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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
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異界侵食





『本当に、構わないのか?』


「うん。お願い。」




 アマルガムの会議室。

 その中心に、キララは立っていた。


 右手にはサフラを宿しており、その様子を他のメンバーが距離を取って見つめている。




「あのー、カミーラさん。あの子って、”頭イカれてるんすか”?」


「もし仮に成功したとしても、あまりにもリスクが高すぎる気が。」



 クレイジーフィッシュも、デルタも。

 心配の気持ちだけでなく、若干の”畏怖”を込めた視線でキララを見つめていた。



「まぁ、黙って見守るしかない。」


「……あぁ。」



 カミーラもエドワードも、そしてユリカも。非常に真剣な表情で、キララの様子を見守っていた。




 キララと、その手に宿るサフラを中心として、超高濃度の”変異放射線”が溢れ出す。



 もう誰も、彼女には近づけなかった。











 深い地の底に空いた穴を通して、異世界から根っ子が伸びてくる。


 その根っ子は、生命体に致命的なダメージを与える”変異放射線”を含んだガスを吐き出し。

 人類の生存不可能な環境へと、世界を塗り替えていた。


 法則を塗り替えられ、根っ子に侵食された世界では、あらゆる動物たちが死に至る。

 人であろうと、魔獣であろうと、そこでは生きられない。




 だがしかし。

 放射線による強烈な変異に適応し、凄まじい速度で”進化”するモノたちも存在した。




 森に生える、一本の樹木が。不自然に脈打ち、蠢き出す。


 根っ子の部分は、大地への依存を捨てるように、地面を踏みしめ。

 幹は、動きやすい形状へと変形していく。

 枝や葉はうねりだし、明確な意思を持った”触手”のような役割を担い出す。



 巨大で恐ろしい、”怪物”のように。



 果たしてそれは、本当に正しい進化なのか。

 たとえ数億年かけたとしても、植物がそのような形態を獲得することはないであろう。


 だが実際に、高濃度の”変異放射線”の影響を受けた植物たちは、自ら立ち上がる道を”選択”した。




 そして、その元凶となった、異世界の根っ子とは”異なる部分”が1つ。


 この世界の植物たちは、”人類の危険性”を知っていた。






 ”明確な敵意”を持って。

 森の”変異種”たちは、枝を槍のような形状に変化させ。

 それを、フェイトに向かって突き出す。



「ふぅ。」



 フェイトの体から、強烈な冷気が四方に放たれる。

 相手が単なる森の樹木なら、それで容易く凍結させられるものの。


 ”変異種”である彼らには効かず、問答無用で突き抜けてくる。



「ッ。」



 フェイトは自身を中心に、無数の氷の剣を展開し。

 自らに迫る鋭い枝を、全て粉々に斬り刻んだ。




 氷の剣は圧倒的で、変異種たちの攻撃を一切受け付けない。


 それでも、森にいる人間は彼女1人であり。

 周囲を囲む”全て”が、フェイトに敵意を向けていた。




 そこへ、翼を展開したミレイが飛来する。



「――フェイト、大丈夫!?」


「ええ。特に問題は無いわ。」



 フェイトは余裕な表情を崩さない。


 物量だけなら、圧倒的な差が存在するものの。

 だから負けるなどという考えは、微塵も浮かばなかった。



「ていうか。何と戦ってるの? これ。」


「見ての通り、”森”と戦ってる最中よ。」



 彼女たちを囲むように、周囲の木々がざわめき出す。


 その姿は、異形の怪物へと変化していき。

 眼球こそ存在しないものの、確かに2人の存在を見つめていた。



