わーるどえんど・あふたー
「俺様のペットにしてやるぜ!!」
巨大ロボットが、そう口にした瞬間。キララはその本質が、”悪”であると認識し。何を考えるよりも早く、弓を構え。
破壊力を秘めた、魔法の矢を放った。
一瞬の内に、5本近く放たれた矢は。
その全てが、ロボットに命中する。
だが、
「――いってぇなぁ!」
衝撃の後。矢の直撃を受けたロボットは、”ほぼ無傷”に近く。
サビだらけの装甲に、微かに傷がついた程度だった。
それでも、キララの攻撃に苛立ちを覚えたのか。
「その腕よこせや!」
背面にあるブースターを全力で吹かし、急加速。刃物のように鋭い爪で、思いっ切りキララに斬りかかる。
優れた反応速度で、キララはロボットの攻撃を回避するも。
ロボットも一手では諦めず。その巨体をもって、執拗にキララを追い回す。
「……速い。」
キララとロボットの攻防を、ミレイは驚きと共に見つめる。
自身も援護しようと、その手に”聖女殺し”を具現化するものの。双方の動きが速すぎて、迂闊に手を出すことが出来ない。
ロボットの攻撃を回避し、合間に魔法の矢を放つ。
そのさなか、キララはミレイの意図を理解し。
鋭い魔法の矢を、ロボットの顔面に命中させる。
「ミレイちゃん!」
「よしっ!」
顔面に攻撃を受けたことで、ロボットの動きが僅かに止まり。その隙に、ミレイは聖女殺しを起動。
漆黒の斬撃を、ロボットに向けて解き放つ。
顔面を押さえるロボットに、その斬撃を避ける暇はなく。
斬撃をもろに食らい、両手首が綺麗に切断される。
「うおぉぉおお!! 俺様の腕が!?」
両手首を切断されたことで、ロボットは叫び声を上げ。
酷く憎しみを込めた視線で、ミレイを睨みつける。
「テメェ、ミンチにしてやるッ!!」
手首を失った両腕を、ミレイに向け。すると、そのまま腕の形が変わっていき。
それぞれの腕が、”銃口”のような形になる。
ロボットは、それを躊躇なく発砲し。
丸ノコのような弾丸、”ディスクブレード”が放たれる。
「ヤバっ。」
咄嗟に、死を予感し。ミレイはフォトンバリアを展開しようとするも。
それよりも早く、背中の両翼が反応し。
盾のようにミレイを包み、放たれた刃から防御する。
だが、その勢いまでは殺しきれず。着弾の衝撃で、ミレイは吹き飛ばされた。
「ミレイちゃん!!」
動揺するキララに対し。
即座に、ロボットが銃口を向ける。
「テメェも死んどけ。」
完全に無防備になったキララに、鋭い刃が放たれる。
その刹那、
――地上から飛来した、巨大な”黄金の毛糸玉”が。ロボットの体に直撃する。
金属同士がぶつかったような、重い衝撃音が鳴り響き。
ロボットは僅かによろめいた。
「……なんだ?」
衝突の威力自体は、それほど大きくなかったものの。
黄金の毛糸玉は、空中でその姿を変え。
無数の糸となって、ロボットの体に纏わりつく。
「う、動けねぇ。」
”黄金の髪の毛”は、ロボットの動きを止め。
その中から、髪の毛の主である、”九条瞳”が姿を現す。
「――さぁ、落ちるわよ!」
髪の毛が、背面のブースターに干渉し。
飛行能力を破壊。
九条に巻き付かれたまま、ロボットは地上へと落下していく。
「おおぉぉっ!」
飛行能力を失ったロボットは、重力に抗えず。
九条は髪の毛を解くと、落下するロボットから距離を取り。
大量の髪の毛を”パラシュート”のような形に変化させ、ゆっくりと降下する。
勢いそのままに。
巨大ロボットは、砂漠へと墜落した。
凄まじい衝撃で、砂塵が舞う。
「クソッタレめッ。」
悪態をつきながら、ロボットはゆっくりと立ち上がる。
落下した程度では、さしたるダメージもない。
だが、
立ち上がろうとするロボットの前に。
もう一体、別のロボットが立ちふさがる。
剥げと錆が目立つボディに、根本から失われた右腕が特徴的な、”黄色のロボット”が。
「テメェ、ブラス――」
