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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
65/153

スタンネルン

感想等、ありがとうございます。






 魔獣大陸メビウス。






「――やばいやばいやばいやばいッ!!」



 広大な森の真っ只中を、一台のバイクが猛スピードで疾走していく。



 バイクを運転するのは、セーラー服を着た少女、”七瀬奈々”。

 その後ろには、敵対していたはずの”九条瞳”も乗っている。



 武器としても機能する九条の髪の毛は。

 一部が真っ黒に焼け焦げていた。




「何なんだよ、あの化け物!?」


「わたしの髪が、こんな事に。」


「うっせぇ! 黙って掴まってろ!」



 異界の門を潜り、この世界へとやって来た2人の少女。

 元の世界では、それなりに名の知れた”強者”であったが。



 この世界の、”頂点の一角”と交戦し。

 ものの見事に、ボロ負けした。




「どこまで逃げればいいんだよ。」



 この世界のことなど、何も知らず。

 ひたすらにバイクで疾走する2人であったが。



「くっ。」


 崖らしき場所へと辿り着き、急ブレーキで停止する。



 そこで彼女たちは。

 自分たちが、”どういう土地”に居るのかを知った。




「嘘だろ。」


「はぁ。」




 眼前に広がる、白い雲と、青い空。


 大地など、そこにはなく。

 ただ圧倒的な、世界の広さが目に入るのみ。




 5つある浮遊大陸。


 その中でも、最も危険で、人の立ち入ることの出来ない領域に、彼女たちは居た。





 しばし、その光景に呆然とする2人であったが。




「うっ。」


 得体の知れない、背筋の凍る感覚に、咄嗟に振り返り。




 天高くより、こちらを見下ろす。

 ”赤き竜王”の姿を見る。



 その口元には。

 本来なら人の使う技術、”魔法陣”が描かれており。

 凄まじい量の魔力が、一点に収束していた。



 その対象はもちろん、彼女たちである。





「……あ。」



 届かない距離。

 抗えない力。


 その脅威を前にして。

 彼女たちは動くことが出来ず。




 竜の口元から、超威力の一撃。

 破壊光線が放たれ。



 魔獣大陸の一角が、粉々に吹き飛んだ。







◆◇







「嬢ちゃん達、着いたぞ。」



「「おお〜」」



 御者のおじさんに声をかけられ。

 ミレイ達は、馬車の窓から顔を出し。



 目の前に広がる風景に、驚嘆の声を上げる。




 そこは、小さな町だった。

 花の都ほどの華やかさもなく、ピエタやアセアンのように防壁もない。


 素朴な建物が立ち並び。

 牧場だろうか。丘の方には無数の動物たちの姿が見えた。





「……田舎や。」





 帝都を目指すミレイたちは。

 一週間近い長旅の末、帝都へと続く最後の町、”スタンネルン”へと到着する。



 長旅の疲れを癒やすため、この町で一泊することにしたミレイたちだったが。

 他の土地では見られなかった、”ある存在”に驚くこととなる。





 町の至る所にいる、”緑色の肌をした小さな者たち”。

 身長は人間の子供ほどで、ミレイやイーニアと大差ない。


 そして、大きく尖った耳と、獣じみた顔つき。

 明らかに、人間とは異なる種族であった。




「彼らはゴブリンよ。」



 所見であるミレイたちが驚いていると。

 冒険者として経験豊富なイーニアが、彼らの名を明かす。



「見た目は確かに変わってるけど、他はわたしたちと何も変わらないわ。」


「……へぇ。この世界で結構暮らしてきたけど、会うのは初めてかも。」



 初めて見るゴブリンたちに、ミレイは感慨にふける。



「まぁ、ゴブリンは長年、人間に迫害され続けてきたから。酪農の盛んなこの町以外では、あまり見かけないわね。」


「そう、なんだ。」




 差別や迫害。

 今までの人生で、”あまり関わりのなかった部分”に。


 ミレイの心は、少しだけざわついた。











 旅行者向けの、大きな宿屋に入り。

 エドワードとキララは、受付で部屋の予約を行う。


 他のメンバーは、ロビーの椅子でくつろいでいた。




「あの受付の人、綺麗な人だね。」


 何となく、ミレイがつぶやく。



 エドワードたちと話す受付の女性は、美しい茶髪の女性であり。

 何よりも目を引くのは、人間とは違う”長い耳”。



「あの人も、わたし達は違う種族の人だよね? エルフ族ってやつ?」


