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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
66/153

夜露死苦、金髪ドリル






「……なるほど。それは災難だったな。」


「ええ。ホントとんでもない高さから落っこちたから。わたしじゃなかったら、たぶん死んでたわ。」




 花の都ジータンの冒険者ギルドにて。


 街へと帰還したカミーラと。

 この街にやって来た新顔である、”七瀬奈々”が話をしていた。



 九条瞳とのいざこざの最中、なし崩し的にこの世界へと転移し。

 浮遊大陸の1つ、メビウスの地にて。規格外の怪物、”赤き竜王”に襲われた。


 圧倒的な力を持つ竜王から、命からがら逃げ延び。

 自身の持つ”異能”も相まって、乗ってきたバイク共々、七瀬は無傷でこの街へと来ることが出来た。



 視界の片隅では。

 異世界大好き人間であるアルトリウスが、興味深そうにバイクを弄っている。




「ぜってぇ壊すなよ、お前。」


「――もちろんさっ!」




 見ず知らずの世界、見ず知らずの土地にやって来てなお。

 七瀬は、落ち着いた様子でくつろいでいた。


 以前、この街にやってきた、”もう一人の異世界人”とは、まるで異なり。

 完全に度胸が据わっている。



 そんな七瀬に。

 カミーラは気になっていたことを尋ねる。



「お前の話から察するに。もう一人、一緒にこの世界に来た奴が居るんだろう? そいつはどうなった?」


「さぁ? 別々にふっ飛ばされたから、何とも言えないけど。」



 七瀬は、思い出す。



「もし生きてるなら、”絶対に問題を起こしてる”ね。」



 九条瞳という、人間のことを。








◆◇








 スタンネルンの町、その入口にて。


 野盗の集団と、冒険者たちが対峙する。



 数に関しては、圧倒的に野盗の方が多いが。

 それでも、”勝てるだけの戦力”を、冒険者たちは用意していた。




 冒険者たちの先頭には、主要戦力であろう3人の人物が立つ。


 漆黒の鎧に、漆黒の剣を携えた男と。


 その左右に。

 魔法使いらしき黒髪の女と、痩せ気味の剣士の男が立っていた。




 漆黒の男が、一歩前に出る。




「……俺の名は、”トガ”。帝都を拠点にする、Aランク冒険者だ。」



 Aランクという単語に、野盗たちは動揺する。

 紛れもない、”強者の称号”であるがゆえに。



「まさか、町にまで襲いかかるとはな。お前たちは完全にやりすぎた。死にたくなければ、大人しく投降しろ。」




 トガは、知っている。

 自分と、その仲間たちの実力を。


 双方の力がぶつかれば、野盗たちに生存の未来はなく。

 この場所が、血の海になることは目に見えている。


 ゆえに、情けをかけた。



 だが、しかし。



 野盗たちは怯えつつも。

 それが答えとばかりに、各々の武器を構える。




「……愚かだな。」



 もはや言葉は不要と。

 トガは、腰に携えた”漆黒の剣”を鞘から抜く。



 すると。

 その剣に込められた力だろうか。



 空気を冷たくするような。

 ”漆黒の魔力”が、トガの周囲を包み込む。



 その恐ろしい風貌に。

 野盗たちは、たまらず怖気づく。




 だが、




「――何を恐れているの?」



 野盗たちの中から。

 あまりにも、”場違いな存在”が。





「貴方たちには、”このわたし”がついているのよ?」



 金髪縦ロールの少女、”九条瞳”が前に出てくる。





「あ、あねさん。相手はかなり強そうですけど、大丈夫なんですか?」



 野盗の1人が、心配を口にするも。

 九条は気にせず、優雅に髪をなびかせる。



「もちろんよ。この町を占領する”悪党ども”を、わたしの力で打ち破ってあげる!!」









 その頃。

 町の外、のどかな河原にて。




「……ふぅ。」



 びっしょりと、汗をかいた”ソルティア”が。

 腰を下ろして涼んでいる。


 そのすぐ側には。


 彼女と同様に、いや、それ以上に疲労した様子の”パンダ”が、ぐったりとうつ伏せに倒れ込んでいた。




 ソルティアに関しては、運動していい汗をかいた、くらいの様子だが。

