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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
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緑の果て





「うわー、まじゲロヤバじゃん。」



 ピエタの街の防壁。

 その上に立つ水着姿の魔女、クレイジーフィッシュは。


 瞳に描かれた”魔法陣”を介して、街の外の戦闘を見つめていた。



 苦しみ、のたうち回るように暴れる、巨大な根っ子。

 森の変異種をも踏み潰しながら、激しく暴走するその姿は。

 ”生”にしがみつく、純粋な生き物のようにも見える。



 巨大な昆虫に乗る魔女や、エドワードを背中に乗せた白き竜。

 そして、加勢しに戻ったカミーラなど。


 そのあまりの暴れように、手がつけられない様子だった。




「でも、流石はSランク冒険者。”魔力スケール”、100万超えがゴロゴロしてるなぁ。」



 瞳に描かれた魔法陣を使い、クレイジーフィッシュは人類側の”戦闘力”を計測する。



「こっち側の最高値は、”770万”の白いドラゴン。かなり強いけど、相手が”アレ”じゃあねぇ。」



 同様の魔法陣で、巨大な根っ子を計測する。

 その潜在魔力量には、クレイジーフィッシュも思わず冷や汗をかく。



「文字通り、”桁違い”の魔力量だし。おまけに今も上昇中。こりゃ人類終わったかな。」



 まるで他人事のように、彼女は戦況を観察していた。







◆◇


◇◆







 心地よい香り、心地の良い温かさに包まれて。

 キララは目を覚ます。



 とても、不思議な気分だった。



 カミーラの家、”いつも通り”の寝室。

 一緒の布団には、ミレイが安らかな寝息を立てている。


 このまま放っておいたら、きっと昼ごろまで起きてこないだろう。



「……あれ。」



 いつもなら、ほっぺたを突っついて、反応を楽しみたいところだが。

 今日はなぜか、触れたいという気分にならない。



 だから、キララはミレイを起こさなかった。






 目の覚めたキララは、1人でリビングへと行くと。


 綺麗な白い翼。

 朝食の準備をする、カミーラと顔を合わせる。



「おはようございます、カミーラさん。」


「ああ、おはよう。ミレイはどうした?」


「……まだ、眠いみたいで。」


「そうか。アレはもう病気だな。」


「あはは、ですね。」



 他愛のない会話をする。

 いつも通りのこと。





「じゃあ、わたしは仕事に行ってくるよ。」



 そう言って、カミーラは出かけていった。



 いつもなら。

 ミレイを起こすか、起きるまで待つのだが。



「……ま、いっか。」



 たまには違うことをしようと。

 キララも1人、外出をすることにする。






 花びらの舞う、美しきジータンの街並みを歩き。

 特に目的もなく、様々な商品の並ぶ市場通りを歩いていると。


 食い入るように商品を見つめる、ソルティアの姿を見つける。

 彼女の趣味である、奇妙な植物の苗を見ているようだった。



「なにか、良いものでもあった?」


 せっかく会ったので、キララは声をかけてみる。



「……いいえ、それほどでも。」


「その割には、結構距離が近かったけど。」


 あれほど至近距離で凝視しておいて、興味がないというのは無理な話である。



「キララさんは、毒の材料をお探しで?」


「むむ。別にわたし、作るのは毒だけじゃないよ? 最終的には、”錬金術師”を目指してるからね!」



 どどんと胸を張る。



「……ああ、懐かしいですね。確か、絵本のお話でしたか。」


「うん。あの本に出てきた”魔法の石”が作りたくて、色々と調合にのめり込んだんだけど。毒とか作って、自分に試してる内に、”気持ち良いかも”って思っちゃって。」


