要な事を思い出す。

 そもそも、先日彼女を探していた理由が、住居などの身の回りの心配だったことを。




「あぁ、それなら平気よ。エドワードの所で世話になってるから。」


「へぇ〜。……それって、どこらへん?」




 エドワードが今現在、どこで何をしているのか。ミレイはまるで知らなかった。




「だったら、今からうちに招待するわ。食料品とかも買い込んだから、パーッとしましょうよ!」



「うん、いいかも。」


「しちゃお〜、しちゃお〜!」




 この後の予定もないため、ミレイとキララは九条のお誘いを受けることに。


 高めのテンションで、3人は九条が世話になっているエドワードの住居へと向かった。















 九条に案内されて、ミレイとキララは大きな屋敷のような場所へとやって来る。

 周囲には似たような建物がいくつも存在しており、ただ単に人が暮らすための場所には見えなかった。




「でっけ〜」


「ナンチャラ学術院? みたいな場所の一角を借りてるらしいわ。」


「へぇ。」




 ナンチャラなのか、学校的な何かなのか。その説明ではまるで分からない。おそらく、九条も大して知らないのであろう。




「向こうの建屋にブラスターボーイも居るのよ。よかったら挨拶したら?」


「おお〜、元気にしてんのかな。」


「ね〜」




 最後にブラスターボーイを見た時は、それはそれは酷い状況であったが。九条の軽やかな表情から、修理が完了したのだと察する。


 お言葉に甘えて、あのロボット戦士に挨拶に行こうとする2人であったが。

 向かう先の建物から、扉を開けて誰かが出てくる。




「あ、エドワード。」




 見慣れたビジュアルに、ミレイは声をかけようとするも。




「えっ。」


「ん?」




 エドワードと共に現れた、”もう一人”の姿に、思わず停止してしまう。


 それは、ミレイとキララにも見覚えのある人物であり。それでいて、まさかこんな場所で出会うとは思わずに、ミレイはひたすら驚く。




「どうにゃん?」


「少し、ぼやけるな。」




 特徴的な語尾に、特徴的な猫耳ゴスロリ。

 先輩冒険者のタマにゃんが、エドワードと共に現れた。


 その意外過ぎる組み合わせに、ミレイたちが呆然と立ち尽くしていると。




「にゃーん?」




 少し顔の位置を落としたエドワードに、背伸びをしたタマにゃんが近づき。

 ミレイたちの位置からは、ちょうど顔が重なって見える。



 傍から見ると、まるで”キス”をしているようであり。


 その衝撃的なビジュアルに、ミレイの中で、何かが弾けた。






「――見損なったぞ、エドワード!!」






 溜まった鬱憤を晴らすような、とても大きな声で叫び。


 ミレイの突然の大声に、隣りにいたキララも、九条も、エドワードたちも驚いた。





「にゃん?」


「一体、どうしたんだ? ミレイ。」




 ”当然の事ながら”。

 その大声の理由は、エドワードにはまるで理解ができず。

 眼帯のない、”両方の瞳”で、ミレイを見つめていた。

















 エドワードの間借りしている建物。その中にある、無人の食堂らしき場所で。

 大きなテーブルに、ミレイとキララ、そしてタマにゃんの3人が集い、向かい合う。




「”都市循環魔力”の、漏洩調査?」


「うん! 地下から汲み上げた魔力を、パイプを伝って街中に供給しててね。それが漏洩してるかもっていう話があって、その調査に付き合ってたんだ〜」


「へ、へぇ。」




 キララの口から説明される仕事の内容に、ミレイは何も言えなくなる。




「それでね! 路地裏で漏洩箇所を見つけたんだけど、思ったよりも魔力漏れが酷くって! それをガーって受け流すのが、すっごく大変だったんだよ。」




 調査の中で、キララが特に”体を張った部分”を力説する。

 具体的に言うならば、フェイトに見つかった際に起きていた出来事を。




「にゃん! 予想通り、やっぱりキララは凄い才能の持ち主だったにゃん。あの量の魔力を捌ける使い手は、帝都にもそうそう居ないにゃん。」


「えへへ。」




 タマにゃんに称賛され、キララは照れくさそうにする。


 彼女たちの話す内容。それは、ミレイの想像していた、”いかがわしい仕事”とは似ても似つかず。

 とんでもない勘違いに、ミレイが脳みそを必死に整理していると。


 そこにエドワードがやって来る。




「おい、誰か厨房を手伝ってくれないか? このままだと、今日の夕食が犬の餌になりそうだ。」


「あっ、ならわたしが手伝います。」




 エドワードからの救援要請に、キララが応じ。そのまま厨房へと向かっていった。


 すると、





「――瞳ちゃん、何やってるの!?」





 厨房の方から、キララの悲鳴のような叫びが聞こえてくる。


 一体何と出くわしたら、キララがそこまで驚くのか。

 厨房がどうなっているのか、もはや想像すらできなかった。









「エドワード、”義眼”の調子はどうにゃん?」


「ああ、お陰様で完璧だ。むしろ、見え過ぎるくらいだな。」




 この場所に来て、ミレイが最も驚いていることが、エドワードの瞳であった。

 特徴的な眼帯が外され、傷跡の先に、しっかりとした瞳が存在している。




「にゃん? なら解像度の問題にゃん。設定を弄るから、ちょっと動かないで欲しいにゃん。」




