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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
69/153

過失100パーセント






「やったわね、ギルバート。」


「あぁ。」




 後に、魔水晶の部屋と呼ばれることになる場所で。

 タバコを吸いがちな受付嬢、”サーシャ”と。ギルドの最高責任者である”ギルバート”が、感慨にふける。



 部屋中の壁に置かれた、50個にも及ぶ特注の魔水晶たち。



 これこそが。

 世界中のギルドを一つに繋げる、”魔導ネットワーク”の中枢部である。




「これで、お前たちの業務を大幅に減らせるはずだ。」


「ええ。まさに革命ね。」




 世界中から依頼されるグローバルクエストや、冒険者一人ひとりの情報。

 今までは、その全てを帝都のギルド本部で処理する必要があり。20人以上の受付嬢が、超絶ブラックな激務を毎日のようにこなしていた。

 しかし、この50個もの魔水晶によって。世界中のギルドから送られてきた情報が、自動的に処理される。


 今まで、受付嬢たちを苦しめていた業務の大半が、ついに自動化されたのである。






 それが、およそ半年前の話。






 その間、システムは問題なく稼働。


 20人以上居た受付嬢たちも、大半が別の職場に転職していき。

 今となっては、ギルド本部の受付嬢は”わずか5人”にまで減ってしまった。


 だがそれでも。

 自動処理システムのお陰で、ギルドの業務は円滑に回っていた。




 このシステムが、あるからこそ。













「……あれ、なんで。」




 その影響は、すぐに出始めた。




「ねぇ、ちょっと。あたしの方によそのクエストが回ってきてるんだけど!」


「わたしの方にも来てるわ。」




 帝都、ギルド本部にて。

 各々の窓口で仕事をする受付嬢たちの魔水晶に、”来るはずのない仕事”が舞い込んでくる。




「これって、わたしたちの仕事じゃないはずよね?」


「で、でも。これってやらないと、マズいやつじゃ。」




 各ギルド間の手続きや、クエスト情報、冒険者情報の更新など。半年前までは、彼女たちが自力で行っていた業務である。

 ただし、その時は20人以上のスタッフが居り。それに対し現在は、わずか5人だけ。

 とても、以前のような体制で業務をこなせる人数ではなかった。







「なんだか、騒がしいわね。」


「ね〜」



 フェイトやキララたちのもとにも。ギルド側の困惑した雰囲気が伝わってくる。


 明確な、非常事態であった。












「お前たち、何をしたんだ。」




 銀髪の男。この街のギルドマスターである、ギルバートは。部屋の惨状に、ただただ立ち尽くす。


 壁に置かれていた魔水晶は、およそ半数近くが落下し。粉々に砕け散っていた。

 そうなってしまえば、中に込められていた魔力も、術式も、全てが無に等しくなる。



 それを成した張本人。ミレイとイーニアは、揃って顔面蒼白になっていた。


 Sランク冒険者ということもあり。イーニアは、何とか言い訳を考えようと、頭を回転させていたが。




「……あの、その。ぶつかっちゃって。」


 腐っても、社会人なミレイは。自らの100%の過失を認め。




「本当に、すみませんでした!」


 頭を下げ、謝罪する。




「……ご、ごめんなさい。」


 それにつられて、イーニアも謝った。





「チッ。」



 少なくとも、見た目だけは、10歳程度の少女が2人。

 この惨状に。本来ならギルバートも、死ぬほどの怒号を浴びせたかったが。ギリギリの瀬戸際で踏みとどまる。




 双方にとっても、最悪の空気。

 地獄のような沈黙が、僅かに続き。




「――ギルバート。」



 それを打ち破るように。魔水晶の部屋に、タバコの受付嬢、サーシャがやって来る。




「何があったの?」


「どうやらこのガキどもが、魔水晶をぶち壊したらしい。」


「……なるほどね。」




 サーシャは、フリーズ中の2人を見る。




「物理的な脆弱性を、もっと想定しておくべきだったわね。」


「……それは、確かにそうだが。」




 魔水晶が壊れたのは。確かに、ミレイとイーニアの、ちょっとした”おふざけ”の結果である。

 その被害は、現在進行系でギルドに絶大なダメージを与えているが。

 裏を返せば。少女が小突いた程度で、致命的な損害を受けるほど。ここのシステムが脆弱だった、ということである。




「とりあえず、見てみましょう。」


「……はぁ。」




 ギルバートは、その怒りを鎮め。破壊されたシステムの確認をし始めた。











「おい、下手に触れるなよ。怪我でもされたら面倒だ。」



 ギルバートに、そう釘を刺され。ミレイとイーニアは、部屋の隅っこで縮こまる。