「あー、確かにそれっぽいわね。」



 ミレイとフェイトは、ファンタジーではお馴染みの種族であると予想する。


 だが、それに対し。



「……エルフ、ですか?」


「聞いたことないわよ、そんな種族。」


 ソルティアとイーニアは首を傾げる。



「えぇ〜。じゃあ、あの人はなんて種族?」


「……さぁ?」



 色々な種族を、その目で見てきたイーニアでも。

 受付のお姉さんが何者なのか、まるで分からなかった。





「人間の以外の種族って、結構見てきたけど。」



 じーっと見つめながら。

 ミレイは考え、思い出す。


 これまでに会ってきた種族を。



 花の都で度々見かけた、”フェアリー”。


 色々とお世話になったカミーラの、”エンジェル”。


 猫耳が特徴的なユリカは、”ケットシー”。


 そして、この町で出会った、”ゴブリン”。



 そのどれとも、あのお姉さんは当てはまらず。

 どう考えても、エルフとしか思えなかった。




「他にも、結構いろんな種族が居るの?」


「いいえ。わたしたち人間と同等の知能を持つ種族は、全部で”5種類”だけよ。あと1つは、海に暮らす”マーフォーク”っていう種族ね。」


「じゃあ、あの人は本当に何なんだろ。」



 一度気になってしまえば、もう好奇心は止まらない。



「……もしかしたら、わたしみたいに異世界から来た人かも。」


 ピカンとひらめき。



「ちょっと聞いてくる!」


 ミレイは立ち上がると、受付の方まで向かっていった。





 ”20歳”とは、口で言いつつも。


 見た目は完全に、髪の真っ白な子ども。

 中身も、まぁほとんど子供と変わらない。



 ということは、もはや子供でいいのでは?



 トコトコと歩く”ミレイ”を、フェイトたちは眠たそうな顔で見つめていた。





 しばらくして、ミレイが戻ってくる。



「で、何だって?」


 フェイトが尋ねると。




「……普通に、人間とゴブリンの混血だって。」




「「あぁ〜」」



 疑問が晴れて。

 みんなハッピーになったとか、ならなかったとか。











 宿泊する部屋の中に入ったミレイは。

 何よりも真っ先に、ベッドに飛び込んだ。




「うぅ〜」


 顔をうずめて。愛しのベッドを噛みしめる。



「ここ何日か、ずっとキャンプだったもんね〜」


 キララは、当然のように同室であった。



「多分、お尻が四角くなってるよ。」


 うつむきながら、ミレイはお尻をさする。





「……ねぇ、今からジャンケンしてさ。負けたほうが、勝った方を”マッサージ”しない?」





「えっ!?」


 突然の提案に、キララは衝撃を受ける。



「パンダじゃあれだしさ。大丈夫?」


「うん! オッケー!」




 キララは、当然のように勝利した。







「ふぅ。」



 寝転ぶミレイの太もも付近を、キララがもみほぐす。


 多彩なキララは、こういったことも得意なのか。

 その気持ちよさに、ミレイは天にも昇る気分であった。




「んっ。」


 若干のセクハラを受けつつも。

 ミレイの頭は空っぽで、特に文句も出てこない。





 心地よいマッサージを受けながら。

 ふと、ミレイはつぶやく。



「……”アマルガム”、欲しいなぁ。」



「急にどうしたの?」


「いやさぁ。あれがあったら、どこにでも行き放題だし。普通に中でも暮らせるしさ。」



 ミレイは、便利な乗り物系カードを欲していた。



「そういえばミレイちゃん、お船のカード持ってなかった?」


「あぁ、海賊船ね。」





 3つ星『キャプテンハイドの海賊船』

 ”数多の海を越えた伝説の海賊船。歴戦の傷が多く刻まれている”。



 かつて、ミレイがアマルガムの病室で召喚したカードの1つである。






「あれ、前に召喚したら、秒で壊れたから。」


「陸地だったし、船もボロボロだったもんね。」




 やはり、3つ星と4つ星ではあまりにも差が大きく。

 とても、アマルガムとは比べ物にならなかった。


 ミレイが求めるのは、もっと”ハイテク”な代物である。




「今日はまだ、召喚してなかったよね?」


「うぅ。いっちょ試してみるか。」



 ミレイは、のっそりと起き上がり。

 黒のカードを起動する。




 昨日、召喚したのは、2つ星の”賢者の石(偽)”。

 お風呂のお湯を泥水に変えてしまう、とんでもない欠陥アイテムであった。



 ここ数日、ミレイはあまり高ランクのカードを引けていない。


 つまり、”もうそろそろ”、ということである。





(狙うはキャンピングカー。)