「……思っちゃったんですね。」




 様々な商品を前に。

 キララとソルティアは、会話に花を咲かせる。


 ミレイほどではないが、楽しさを感じていた。






 その後。

 ソルティアと分かれたキララは、1人で冒険者ギルドへと向かった。



 建物に入ると。


 仲の良い2人。同年代のフェイトと、イーニアと出会う。

 2人は、クエストボードの前で、何やら話している様子だった。



 キララが近づいていくと、2人もそれに気づく。



「あら、キララじゃない。」


「うちのマスターは一緒じゃないの?」



 非常に、気の強い2人だが。

 年の差があるせいか、妙に仲良くしているようだった。



「そうだわ! 面白いクエストを見つけたから、みんなで一緒に行こうって話してたの。貴女たちも来るわよね?」



 そう言って、イーニアは1枚の依頼票を見せてくる。

 確かに、みんなで一緒に行けば、楽しそうな内容の依頼だった。



「……うん。そうだね。」




 花の都ジータンに、彼女たちが居る。


 少し、不思議に思ったが。

 それでもキララは、気にせずに笑った。






 ギルドを後にして。

 キララが広場の近くを歩いていると。


 噴水の縁に座って、日向ぼっこをするユリカとシュラマルの2人を見つける。


 陽気な雰囲気に寛いでいるのか。

 シュラマルの膝を枕にして、ユリカはぐっすりと昼寝をしていた。




「やっほー」


 キララに気づいたシュラマルが、笑顔で手を振ってくる。


 それに反応し、キララはそばに寄っていく。



「お昼寝ですか?」


「うん。この国だと、太陽の光がいつでも見られるから。おまけに花の都は暖かいし、ずっと暮らしていたいかも。」



「……確かに。心地は、良いですね。」




 キララは瞳を閉じ、風を感じる。


 何も不思議なことはない。

 景色も、香りも、何一つとして。


 違和感なんてない。



 だから。

 大好きなミレイに会うために、キララは家に帰ることにした。





「ただいま〜」



 家の中に声を届けるように。

 元気よく、キララは帰宅する。



「おかえりー」


 その声に応えるように。

 リビングの方から、ミレイの声がする。



 何も不思議じゃない。

 いつも通り、変わらない彼女がそこにいるはず。


 その想いを胸に、キララはリビングへと向かっていき。




 その少女と、対面する。




「どっか出かけてたの?」



 赤くて、きれいな瞳をしていた。



「そういえばわたし、前より魔法が使えるようになったんだよね。」



 白くて、サラサラな髪の毛をしていた。



「スプーン程度なら、結構簡単に曲げれるんだよ?」



 小さくて、わたしの顔を見上げていた。




 ”心が、ときめかない”。

 それ故に、キララは気づいた。




「――”下手くそな夢”だね、これ。」




 まるで、全ての願望を叶えてくれたかのような。

 ずっと浸っていたくなるほど、素晴らしい世界。



 それでも、やはり。



 ”本物のミレイ”じゃないと、キララは我慢ができなかった。




 愛用の弓、フェイズシフターをその手に持ち。

 怒りと、渾身の魔力を込めて。





 天を狙い撃つ。


 世界を、穿いた。





 その瞬間。

 キララの体に纏わりついていた”黄金の触手”が、驚いたように離れていく。




 しっかりと、自らの瞳で世界を見つめ。



「……なに、ここ。」



 キララが立っていたのは、薄暗い謎の空間であった。


 壁や天井は、全て樹木のような材質で、巨大な植物の中に居ることが分かる。



 そして、もっとも異質なのが。


 キララの目の前で蠢き、そして床全体に広がる、”黄金の触手”たち。


 その踏み心地からして、かなり柔らかく。

 周囲の植物とは明らかに違う、”特別な器官”であると推測できた。




