触手少女 × 不良少女
感想等、ありがとうございます。
「今日もいい天気。」
朝。
ギルドの運営する宿舎、その女子寮にて。
女子寮の管理人でもある、フェアリー族の受付嬢、シャナが。心地の良い朝日を拝んでいた。
すると。
「あら、おはよう。」
「イーニアさん? おはようございます。」
その女子寮に、イーニアがやって来る。
Sランク冒険者であるイーニアは、特別待遇を受けており。他のメンバーとは違う、個別の物件を与えられていた。
「どうかしましたか?」
「別に。ここにみんなが居るって聞いたから。」
「はい。昨日から入室されてます。」
「ふーん。」
”自分以外の全員”が、この女子寮で暮らしている。その事実に、イーニアは少し、思うことがあった。
まぁ、決して口には出さないが。
「ミレイの部屋はどこかしら。あいつ、朝弱いから。ちょっと心配なのよね。」
「なるほど。すぐに案内しますね。」
シャナの案内を受けて。イーニアは女子寮へと入っていった。
◇
可愛らしい、森の妖精の後を追って。イーニアは女子寮の廊下を進んでいく。
壁や天井など、インテリアが気になるのか。チラチラと見つめていた。
「案外、綺麗なのね、ここ。」
「ふふっ、ありがとうございます。実は、わたしが毎日掃除してるんです。」
「精が出るわね。」
ギルドの仕事だけでなく、この女子寮の管理まで。小さいフェアリー族ながら、シャナの受け持つ仕事量は凄まじかった。
「……ほんと、悪くないわ。」
みんなが暮らす女子寮を。イーニアは少し、羨ましそうに見つめていた。
「こちらが、ミレイさんとキララさんのお部屋となります。」
とある一室の前まで、イーニアは案内される。
「ありがとう。」
「いいえ。ではまた、ギルドでお会いしましょう。」
そう挨拶し。一足先に、シャナはギルドへと向かった。
部屋の前に、イーニアは1人残される。
しばしの間。無言で扉を見つめていたものの。意を決して、軽くノックをしてみる。
だがしかし。返事はおろか、何の反応もない。
間をおいて。もう一度ノックしてみるも。やはり反応はなかった。
「……あぁ、もう。鍵貰ってないのに。」
起こしに行こうにも、部屋に入る手段が無い。
少々苛つきながら。イーニアは、雑にドアノブをねじり。
すると、普通にドアが開いてしまう。
「……鍵は?」
いくら女子寮とは言え。2人の危機意識の低さに、イーニアは少し心配になった。
とはいえ、これで障害はなくなり。ミレイを起こすべく、イーニアは部屋へと入っていく。
シンプルなデザインとは言え、白を基調とした、清潔感のある内装。二人部屋だからか、宿舎の部屋とはいえ、かなり中は広めである。
昨日今日の入室なため、部屋には特に見るものもなく。寝室であろう、奥の部屋へと向かう。
奥の部屋には、ベッドが2つ置いてあり。一応、2人はそれぞれ別のベッドで眠っていた。その事実に、とりあえずイーニアは安心する。
(……熟睡中。)
ミレイのベッドの周りには。彼女のアビリティカードであろうか。若干の魔力を放つぬいぐるみが、いくつか散乱していた。
その他にも、自律型のカードを何体か”放し飼い”にしているのか。尻尾の燃えるネコ、ヒニャータが。イーニアの足に体をこすらせる。
小型犬モードのフェンリルは、ベッドの真横で眠っていた。
(パンダは居ないのね。)
内心、そう思っていると。
重い音。
何かが、思いっきりぶつかったような。凄まじい衝撃音が、窓の外から聞こえてくる。
何事かと。窓の外に目を向けてみると。女子寮の庭に、パンダが仰向けでぶっ倒れており。
その、すぐ近くには。拳を前に向ける、ソルティアの姿があった。
「……あんな特訓、絶対にイヤだわ。」
絶対に、あいつらの特訓には参加しない。自分のお腹をさすりながら、イーニアはそう決心した。
「……うぅん?」
今の音で、目が覚めたのか。ベッドで寝ていたキララが、ゆっくりと体を起こす。
「……イーニアちゃん?」
「ええ。おはよう、キララ。」
寝起きのキララと話す。
「ギルドの仕事に遅れるから、そいつを起こしに来たわ。」
「あぁ、なるほどねぇ。」
キララは、ゆっくりとベッドから起き上がり。
「ねぇ、ミレイちゃん。起きよ。」
眠っているミレイの体を揺する。
だがしかし、まるで起きる様子はない。
