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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
59/153

混沌巨獣





 本体から切り離され。こちらの世界に取り残された、巨大な植物の根っ子。

 生命力の供給を絶たれ、地上メンバーによって駆逐されるかと思われたが。


 森の木々、変異種たちを取り込むことで、そのエネルギーを接収し。

 死から逃れるように、しぶとく暴走を続けていた。



「”レティシア”、そのまま頼む。」


「ええ。」



 白き竜、レティシアの背に乗って。

 アーマーを纏ったエドワードが、漆黒のビームソードで根っ子を穿つ。


 それと同時に、空中に浮かぶカミーラが、何本もの光の槍を射出する。



 だがそれでも。

 森を吸収し、なおも暴れまわる巨体には、効果が薄かった。





「……はぁ。これじゃあ埒が明かないわね。」



 巨大昆虫の背中に乗った、Sランクの魔法使い”ミーア”が。

 面倒くさそうに敵を見つめる。

 


「突入部隊も帰ってこないし。」



 地上の残党処理。この場にいるメンバーだけでも、持ちこたえられてはいるが。

 効率よく敵を減らすには、やはりマキナを含む突入部隊の助力が欲しかった。


 ”使える攻撃手段”が、限られているが故に。



「そもそも、炎がダメってどういうこと? 一撃で終わらせられる火力なら、関係ないんじゃないかしら。」



 このまま、ひたすらに消耗戦を続ける。

 そんなやり方を、ミーアは”美しくない”と判断し。


 右手を、空に掲げ。

 膨大な魔力を凝縮していき。


 使うなと釘を刺されていた、炎のエネルギーへと変換していく。




「――ジ・エンドよ。」




 ミーアは、生み出した巨大な火球を、根っ子に向かって投下し。


 その直後。




 世紀の大爆発が起こった。







◆◇







 地の底から、高出力の光の剣が放たれ。

 その後に続く形で、マキナを筆頭に、地下に潜った突入部隊が這い上がってくる。


 なけなしの根性を振り絞り。

 ほぼ全員が、体力の限界を迎えようとしていた。



 なんとか、地上へと帰還したミレイたちであったが。

 すぐに、周囲の異変に気づく。



「あれ、ここどこ?」



 ダンジョンから、直上へ移動したならば。

 地上にあるのは森か、もしくは巨大な根っ子のはずである。


 だがしかし。ミレイ達が這い出た場所は、辺り一面が”更地”になっており。

 おまけに煙が充満し、状況を伺うことが出来ない。



「……様子を見てきます。」



 地上が、一体どうなっているのか。

 それを確認するべく、マキナが光を纏い、空へと飛翔して行く。



 他のメンバーは、動く気力も残っていなかったが。



「とりあえず、休もうぜ。」



 イリスが、空に手を伸ばすと。

 彼女たちの真上に、巨大な空中戦艦アマルガムが出現する。



 久方ぶりの安全地帯に、ミレイ達は避難した。






 アマルガムの内部、密閉された空間へと移動すると。


 ようやく、変異放射線の影響下から外れ。

 メンバーのチョーカーが機能を停止する。



 すると、その瞬間。

 全身を蝕んでいた激痛から解放され。




 チョーカーを装着していたメンバー。

 イリス、ソルティア、ユリカ、シュラマルの4人が、一斉に地面へと倒れ込む。




 キンキンに冷えた床であったが。

 まるでふかふかのベッドに倒れ込んだ時のように、イリスたちは至福の表情に染まっていた。



「うげ、これはヤバい。」


「やりとげましたね。」



 数時間にも及ぶ地獄の痛み。

 それでも、決して弱音を吐かずに。彼女たちは耐え切った。



「多分もう、出産も恐くないね。」


「……ユリカちゃん、予定あるの?」



 もう、悔いはない。

 そう言わんばかりの感動を醸し出していた。



 ちなみに、チョーカーの痛みから解放されたのは、キララも同じだが。

 すでに痛みに慣れていたため、それほど開放感を感じず。



「ちょっとアンタたち、床で寝ないでよ。きったないわね。」


 凍りつき、砕けかけのフェイトは、イリスたちの行動にドン引きしていた。









「……おいおい、冗談だろ。」



 なんとか起き上がり。

 アマルガムのブリッジへと移動したメンバーであったが。


 そこから見えた光景、地上の状況に、言葉を失う。





 それは、まるで山のようだった。


 森は更地になったのではなく。

 ”一つの生命体”の肉体として、一塊になったに過ぎない。



 その山は、動いていた。


 もはやその姿は、根っ子などと表現できるものではなく。


 街をも踏み潰す、植物の塊。

 破壊と混沌の化身。




 正真正銘の、”大怪獣”へと変貌していた。





「……なんで、こんな事に。」



 大怪獣は、街の防壁のすぐ側まで迫っており。

 イーニアの作り出した巨大ゴーレムを、いとも容易く踏み潰している。



「時間を、掛け過ぎちゃった?」


「いえ。だとしても、あれ程の変化を。」



 彼女たちがいくら考えても、その理由は分からない。


 ただ現実が、非常に不味い方向へと突き進むのみ。





 大怪獣の動きを阻むように。

 先行したマキナが、高出力の光の剣で応戦する。


 だが、やはり。

 体の表面に触れた部分から、光の魔力が拡散してしまい。

 まったくもって、ダメージを与えることが出来ない。



 大怪獣の動きは止められず。

 その巨体によって、ついに防壁が崩される。



 街に居た人々にとって。

 その巨大すぎる姿は、絶望以外の何者でもなかった。






「――仕方ねぇ、このまま突進するぞ!!」




 イリスの行動は早かった。


 ブリッジにあるレバーのような物を思いっきり倒し。

 アマルガムのリアクターが最大出力へ。


 全力で、加速を始める。



「いいっ。」



 急激な加速による、身体への負担を感じながら。

 この後に予想される展開に、ミレイは冷や汗をかく。



「……先輩、嘘ですよね。」


 その問いに、イリスは振り向かない。



「……わりーな、後輩。”衝撃に備えろ”!」


「死んじゃうって!」



 ミレイの叫びも虚しく。

 アマルガムは加速を続け、大きなカーブを描きながら、大怪獣へと向かっていく。




(つ、掴まるものがない。)