その名を呼ぶ前に、黄色のロボットが刃のロボットをぶん殴り。
思いっ切り、吹き飛ばされる。
ボロボロで右腕も失っているものの、その力は健在であった。
「”スケアクロウ”。お前は俺が倒す!」
堂々と、啖呵を切る黄色のロボットの側に。
髪の毛をパラシュート状態にした九条が着地する。
「作戦成功ね!」
「ああ、だが油断は禁物だ。」
「分かってるわ。」
九条と黄色のロボットは共闘しているのか。
ぶん殴られた刃のロボット、”スケアクロウ”が立ち上がる。
「おうおう、”ブラスターボーイ”。まーだこの星に居やがったか。」
「当たり前だ! 人類を守るのが、この俺の使命だからな。」
「ご自慢のブラスターも無しで、吠えてんじゃねぇ!!」
スケアクロウが、両腕からディスクブレードを発射する。
黄色のロボット、ブラスターボーイは、横にローリングすることで回避し。
九条は髪の毛をシールド状にして防御する。
「くっ、地上でもまぁまぁ強いわね。」
ブラスターボーイは、片腕で武器も持たず。
九条も、敵の猛攻に防御姿勢を取るしかない。
スケアクロウを打破するには、致命的に攻撃の手が足りなかった。
「ミレイちゃん、大丈夫っ!?」
ディスクブレードの直撃を受け、吹き飛ばされたミレイのもとに、キララが跳んでくる。
「い、生きてる生きてる! わたしはいいから、向こうを手伝ってあげて!」
砂丘のど真ん中でひっくり返りながらも。幸運にも、ミレイに大きな怪我はなかった。
「……うん、分かった。」
ミレイのことは心配だが、向こうの戦いも熾烈なため。
九条たちに参戦するべく、キララは跳んでいった。
ゆっくりと、ひっくり返ったミレイが姿勢を正す。
「死ぬかと思った。」
『ミレイ、フェイトを召喚したらどうだ?』
「……うん、それは分かってるんだけど。」
サフラの指摘に、ミレイは苦笑いする。
「呼べないんだよね。」
『……何故だ。』
「多分だけど、向こうの世界で召喚してるから、だと思う。フェンリルとパンダも、さっきから呼ぼうとしてるけど。」
『……世界をまたぐと、繋がりが薄れるのか。』
本来ならば、遠方にいるフェイトも強制的に召喚することが可能である。
だが、世界単位で離れていては、流石にカードの力も届かないのか。
フェイトやフェンリルなど、主力を召喚すること出来ない。
このタイミングで発覚した、ミレイの致命的な弱点である。
悪いことが重なるように、機械の翼から黒煙が発生した。
◇
ブラスターボーイと九条に向かって、スケアクロウがディスクブレードを発射し続ける。
その猛攻で、彼女たちを圧倒していたが。
ついに、”弾切れ”が訪れる。
「マジか!?」
その隙を、九条は見逃さず。
走って接近すると。
髪の毛を操作し、スケアクロウの動きを止める。
髪の毛に雁字搦めにされ、動けないスケアクロウに、ブラスターボーイが近づき。
その残った左腕で、思いっ切りぶん殴る。
重厚な金属音が鳴り響き。
何度も、何度も。
長年の恨みを晴らすかのように、タコ殴りにする。
だが、スケアクロウも、やられっぱなしではなく。
「こんの野郎どもッ!」
「きゃっ。」
脚部の補助ブースターを全開にし、無理矢理に上昇する。
九条をも巻き込みながら。
「マズい!」
そのまま飛行しようとするスケアクロウに、ブラスターボーイは攻撃する術を持たず。
絡みついた九条もろとも、空へ向かって上昇していく。
「ヘヘッ。1人ずつ、なぶり殺しにしてやる。」
「くっ。」
ゆっくりと上昇しながら。
機械関節を駆使して、スケアクロウは九条を離さない。
どうやって殺そうか。
そう考えるスケアクロウであったが。
空気を引き裂きながら。
遥か遠方から、超高出力の”魔法の矢”が飛来し。
「――ガッ!」
その胸を、一撃で穿たれる。
「……ふぅ。」
今のキララに出来る。
正真正銘、”全力の一撃”であった。