 パンダの方は、完全に力尽きる寸前である。



 ソルティアとパンダ。


 言葉では上手く説明できない、奇妙な出会いをした両者ではあるものの。


 同じく、”強さ”を追い求める者同士。

 共に鍛錬に励んでいた。




「打たれ弱いのは、少々考えものですね。やはり、もっと筋トレをするべきです。」



 ぐったりとしたパンダに。

 ソルティアがアドバイスを送る。



「わん。」



「いえ、残念ながら。ミレイさんが枕にするのは、体の大きいフェンリルでしょう。膝に乗せるのは、あの尻尾の燃えた小動物です。ですので、パンダさんは戦闘力を突き詰めるべきかと。」



「……わん。」


「はい、頑張ってください。」



 わん、だけで言葉が通じるのか。

 ソルティアの容赦ないアドバイスに、パンダは更に落ち込んでしまう。




 無表情のソルティアと。

 ぐったりとしたパンダ。


 何ともいえない空気が、その場には漂っていた。




「では。」



 パンダはそのままにしておいて。

 ソルティアは立ち上がる。



「町の様子が気になるので、わたしは先に戻りますね。」



 そう言って、ソルティアは河原を後にした。











「――うぐッ。」



 人間の拳のように変形した、金色の髪の毛に。

 トガは捕らえられ。


 完全に、戦闘能力を失う。




「勝つのは常に、”正義”よ!」




 その戦いは、あまりにも呆気なく終了した。


 トガを筆頭に、10人以上いた冒険者たちは。

 九条1人の手によって圧倒され。


 全員が、地に伏している。




「……なにが、正義だ。」



 最後に、そう呟き。

 トガは意識を失い。


 そのまま、地面に投げ捨てられる。





「さぁ、町を解放しに行くわよ!!」


「「おおー!」」




 九条を筆頭に、野盗たちは調子を上げ。

 意気揚々と、町へと向かう。





 だが。





「――止めたほうが賢明ですよ。」





 いつの間にかそこに居た、黒髪の女性。

 ソルティアに声をかけられ。


 野盗たちは足を止める。



「町を襲っても、怪我をするのは貴方たちです。」



 ただの事実を。

 町にいる、”本物の怪物”の存在を、ソルティアは忠告する。


 けれども、突然現れた、謎の無表情な女の話など。

 彼らは聞く耳を持たず。



「へっへっへ。可愛い姉ちゃんだねぇ。」



 下卑た笑みを浮かべながら。

 野盗の1人が近づいていく。



 しかし、ソルティアが僅かに視線を送り。

 その瞬間。




 まるで、全身をバラバラに斬り裂かれたような。

 ”鮮明な錯覚”を、その身に感じ。





「……あ、あ。」


 思わず、野盗は後ずさる。




「あまり、近づかないでください。”殺さないよう”手加減するのが、少々面倒ですから。」




 ただ冷たく、無表情な瞳のまま。


 内に秘めた闘志を解放するように。

 愛用の刀、”サムライブレード”を具現化する。




 突き刺すような雰囲気に、野盗たちは呑まれるも。



 ただ1人。

 九条は真正面からそれを受け止め、前に出る。





「つくづく退屈しないわね、この世界は。」



 喧嘩上等と、九条は笑う。



「みんなは下がって、先に町へと向かいなさい。ここは、わたしと彼女の”タイマン勝負”よ!!」




 九条が、堂々と宣言し。

 ソルティアもそれを受け止める。




「……言葉の意味は、よく分かりませんが。勝負なら望む所です。」




 九条を除く野盗たちは。

 ぞろぞろと町へと向かっていき。


 この場には、2人の武人が残るのみ。


 互いに互いを、未知なる存在と認識し。

 無言で対峙。






――戦いが、始まった。






 先に動いたのは、九条。


 ものすごい毛量の髪の毛を、一気に動かし。

 無数の拳のような形状へと変化させ。



 長さも自由自在なのか。

 離れた場所にいるソルティアへと、思いっきり殴りかかる。



 ソルティアは、それを紙一重で避け。

 そのついでに、伸ばされた髪の毛に斬撃を浴びせる。



 だが。


 まるで、金属同士がぶつかったかのような音が鳴り。

 髪の毛を切断することは叶わない。




(……なるほど。)


