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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
78/153

勘違い、日常、無駄遣い






「にゃにゃにゃんと! さっき会った子たちにゃん! お隣さんとは奇遇だにゃん。」




 長い長い活動を終え。ようやく眠りにつけると安心するミレイと、キララであったが。

 寮の自室の前で、初対面となるお隣さんと出くわした。


 ミレイからしてみれば、気になって仕方のない、”猫耳ゴスロリ少女”と。




「はじめまして、キララです。」


「……ミレイで、ごわす。」



 驚きで、口が上手く回らない。




「ごわす、にゃん?」


「気にしないでください。ミレイちゃん、ちょっとおねむなので。」


「にゃるほどにゃん。子供はもう寝る時間だにゃん。」


「……あい。」



 もはや否定すらも出来なかった。




「ミーは”タマにゃん”だにゃん。よろしくにゃん!」


「よろしくにゃ〜ん!」




 波長が合ったのだろうか、キララは彼女の口調を真似していた。


 しかしミレイは、タマにゃんと名乗る目の前の少女が気になって仕方がなく。

 とはいえ、正面切って色々と聞く勇気もなかったので。




「……ごわす。」




 その日は、とりあえず寝まくった。










◆◇










 翌朝、冒険者ギルドの受付前にて。




「――こら、起きなさい!」




 フェンリルに咥えられてきたミレイを、イーニアが必死に起こそうとする。

 だがしかし、どれだけ揺さぶっても、声をかけても、まるで起きる気配がなく。

 本人が前日に予想した通り、過去最大級の熟睡モードに入っていた。




「もう起きなくてもいいから、せめて魔力は出しなさいよ!」




 極論を言えば、ギルド的に必要なのはサフラの能力である。サフラが仕事をしてくれるのなら、ミレイは最悪置き物でも構わない。

 だが、サフラが魔水晶を操るには、宿主であるミレイの魔力が必要不可欠であり。それを捻り出すには、やはり起きてもらう以外に方法はなかった。




「もうこれ、何かの病気なんじゃ。」




 ミレイの熟睡度合いに、イーニアが絶望していると。


 その騒ぎを聞きつけて、他の受付嬢たちが集まってくる。





「面白そうね。」



 サーシャの一言で、”ミレイを起こせゲーム”が開催されることになった。










「とりあえず、ビンタいっとく?」


「……顔はダメですよ。」




 サーシャの案は、即却下され。




「”羽根くすぐり”は?」


「やってみます。」




 まず始めに、シャナがミレイを起こしてみることに。


 ミレイの顔の近くまで飛んでいき。

 その妖精の羽で、ミレイの鼻先をくすぐってみる。





――くしゅん!





