表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
68/153

だから言ったじゃん






「わーお。」




 路面列車に乗って。街の中心へとやって来たミレイたち。

 目的地である、冒険者ギルドまでやって来るも。


 その大きな建物に圧倒される。



 上空に存在する、塔の部分も素晴らしいが。

 地上の建物も、王の宮殿のように立派であった。




「ほら、さっさと行きましょ。」



 最年少のイーニアを先頭に。

 ミレイたちはギルドの中へと入っていった。









「へぇ、中々いいじゃない。」


 建物内に入り。

 フェイトも、その内装には満足げな様子。



「……うん。なんかもう、この空間にいるだけで、一流の冒険者になった気分。」


 ミレイも、思わずそんな事を口にしてしまう。




 王の宮殿のよう。それは、ギルドの外観だけの話ではなく。

 その内側も、それに劣らないほどの美しさを持っていた。


 目に見える冒険者らしき人々は、みな独自の装備品を身に着けており。

 花の都の冒険者たちのように、チンピラの派生型とはわけが違う。


 ミレイには、感じ取れないことではあるが。

 その多くが、魔法の力を習得している実力者たちであった。




「ジータンもピエタも、本当に田舎だったんだ。」


 キララも、ようやく現実を直視する。



「……なんだか。前に来た時よりも、随分さっぱりしてるわね。」


 イーニアは。以前、一度だけ来た時のことを思い出し。

 その違いに、少々疑問を抱いた。




「とりあえず、受付に行きましょうか。」


 他のメンバーのように、感想を口にすることはなく。

 ソルティアは、至って冷静に事を運ぶ。





「えっと、どうしよっか。」



 今までのギルドとは勝手が違い。受付らしき場所が、いくつか存在していた。

 そのどれも、冒険者たちが列を作っていたが。


 一番隅っこの受付だけが、ガラガラに空いている。



「……あそこ行こっか。」



 ここのシステムは分からないが。

 とりあえずミレイたちは、空いている受付へと向かった。









「……ふぅ。」



 ギルドの一角、端っこの受付にて。

 グレーの髪色をした少女が、タバコのようなものを吸っていた。


 実年齢は、見た目よりも上なのかも知れないが。

 ぱっと見は、完全に非行少女である。


 少女のような受付嬢は。タバコを吸いながら、けだるげな様子で。

 片手の指先で、すらすらと水晶玉を撫でていた。




「――すみません。」




「……うん?」


 声をかけられ、受付嬢は顔を上げる。


 すると目の前には。

 機械のように無表情な女、ソルティアが立っていた。


 彼女にとっては、初めて見る顔である。



「……何か用?」


「えぇっと、宿舎について聞きたいことがあって。」



 見た目よりも、随分と”幼い声”が聞こえてくる。

 というよりも、目の前の女の口は一切動いていない。



 どういうことなのか。

 一瞬、頭の中で考えて。


 受付嬢は、ゆっくりと窓口に顔を近づける。



 下を見てみると。

 やたらと背の低い白髪の少女が、ニッコリと微笑んでいた。




「……子どもか。なら消さないとね。」


 小さな少女、ミレイのことを気遣って。

 受付嬢はタバコの火を消す。



「子どもがこれ吸ったら。将来、頭がパーになっちゃうから。」


「……なるほど。」



 どこの街も、受付嬢は変人が多い。

 ミレイはそう確信した。




「えっと、宿舎だっけ? それなら、となりの2番窓口で対応してくれるから。そっちに並んでちょうだい。」


「分かりました、どうもです。」



 受付ごとに、対応している業務が違う。

 まるで役所のようだと思いながらも。


 ミレイたちは、となりの窓口へと向かった。











 コンコンコンコン。


 その不機嫌さを表すように、靴で地面を叩く音が連続する。



 ギルドの2番窓口には、かなりの数の冒険者が並んでおり。

 ミレイたちも、その中の一部である。


 ミレイにとっては。列に並ぶなど、何の問題もない行為だが。

 ”ごく一部のメンバー”にとっては。拷問にも等しい、耐え難い時間であった。




「フェイト、じっとしてて。」



 ミレイに、そう指摘され。

 フェイトは足の動きを止める。


 それでも、イライラは収まらないのか。

 若干、地面が凍りついていた。



「……列に並ぶなんて、今までの人生で初めてだわ。」


「みんな、平等に並ぶんだよ。」



 ミレイたちだけではない。

 他の冒険者たちも、行儀よく列に並んでいる。


 そうしなければ、”面倒なこと”になるから。



「アンタあれでしょ? 日本人だから、列に並ぶのが好きなんでしょ?」


「……いや、それは偏見なんだけど。」




 本来なら、ミレイも並ぶのは好きではない。

 だが、




「ほら、壁にも書いてあるじゃん。」



 そう言って、ミレイが指し示す先には。

 ”真っ赤な文字”が書かれた、1枚の張り紙が貼ってあった。



 その張り紙があるからこそ、きっと他の冒険者たちも大人しく並んでいるのだろう。


 けれども、フェイトには別の問題が。



「……読めないんだけど。」


「え、そうなの?」



 残念ながら。

 フェイトは未だに、この世界の文字を完璧にマスターしていない。



「なんて書いてあるわけ?」


「……えっと、”黙って並びなさい、でないと殺す”。って書いてある。」


「何よそれ。」



 本当に、ひどい内容の張り紙である。

 手書きで真っ赤な文字なのが、それを余計に際立たせている。




「でもアンタ、凄いじゃない。エドワードでも、まだ文字は完璧じゃないって言ってたわよ?」


「へぇ、そうなんだ。」



 そんな、話をしながら。


 ”あれ、どうしてわたしは文字が読めるんだろう”。

 という疑問が、ミレイの中に発生する。


 思い返してみれば。この世界に来た初日から、ミレイは普通に文字が読めていた。

 それが普通だと、完全に思い込んでいた。




(……まぁ、いっか。)