 冷静に、ソルティアは考える。




 迫りくる拳は、1つではない。


 ものすごい威力、硬度、速さを伴った攻撃が。

 休む間もなく繰り出されてくる。



 ソルティアは、それを正面から見据え。

 僅かに軌道をそらし。

 かわし、またそらし。


 ひたすらにそれを繰り返すことで。

 攻撃をまともに受けることなく。



 一歩、また一歩と近づいていく。




 その力の差は、比べるまでもない。


 ソルティアでは出せない威力、出せない速度。

 望めない才能を持って、九条は暴力を放ち続ける。




 その美しい才華を、解き放つように。




 だが、それでも。

 ソルティアは戦える。

 思考し続けることが出来る。



 たった1つの望み。

 ”勝利”へと向かって。




(素晴らしい能力です。)




 迷いのない拳に、正確な狙い。

 髪の毛の形状を自在に操作することが可能で、硬度も変化させられる。



(まともにかち合えば、わたしの剣では持たないでしょう。)



 そう、知りつつも。



 鋭く、しなやかに、力強く。

 ソルティアは、刀に魔力を纏わせる。




「――ですが。」




 待ちに待ったタイミング。

 ここしかないという一点を突いて。


 髪の毛の束の下へと潜り。



 全力で、疾走。

 九条の懐へと目指す。



 だが。

 人間の反応を遥かに超えた速度で、髪の毛はその動きを察知し。



 ソルティアを押しつぶそうと。

 上から叩きつける。




 それに対するは。

 ”たった一撃”のために研ぎ澄まされた、純粋なる鋼の刃。




――ただ、斬る。

 そのためだけに。


 愚直な魔力の斬撃が、解き放たれ。





 分厚い髪の毛の束を、

 ”一刀両断”する。





「……はっ。」



 あまりにも、”鮮やかな一太刀”に。

 九条は、ため目を見開くことしか出来ず。



 その隙に、ソルティアは九条の懐へと潜り込む。




「1つの武器に、頼り過ぎです。」





 剣術だけではない。

 鍛錬によって、新たに学んだ”技”。



 渾身の”掌底”を、九条の腹へと叩き込んだ。





「――がはっ。」




 強烈な一撃に、たまらず悶絶し。


 九条は、その場に膝をついてしまう。




 苦痛に悶える彼女の眼前に、

 鋭き刃が向けられる。





「わたしの勝ちで、よろしいですか?」


「……ええ。」





 これにて、勝負は決着。

 戦いは、ソルティアの勝利に終わった。















「まさか、わたしの髪が斬られるだなんて。」



 自ら、タイマン勝負を宣言した以上。

 九条は素直に負けを認め、勝者であるソルティアの軍門に下った。


 腹への一撃が効いたのか。

 未だに、立ち上がることが出来ない。



「ほんとに何なの、この世界。サムライまで居るの?」


「……なるほど。異世界から来た人ですか。」



 九条の言葉を聞き。

 ソルティアは、何となく事情を察する。


 あの白くて小さい、よく分からない彼女と、似たような境遇であると。