「あっ、吹っ飛んだ。」




 残念ながら、シャナの作戦は失敗に終わった。





「これだけやっても起きないなら、やっぱ刺激が必要なんじゃ。」




 続いて、ナナリーが参戦し。

 指先に魔力を込めて、スタンガンのように、激しい電流を発生させる。




「……それをやるくらいなら、まだビンタのほうが人道的じゃない?」




 流石にそれは酷すぎるということで、ナナリーの作戦も中止となった。





「ふふっ、次はわたしの番ね。」




 続いてはリリエッタ。


 満面の笑みを浮かべたまま、ミレイに近づき。

 その耳元で、ふぅっと息を吹きかける。




「――んんっ。」




 これまでにないほどの反応を見せたが。

 それでもやはり、ミレイは起きなかった。




「……本人は気にしてそうだからあれだけど。合法ロリって、やっぱり良いわね。」




 そんなリリエッタの発言に、他のメンバーはドン引きした。






「あとはタバサだけど、なにか案はある?」


「……とりま、鼻いってみようか。」




 呼吸が出来なければ、びっくりして飛び起きるだろう。

 という考えで、タバサはミレイの鼻を摘んでみるものの。


 やはり、特に反応はなく。




「口も塞がないと意味がないんじゃない?」




 見かねたサーシャは、そう言いながら。

 何を考えたのか、咥えていたタバコを手に取り。代わりにミレイの口に咥えさせた。


 こいつ、マジか、と。


 周囲のメンバーは信じられないものを見るような顔をし。





「――んんっ!?」



 とてつもない驚きとともに、ミレイは飛び起きた。





「なっ、なに? なんか凄いんだけど!」




 状況を把握できず、ミレイは戸惑うばかり。

 それほどに衝撃を受けたのか、心臓がバクバクと鳴っていた。




「……嘘でしょ、こんなあっさり飛び起きるなんて。タバコって、そんなにヤバいの?」



 イーニアは戦慄する。

 ミレイが飛び起きたタバコの効力と、それを平然と吸いまくっているサーシャの脳みそに。




「……わたしが吸ってるの、別にタバコじゃないわよ?」


「え?」


「サーシャちゃん、昔から深刻な”頭痛持ち”だから。」


「そうそう、つまりは”鎮痛剤”ってこと。……まぁ、強すぎて違法だけど。」




 サーシャとリリエッタは、イーニアの根本的な勘違いを訂正する。

 まぁ、訂正する必要はなかったのかも知れないが。




「……頭が、すごいクラクラする。」




 なにはともあれ、今日も一日が始まった。

















 思いやりの欠片もない、ひどい方法で目を覚まし。今日も今日とて、ミレイは1番窓口での業務に勤しむ。

 とはいえ、大半の冒険者は2〜5番の窓口を利用するため、ミレイの仕事は9割が置き物である。


 時折、初めてギルドを訪れる者が1番窓口へとやって来るものの。やはり総合的に考えて、ミレイは暇であった。

 


 タバコのような、”得体の知れない何か”を吸っているサーシャが担当していた際は、そのビジュアルから近づく者が少なかった。

 そこからミレイに代わり、多少は人が寄り付くのではないかと思われたが。これまた彼女も、”得体の知れない触手”を生やしていたため、結果的に1番窓口に訪問者は訪れない。





「はぁ。」




 暇なミレイが考えるのは、隣の部屋の住人、”ペコにゃん”のこと。

 一度ぐっすりと眠って、正常な判断力を取り戻したものの。やはり気になって仕方がない。


 キララとも気が合う様子で、この街にも詳しい先輩冒険者。言葉の”にゃん率”が高すぎるような気もするが、話してみた感じからして、性格も優しそう。

 隣人として、これ以上ないような人物なのだが。



 パパ様と呼んでいたオジサンと、一緒にいたあの光景が忘れられなかった。

 彼女が受けた”例の依頼”から考えて、あれがクエストの内容なのは明らかである。



 今まで触れてこなかっただけで。”ああいうの”が、一般的に存在することは知っている。

 その内容や実態を何一つ知ることなく、イメージのみで勝手な印象を抱くのも、良くないとは分かっている。




(思えば、そっけない態度をとってしまった。……今度、菓子折りを持っていこう。)




 真剣に仕事をしている雰囲気を出しながら。長考の末、ミレイは結論を出す。


 するとそこへ。





「――ばぁ!」




 窓口から体を乗り出して、キララがミレイを驚かす。


 目の前に、突如現れたキララに。一瞬、心臓が止まりかけるが。今日のミレイはクールを貫き通す。




「……ど、何のよう?」



 普通に、めちゃくちゃ動揺していたが。




「実はね、タマにゃんに仕事を手伝って欲しいって頼まれちゃって。これからひと仕事行ってくるね!」


「へ。」




 予想外の言葉にミレイは固まる。




「それで、ペコにゃんさんは?」


「なんか、”ペドなんちゃら”?、と話があるとかで、ギルドの奥の方に入ってったよ?」


「……”ペド”?」



 聞き慣れない言葉に、ミレイは困惑する。




(いや、待てよ。確か”ロリコン”のことを、”ペド”って呼ぶって聞いたことがあるような。……ロリコンに用がある? ギルドにロリコンなんて居たか?)