 とはいえ、考えたところで意味はないので。

 ミレイは、無駄な思考と捨て去った。







 とはいえ性分的に、フェイトは列に並ぶのが嫌いなようで。

 足先のイライラが収まらない。



「……イーニア。アンタ、Sランクなんでしょ? ぱぱっと話付けられないの?」


「それって、”ダサくない”?」


「はぁ?」



 イライラを隠さないフェイトに対し。

 イーニアは余裕ありげに笑みを浮かべる。



「分かってないのね。――”ああっ、Sランクのイーニアさんなんですね! すみません、気づいていたら、すぐに対応したのですが”。ってなるのを楽しまないと。」



 イーニアは、よく分からない考えを口にする。


 それはそれでダサいよ、と。

 ミレイは、とても口には出せなかった。









「ギルド本部へようこそ! 初めての方々ですよね? ご要件は何でしょう。」



 2番窓口の受付嬢は、小さくて可愛らしい、フェアリー族の少女だった。

 少々赤みがかった金髪が、特徴的である。


 初めに行った、1番窓口の受付嬢とは違い。

 明るく、人当たりの良さそうな印象だった。



 ここへ来た事情を、ソルティアが説明する。




「実はわたしたち、これからこの街で活動しようと考えていまして。事前に、宿舎の予約をしていたのですが。」


「なるほど、了解しました。確認をするので、登録証の提出をお願いします。」


「全員分ですか?」


「はい。」



 登録証の提出を求められ。

 ミレイたち5人は、冒険者カードを提出する。



「えっと、」


 フェアリーの受付嬢は、小さな身体を懸命に動かし。

 自分の体にも匹敵する冒険者カードを確認していく。


 魔水晶の操作もお手の物。

 小さくても、受付嬢としては一人前だった。




「――えぇっ、”Sランク”!?」


 イーニアの登録証を見て、受付嬢は驚きの声を上げる。



「ふふん。」


 イーニアはとても満足げであった。 




「あの、どなたがイーニアさんでしょう。」


「わたしよ。」


 どどんと、イーニアは胸を張る。



「これはどうもです! 長旅、お疲れさまでした。」


 腐っても、Sランクというだけはあり。

 受付嬢も、イーニア相手には態度が変わる。



「イーニアさんには、すでにこちら側が部屋を確保していますので。」


「ええ、当然だわ。」



 この反応を待ってました、と言わんばかりに。

 イーニアは笑みを浮かべる。




「ええっと。他の皆さんも、寮には空きがありますので。すぐに鍵をお持ちしますね!」


 そう言って。

 フェアリーの受付嬢は鍵を取りに行った。



「……なんだか、思ったよりもVIP待遇じゃないわね。」


 イーニアは、そうぼやいた。









 ミレイたちが、フェアリーの受付嬢を待っていると。


 さっきまでタバコを吸っていた、となりの受付嬢がやって来る。




「……イーニアって、どっち?」


 ミレイとイーニアを見て、そう尋ねる。



