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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
74/153

恐怖、デラックスミサイル






 戦いの余波で、砂の中に埋もれてしまったのか。それとも、単純に消失してしまったのか。元の世界に戻るために、必要な異界の門が見当たらず。

 仕方がないので、ミレイたちはブラスターボーイが拠点にしている隠れ家へと向かうことになった。


 その道中、一行はボロボロになった廃屋のようなものを見つけ。水と食料を確保するべく、中を捜索することに。



 扉を開けようと、ドアノブに触れた瞬間。それが切っ掛けで留め具が壊れ。

 開ける前に、扉が後ろに倒れてしまう。




「……腐ってやがる。」


「時が経ちすぎたのね。」




 目的がなければ、絶対に入ろうとも思わない、ボロボロの廃屋。オバケというよりも、ゾンビが出てきそうな雰囲気だが。

 食料を求めて、ミレイたちは中へと入っていく。


 キララが魔法で光の球体を作り出し。その明かりを頼りに、3人は廃屋の中を捜索する。

 廃屋の中は、すでに半分ほどが砂に侵食されており。人の暮らせるような状態ではなかった。

 この様子では、水も食料も見当たらなそうだが。生きるのに必要なため、懸命に中を探索する。




「ふぅ。」




 九条は髪の毛を巧みに操り。棚の中など、隅々まで手を伸ばす。

 そんな彼女の様子を、ミレイは静かに見つめていた。




「……ねぇ、キララ。魔法で作った水って飲めるよね?」


「え? うん。たぶん、大丈夫だけど。」


「ならちょっと、瞳ちゃんを助けてあげて。」




 ミレイたち3人の中で、最も疲労の色が濃いのは、他ならぬ九条瞳であった。

 ミレイはサフラの補助によって効率的に環境に適応し、キララは魔力を纏うことで体を冷やし続けている。

 だが、九条は髪の毛を操る異能の持ち主ではあるものの、それ以外はほとんど一般人と変わりなく。汗の流し過ぎで、いつ倒れてもおかしくないような状態だった。



 キララが、魔法で水の塊を作り出し。

 それに、そっと九条が口をつける。




「……美味しいわ!」


「本当? よかった〜」




 初の試みではあるが、少なくとも味は大丈夫な様子だった。

 全員、喉が渇いていたため。続いて、ミレイとキララも飲んでみることに。




「これはこれは、結構なお手前で。」


「……ケッコウナ、オテマエ?」




 兎にも角にも、魔法で生み出した水は中々に美味しく。

 2人が飲みまくっていると。




「缶詰を見つけたわ。」




 廃屋の奥から九条が戻ってくる。その髪の毛には、3つほどの缶詰が握られていた。




「あったの、それだけ?」


「ええ。他のは爆発寸前って感じだったから。」





 結局、この廃屋で見つかったのは中身不詳の缶詰が3つほど。

 その戦利品を持って、ミレイたちは隠れ家へと向かうことにした。





「……ねぇ、さっきの所だけど。奥に人の骨がなかった?」


「あったわね。ミレイが気づかなくて良かったわ。」




 キララと九条の間に、そんな会話があったとか。













 ブラスターボーイの言う隠れ家。それは、岩陰に大きな布を張っただけの簡易的なテントであり。

 人間的な感性では、とても隠れ家と呼べるような場所ではなかった。


 だがしかし。




「――お姉ちゃーん!」



 岩陰から飛び出してきた1人の少女が、九条に抱きついてくる。 




「ちょっと、今汗がすごいんだけど。」



 そう言いつつも、九条は少女を引き剥がそうとはしなかった。






 少女の名前は、”ティファニー”ちゃんと言うらしい。友達と一緒に異界の門を通り、この世界へやって来て。

 そして、”奴ら”に捕まった。

 この世界では、すでに人間は希少な存在なため。奴らはティファニーちゃんたちをペットとして扱いし、かなり酷い環境で”飼育”していたとのこと。

 所詮は、何の力も持たない子供たちなため。彼女たちの管理はかなり雑にされており。

 隙を見て、彼らの基地を逃げ出した。


 だがしかし。


 ブラスターボーイに保護されたのは、ティファニーちゃん1人だけ。

 他の子供達は、逃亡に失敗した。






「君たちの世界から来た子供たちは、全員、近くの空軍基地に居るはずだ。」


「つまり、敵もそこに居るんだよね?」


「ああ。スケアクロウは倒したから、残りは4体だな。」




 九条とキララ、そしてティファニーちゃんは、九条の髪の毛で遊んでいる。

 それを見つめながら、ミレイとブラスターボーイは今後について話し合う。




「砂漠で、瞳と出会って。君たちの世界について聞いたんだ。人がいっぱい居て、強い奴もいるって。だから応援を呼ぶために、そのゲートを探しに行ったんだけど。」


「……なるほど。」




 スケアクロウとの戦闘の余波で、異界の門は姿を消してしまった。

 結局の所、ミレイとキララという戦力はやって来たものの。空軍基地にいる子供たちを救うには、不安の残る布陣であった。




「できれば、戦いたくはないけど。……子供たちが居るんじゃ、仕方ないか。」


「なら、作戦を考えよう。」




 こちら側の手札や、敵の強さなど。自分たちの持つ情報を出し合って。どうすれば、基地から子供たちを助け出せるのかを話し合う。


 そして、その結果。




 ミレイたちは”今すぐ”に、子供たちの救出に向かう事にした。













「ほら、ティファニーちゃん。これをあげるから、お留守番頑張ってね。」


「わーい、ありがと〜」




 ミレイから、ペロペロキャンディを受け取り。ティファニーちゃんはとても嬉しそうにする。




「お姉ちゃんたちが、友達も全員助けるから。安心してここで待っててね。」


「うん!」







◆◇







 機械生命体は夜間でも視界が良好なため、救助に向かうのなら昼間のほうがいい。また、スケアクロウが倒されたことにより、今現在、向こう側も混乱に陥っている可能性がある。