「……これ、起きないかも。」
「嘘でしょ?」
埒が明かないと判断し。
イーニアは寝ているミレイに近づくと。ぺちぺちと、軽く頬を叩いてみる。
「ほら、起きなさい! 仕事に遅れるわよ!」
そう声をかけるも。
眠り姫には届かない。
「ちょっとサフラ。貴方なら起こせるんじゃないの?」
その呼びかけに応えてか。にょろっと、ミレイの首筋から、白い触手が伸び。イーニアの手に触れてくる。
『……無理だ。』
テレパシー的なサフラの声が、イーニアの頭に響き渡る。
「じゃあ、どうすればいいのよ。」
「とりあえず、一緒に着替えさせよっか。」
「嫌よ!」
その後、色々と策を講じるも、ミレイはまったく目を覚まさず。
結局、キララの提案に乗ることに。
(……あぁ。)
寝ている他人の着替えを。
イーニアは、生まれて初めて経験した。
◆
ギルド本部、1番窓口にて。
昨日と同様に。サフラとミレイが協力して、魔水晶で仕事をこなしていく。
――シュババババ。
サフラもコツを掴んだのか。昨日以上のペースで、世界中から送られてくる案件に対処する。
「……わたし、何時からここに居るんだろう。」
ミレイは、寝起きでぼんやりとしつつも。魔水晶の操作に、必要な魔力を捻出した。
「ニョロニョロ、今日も凄いわね。」
「ええ。」
1番窓口で奮闘する、ミレイたちの後ろ姿を。受付嬢のリリエッタと、イーニアが見つめる。
得体の知れない白い触手。それに、最初はみんな驚いたものの。とにかく”仕事が速い”ため、自然と受け入れていた。
見た目よりも、大事なのは性能である。
「あれって、別に病気とかじゃないのよね?」
「もちろん。あいつは、望んで寄生されてるのよ。」
「……随分、変わってるのね、彼女。」
「そうね。」
可哀想だから。生きたいと願ったから。だからといって。得体の知れない存在を、体内に受け入れることが出来るのか。イーニアには、理解ができなかった。
「……わたしも、不思議に感じてるわ。」
その、わずか一点だけではあるが。
”あいつも大人なんだ”、と。
ほんの少し、イーニアは悔しく思っていた。
◆◇
「……み、水を飲みまーす。」
ほぼ全ての作業を、サフラに任せつつ。1番窓口を担当するミレイ。
そこに、1人の人物が襲来する。
「――あぁ! なんてこと。これまさに運命だわ!!」
「うぉ。」
目の前に現れた、特徴的な金髪縦ロールの髪の毛に。思わず、ミレイは声を漏らす。
相変わらずの物凄い毛量。ミレイの記憶の中に、こんな見た目をした生き物は1人しか居ない。
「えぇっと。”九条瞳”さん、だっけ?」
「ええ、その通りよ!」
魂の奥底から、自信が湧き出ているかのように。異様に高いテンションで。九条は、その美しい容姿を見せつける。
「……ギルドに、何の用でしょうか。」
数日ぶりに出会った珍獣に。とりあえずミレイは、営業スマイルを浮かべた。
◇
「冒険者登録?」
「ええ。この世界で生きるには、色々と実入りも必要だから。ここは一つ、冒険者の頂点を目指そうと思って。」
「……なるほど。」
1番窓口にて、ミレイは九条瞳の冒険者登録を担当することに。
他の仕事は、全てサフラがこなしてくれるため。よそ見も問題なしである。
「ここまで、どうやって来たの?」
「もちろん馬車よ。ゴブリンたちと仲良くなって、帝都まで送ってもらったの。」
「へぇ。それは良かった。」
スタンネルンで会った時は、突如消え去ってしまったため。その後を心配していたが。
何とか丸く収まったようで、ミレイは安心する。
「登録する名前は、クジョウヒトミで合ってるよね?」
「ええ。」
「年齢は?」
「18よ。」
「……なるほど、2つ年下か。」
綺麗な容姿に、大人びた佇まい。
自分との差に、ミレイは悲しくなる。
「ということは、貴女は16歳なの?」
「いいや、逆逆。わたし、これでも20歳。」
ペラッペラな胸を叩きながら。自らが年上であることを主張する。
「……流石は、異世界ね。」
「……いや、日本人です。」
「うそ!?」
異世界ファンタジーではない。ミレイは、正真正銘の地球産であった。
「まさか、こんな異世界で同胞に会えるなんて。その触手が貴女の”異能”かしら。わたしとお揃いね。」
九条は、ミレイのことを同胞であると判断し。それで気を良くしたのか。
長ったらしい金髪で、ミレイのことをつんつん触ってくる。