 まったくもって意味不明な光景に、キララが呆然としていると。




「――目が覚めましたか、キララ様。」



 懐の中から声が聞こえ。

 取り出してみると。


 それはミレイから預かっていた、”お喋りタンポポ”であった。



「何がどうなってるか、分かる?」


「はい。キララ様がここへ連れ去られて、”彼”に触れられている間も、わたしはここに居ましたので。」



 タンポポの言う彼とは、黄金の触手のことであろう。



「ここって、どこなの?」


「おそらくは、この世界の中心部。巨大な植物生命体の、中枢とも言える場所です。」


「……ここが、中枢?」


「はい。正確に言えば、先程までキララ様に巻き付いていた、そして現在、足場にしているこの触手こそが、”彼”です。」




 無数に存在する、黄金の触手たち。

 それが彼であり、彼らでもある。


 巨大な星を統べる”知能”が、ここにはあった。




「それってつまり。ここを”全部壊せば”、敵も機能しなくなるってこと?」


「はい。その通り、です。……ですが。」




 お喋りタンポポは、ほんの少しだけ言葉をつまらせる。

 ”ここを全て壊す”という選択を、望んでいないかのように。



 そしてそれは、キララにも分かっていた。




「……多分この子、”悪い子”じゃ、ないんだよね。」


「……はい。」



 今この空間においても。

 彼は、キララに危害を加えようとしていない。


 黄金の触手は、不規則に蠢いて。

 キララの様子を伺っているようだった。



「彼は、戸惑っています。」


「どうして?」


「”望むものを与えたのに、なぜ拒むのか”。そう言っています。」



 同じ植物だからなのか。

 お喋りタンポポは、触手の言葉、気持ちを理解できた。



「そっか。だから、あんな夢を見てたんだね。」




 とても、不思議な感覚であったが。


 先程までキララが見ていた夢、感じていた世界は。

 確かに、キララの願望を叶えたようなものだった。



 今と変わらぬ世界の延長線。

 今がずっと続いていく。それこそが、キララの望む夢。



 だが、それでも。

 キララは、”夢では満足できなかった”。




「なんで、わたしをここに連れてきたの?」


「”君が特別だから。ここに来ても、死なずに動いている。他の生き物とは違った”。と言っています。」


「他の生き物?」


「キララ様。どうか、触手たちの下を見てみてください。」



 タンポポの声に従って。

 触手たちの足場、その端っこまで行き。下を覗いてみる。




「――うっ。」




 そこには、多くの生き物の死骸があった。



 鹿や、うさぎなど、森に暮らしていた動物たちや。

 キララの知らない魔獣たち。


 そして、上のダンジョンに生息していた、”オールト”たちの死骸もそこにはあった。


 彼らに、外傷は存在しない。

 おそらくは変異放射線の影響に耐えられず、臓器不全等で死に絶えたのだろう。




「”何が欲しい? 何を与えれば喜ぶ?” 彼はそう言っています。」


「……なにも、いらないよ。元の世界に返してくれれば、わたしはそれでいい。」



 キララのその言葉を。

 タンポポが、彼に伝えたのだろうか。


 触手達が一斉に動き出し、キララの体にまとわりつく。



 ここから去ることを許さない、そう言わんばかりに。



 それでも、キララは決して臆さず。

 まっすぐと、自分の意志を伝える。



「あなたに、悪意がないのは分かるよ。他の世界に手を伸ばしていたのも、純粋に何があるのかを知りたかっただけ。わたしにあんな夢を見せたのも、”喜ばせたかっただけ”なんだよね。」



 彼の本質を、キララは理解できる。



「でもね、あなたが手を伸ばした世界は、”あなたという存在に耐えられないの”。手を伸ばせば伸ばすほど、みんな苦しんで死んでいっちゃう。わたしだってそうだよ? チョーカーを維持する魔力、中身の毒が無くなれば、きっと同じように死んじゃう。」