 フェイトが、持っていた計測器をミレイに投げつける。

 計測器に目を向けると、ディスプレイは壊れていたものの。

 小さな警告音が鳴り続けていた。



「あの巨大な根っ子だけじゃない。そこら中の植物も、放射線を発してるわ。ほんと厄介だけど、この森は”向こう側”に付いたってことね。」


「……そりゃヤバい。」




 植物の持つ適応能力は、人間などの動物とは比較にならない。

 ましてや、この地に溢れる”変異放射線”は、植物との相性が非常に良かった。


 森の植物たちは、環境に適応した”変異種”へと進化し。

 異世界から来た”大いなる根っ子”と、共存する道を選んだ。




「ふぅ。」



 覚悟を決めたミレイは、軽く魔導書を叩き。

 殺意の塊のような大鎌、”聖女殺し”をその手に出現させる。



 そして、街のどこかに居た”フェンリル”を、この場へと召喚した。




「良い武器じゃない。”森林伐採”にはもってこいね。」



 現在、”この環境下”での戦闘が可能なのは、ここにいる2人だけ。


 そしてそれに対する敵は、あまりにも”広大”であった。







「よっと。」



 街の外での戦闘を聞きつけて。

 イリス、ソルティア、シュラマルの3人が防壁の上へとやって来る。


 どれほど、”激しい訓練”を行っていたのかは定かではないが。

 イリスの鼻には、血の滲んだティッシュのような物が詰められていた。



「あれって、オレらが近づいたら”アウト”って話だよな?」


「そうだね。僕がダンジョンで倒れた時よりも、濃度が高いとか、どうとか。」



 現状、異界の植物が発する変異放射線に対抗する手段が無いため。

 不用意に接近戦を挑んだり、火や熱に関連する魔法を使うことは禁じられていた。


 ”無駄死に”を、防ぐためである。



「……とはいえ。いざとなったら、行くしかないでしょうね。」



 ソルティアの手には、鞘に入った刀が握られており。

 加勢できないもどかしさに、拳が震えていた。







 森の一角で繰り広げられる、凄まじい威力の戦い。


 漆黒の斬撃が四方に放たれ。

 氷の剣が森の変異種たちをなぎ倒していく。


 4つ星と、5つ星のアビリティカード。

 その能力を遺憾なく発揮し、迫りくる植物群を圧倒していた。



 だがしかし。

 奮闘する彼女たちに対して、敵対する森の変異種の規模はあまりにも大きく。



 彼女たちの攻撃の及ばない箇所が、また”別の方向”へと行動を開始する。


 すなわち、”人間の存在する方向”へと。






「ッ、こっちに近づいてやがるな。」



 不穏にざわめく森が、ピエタの街へと近づいてくる。

 その様子は、防壁のイリスたちにも見て取れた。



「……やはり、敵の規模が。」



 ミレイとフェイトの力は、森の変異種相手に全く引けをとっていない。

 縦横無尽に走り回る、フェンリルも同様である。


 けれども、どれほどの斬撃を浴びせても、驚異的な生命力を持つ変異種を、殺し尽くす事は叶わない。




 街へと迫りくる敵を前にして。

 イリスたちは、戦闘の意思を固めていた。




 だが、突如として。

 足場である防壁が、グラグラと揺れ始める。




「なんだ!?」


 イリスたちの困惑をよそに。

 揺れは更に激しくなっていき。



 下から突き上げられるように。

 ”防壁の高さが上がっていく”。




「この力、イーニアか!」



 離れた場所では。

 イーニアが防壁の上から、”聖杯の中身”を地面にぶちまけていた。



 それによって、大地は強大な力を宿し。

 街の防壁をより強固にするべく動き始める。



 敵対する、変異種の侵入を防ぐために。

 森に面した側の防壁が、元の倍近い高さへと押し上げられた。





「貴女たちの出番は”まだ先”よ。今日街を守るのは、このわたしの役目。」




 イーニアの能力によって、力を宿した大地が隆起し。