 だが、それゆえに。

 どうしてこのような状況になっているのかが、まるで分からない。



「なぜ、野盗たちに協力していたんですか?」


「なぜって、決まってるじゃない。”ゴブリンたちに占領された町”を、人間の手に取り戻すためよ!」


「……はい?」



 ソルティアは、思考停止してしまう。


 目の前の女は。

 こんな”澄んだ瞳”で、何を言っているのかと。



「貴女こそ、それだけの力を持ちながら、どうしてゴブリンたちに従っているの? わたしの仲間たちみたいに、必死に抵抗しようっていう気概はないわけ!?」


「……はぁ。」



 やはり、理解が出来ない。


 異世界出身の人間は。大なり小なり、頭のネジが外れているのか。

 ソルティアは、本気で思ってしまう。



「……貴女、騙されてませんか?」


「はぁ!? 一体何を言っているの?」


「いえ、ですから。」


「ゴブリンよ? ”あの恐ろしいゴブリン”の話なのよ!?」


「……あぁ。」




 言葉の通じない、厄介な輩。

 その対応に、ソルティアが頭を抱えていると。





「――おーい!」





 聞き覚えのある声。

 仲間の1人であるミレイが、のんきに手を振りながらこちらに近づいてくる。



「無事してるー?」



 町の方からやって来るミレイの隣には。

 当然のように、キララも一緒におり。



 何よりも目を引くのは。

 その背後にぞろぞろと続く、”見覚えのある野盗たち”。




「……どういう、ことなの?」


「どうやら、事は穏便に済んだようですね。」




 こちらへとやって来るミレイの瞳には。

 彼女の持つ能力を示す、”ハートの模様”が浮かんでいた。










「いやね、もうすんごいビックリしたんだよ? ヒャッハー、みたいな感じで襲ってきてさ。」




 完全に、能力にやられているのか。

 野盗たちは、大人しくミレイに付き従い。


 そんな状況で、ミレイたちは情報を交換し合う。




「キララは速攻で武器を構えるし、町中でぼこすか戦うのも危ないからさ。久しぶりに、この能力を使ったわけ。」


「ね〜。わたしは、全然ぬっころそうとしてたけど。」


「……なるほど。」




 気に入らない男が相手なら、殺意が全面に出るキララは置いておいて。



 町へと侵入した野盗たちは。

 その全てが、ミレイの能力、”蠱惑の魔眼”の餌食となっていた。


 一部の高い魔力の持ち主を除いて。

 問答無用で、相手を虜にしてしまう恐ろしい能力。


 その能力をかけられた苦い思い出があるため。

 ソルティアは、ミレイの瞳を直視しない。




「そちらの方々に、質問してもよろしいですか?」


「うん、もちろん。……素直に答えるようにね。」




 色々と、聞きたいことがあったため。

 ソルティアは野盗たちに質問を行うことに。




「貴方たちは、人々から物資を略奪する、いわゆる野盗ですね? そんな貴方たちが、どうやって彼女を仲間に引き入れたんですか? 異世界出身の方ですから、適当な嘘で騙したんですか?」