「わたしよ。」


「ふ〜ん。」


 受付嬢は、値踏みするような視線でイーニアを見つめた。



「ギルドマスターが会いたいそうよ。案内するから、上に行きましょ。」


「わたしが行くの?」


「ええ。彼は下に降りてこないから。」



 ギルドマスターは、上の塔から降りてこない。

 そのため、イーニアが足を運ぶことに。



「いいなー」


 ミレイを筆頭に。羨望の眼差しが向けられる。



「と、……仲間も、一緒に行っていい?」


「あんまり人が多いと、あの人怒るのよね。……でもまぁ、”子供1人”じゃ心細いか。」



 その言葉に、イーニアは若干苛つくも。

 何とか表情を制する。



「1人くらいなら、一緒に行っていいわよ。」



 受付嬢に、そう言われ。

 誰を連れて行くか、イーニアは考える。


 一人ひとり、顔を見て。

 なんだかんだ、みんな行きたそうな顔をしていた。


 そんなさなか。

 イーニアは、あることを思い出す。



「……ミレイ、行きたい?」


「行きたい!」


「なら、いいわよ。」


「ほんと? やったー!」



 子どもでも、こんな笑顔は見せないだろう。

 というレベルの笑みを、ミレイは浮かべていた。



「ただし、1つ条件があるわ。」


「え。」


 その言葉に、停止する。



「……わたし、あんまりお金ないよ?」


「別に、貴女から巻き上げようとは思わないわ。」



 他のメンバーに聞かれると、少々都合が悪いため。

 その条件を、ミレイの耳元で囁く。




「……なんだって?」


 ミレイは、思わず聞き返した。











 タバコの受付嬢に連れられて。

 ミレイとイーニアは、ギルドの奥へと案内される。


 そこには、機械的なパネルのようなものが存在した。



「そこのパネルの上に乗って。」


 指示に従い、2人は並んでパネルの上に乗る。



「いい? 今からそれが浮かび上がって、貴女たちを上の塔まで連れて行くけど。”絶対に”、パネルの外に出ないように。じゃないと、普通に落ちて死ぬから。」



 受付嬢の言葉に。

 ミレイとイーニアの距離が、ぐっと縮まる。



「じゃあ、気をつけて。」



 受付嬢が、水晶玉を操作し。

 2人を乗せたパネルが、ゆっくりと上に上昇していく。




「おおー!」



 パネルは、屋根を越え。

 上空の塔へと向かっていく。


 その構造上。

 剥き出しの状態で、2人は帝都の街並みを一望することに。



 非常にいい眺めだが。


 その高さに、膝が震え。

 イーニアは、たまらずミレイに抱きつく。



「……わたし、飛べないのよ。」



 こんな状況では、ゴーレムを生み出すことも出来ない。

 まだ魔法も初心者レベルのイーニアでは、落下ダメージを回避する手段が無かった。



「ふふ。わたしが一緒だから、大丈夫だよ〜」



 一方で、ミレイには一応の飛行手段が存在するため。

 この高さでも、それほど恐怖は感じない。



(……この感じ、いいかも。)