 そう、懇願しつつ。

 カードの召喚を行い。



 光の輪の中から出てきたのは、低ランクを示す”銅枠のカード”。





 1つ星『ポテトチップス(うすしお)』

 ”みんな大好き、定番のお菓子。大容量サイズ”。





「……うん。」



 とりあえず、美味しかった。













 この町、スタンネルンは酪農の盛んな町であり。

 町の外に広がる牧場には、多数の動物たちが放牧されていた。



 この町では、やることもなく暇なため。

 ミレイはみんなで動物たちを見に行こうかと考えるも。




「ごめんさない。ギルドの人に、空から降ってきた岩をどかしてくれって頼まれたのよ。」


 イーニアには断られ。



「わたしはいいわ。そんなに動物好きじゃないもの。」


 フェイトは、イーニアについていき。



「体を動かしたいので、パンダを呼んでもらえますか?」


 ソルティアは、パンダと一緒にどこかへ行った。





 気がつくと、エドワードも姿が見えなくなっていたため。


 そのままミレイは、キララと2人で牧場へ行くことにした。








「空から岩が降ってくるって、どういうことだろ。」


「たぶん、ものすっごいレアケースだよ。」



 適当に話しながら。

 2人は町の外の牧場へと向かい。





「「おお〜」」





 辺り一面に広がる野原と。

 何匹もの”牛”たちが、視界に入る。





「……牛だ。」



 何となく、とんでもない”ビックリ動物”などが居るのでは、と思っていたが。


 そんなミレイの期待とは裏腹に。

 野に放たれていたのは、馴染みある牛たちであった。




「案外、普通だね。」



 そんな不満を口にしていると。

 ミレイの首筋あたりから、白い触手がニョキっと生え。


 つんつんと、頭を突っつく。




「へ?」


『向こうに、デカいのが居るぞ?』




 サフラの声に従って、ミレイが振り向くと。



 そこに居た、思わぬ”巨大生物”の姿に。

 驚き、呼吸が止まる。





「でぇ!?」





 大地を踏みしめる、強靭な脚。

 茶色い鱗に覆われた、巨大な体。

 若干小さいがならも、背中には羽根が生えている。



 紛うことなき、”ドラゴン”であった。





「……こりゃやばい。」



 今までの経験上。

 ミレイがドラゴンと遭遇したのは2回。


 湖に討伐しに行ったワイバーンと、トラウマ級のブラックヘッド。




 そして、その2つとも共通して。

 ミレイを、殺そうとしていた。




 無意識の内に、ミレイはその手に”聖女殺し”を具現化し。


 臨戦態勢に入ろうと――





「――あっ! ”ラウルテーゼだ”!!」





 ドラゴンの存在に気づいたキララが。

 妙に興奮した様子で、それに近づいていく。



「本物見るのは初めてだよ〜」


「キララ、危ないって!」



 ふらふらと、ドラゴンに向かって歩いていくキララを。

 ミレイはがっしりと掴んだ。




「大丈夫だよ。」


 けれども、キララは優しく微笑むだけ。



「ミレイちゃんだって、よく”食べてるし”。」


「え?」






 キララが語るのは、”2人が初めて会った時の話”。



 お腹を空かせたミレイとキララが。

 道の隅っこで座って食べた、”あの謎の肉”。



 その後も、度々食卓に並ぶこともあり。


 その都度、”なんだろう”と思いつつも。

 みんな食べてるしいっか、と。


 ミレイはスルーし続けていた。



 そして今日、ようやくその正体が判明する。






「……わたし、ドラゴン食べてたの?」


「そうだよ〜」



 予想だにしなかった事実に。

 ミレイは、ただただ驚愕する。



「ミレイちゃん、覚えてる? サロモ湖で食べたワイバーン。」


「うん、もちろん。」



 自分の手で、初めて殺した生き物である。

 しっかりと、その味も覚えている。



「ドラゴンのお肉は、と〜っても美味しいけど。大抵は魔力を帯びてるから、一般の人が食べるのには向かないんだよね。わたしたちみたいに、”魔法使い”なら何の問題もないけど。」