 死を覚悟したミレイを乗せながら。




 最大まで加速したアマルガムが。

 大怪獣の側面へと激突する。




 勢いそのままに、その巨体へとめり込みながら。

 なおも加速を続け。


 街へと侵入しようとする大怪獣を、力任せで押し返していく。



 圧倒的な大きさゆえに、流石に吹き飛ばせはしないものの。

 巨大戦艦の最大出力を持ってして、ジリジリと街から引き離す。




 だが、次第にその勢いも収まっていき。


 ついには完全に停止し。

 伸ばされた蔓のような部分によって、アマルガムは囚われてしまう。




「……ふぅ。」



 とりあえず、僅かながらも街から敵を引き剥がし。

 イリスは満足気に息を吐く。



 ブリッジに居た他のメンバーも、柱やら壁やらに掴まって無事だった。



「……ありがとね、キララ。」



 死を覚悟したミレイであったが。

 キララの放った謎のネバネバ魔力によって、何とか吹き飛ばずに済んだ。


 逆さま状態で、宙ぶらりんになってはいたが。





「急いで脱出するぞ!」



 敵に掴まれた以上、アマルガムは航行不能であり。


 脱出するために、一行は船の後方部分へと移動する。




 けれども大怪獣は、アマルガムを取り込もうとする勢いで、蔓やら触手を伸ばしており。


 その圧力により、船の出入り口が開かなくなってしまう。




「チッ、”実体化を解く”しかねぇか。」


 またもや、イリスからとんでもない言葉が発せられる。



「”飛べるやつ”にしがみついて、こっから逃げるぞ。」



「飛べるやつ?」


 ミレイたちは、それぞれ顔を合わせ。




「……へ?」




 残念なことに、選択肢は非常に限られていた。







 アマルガムの実体化が解かれ。

 そこにできた空間から、翼を展開したミレイが脱出する。


 その表情は、怒りに満ちていた。




「――こんなの、絶対に間違ってる!!」




「……えへへ。」



 ミレイの胴体には、キララが抱きつき。

 その下にソルティア、イリス、シュラマル、ユリカと。


 ”メンバー全員がしがみついた状態”で、ミレイは飛翔する。



『心配は無用だ。身体が引きちぎれても、わたしが繋ぎ止めよう。』


「ちぎれるか!!」



 満身創痍だったフェイトは、アマルガム同様にカードの状態に戻し。


 全員分の重みが、ミレイの身体にのしかかる。



 それでも。

 ミレイ達は、必死こいて大怪獣から離れ。




 街の防壁付近で、再びアマルガムを実体化。

 命からがら、甲板へと降り立った。




「……うぅ。」


 腰付近を押さえながら、ミレイがうずくまっていると。



 アマルガムの甲板に、次々と味方が集ってくる。



 マキナは、華麗に降り立ち。



 近くまでやって来た白き竜の背中からは、エドワードとイーニアが降りる。



 翼を広げたカミーラは。

 ”若干焦げ付いた”魔法使い、ミーアを抱えていた。



 何はともあれ。

 全員が生き延びた状態で、この場に集結した。









「――で、なんでああなった?」



 何故、残った根っ子が森を吸収し、なおかつ”化け物みたいな風貌”になっているのか。

 イリスが地上メンバーに問いただす。



「ミーアの”バカ”が、特大の炎を放ったんだよ。見ての通り、自爆だ。」


 カミーラが事情を説明し。



「……ぷ、ぴゅ〜」


 戦犯たるミーアは。

 焦げた髪の毛を気にしつつ、下手な口笛で誤魔化そうとしていた。



「はぁ。なるほどな。」


 同じSランク冒険者の、あまりにも情けない姿に。

 イリスは怒る気力すら湧かなかった。




 だが、それでも。

 どうしても怒りの収まらない人間が1人。


 いつも無表情な”ソルティア”が。

 珍しく表情を険しくしながら、ミーアに近づいていき。




「――うぎっ。」


 強烈な後ろ蹴りを、腹部に食らわせ。