「いや、何というかこれは。寄生されてるだけなんだけど。」
「……何を言っているの?」
その疑問も、ごもっともである。
「えっと。瞳ちゃんのアビリティカードは、”髪の毛を操る能力”、でいいんだよね? それで登録しちゃうけど。」
「いいえ? わたしのアビリティカードは別だけど。」
「え?」
「ん?」
お互いに、その違和感に気づく。
「あっ、なるほど。貴女はもう20歳だから、異能は使えないのね。わたしは”卒業式”に出なかったから、まだ異能が使えるのよ。」
「……はあ。」
九条はひとりでに納得するものの。ミレイは、まるで理解が出来ない。
「君、本当に日本人?」
たまらず、そう問いかけた。
――いわく。
その世界では。中学に入学して暫く経つと、大半の子どもたちが、”異能”に目覚めるという。
異能に目覚めることが出来るのは、その世界でも限られた者たちだけ。”日本の中高生”のみが、広い世界の中で唯一異能に目覚め。高校の卒業式を経ると、自然と異能は失われる。
そのため、彼らの持つ異能は、世界的には”特殊な病”であると扱われ。政府による厳しい管理が行われていた。
許可のない使用も、もちろん禁止であり。異能を確実に失わせるために、卒業式への参加も義務付けられている。
そんな世界で。社会からの圧力に反逆し、恐れず異能を行使する者を”ツッパリ”と呼び。卒業式に参加せず、異能を保持し続ける者の事を”ダブり”と呼んだ。
ツッパリに関しては、若気の至りということもあり、ある程度は黙認されているものの。異能を持ったまま大人になるダブりは、完全に違法とされていた。
ダブりとなった者は警察に連行され。翌年の卒業式まで拘束される。
そして、異能を失っても。ダブりであった者は、その後も重い罪に問われ続ける。
異能者は病気。
社会の秩序を守るため、厳しく管理しなくてはならない。
九条瞳は、そんな世界からやって来た。
「ふぇ〜 じゃあ瞳ちゃん、めっちゃ不良じゃん。」
「ふふ。そう言われるのにも馴れたわ。誰に何と言われても。わたしは、この生き方を貫くって決めてるから。」
彼女の選んだ生き方は、決して楽な道のりではない。
ツッパリ、ダブりとなった時点で、社会には否定され。警察や、その”協力者”たちに追われることになる。
彼女と共にこの世界に来た、”七瀬奈々”も。九条を捕えようとする者の1人である。
だが、それでも。彼女はあくまでもツッパリとして生きる道を選んだ。
社会に認知されない、”異能者”として生きる道を。
「いいんじゃない?」
そんな彼女を、ミレイは笑顔で受け入れる。
「そっちの世界のことは、よく分かんないけど。わたしはカッコイイと思うよ。」
「そう?」
「うん、もちろん! ”同じ冒険者として”、これからよろしく。」
どんな世界、どんな存在なのかは関係ない。
この世界で暮らす、”新たな仲間”として。
ミレイは、九条瞳を歓迎した。
◇
「ふふっ。このわたしに、相応しいクエストを見繕ってもらおうかしら。」
「うん、いいよ〜」
新しく発行された、Fランクの冒険者カードを。九条はどこか自慢げに掲げ。そんな彼女に、ミレイはクエストを見繕うことに。
「サフラ、なんか良いのある?」
『検索しよう。』
他の仕事の片手間に。膨大な依頼の中から、サフラが条件に合った依頼を探し出す。
暫く経つと。ディスプレイの中に、いくつかの依頼が列挙され。ミレイは、その中から良さそうなものを選ぶ。
「えっと。……”ペットの捜索依頼”とか、どう?」
「……それしか、ないのかしら。」
「あー、うん。……そだね。」
Fランク冒険者に任せられるクエストは、非常に種類が限られており。その限られた依頼の中でも、特に”捜索関連”の依頼が多かった。
「いやでも、凄いよ? 帝都だけでも、”100件近い捜索願”が出てる。」
「……飼い主は、どんな管理をしてるのかしら。」
色々と、疑問は有るものの。
仕方がないので、九条はペットの捜索依頼を受けることにした。
”ペットが消える理由”。
それを、深く考えることもなく。
◇ 57日目のガチャ
1つ星 『歌ガエル』
美しい音色を奏でるカエル。何匹か集まれば、綺麗な合唱団となる。
ミレイ「……最近、こんなのばっかだな。」
とりあえず、窓口に置いておいた。