 一体の、”巨大なゴーレム”へと変化する。



 ゴーレムの大きさは、元の防壁にも匹敵するほどであり。

 イーニアは、そのゴーレムの肩へと飛び乗った。




「――さあ、”自然を踏み潰しなさい”!!」



 本来ならば、そんな命令は絶対にしないであろうが。



 街と、そこに暮らす人々、大切な全てを守るため。

 巨神と少女は、森を蹂躙し始めた。






◆◇






「うわ、でっかぁ。」



 街を守るべく立ち上がった、巨大ゴーレム。

 その勇姿は、地上で戦うミレイ達にも確認できた。



「……あのガキンチョ、肩に乗ってない?」


「えっ、危なくない!?」



 確かに、巨大ゴーレムの増援は頼もしかったが。

 ミレイは肩に乗ったイーニアを心配する。



「アンタ小回り利くんだから、向こうのフォローに行きなさい。こっちは、わたしと犬っころで平気よ。」


「……うん、分かった。」



 フェイトとフェンリルの戦闘力には、すでに厚い信頼を置いているため。

 ミレイは迷わず、イーニアの元へと向かった。







 ゆっくりと重たい動作で、ゴーレムが地面に拳を打ち付ける。


 凄まじい衝撃波と、振動が地面に轟くも。


 森の変異種の生命力は尋常ではなく。

 その拳を伝って、ぐちゃぐちゃになった変異種が、ゴーレムの体を侵食してくる。



「……気持ち悪い。」



 拳に引っ付いた根っ子やら何やらを、なんとか剥がそうとするものの。

 その巨体ゆえに、小回りが利かない。


 それに、イーニアが悪戦苦闘していると。




「えいさー!」


 高速で飛翔するミレイが。

 手に持った大鎌で、ゴーレムに巻き付いた変異種を刈り取った。




 ミレイとイーニアが合流する。




「イーニア、わざわざ肩に乗らなくても。」


「近くに居ないと、こいつのパワーが落ちるのよ。」



 イーニアの能力は非常に強力だが、完全に自動制御が出来るほど万能ではなかった。



「じゃあ、これ持ってて。」


「……わたし、こういうの無理なんだけど。」



 イーニアは、ミレイから”計測器”を受け取るも。

 このような”機械文明の道具”には、一切の馴染みがなかった。



「これがピーピー鳴ったら危険ってこと。鳴ったら、絶対に街に逃げて。”絶対の約束”だよ!」


 そう言って、ミレイは再び戦いに戻っていく。



「……まったく、仕方ないわね。」







 意思を持ち、人類に敵対する道を選んだ、森の変異種たち。

 彼らがピエタの街に接近しないよう、ミレイ達は持てる全ての力を使って戦い続ける。



 イーニアの操るゴーレムは、その巨体を活かしてひたすらに木々を蹂躙する。

 殴って踏みつけ、殴って踏みつけ。時には掴み、ぶん投げる。



 その巨体に釣られてか。

 変異種たちは街ではなく、ゴーレムを狙うように動きを変えた。



 そこに集った変異種たちを。大鎌を持ったミレイが、黒い斬撃で斬り刻む。



 愚鈍な動きのため、変異種たちがゴーレムの体によじ登ってくるも。

 小回りの利くミレイが、その全てを刈り取っていく。




 視線の果てまで広がる、強大な敵を前にして。

 ミレイとイーニアは、互いに背中を預け、全力の限りを尽くす。


 熾烈な戦いのはずなのに。

 2人は不思議と、同じように笑みを浮かべていた。






 もしも、ピエタ防衛戦の時、”ミレイがフェイトを召喚できなかったら”。

 こんな光景もあり得たかも知れない。





 絆と運命が、交差する。











 ミレイ達の奮闘によって、変異した森の侵攻は食い止められていた。


 夕暮れ時に始まった戦闘故に、すでに太陽は姿を消していたが。

 アマルガムのライトアップによって、なんとかミレイたちは視界を確保する。



 しかし、異界からの支援を受け、”無限の生命力”を有する敵を前にして。