 他のメンバーと違い。キララは、ある程度は毒の痛みに耐えられる。

 むしろ、それを快感とすら思っているからこそ、平気な顔をしているが。



 今この瞬間も、首元のチョーカーは機能をしている。

 とても無理をして、今を生きている。



「だから、あなたと一緒には居られない。”わたしの欲しいもの”を、あなたは持っていないから。」




 どれほど精巧な夢、素晴らしい世界でも。

 キララの瞳を誤魔化すことは出来ない。



 本物のミレイ以外、全てが”モノクロ”に見えているのだから。





 こうして。


 神にも等しき彼は。

 手に取った小さな命に、拒絶された。






◆◇






 半身を凍てつかせ、全力を解放したフェイトが。


 特大の氷で出来たドリルを使い、緑の大地に大穴を開けていく。


 ダンジョンの最深部を目指していた時よりも、遥かに速く。

 凄まじい勢いで穴を掘っていくものの。


 それと同時に、フェイトの体は凍てついていった。





「クソ寒ぃ。」



 そのあまりの出力、あまりの冷気の強さのせいで。

 悪態をつくイリスを含め、ミレイもソルティアも近づくことすら叶わない。



「あいつ、どこにあんな力隠してたんだよ。」


「……多分、かなり無理してると思う。」




 ミレイ達が見つめる中。



 この星の中枢めがけて、一直線に穴を掘り進めるフェイトであったが。


 突如、その手を止める。




「どうしたんだろ。」



 疑問に思うミレイであったが。

 すぐに、その理由が明らかになる。




 世界が。

 星の様子が、変わっていく。



 風が冷え切り。

 大地は硬くなり。



 世界全体の雰囲気が、暗くなる。



「なに、これ。」


 ミレイの問いに。

 側に居たイリスも、ソルティアも、答えることは出来ない。


 だが、彼女の中の存在は、その変化の意味を理解する。



『中枢部分で、”何か”があったんだろう。そしてその影響が、”世界全体”に広がっている。』



 紛れもなく。

 この星は、”彼”なのだから。








「ねぇ、タンポポちゃん。この子はきっと、寂しいんだよね。」


「……はい。」



 キララに、拒絶されたことにより。

 黄金の触手たちは力を失くし、ゆっくりとその体から離れていく。


 表情のない、触手という存在だが。

 その力のない動きからは、失意の感情が読み取れる。



「キララ様という存在。”自分以外の存在”を、彼は知ってしまいました。この世が孤独ではないということを、知ってしまった。」

「だからこそ、もう。”繋がりのない世界”には、戻りたくないのです。」




 黄金の触手が、ゆっくりとキララの頬に触れる。



 ”行かないで”。

 そう言っているような気がした。





 カワイソウ。

 心の中では思っても、決して口には出せない。


 ミレイも、これに近い感情で、サフラを体に受け入れたのだろうか。




 だが、それでも。

 今回に関しては事情が違った。


 キララはこっちには残れないし、彼を一緒に連れていくことも出来ない。

 あくまでもこの触手たちは、星の脳に当たる部分なのだから。


 小さなサフラのように、共生することは出来ない。




(……ごめんね。)