自分が、何に攻撃されたのかも分からず。
スケアクロウは地面に墜ちる。
人知を超えた、巨大人型ロボットではあるが。
流石に胸部を穿たれては、その生命も風前の灯火であった。
「……人間ごときに、この俺様が。」
砂の上で、スケアクロウは必死に足掻くも。
両手首を失った状態では、砂を掴むことすら叶わない。
そこへ、九条が近づいていき。
髪の毛を巨大な拳に変え、殴ろうとするものの。
ブラスターボーイが、左手で制す。
「……いいんだ、もう。」
「そう。」
苦しみ、足掻き。
1人と1機に看取られながら。
スケアクロウは息絶えた。
◆
翼がオシャカになったため。
キララに抱えられる形で、ミレイは九条たちのもとへと向かう。
空を飛んだ状態で、ミレイを抱きかかえて。キララは妙に嬉しそうにしていたが。
その理由は、ミレイには分からなかった。
九条も、人間の中では非常に目立つ存在だが。
ブラスターボーイ、巨大な人型ロボットと比べては、流石にインパクトが落ちてしまう。
巨大空中戦艦や、パワードスーツはお目にかかったことがあるが。
人の言葉を話すロボットは、ミレイも会うのは初めてだった。
キララと共に地面に降り、その巨体を見上げる。
「助かったよ。君たちの力添えが無かったら、スケアクロウを倒すことは出来なかった。」
「いえいえ。」
片腕のない傷だらけのロボットだが。
思いの外、少年のような声に、ミレイは驚く。
「俺はブラスターボーイ。この星に残る、最後の”セルシアス”だ。」
「あ、どうも。わたしはミレイです。一応、人間です。」
「キララです。」
相手が機械なら、男っぽくても平気なのか。キララも普通に挨拶を交わす。
「それにしても貴女たち、こんな所で会うなんて奇遇ね。」
「……そうかな。」
そもそも、九条を探しに来たのだから。
奇遇も何も当然である。
「瞳ちゃん、何がどうなってるの?」
ブラスターボーイやスケアクロウなど、このロボットたちは何者なのか。
どうして、九条は共闘していたのか。
諸々の理由を聞こうとするも。
そこに、ブラスターボーイが割って入る。
「再会のところ悪いが、ひとまずここを離れよう。今の戦闘で、”他の連中”に気づかれた可能性がある。」
「……え。ああいう感じの敵が、他にも居るってこと?」
「ああ。この星に、もうそこまでの勢力は残っていないが。この近くの基地に、少なくとも4~5体は居るはずだ。」
「……マジか。」
一体倒すだけでも、かなりの苦戦を強いられた相手である。
キララの全力を持ってして、ようやく打倒することが出来るほどの。
それが複数体ともなれば、敗北は必至である。
もしも、戦う必要があるのなら。
こちら側も、”チート級の戦力”を動員しなければならない。
「とりあえず、向こうの世界に戻ろっか。」
「そうだね〜」
行方不明者の捜索など、この世界でやるべきことは残っている。
だが、危険な殺人ロボットの徘徊する世界を、今の面子で探索するのは自殺行為である。
最悪、フェイトだけでも連れてこようと。
異界の門へ戻ろうとするも。
「……ん?」
周囲を見渡して。
あの特徴的な光の輪っかが、どこにも見当たらないことに気づく。
「んんんんー!?」
◆◇
◇◆
50年前。
まだ、この世界に人類が存在していた時代。
「君の故郷は、どこにあるんだい?」
1人の黒髪の青年と。
銃のような右腕を持つ、黄色のロボットが。
丘の上に座り、美しい星空を見上げていた。
「俺の生まれた星は、とうに滅びてしまった。だから今は、ここが新しい故郷だ。……この星、”地球”が。」
「そうか。」
種族も、大きさも関係ない。
彼らは同じ空を見つめ、同じ感情を共有していた。
この先に待つ困難も、手と手を取り合えば、必ず乗り越えられる。
そう信じて。
だが、しかし。
その後、地球は機械生命体による宇宙戦争に巻き込まれ。
人類は滅亡した。