 普段は、完全に舐め腐った態度を取られているため。

 このように頼られる感覚は、とても新鮮であり。


 ミレイは、大満足であった。








 そんなこんなで。

 2人を乗せたパネルは、塔の内部へと入っていく。



 塔の中の第一印象は、静寂。



 人嫌いのギルドマスターが住んでいるだけのことはあり、地上の雑音とは完全に切り離されている。

 おまけに、暗くてジメジメしていた。




「静かな所ね。」


「うん。なんだか、お化け屋敷みたい。」


「……なんで、そんなこと言うのよ。」



 意識してしまえば、そうとしか思えなくなり。

 暗闇への恐怖に、イーニアは縮こまる。



「さ、さっさと行きましょ。」


「うん。」



 2人揃って。

 暗い塔の奥へと歩き始めた。






 どうせ、上の方に居るだろう。

 という考えで、2人は螺旋階段を上っていき。


 開けた一室へとやって来る。




「わぁ。」



 そこは、何とも不思議な部屋であった。


 開けっ広げな空間に。

 壁にぎっしりと詰められた、”無数の水晶玉”。


 なにか特別な部屋であるというのは、一目で理解できる。



「この水晶玉、全部に魔力が宿ってるわね。」



 ギルドに置いてある魔水晶とも、僅かに違う。

 だが、これがどのような役割を持つのか、イーニアにも理解が出来ない。


 不思議な空間を、2人は物珍しそうに見つめ。



「あっ、そうだ。」


 イーニアは、あることを思い出す。



「丁度いいわ。ここなら人も居ないし。さっき言った”あれ”、お願いしてもいいかしら。」


「……本気なの?」


「ええ、もちろんよ。せっかく二人っきりなんだから、チャンスは今しかないわ。」


「わかった。」



 非常に不本意ではあるが。

 約束は約束と、ミレイは納得し。


 その手に、1枚のカードを召喚する。




 1つ星 『クサギカメムシ』


 カメムシの一種。非常に強烈な臭いを発生させる。




 ソルティアが異様に興味を示した、ミレイの新しいカードである。




「イーニア。喫茶店だと、あんまり興味ない感じだったじゃん。」


「……いいじゃない、別に。」



 表立って主張できない。

 イーニアは、そういうお年頃であった。



「ミレイは、その臭いを嗅いだことあるの?」


「うん、そうだね。何度かあるかな。」


「例えるなら、どういう方向の臭いなの?」


「えーっと。野菜みたいな、ツーンとする感じ?」


「ふーん。」




 ミレイの話を聞いて。

 イーニアは、脳内でイメージを膨らませる。


 なんでみんな、こんなに興味があるんだろう、と。

 ミレイは理解に苦しんだ。




「――準備は出来たわ。」


「りょーかい。」



 渋々と言った様子で、ミレイはカードを起動。


 光の粒子が、一点に収束し。


 ミレイの指先に。

 一匹の、茶色いカメムシが出現する。



(……あぁ。)


 ミレイは、心を無にした。



 ミレイの指先へと、イーニアは顔を近づけ。

 くんくんと、臭いを嗅いでみる。



「……臭い、しないわよ?」


「突っついてみたら?」



 ミレイのアドバイスを受け。

 イーニアは、指先でカメムシを突っついてみる。


 すると、




「――うっ。」


 鼻の奥に突き刺さるような、強烈な臭いに。

 イーニアは咄嗟に、顔を遠ざける。



「くぅ。」


 たまらない様子で、鼻の辺りをこする。

 あまりの臭さに、イーニアは涙目になっていた。




「ほら〜、だから言ったじゃん。」


 ミレイがつぶやく。




「もう、ぜんぜん野菜じゃないじゃない!」



 イーニアは、そう癇癪を起こし。

 カメムシの付いたままの、ミレイの手を叩いた。



「あ。」



 そうして、野に放たれたカメムシは。

 そのまま自前の羽根をはためかせ。


 やはり、アビリティカードの性か。

 自身の主である、ミレイのもとへと。


 その鼻先へと、舞い戻った。




「――うそ。」




 衝撃は。

 一瞬にして、ミレイの脳へと直撃。




――――ッ!?



 至近距離から、銃弾を浴びせられたような。

 言葉にならない、魂の叫び。



 今更、もう意味のないことではあるが。


 ミレイの知っているカメムシと、このカメムシは。

 まったくの異なる種類であり。




 このクサギカメムシは。

 数あるカメムシ科の中でも、”特に臭いの強烈な種”であった。




 想定を遥かに上回る。

 悪魔的な、とんでもない刺激臭。


 ミレイは、それをもろに鼻に噴射され。

 その悪臭から逃れようと、我を忘れて暴れまわる。




「あ。」



 一足先に、冷静になったイーニアが、咄嗟に手を伸ばすも。


 もう、ミレイは止まらない。



 そのまま、壁へとぶつかって。




 棚に敷き詰められていた、”無数の水晶玉”が。

 重力のもとに、放り出された。











 冒険者ギルド本部、塔の上層階にて。


 ギルドマスターである銀髪の男が、落書きのような提案書を見つめていると。



「……なんだ?」



 ”何か”が砕けるような。

 凄まじい衝撃音が、下の部屋から鳴り響いた。








 思いっきり、扉を開け。


 階段を下ってきたギルドマスターが、水晶玉の部屋へとやって来る。




「――おい、何の音だ!」


 勢いよく、やって来たものの。



「なっ。」



 眼前に広がる、あまりの光景に。

 言葉を失う。





 部屋の中には。

 砕け散った、無数の水晶玉と。



 それを成したであろう、”見知らぬ2人の少女”。



 自分たちが一体、何を壊したのか。

 少女たちは、まるで理解しておらず。



 これ以上ないほどに、最悪の出会いを果たした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