 心の中で謝りながら。

 頬に触れる触手を、引き離そうと手で触れるも。





「――ここは、わたしに任せてください。」




 知っている声。

 それでも、知らない”小さな手”が、黄金の触手に触れる。




 それは、小さな妖精だった。

 人間の手のひらほどのサイズの体に、蝶のような羽根。


 そして頭部には、”元の存在”を示すかのように。

 黄色い、”タンポポの花”が咲いていた。




「タンポポちゃん?」


「……はい。他の生物にとっては有害でも、植物にとっては”進化”を促す要素となる。それは、わたしも例外ではありません。」




 ミレイのアビリティカード、という存在でありながら。

 森の植物たちと同様に、タンポポは”変異種”へと進化していた。




 妖精のような姿へと変わったタンポポは。

 その小さな手で、黄金の触手に触れる。




「……どうか、彼女を行かせてあげてください。」



 タンポポが語りかけると。

 その想いを受け取ってか、触手が脈打つ。



 彼女たちの間で、意思の疎通が行われているのだろうか。



 触手から広がっていくように。

 周囲が、世界が、再び変わっていく。



 タンポポが、何を語りかけているのかは分からないが。


 悲しみに染まっていた大地が、再び温かさを取り戻していく。





「……え。」


 星の中枢を目指すフェイト達にも、その変化は感じ取れた。





 キララの頬から、触手が離れていき。


 その代わりに。

 飛翔するタンポポの妖精の周りに、触手たちが集っていく。



 それはとても、幻想的な光景であった。





「――キララ様。わたしは、ここに残ろうと思います。」


「え?」





 この”大きな植物は”、とても優しい心を持っている。


 自分の意に沿わないことだとしても。

 きっと最終的には、キララを元の世界に返してくれたであろう。


 それは、人間と何も変わらない。

 当たり前で純朴な優しさを、彼は持っていた。


 無理やり手元において、弱って死んでしまうのなら。元いた場所に返してあげる。


 自分が再び、孤独になることもいとわずに。



 ”だがタンポポは、それを良しとしなかった”。




「残るって、”この世界”に?」



「はい。マスターのアビリティカードであるわたしが、このような決断をしてはならないと、承知はしています。ただ、それでも――」



 優しく、黄金の触手に触れる。



「――”彼”を、1人には出来ませんから。」




 変異種と化した、今のタンポポなら。

 向こうの世界に連れて行くことは出来なくても、孤独から救うことは出来る。



 彼の隣で咲き誇り、”これからの未来”を紡ぐことは出来る。




「申し訳ありませんと、マスターに伝えてください。」



 謝るタンポポであったが。


 キララはゆっくりと、首を横に振る。



「……多分、その必要はないよ。ミレイちゃんならきっと、”偉いよって”、褒めてくれると思う。」


「……ですね。」



「だから伝えるのは、”別の言葉”が良いと思う。」











 ドリルを駆使して、穴を掘り進めるフェイトであったが。



「えっ?」



 突如として、地面に大穴が開き。


 そこから、巨大な根っ子と。

 それに抱えられた、キララが上ってくる。



「なんでよ!?」



 フェイトの戸惑いなどお構いなしに。

 巨大な根っ子は、そのままの勢いでフェイトを飲み込んでいく。



「――わわわっ!?」



 無論、それを眺めていたミレイたちも、余すことなく飲み込んで。


 異界の門のある場所へと移動していき。



「え。」


 門を維持していたマキナも一緒に。



 余すことなく。

 みんな纏めて、元の世界へと連れて行った。





「うげっ。」



 ミレイたち全員を、雑に放り投げて。

 役目を果たした根っ子は、向こうの世界へと戻っていく。



 一体、何がどうなっているのか。

 みな理解が出来ていなかったが。



 ただ1人、キララだけは手を振って。

 彼らに別れを告げた。







 そうして、異界の門は完全に閉じ。

 2つの世界は、果てしなく遠い存在となった。







「――で、何がどうなったわけ?」



 身体の半分以上が凍りつきながらも。

 フェイトは呆れ顔で、どこか満足した様子のキララに詰め寄る。



「話し合いをしたの。向こうだって、別に悪気があったわけじゃないから。」


「はぁ? じゃあなに、敵を説得したってこと?」


「う〜ん。まぁ、そうなんだけど……」



 キララは少し、難しそうに首を傾げて。



 意を決すると。

 じーっと、ミレイを見つめる。




「?」


「タンポポちゃんから、伝言を伝えるね。」





「――”また会う日まで、どうかお元気で”。」





「……え。」



 キララの発した言葉に。

 意味が分からないと、呆然とするミレイであったが。


 ゆっくり、ゆっくりと飲み込み。



 手のひらを前に出して。

 ”お喋りタンポポ”を、そこに召喚しようとする。




 けれども。

 その繋がりは、遥か遠く。


 微かな”絆”の残滓が、指先に触れるだけ。




「向こうの世界。あの子を放っておけないから、残りたいって。」


「……そう、なんだ。」



 ミレイは、その事情を理解し。

 静かに、息を吐く。



 そして、うつむきながら。

 小さな自分の手を、無言で見つめた。




 自身のアビリティカードの1つ。

 話し相手となってくれる友人が、”善き行い”のために遠い世界へ旅立った。


 落ち込んでいるのだろうか、と。

 不安に思うキララであったが。




 ミレイは、ゆっくりと手を伸ばし。

 キララの手を掴むと。


 そっと優しく、指を絡ませた。




「……つまり、こういうことでしょ?」



 突然の行為に、キララは驚き。

 何も反応できない。



「戦いで解決するんじゃなくて。手を繋いで、”わかりあった”。」



 人と、何も変わらない。


 人だって。

 こうやって信頼関係がないと、本当の意味では繋がれない。



「凄いね、タンポポは。わたし達も見習わないと。」


「……うん。そうだね。」






◆◇






 そこは、遠い世界。

 鮮やかな緑に囲まれた、植物の惑星。



 この世界に暮らしているのは。

 とても大きな樹木と、小さな花の妖精だけ。



 花の妖精は、樹木の一部である黄金の触手に腰掛け。

 その言葉に耳を傾ける。



「名前、ですか?」



「……そうですね。これからは2人なので、お互いに名前も必要ですね。」



 妖精は、頭を働かせて。

 自分たちの名前を考える。





「――”シャンビア”。それを、あなたの名前にしましょう。」



 名を告げられて。

 黄金の触手は、嬉しそうに蠢く。



 そして、そのお返しにと。

 彼は、妖精に名前を与えた。





「――ええ。それはとても、”素敵な名前”ですね。」



 与えられた名前を、妖精は心の中にしまい込む。





 そうして、2人は名前を呼び合った。

 まるで、恋人のように。





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