 ミレイは混乱した。




 ブツブツと呟くミレイと、それを不思議そうに見つめるキララ。


 そこへ、用事を終えたペコにゃんがやって来る。




「にゃにゃん。こっちは準備完了だにゃん。」


「あ、は〜い。」




 ミレイの中で多くの疑問が渦巻く中、その張本人であるタマにゃんと顔を合わせる。




「にゃにゃん!? にゃんだにゃ? その触手は。」


「……えっと、なんだろう。……わたしの子ども?」




 間違ってはいないが、絶対に通じない説明である。




「にゃるほどにゃるほど。」



 タマにゃんは、興味深そうにミレイとサフラを見つめ。




「もしかしてその触手、異世界の生き物にゃん?」


「あっ、はい。そうです。」




 意外にも鋭い洞察力で、タマにゃんはサフラの正体を見破った。




「にゃん! 敬語とかは要らないにゃん! ミレイもキララも、タメ口フランクで結構だにゃん!」


「う、うぃ。」




 にゃんだらけのハイテンションに、ミレイは圧倒される。




(……ミレイちゃん、ちょっと緊張してる?)



 珍しい反応に、キララは不思議に思った。







「じゃあ、質問だけど。キララと一緒に、何の仕事をするの?」




 タマにゃんの要望通り、ミレイは普通に話す。




「ふっふっふ、それは秘密だにゃん!」


「えぇ……」


「そういえば、わたしも聞いてないかも。」


「いや、聞こうよ、それは。」




 ミレイは心配でたまらない。




「なら、どうしてキララを誘ったの?」


「ふふっ、それはもちろん、内容的にキララが適任だからにゃん! ミレイも魅力的にゃけど、今回はちょっと方向性が合わないにゃん。」


「なるほど。」




 残念なことに、言っている意味が、ほとんど分からなかった。




「何事もにゃければ、多分ちゃちゃっと終わるにゃん。もしも何かあっても、ちょっと体を張れば問題ないにゃん。」


「だって。」




 説明とも言えないような話であったが、キララ的には問題が無さそうだった。








「じゃあ、また終わったら迎えに来るね。」


「う、うん。」




 ミレイの心配をよそに、キララとタマにゃんはギルドを後にする。





「……めっちゃ気になる。」




 タマにゃんいわく、”ちゃちゃっと終わる仕事”。キララも、特に問題なさそうにしていた。

 しかしながら、なぜキララが適任なのかが分からない。おまけに、ペドだかロリだかの疑問も解決していない。



 どうしても2人の動向が気になってしまう。

 けれども、この持ち場を離れることも出来ない。




「……すまん。」




 悩みに悩んだ末、ミレイは”切り札”に頼ることにした。

















「あそこの美容院はオススメにゃん。」


「へぇ〜、今度ミレイちゃんと行ってみようかな。」




 帝都の街並みを、のんびりと歩く2人の少女。

 可憐な容姿で、周囲からの視線も熱い彼女たちだが。


 それを後から尾行する、怪しい影が1つ。




「……まったく、なんでわたしがこんな事を。」




 建物の影から、フェイトがひょっこりと顔を出す。


 ギルドを離れられないミレイの代わりに、ピンチヒッターとして選ばれたのが彼女であった。

 キララとタマにゃんがどんな仕事を行うのか、陰ながらに観察する。




「まぁ、尾行なんて朝飯前だけど。」




 これくらい容易であると、フェイトはそう自負していたが。








「にゃんだか、めっちゃ強い魔力が追ってきてるにゃん。」


「うん。たぶん、友達だと思うけど。」




 2人には初っ端からバレていた。




「フェイトちゃん、どうしたんだろう。」


「追ってきてる友達は、もしかしてミレイとも関係があるにゃん?」


「ん〜、そうだね。ある意味で、すっごく関係してるかも。」


「……にゃるほど。」




 タマにゃんは、ほんの少し頭を回転させる。


 昨日出会ったばかりの2人。

 やけに動揺するミレイの”仕草”。

 ギルドの仕事を手伝っている以上、触れる可能性のある”情報”。

 そして、昨日出会った時の”状況”。


 それらを加味して、友達に尾行まで頼む理由を推測する。




(……キララのことが、よっぽど心配にゃんね。それでもって、ちょっと”おバカ”にゃん。)