 思いっきり吹き飛ばす。




「いや、やり過ぎじゃない!?」


 衝撃的な暴力行為に、ミレイは驚く。



 けれども、ソルティアは特に弁明せず。

 冷め切った瞳で、蹴り飛ばしたミーアを見つめていた。



 非常に、お腹を痛そうにしながら。

 ミーアが起き上がる。




「……まったく。”姉”を蹴り飛ばすだなんて、随分と生意気じゃない。」


「蹴りやすそうなボディだったので、つい。」



 2人は”姉妹”なので、問題なかった。











 根っ子は、混沌とした巨大怪獣へと変貌し。

 破壊の足音を立てながら、街へと迫っている。



 空を飛べるミレイと、カミーラ。

 マキナ、白き竜のレティシアが。



 何とか街から離そうと、攻撃して気を引こうとするものの。


 まるで、惹き寄せられるように。

 ゆっくりと、大怪獣は街へと近づいていた。





「さて。とりあえず、全員生還できたことを喜びたいが。見ての通り、”最大の問題”は未だ解決していない。」



 エドワードたちは、アマルガムの甲板で緊急の作戦会議を行う。



「それにしても。誤算だったのは、マキナの力に耐性を持たれたことだな。そのおかげで、討伐難易度が何倍にも膨れ上がった。」


「おまけに、”どっかのバカ”のせいでデカくなったしな。」


「……うるさいわね。」


 ミーアは、未だに腹部を押さえていた。





 もしも、ミーアが火を投下せず、敵が本来のサイズであったなら。

 全員の総攻撃で、殺し尽くせる相手であった。


 だがしかし。

 ミーアの放った火球と森の植物全てを吸収し、混沌と膨れ上がった今の大怪獣を。

 殺し尽くせるだけの火力が、今のこちら側には存在しなかった。




「……フェイト。君の全力でも、あれは倒せないのか?」



 エドワードに問いかけられ。

 ”治療中”のフェイトが、ゆっくりと目を開く。


 左半身が凍りつき、戦闘継続もままならない状態でありながらも。

 それでも、再び実体化し。


 ユリカとキララの二人がかりで、身体の治療を行っていた。




「そうね。こっちの体力が万全で、向こうが元の大きさだったなら。まぁ殺し切れたでしょうけど。」


 完全に凍りつき。

 ”御札だらけ”となった左腕を見つめる。



「あと一発、大技を使ったら。多分全身が砕けるわ。」




 魔法や、アビリティカードなど。

 正規の手段で力を得た他のメンバーとは違い。


 フェイトの身に宿る力は、所詮は外付けに過ぎない。


 エドワードが特製のスーツを用いて、ようやく制御できている力を、フェイトはその身一つで行使している。

 その分、破格の出力を発揮できてはいるものの。


 代償とするのは魔力ではなく、その生命であった。




「ミレイのカードである以上、別に死ぬのは問題ないけど。”最後の一発”は、確実な場面で使いたいわ。」




 その一発を、最大限に発揮できるよう。


 フェイトは2人に頼み込み。

 崩壊寸前の身体を、”補強”してもらっていた。





 彼らが作戦を考える間も、ミレイ達による足止めは決行され。



 飛ぶのも考えるのも苦手なソルティア、シュラマル、そしてイーニアは。


 ただ黙って、戦況を見つめる。






「街の北側は、すでに避難が終わっている。最悪、壁内での戦闘も可能だ。」


「……やるっきゃねぇか。」



 あれこれ考えても仕方がないと。


 イリスは立ち上がり、街へと迫る大怪獣を視界に収める。



「オレたちが全力で攻撃し、フェイトが最後の一撃を決める。結局、やるのはそれだけだろ?」


「ああ。まさに、”作戦”だな。」




 持てる力の全てを束ね、破壊と混沌の化身に挑む。


 長きに渡る戦いが、ついに最終局面を迎えようとしていた。





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