「それにしても、ものの見事に破壊されたな。」


「ええ。」




 ギルバートとサーシャは、砕けた魔水晶をかき集め。崩壊した術式と、残ったシステムの現状を冷静に分析する。




「それにしても、なぜあんなガキどもを上に通した。」


「あなたが呼んだんじゃない。この街の防衛を担う、Sランク冒険者よ?」


「なに?」




 ギルバートは、ミレイとイーニアの方を見る。

 どう考えても、街の防衛を任せられるような実力者には見えない。

 親に叱られ落ち込んだ、ただの子どもである。




「どっちがSランクだ。」


「ピンクの方よ。」


「なら、白い方は?」


「お友達。」


「……なるほど。」




 ギルバートは、深々とため息を吐いた。




「おい、お前たち。ここが重要な場所だとは思わなかったのか?」


「……すみません。」



 返す言葉もなく、ミレイは平謝りする。





「それに貴女たち、なんか臭くない?」




――かあぁ。




 この事は墓場まで持っていこう。

 顔を真っ赤に染めつつ。2人は静かに、そう決心した。









「……壊れたのは20個ほどか。」


「ええ。ネットワーク自体は、かろうじて機能してるけど。自動処理システムが完全に死んでるわ。術式を組み直すのに、かなり時間がかかりそうね。」




 大まかな被害状況が判明し。ギルバートとサーシャは、そのダメージに頭を抱える。




「クソッ、ただでさえ仕事が山積みなんだぞ?」


「……設計は、一応頭に入ってるから。修復はわたしがやるわ。」


「下の業務はどうするつもりだ。あいつら4人では、とても回らないだろう。」


「そうね。正直、ほぼ地獄みたいなものだけど――」




 話の流れで。サーシャは、ミレイとイーニアの顔を見る。




「――貴女たち、魔法は使える?」




 今は、まさに猫の手も借りたい状況であった。













 ひとまず幸運だったのは。”子供用サイズの制服”があったことだろう。




「――というわけで、上の自動処理システムが故障したから。この2人を戦力に加えて、出来る所まで頑張りましょう。」




 ギルド本部、地上館にて。

 5人の受付嬢たちの中に、同じ制服を着たミレイとイーニアが混ざる。




「ほら、2人とも。自己紹介して。」


 サーシャに促され。2人は自己紹介をすることに。




「Sランクのイーニアよ。魔法の腕前は、ぼちぼちってところかしら。」


「ミレイです。魔法は、えっと、……ほんのちょっとだけ使えます。」




「……ということだから。まぁ、一緒に頑張ってあげて。」




 続いて、受付嬢たちも自己紹介をしていく。




「わたしは”サーシャ”。一応、この中じゃリーダー的なのをやってるから。ギルバート、……ギルドマスターに要件がある時は、わたしを頼ってちょうだい。」


 自分たちで会いにいくのは億劫であろう、という意味である。




「わたしは、”シャナ”と言います。とにかく、一緒に頑張りましょう。」


 2番窓口の担当者。可愛らしいフェアリー族の受付嬢が挨拶をする。




「わたしは”ナナリー”。……ギルマスに怒られたのはドンマイだけど。まぁ、仕事は笑顔でお願いね。」


 主張の強い胸部と、肌の露出が目立つ。銀髪の受付嬢。




「わたしの名前は”リリエッタ”よ。分からないことがあったら、わたしたちに何でも聞いてね。」


 ゴブリンと人間のハーフであろうか。エルフ耳が特徴的な、優しげな受付嬢。




「あたしは”タバサ”。子供だからって容赦はしないから、覚悟しなよ。」


 最後に、ボサボサの青髪が目立つ、ボーイッシュ系受付嬢が挨拶をした。





 彼女たちが、わずか5人でこのギルドを切り盛りする、”エリート受付嬢”である。





「とりあえず、時間もないから。早速2人には、魔水晶の使い方から教えていくわね。」



 未処理の仕事が山のように押し寄せているため、自己紹介は早めに済ませ。

 ミレイとイーニアは、サーシャに仕事を教えてもらうことに。







 サーシャの持ち場である、1番窓口へ行き。2人は、魔水晶の操作を教わる。




「2人とも、魔水晶を使った経験は?」


「何度もあるわ。」


「わたしは、無いです。」




 主に、余所との通信で使うことの多かったイーニアと。触ったことすらないミレイ。




「まぁ、とりあえず。2人の業務用アカウントを作るから、ちょっと待ってて。」




 そう言って。

 サーシャは魔水晶に手を当て、魔力を注ぐ。


 すると、半透明の映像が水晶玉から浮かび上がり。

 魔力を帯びた指先で、その画面を操作していた。




(……すごい。空中ディスプレイなんだ。)



 魔法というよりも、SFに近い現象にミレイは感動する。



(パソコンと違ってキーボードが無いから。指先の魔力で、直接信号を送ってるのかな?)