 後輩たちの人となりを、何となく理解し。

 タマにゃんは”ちょっとした意地悪”を思いつく。




「面白い遊びを考えたにゃん。」




 懐から、キララにも見覚えのある、”スマートフォン”のような機械を取り出し。

 タマにゃんは、”魔法”を起動した。










「しまった、見失うなんて。」




 建物の影や人混みを利用し、上手く尾行を続けるフェイトであったが。

 ふとしたタイミングで、2人を見失ってしまう。


 人の多いこの街で、一度見失った対象を見つけ出すのは至難の業であり。




「やるしかない。」




 背に腹は代えられないと。フェイトは氷の足場を造り出し、上空へと飛翔。


 膨大な魔力を、波状に周囲に広げ。

 ソナーのような要領で、2人の魔力反応を探知する。


 だがしかし。




「……嘘でしょ、なんで見当たらないのよ。」




 向こうも相当の”手練れ”なのか。

 何らかのカモフラージュ手段を用いて、フェイトの魔力探知から逃れていた。


 だとしても、フェイトはそれで諦めるような人間ではなく。




「――上等じゃない!!」




 白昼堂々と、フルパワーを解放した。















 冒険者ギルド、上空の塔にて。



 偶然にも、そこに訪れていた皇帝セラフィムは。

 不思議な感覚に促され、窓からそっと手を伸ばす。


 すると珍しいことに、空からは季節外れの”雪”が降っており。

 興味本位に、セラフィムはそれを手に取ってみる。




「ふっ。」




 不思議な魔力の込められた雪。とはいえ、悪意あるものではなく。

 子ども特有の、青い衝動のようなものを感じるのみ。



 セラフィムが、窓から外の雪を見つめていると。





「――またこの魔力か。最近、街に”バケモノ”が住み着いてないか?」




 帝都のギルドマスター、ギルバートが声をかける。

 あまりこの世界では見かけない、珍しい”機械”の類を弄くりながら。




「まぁ、問題は無いだろう。悪意のある相手なら、マキナが対処するはずだ。」


「ならいいが。」




 疲れた顔で、ギルバートはため息を吐く。




「防衛の要であるSランクは、10歳のガキ。そのうえ、街には異界の門が溢れる。これ以上の面倒事はごめんだ。」


「……やはり、街中にも門があったか。」


「ああ。調査の結果、少なくとも”3つ”は確認できた。一応、全て対処済みだが。うち1つでは大規模な戦闘もあったらしい。」


「それは大変だな。」


「部下曰く、Sランクでも対処の難しい状況だったらしいが。だったらどうやって解決したのか。」




 その立役者が、今現在、街に雪を降らしているとも知らず。




「心配のし過ぎは体に悪いぞ、”ペドロ”。」


「黙れ。さっさと撮影を始めるぞ。」




 皇帝とギルドマスターは、のんきに謎の撮影を行う。



 ギルドマスターの本名が、ペドロ・ギルバートということは、”一部の知人”しか知らなかった。















 見慣れない雪に、街の子供達は大はしゃぎ。大人たちも、不思議な光景に仕事の手を止め。

 みな揃って、空と雪を見つめる。


 そんな群衆を見下ろしながら。

 力を解放し、翼を広げたフェイトは、己の感覚を街中に広げ。




「――見つけた。」




 ようやく見つけたその場所へと、超スピードで飛翔する。



 たどり着いた場所は、人気の少ない路地裏であり。




「……何やってんのよ、アンタたち。」




 そこで目にした光景に、フェイトは唖然とした。






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