 エドワードの新しい左目を調整するため。タマにゃんは懐からスマートフォンと取り出し、鼻歌交じりに操作する。




「にゃにゃにゃにゃ〜ん。」




 すると、スマホから微かな光が生じ。画面の中から、フェアリー族と同じくらいの大きさをした、小さな人型のナニカが出現する。

 全身真っ黒で、フォークのような持っており。見た目は完全に”虫歯菌”である。


 虫歯菌のようなナニカは、エドワードの顔付近までふわふわと飛んでいき、小さな魔法陣を展開すると。そのまま、義眼の調整作業を始めた。



 タマにゃんの持つスマートフォンと、そこから出てきた虫歯菌。

 とても魔法のようには見えないそれに、ミレイは釘付けになる。




「それって、タマにゃんのアビリティカード?」


「いいにゃ? これは単なる”魔法”にゃん。コンパクトにデータ化できる、使い魔みたいな感じかにゃ〜」


「……使い魔? データ?」




 ただでさえ、魔法に関しては周回遅れをしているミレイである。タマにゃんやっていることが、まるで理解できない。


 それを見かねたエドワードが、わかりやすく彼女の”正体”を告げる。





「タマにゃんは、地球とも違う、”別の異世界”からやって来た技術者らしい。」



「にゃは〜ん。」




 かわいいポーズで、タマにゃんは自分をアピールする。




「え。ということは、異世界人?」


「その通り! 今まさにここは、”異世界人大集合状態”なんだにゃん!」





 ミレイとエドワード、九条にブラスターボーイも合わせ、おまけにタマにゃんと。

 総勢5人もの、別々の異世界人がこの場所に集まっていた。


 この世界出身のキララも合わせれば、合計で6つの世界となる。





「しかも、タマにゃんのテクは、わたしをも”遥かに上回る”レベルだ。魔法も科学も分野は問わず、ハイテク機器と魔法の融合や、精巧な義眼の製造も可能らしい。」


「にゃはは、それくらい朝飯前にゃん!」


「へぇ〜」




 人は見かけによらない。というよりも、見た目や第一印象で決めつけるべきではないと言うべきか。

 ミレイの頭の中で、タマにゃんという存在が目まぐるしく変わっていく。




「……もしかして、完璧超人?」


「にゃん! 所詮は一介の技術者にゃん。素の魔力も大したことにゃいから、戦闘だってからっきしにゃ〜ん。」




 つまるところ、戦闘以外は基本的に何でもできるという意味である。




「えっと、それじゃあ。昨日受けてた仕事って。」


「にゃは〜ん。やっぱりそれが気になるにゃん?」


「うっ、はい。」




 ミレイがずっと気にしていたことも、タマにゃんにはお見通しであった。




「受付のメンバーとは顔馴染みだから、色々と面倒事を頼まれるにゃん。昨日も、”釣りにもってこい”なビジュアルだからって、おとり役を頼まれたにゃん。」




 タマにゃんが、自主的にああいった内容の依頼を受けたわけではなく。

 ”グレー”と判断したリリエッタに依頼を頼まれ、対処していたに過ぎない。




「昨日のパパ様も、あの後きっちりお灸をすえたにゃん。」


「な、なるほど〜」




 諸々の事情を聞いて、ミレイはほっと一安心する。




「もしかして、キララも”そういった仕事”に誘ったと思ったにゃん?」


「うっ。」


「やっぱり図星にゃん!」


「なるほど、”そういうことか”。だから今さっき、外でわたしを罵倒したわけか。」




 今までしていた盛大な勘違いと、先程の大声の理由を2人に追求され。






「――すみませんでした。」






 ミレイはめちゃくちゃ謝った。

















「じゃ、またにゃ〜ん。」




 義眼の調整も終わり。ミレイとエドワードは、外に出てタマにゃんを見送る。

 色々と勘違いもあり、失礼と恥ずかしさにミレイは死にそうになったが。根本的に2人が優しかったため、何とか助かった。



 すっかり空も暗くなり。

 戦いとも無縁な、平和な夜の訪れ。


 ミレイとエドワードは、共に夜の風に触れる。




「そういえば。ここって、学校か何かなの?」


「あぁ、金持ちや貴族連中が集まる学び舎らしい。この国は随分と教育が遅れているからな、手放しで歓迎されたよ。」


「へぇ。」




 帝都にやって来て、すぐに別々になり。どこかで野垂れ死んでいるのではないかと、ミレイは若干心配していたが。

 やはり、エドワードはたくましかった。




「瞳ちゃん、なんだけど。ここで任せても大丈夫?」


「……ああ。あのロボットのことを、かなり気にかけているからな。しばらく置いておくのは別に構わん。」


「そっか。」




 九条のことも、タマにゃんのことも。頭を悩ませていた問題が解決し、ミレイは気持ちがスッキリとする。


 帝都に来て、初日に器物損壊を行ってしまい。イーニアと共にギルドで働くことになり。

 九条を探すついでに、灼熱の砂漠を冒険することになったり。


 それらがようやく落ち着いて、心を休めることができる。



 全てを悟ったように、ミレイが夜空を眺めていると。




「ミレイ、1つ聞いてもいいか?」


「んー?」






「もしも、”元の世界”に戻れるとしたら、君はどうする?」






「……え。」




 エドワードから、思いもよらない質問を投げかけられた。






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