 それらの条件を考えた結果、子供たちを救助するタイミングは、今をおいて他にないと判断した。


 そのため、ミレイたちは覚悟を決め、敵の占領する空軍基地へと向かうことになったのだが。





「「――50キロ!?」」




 空軍基地までの距離に、一同は愕然とする。




「この猛暑の中の50キロは、流石にキツいわね。」


「……瞳ちゃん、このままじゃ死んじゃうよ?」




 キララの言葉はごもっともであり。

 機械の翼や、フェンリルなどの移動手段もない時点で、ミレイにも厳しいものがあった。




「ブラスターボーイ、車に変形できないの?」


「すまない、俺にそこまでの機能はないんだ。」




 残念なことに。彼に出来るのは、殴ることと、走ることだけだった。




「近くの廃墟に、確か車があったはずだ。動かせるかどうか試してみよう。」



 ブラスターボーイの言葉を頼りに、ミレイたちは近くの廃墟へと向かうことに。









 廃墟に辿り着き。

 確かに、そこには車が存在した。


 だが、




「……賭けてもいいけど、これは動かないと思う。」




 ミレイがそう言うのも無理はなく。

 その車は、車体全てが錆に覆われ、ボディも変形。ドアも、劣化して取れてしまっていた。




「ハンドルが溶けてるわね。」


「これが、この世界の乗り物なの?」




 この砂漠に、50年近くも放置されていた影響だろうか。素人目にも、廃車であると理解できる。




「く、車のキーはどこだろ。」




 100%、動かないと決まったわけではないので。ひとまず、ミレイは車を動かしてみることに。

 だが、そもそものキーすら見つからない。




「エンジンを直結したらどう? ほら、映画でよくあるじゃない。」


「……いや。もうちょっと、”活きの良い車”じゃないと。」




 直結どうこう以前に。この車は、中の配線すらも溶けてしまっていた。




「管理する人間が居ないからな。俺の体も、もうボロボロだ。」




 巨大ロボットですら、放置され続ければガタが来る。


 空軍基地までの移動もそうだが。子供たちを救出した後、大人数での移動を行わなければならない。その際、子供たちに砂漠を歩かせるわけにもいかなかった。

 そういう意味でも、どうにかして車は動かしたい。




「動け、動け。」




 壊れたテレビを直すように、ブラスターボーイが車を叩く。

 そんな様子を、ミレイたちは暑さに耐えながら見つめる。




「ミレイちゃん、なにか召喚してみたら?」


「あぁ、そっか。こっちは真っ昼間だけど、向こうの世界は深夜だもんね。」




 今現在の正確な時間は不明だが、すでに日付が変わっていると仮定して。

 ミレイは黒のカードを具現化。


 この状況を打開するべく、新たなるカードを召喚した。






 3つ星 『デラックスワゴン』


 10人乗り、4WDの大型ワゴン車。カーナビやドライブレコーダーを標準搭載しており、安全性能も高い。






「「おおー!!」」




 砂漠に降り立つ、一台の白いワゴン車。

 ミレイとキララは、たまらず感嘆の声を漏らした。




「ハイエース? ハイエースじゃない!」




 九条も、突如現れた新品の車に驚く。

 ただし、その名前の車ではない。




「すごい! ミレイちゃん、これって動くの?」


「もちのろん! この車なら、子供たちだって乗せられるよ。」




 今までに経験のない、自身の要望に沿ったカードの出現に、ミレイは興奮を隠せない。




「それで、”運転”はできるのかしら。」


「……へ?」




 そんな概念は、ミレイの頭の中にはなかった。













 ブラスターボーイが見つめる中。とりあえず3人は、デラックスワゴンに乗ることに。

 運転席にはミレイが座り、助手席には九条が。ミレイの真後ろの席に、キララが座っていた。




「あれ、キーを差すところがないんだけど。」