 自分なりに、ミレイは魔水晶の仕組みを理解していった。





「2人とも、魔力認証で入れるようにするから。軽く指先に魔力を纏わせて、魔水晶に触って。……あんまり強すぎると、中の魔法が壊れちゃうから。そこは気をつけてね。」



「わかったわ。」


「了解です。」




 指示通りに、イーニアは指先に軽く魔力を纏わせる。

 よどみなく、形状も真っ直ぐである。


 ミレイも、同様に指先に魔力を込め。その気合いの割には、微妙な量の魔力が生じる。

 出力も形状も、まるで制御が出来ていないが。




(……なるほど。確かに、魔力を引き出すことは出来てるわね。)


 サーシャは、2人に最低限の素質があることを確認する。



(イーニアに関しては問題ないけど。……ミレイの方は、ちょっと難しそうね。)




 2人の素質を見て。”どの程度の業務”を任せるべきか、サーシャは思考した。




 2人は、順番に魔水晶に触れて。操作に必要な、業務用アカウントを作成し終える。


 そして、





「これで貴女たちも、アクセスできるようになったから。」




 どこから引っ張り出してきたのか。2冊もの分厚い本を、サーシャは机の上に置いた。




(……これは。)


 ミレイは、その本に見覚えがあった。

 この世界に初めて来て。ジータンの冒険者ギルドに行った際。ソルティアが目の前で読んでいた、”業務用マニュアル”である。




「本当なら、これ全部丸暗記して欲しいけど。流石に時間がないから――」



 サーシャはマニュアルを開き、適切な範囲を考える。



「――ミレイは、1ページから88ページまで。イーニアは、200ページから340ページの内容を覚えてちょうだい。」



 それぞれの業務に、必要なページを伝えた。



「それじゃ、後は頼んだわよ。一通り内容を理解したら、誰か他のメンバーに声をかけて。実際に仕事を割り振ってもらうから。」


「わ、わかりました。」




 2人に指示を与えて。

 サーシャは、その場を後にした。













 取り込み中、という看板が貼られ。封鎖された1番窓口にて。




「ああああぁぁ!!」




 業務用マニュアルを前に。イーニアは、溜まりに溜まった鬱憤を吐き散らかす。




「なんで、こんな事にぃ。」




 己の中のプライドや、責任感。その他諸々が暴れまわり。それでも、どうしようもない現実に、打ちひしがれる。



 そんなイーニアの醜態を、横目に見ながら。



 ミレイは。指示された通りに、マニュアルを読み耽っていた。

 与えられた仕事の量に、辟易しつつも。自らの失敗を挽回するため、真剣にマニュアルに向き合う。



 なにせ、こちら側100%の過失である。



 腐っても社会人であるミレイは、文句など言いようもなかった。





「……うぅ。」



 真面目に取り込むミレイを見て。

 イーニアも覚悟を決めたのか。うめき声を上げながらも、マニュアルに目を通し始めた。





 そのまま、無言でマニュアルを読む2人であったが。





「……いくら何でも、量が多すぎるわ。」


「うん。」




 2人が指示された箇所は、そのごく一部ではあるものの。業務用マニュアルは、全部で1000ページ近くもあった。




「受付嬢って凄いのね。これを全部覚えてるなんて。」


「……ソルティアは、まったく覚えてなかったけどね。」




 暇さえあれば、どっかでサボる。地方ギルドの受付嬢は、マニュアルを読みながら仕事をしていた。




「そっちはどういう内容なの?」


「たぶん、本当に基本的な部分だと思う。」




 ミレイとイーニアは、指示された内容が異なるため。互いにその内容を確認する。




「勝手の分からない冒険者とか、依頼人に対応して。他の窓口に案内したりとか。……魔水晶を使う業務よりも、人とコミュニケーションを取る仕事のほうが多いかも。」



「……なるほどね。つまりあのサーシャって人、一目で貴女の”魔法的センス”を見抜いたのね。」


「うっ。」




 悲しい現実に、ミレイの心はズタズタである。




「イーニアのほうは?」



「わたしは主に、クエストの事後処理ね。報告書を作成したり、それに基づいた冒険者の査定をしたり。……今まで気にしてなかったけど、こういうのって案外細かいのね。」



「……へぇ。」


 任された業務の違いに、ミレイは言葉もない。




 というよりも。10歳の少女に、そんな仕事を任せて良いのだろうか。10歳といえば、掛け算割り算に悪戦苦闘する年頃である。



 だが、しかし。



 ”すらすらと”、マニュアルを読み進めていくイーニアを。傍から見つめて。




(……あぁ、わたしより賢そう。)




 年齢差なんて、関係ない。そう確信し。

 急ピッチで、ミレイは業務用マニュアルを読み込んでいった。











「――あれ、2人とも何やってるの?」




 窓口の外から聞こえてきた、”聞き覚えのある声”に。

 



「「……。」」




 ミレイとイーニアは。

 揃って、言い訳を考え始めるのであった。






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