 ソルティアの質問に、野盗が口を開く。



「あー。いや、別に。最初っから騙そうと思ってたわけじゃねぇよ。俺たちがゴブリンの商人どもを襲ってたら、”向こうから勝手に加勢してきて”。」


「あぁ、そうだよな。よく分かんないこと言いながら、俺たちを”勇敢な戦士”みたいに扱って。まぁ、訂正したら何されるか分かんねぇから。」


「みんなで適当に相談してな。ゴブリンと戦う、反乱軍ですって言ったら。もう全部、”勝手に都合よく勘違いしてくれて”。……そんで、今に至ります。」




 蠱惑の魔眼の力もあって。

 野盗たちは、ペラペラと事情を話してくれた。



 事情、というよりも。

 目の前の金髪女が、とんだ”勘違い女”なのかが分かっただけだが。




 みんなの視線が、九条のもとへと集まる。






「――いや、だって。あのゴブリンよ!? あんな”醜い生き物”が正しい側だなんて、思うわけがないじゃない!」






 大きな声で、九条は主張する。

 そこには、何の悪意も持たず。



 自分が美しい存在。

 ゴブリンが醜き存在。


 自分の持つ尺度を、微塵も疑うことなく。



 きっと、町にいるゴブリン達にも。

 彼女の凛とした声は届いていただろう。



 あまりにも正直で。

 また、”理解できなくもない”、彼女の主張。




 その真っ直ぐな言葉に。

 周囲の面々は、反応に困る。





 だが、それでもやはり。





「……ダメだよ、そんなこと言っちゃ。」




 若干、顔を引き攣らせながら。

 ミレイは反論する。




「色々とイメージがあるからさ、そういうのも分かるけど。……ここは異世界なんだよ?」




 ほんの少し、しゃがんで。

 九条と目線を合わせる。





「周りを見てさ、いっぱい人の話を聞いて。よーく考えてから、”謝ろっか”。」





 まだ、何も知らない。

 この世界について何も知らない、彼女に。



 ちょっとした”先輩”として、ミレイは微笑んだ。





「……あ、あ。」




 目の前で、柔らかな笑みを浮かべる。



 ”白くてちっこい少女”。



 その衝撃。

 そのビジュアルに。



 思わず、九条は言葉を失う。





「て、”天使”?」


「へ?」





 彼女は一体、何を言っているのか。

 その場に居た人々の頭に、疑問符が浮かび上がる。



 それでも、九条は。

 そんな周囲の反応などお構いなしに。



 勢いよく、立ち上がる。




「――わたしが、間違っていたわ! わたしが信じていた正義は、本当の正義じゃなかった!!」


「……いえ、そもそもどこにも正義など。」




 ソルティアが冷静に呟くと。

 凛とした瞳で、九条が見つめてくる。




「貴女、名前は?」


「……ソルティアです。」


「美しい名前ね、覚えたわ。」


「はぁ。」



 周囲の反応を置いてけぼりに。

 続いて九条は、視線を下ろしてミレイを見つめる。



「それで、貴女は?」


「……ミレイ、です。」


「可愛らしい名前ね。貴女にぴったりだわ。」


「どうも。」



 そのやり取りに満足したのか。

 九条は微笑みながら、自分の胸に手を当てる。





「わたしの名前は、九条瞳くじょうひとみ玉栄ぎょくえい高校3年に所属するツッパリよ! まぁ、今年からダブりだけど、よろしくお願いするわ!!」





「……なるほど。」



 文化の違いからか。

 ソルティアを筆頭に、彼女たちは言葉の半分ほどしか理解できなかったが。




 名前と、バカさ加減だけはよく分かった。





「――また、会いましょう。」


 そう、”最後に呟いて”。





 何らかの力が働いたのか。

 九条の身体が、”光の粒子”へと変わっていき。



 まるで、初めから居なかったかのように。

 跡形もなく、姿を消してしまう。





「……マジか、あいつ。」


「何らかの能力でしょうか。」


「消えちゃったねぇ。」




 突如発生した、ハリケーンのように。

 暴れるだけ暴れて、彼女は消えていった。




「多分だけど。あいつ、わたしと同じ世界じゃないと思う。」



 九条瞳という人間と遭遇して。

 それだけは、確信できた。








◆◇








 翌日。




「うそ、もう居ない!?」


「……は、はい。あの人達なら、今朝旅立たれました。」




 襲撃に参加しなかった、他の野盗たちを全員捕まえて。

 九条は再び、スタンネルンの町へとやって来たものの。


 ミレイたちは、すでに帝都へと旅立っており。

 町に居たのは、見ず知らずのゴブリンたちだけであった。




「このわたしを置き去りにするだなんて、いい度胸じゃない。」




 そもそも、仲間でも何でもないのだが。

 彼女は、思い込みの激しい性格だった。




「まぁ。これでもう、野盗たちの被害は出ないはずだから、安心しなさい。」


「はぁ、どうも。」




 昨日の今日ということもあり。

 町のゴブリンたちも、彼女への対応に困ってしまう。


 そんな、周囲の視線を知ってか知らずか。

 九条は、ゴブリンたちの顔を見つめ。




「……それと、もう一つ。」



 その場で、両膝をつき。

 自慢の長い髪の毛も、地面につけた。





「――”申し訳ありませんでした”。」





 昨日の無礼を詫びるように。

 九条は、町の人々に”土下座”をする。





 これは、彼女なりのケジメ。





 九条瞳。

 アニメと映画が大好きな、武闘派不良少女であった。






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