「ボタンを押すんじゃない?」


「ああ、なるほど。」




 初めての車に、ミレイは四苦八苦する。




「もっと足を伸ばさないと、ブレーキを踏みながらやるのよ。」


「よしよし。」




 九条の指示に従って。

 ようやく、車のエンジンがかかる。




「おおー」




 ミレイは初体験に興奮し。

 後ろのキララも、よく分からないが楽しくなる。




「エアコンをつけましょ!」



 こなれた手付きで、九条はボタンを操作し。

 車内の冷房が全開になる。




「「おおー!!」」




 それは、言葉にし難い快感であった。

 砂漠の真っ只中、地獄にも等しい環境からの、文明による救済。


 九条は、しみじみとした様子で冷気を噛み締め。

 キララは初めての感覚に衝撃を受ける。


 そして、ミレイは。




「……久しぶりの、エアコン。」



 ハンドルを握りながら、涙していた。








「さぁ、行くわよ! 4WDなら、砂漠だって駆け抜けられるわ!」



「おう!」


「おおー!」




 大興奮のまま、ミレイはアクセルを踏み。




「――あ、ちょっと前。前を見て!」



 そんな、九条の声も虚しく。






 アクセル全開のデラックスワゴンは、廃屋に思いっ切り突っ込んでいき。


 壁をたやすく貫通。


 その衝撃で、廃屋は完全に倒壊した。






「……わたしが、運転するわね。」


「……うん。」




 身長140cmにも満たないミレイには、この車は少々荷が重たく。




「……くるま、こわい。」




 人生で初めて乗った車に、キララは恐怖を刻まれたという。













 廃屋の倒壊に巻き込まれながらも、デラックスワゴンの走行に支障はなく。

 灼熱の砂漠を、白いワゴン車が走る。

 その後ろを追うように、ブラスターボーイが駆けていた。



 車の運転席には九条が座り、助手席にはミレイが。


 そして、”いつでも逃げられるように”。


 キララは屋根の上に座っていた。

 もう絶対に、中には乗らないらしい。






「瞳ちゃん、運転上手いね。」


「まぁ、初心者ではないわね。普段は”舎弟の単車”に乗ってたけど、車の運転も経験があるわ。」


「へぇ〜」




 舎弟の単車。

 普通に生きていれば、決して口にすることのない単語である。




「ミレイは20歳なのよね。免許は取らなかったの?」


「あー、うん。職場が家から近かったし。……あと、背も低いから。」




 そういった理由で、ミレイは免許を取りに行かなかった。

 結果として、キララにトラウマを刻んでしまったが。





「そういえば、さっきちょろっと話してたけど。ここって、”地球”なの?」


「そうらしいわね。50年前の戦争で、人類は絶滅しちゃったみたいだけど。」




 2人は、この世界について話す。




「空から、機械生命体がやって来て。人類に味方をしたのが、ブラスターボーイの所属する”セルシアス”。敵対したのが、”カーメル”っていう連中らしいわ。あのスケアクロウも、カーメルの一員ね。」


「それで、人類滅亡かぁ。」


「……ひどい話よ。こういうSFモノの映画だと、大抵は人類側が勝つけど。この世界は、そうじゃなかったみたいね。」





 ミレイと、九条。

 それぞれの居た地球とも、まったく異なる歴史を歩んだ世界。




 ここは、もう救いのない世界。

 結末を迎えた世界だった。





「ブラスターボーイは、どうしてこの星に残ってるんだろう。他のセルシアスは、みんなこの星から離れたのに。」


「……難しいのよ。人間と一緒ね。」





 壊れた世界に、1人残り。

 50年経った今でもなお、ブラスターボーイは人間の味方をしている。


 そんな彼の意思は、ミレイたちには分かりようもなかった。






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