 永遠に戦い続けれるほど、彼女たちは忍耐強くなかった。




「……吐きそう。」



 縦横無尽に飛び続け、大鎌を振り続けていたミレイは。

 経験したことのない長期戦に、疲労困憊な様子。



「……ふぅ。」



 ミレイに比べて、場数を踏んできたイーニアには余裕があったが。

 それでもやはり、長期戦では精神力を削られていた。



 戦闘に特化した獣であるフェンリルは、無尽蔵のスタミナで変異種をなぎ倒し続け。



 能力的にも余裕のあるフェイトは、変わらずに敵をさばき続ける。




 だがしかし、色々な意味で限界が近いのは、フェイトにも分かっていた。



(……氷結への耐性を持ち、火炎や砲撃は使えない。おまけにいくら攻撃しても、そこら中の破片と結合して、無限に再生する。つまり、”こちら側に勝ち目は無い”。)




 火や熱という、”人類の主要攻撃手段”を無力化し。

 なおかつ、生命を死に至らせる”変異放射線”を撒き散らす。



 特殊な耐性を持つミレイとフェイト、巨大ゴーレムを操るイーニアが居て。

 なんとか、戦いが成立している。



 ”このメンバーだからこそ”、奇跡的に抑えられているものの。

 ”変異種”という存在は、本来なら人類の敵うような相手ではなかった。




(”SCAR DRIVE(スカードライブ)”を起動すれば、ここら一帯は吹き飛ばせるけど。いま全力を使ったら……)




 未だ、フェイトは”真なる切り札”を残していた。

 しかしそれは、”使えば必ず死に至る”、正真正銘の最後の力。



 今の彼女はミレイのアビリティカードであるため、しばらくすれば再び召喚が可能になるものの。

 その時まで、”この街が残っている保証はない”。



 この場は自分が犠牲になって、ミレイとイーニアを休ませるべきか。

 それとも、このまま3人で堪え続けるべきか。


 何が最善なのか、フェイトは思い悩んだ。







 終わりの見えない戦いが、街の外で繰り広げられる。




 近づきようのない、戦いようのない冒険者達が、少女たちの勇姿を見つめていた。



 アマルガムの魔法使いたちが、変異放射線への対処法を編み出さない限り。

 どれだけ磨き上げられた剣でも、何の意味も成さない。





 そんな、さなか。

 ”一筋の光”が、空より飛来する。





 光は、街と森との間に降りると。

 ”騎士のような格好をした、1人の金髪の女性”へと姿を変えた。



 防壁の上から見つめる人々は、それが何者なのかを知らなかったが。





「――”マキナ”、だと。」


 唯一、イリスだけは、彼女の名を知っていた。





「……氷使いの少女と、狼の魔獣に告げます。これより、森の敵対勢力を”駆除”しますので。街へ避難するか、上空へとお逃げください。」



 マキナが、淡々とした口調でフェイトらに呼びかける。




「はぁ!? 一体何様よ、アイツ。」


 急にやって来て、ピカピカと光っている人間に指示されて。

 フェイトは、不満を露わにする。



 だが。



「――フェイト、言う通りにしろ! あと、ミレイはフェンリルを引っ込めろ!」



 イリスの大声が響き渡る。



「ったく、何なのよ。」


 非常に不服だが。

 仕方がないと、フェイトは上空へと浮かび上がる。



「フェンリル、戻って。」


 ミレイも、フェンリルの実体化を解除した。





 彼女たちが、森から離れたのを確認すると。



 マキナは右手を前に伸ばし。

 その手の先に、眩いほどの”光”を集中させる。



 やがて光は、”剣”のような形状へと変わっていき。





「――”IV(イヴ)=ミューラー”」


 その一言と共に、横薙ぎに振られ。





 森の半分ほどの面積を、”巨大な根っ子もろとも”。


 真っ二つに、斬り裂いた。





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