「……そだね。」



 先日、あれほど無様を晒したというのに。

 ”同じ括り”に入れてもらえることに、ミレイは感謝する。




「でも! このラウルテーゼは、なが〜いあいだ家畜化されたことで退化して。数いるドラゴンたちの中で、唯一魔獣に分類されてないんだよ! だから、みんなが食べても平気なの!」



 キララが力説する。




「……なるほど。イノシシがブタになったようなもんか。」



 どこの世界でも、家畜は似たようなものなのかと。

 ミレイが感心していると。




「流石に森には居なかったから、見るのが夢だったんだ〜」



 ひどく嬉しそうな様子で。

 キララは、ラウルテーゼに近づいていく。




 素人目から見れば、”どう見ても危険なドラゴン”だが。


 キララが言うからには、大丈夫だろう。





 温かい目で、近づいていく様子を見つめていると。






「――お嬢ちゃん! 近づくと食われちまうよ!!」






 近くに居た、農夫らしきゴブリンが。

 大慌てで叫び声を上げる。






「……こわぁ。」



 結局ミレイは、そこから一歩も近づこうとはしなかった。







◆◇







「まさか、Sランクのイーニアさんが立ち寄ってくれるとは。お会いできて光栄です。」



 髪の毛の長いゴブリンに連れられて。

 イーニアとフェイトは、スタンネルンの町中を歩く。



 牧場くらいしか特徴のない、小さな田舎町。

 その通りの印象ではあるが。



 すれ違う”冒険者の数”に、イーニアは疑問を抱く。



「随分と、冒険者が多いわね。」


「えぇ。実は最近、町の近くで野盗の被害が頻発してまして。この町の冒険者では刃が立たないので、帝都に応援を要請したんです。」


「ふーん。」



 物騒な話ではあるものの。

 イーニアもフェイトも、さしたる興味を示さない。


 所詮は、高ランクの冒険者で対処が可能な問題。

 彼女たちが出張るような、”脅威”とも呼べない案件であるがために。







 ゴブリンに連れられて、イーニアとフェイトは町の端っこへとやってくる。



「あそこにあるのが、空から降ってきた岩です。」


 ゴブリンが指し示す先。




 そこには、巨大なクレーターがあった。




 クレーターの中心部には、民家ほどの大きさの岩が埋まっており。

 単純な隕石とは違うのか、ある程度の原型を保っている。


 もしも、町の中心部へ落下していたら。

 尋常ならざる被害が発生していたであろう。




「確かに大きいわね。わたしじゃないと、運ぶのも一苦労かも。」



 イーニアは、そんな感想を述べるものの。

 フェイトは、岩の大きさに唖然とする。



「物騒すぎるでしょ、こんなのが空から降ってくるなんて。この世界だと日常茶飯事なの?」


「いいえ。原型を留めていることから考えて、浮遊大陸から飛来したものでしょうけど。」



 イーニアは、巨大な岩を睨む。



「……妙ね。なんで落ちてきたのかしら。」





 浮遊大陸は、土地全体が特殊な魔力を帯びており。

 小さな瓦礫であろうと、通常ならそのまま浮かび続けるはずであった。



 もしも、何でもかんでも空から降ってくるなら。

 地上はとっくに穴だらけになっている。




 イーニアとフェイトが、そんな岩を見つめていると。



 甲高い”鐘の音”が。

 町の中心の方から聞こえてくる。





「3時?」


「……いえ、これは”警報”です。もしかしたら、野盗が町を襲ってきたのかも。」



 のんきなイーニアと違い。

 ゴブリンは真剣に考える。



「まぁ、他の冒険者が何とかするでしょ。」



 町で見かけた面子からして。

 ”野盗程度なら問題ない”と、イーニアは判断し。


 気にせず、岩を動かす作業を開始した。










 その頃、町の反対の入口付近では。



 ゴブリンの予想通り。

 粗悪な服装をした野盗達が、大挙して押し寄せており。


 それを迎え撃つべく、しっかりと装備を整えた冒険者達が立ち塞がる。



 Aランク冒険者1人を筆頭に。

 魔獣討伐にも対応可能な、精鋭たちが集まり。


 ”本来ならば”。

 この程度の野盗が束になっても、何の問題もない戦力であった。




 だが、しかし。

 野盗達の中には。




 あまりにも場違いな、”金髪縦ロール”の少女が混じっており。


 不敵な笑みで、スタンネルンの町を見つめていた。






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