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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
51/153

神の手が触れる





 雪の都に訪れた、つかの間の平穏。

 それを、打ち破るように。



 決壊の時は、唐突にやって来た。



 ダンジョンに封をする、フェイトの生み出した巨大な氷柱。

 それに、地の底から湧き出てきた、無数の木の根っ子が巻き付いていき。


 獲物を絞め殺す蛇のように。




 巨大な氷柱を、”粉々”に砕いた。







「――それでね、全身が”宝石まみれ”と思ったら、実は”爆弾まみれ”だったんだよ!」


「ええ。あれは、流石に肝が冷えましたね。」



 ミレイと離れ離れになった後の、キララとソルティアのふたり旅。

 その際に食した、”珍しい野生生物”のお話。


 そんな、他愛もない会話に花を咲かせるミレイ達であったが。




「ん?」



 どこからか、鐘の音が聞こえてくる。


 ただの鐘の音ではない。

 街全体に響き渡るほど、大きな鐘の音が。




「何だろう、この音。」


「まぁ、ただ事ではないでしょうね。」



 危機感の微塵もないミレイは別として。

 キララとソルティアは、非常事態を告げる音であると推測する。



「……」


 フェイトは静かに、”敵”の存在を察知していた。









 氷柱を粉砕し。

 地上へと手を伸ばした、巨大な植物の根っ子。


 伸ばされたその指先は、雲の上まで到達し。

 これでもかと言うほど、その存在を主張していた。




「……でっか。」



 事態を確認するため、街の防壁の上まで移動したミレイ達であったが。

 突如森から出現した、その根っ子のあまりの大きさに、完全に圧倒されていた。




「……間違いない、ダンジョンがあった場所だわ。」


 後始末をした張本人なため。

 フェイトは、それがどこから現れたのかを察する。



「じゃあ、あれって、ミレイちゃん達を襲ったっていう。」


「ええ、植物の残党。というより、”本体”かしらね。」




 ダンジョンの奥深くで出会った時と比べ、あまりにも大きさが違いすぎた。




「……サフラ、そうなの?」


 ミレイが、頭の中の友人に問いかける。



『”ある意味”では、その通りだ。』


「ある意味?」




『あれは本体からしてみれば、”ほんの指先程度”に過ぎない。”星を覆うほどの大樹”、その根っ子の先端だ。』




「あんなにでっかいのに、ほんの一部なの?」


『"世界を繋ぐ門”が、小さくて助かったな。』




 人からすれば、ただ見上げることしか出来ない巨体だが。

 その真の姿は、未だ計り知れない。




「……有り得ないわ。全部凍らせたし、門だって閉じたのに。」



 ダンジョンで襲いかかってきた敵は、全て氷漬けにしたはずなのに。

 それがより強く、より大きくなって出現したことに、フェイトは驚きを隠せない。




「えっ?」


 頭の中で聞いた、サフラの言葉に。

 ミレイは言葉を失う。



「どうしたの? ミレイちゃん。」



「いや、その。サフラが言ってるんだけど。わたし達が行ったダンジョンの真下に、もう一つ”別のダンジョン”があって。あのでっかい植物は、そこから来たんだって。」



 サフラの話す内容を、みんなに伝える。



「……なによ、それ。」


 想定外の事実に、フェイトは顔を曇らせる。


「ダンジョンの下にダンジョンって。つまり、”門”がもう一つあるってことでしょ? そんなこと有り得るの?」


「どう、でしょう。そもそもダンジョンの発生自体、数年に一度、あるかどうかという”レアケース”なので。」


 元受付嬢として。情報に詳しいソルティアでも、今回のようなケースは初耳であった。



「……にしても、やっぱデカすぎじゃない? あれ。」


「うん。お山みたい。」



 黒き竜、ブラックヘッドも大きく、恐ろしい存在であったが。

 それでも立ち向かおうと思えるような、”戦いが成立する”大きさであった。


 だが、遠くそびえ立つ、あの植物の根は。

 あまりにも次元が違いすぎる。




「……はぁ。バカね、アンタ達。」


 フェイトが、呆れた様子でため息を吐く。




「――今この世界には、”わたし”が居るのよ?」




 足元に、氷の結晶を出現させ。

 その上に乗ると、フェイトはゆっくりと宙に浮かぶ。


 そして防壁から離れ、巨大な植物を眼前に捉えると。



 右手を、前に構える。



 フェイトの全身から、凄まじいほどの魔力が発生し。

 それが、右手の先、一点に集っていく。




「どれだけ図体があろうと、わたしの”力”の前では無意味。」




 フェイトの指先すら凍らせる、桁外れの”冷気”が形作られ。


 巨大な植物に向けて、射出される。


 凝縮された冷気は、弾丸のように突き進み。

 根っ子に衝突すると。

 瞬間、爆発し。



 巨大な植物を、”一撃で”凍結させた。



 他に存在が確認されていない、”5つ星”のアビリティカード。

 その格の違いを、見せつけるように。



「ふふっ。」


 優雅に髪をなびかせながら、フェイトが舞い戻ってくる。



「さっ、これで終わりよ。後はユリカを呼んで、門を閉じに行けば――」




――パリン、と。乾いた音が鳴り。


 根っ子の表面を覆っていた氷が剥がれ落ち。




 ”何事もなかったかのように”、巨大な根っ子は活動を再開した。




「……嘘よ。」


 ”曲がりなりにも”、今の一撃は全力を込めたものである。

 それ故に、フェイトは動揺を隠せない。



「あー。」


 もはや、何がなんだか分からない状況に、ミレイ達は言葉を失う。




『――何を驚いている。』


 ミレイの頭の中で声がする。



「いやだって、なんで効かないわけ?」


『むしろ、なぜ効くと思った? 一度脅威と認識した以上、それに”適応”しようとするのが、”生物”というものだろう。』


「いや、いやいやいや。じゃあ、どうやって倒せば良いの?」



『……我々という存在を、君たち人間の言語で表現するなら。”神”、という概念が相応しい。』


 それが当然とばかりに、サフラは語る。




『君たちは、神を殺せるのか?』




 頭の中で響く、その問いに。

 当然のように、ミレイは答えを持たない。




「……頭のいい人に、聞きに行こう。」


 困った時は、大人の出番である。











 街からそう遠くない場所に出現した、巨大な木の根っ子のような物体。


 それは、あまりにも異質な存在であり。

 どう転ぶかも不透明なため、街の人々は不安に思う。



 ピエタの街の冒険者たちも。


 明確に、敵意を持って襲ってくる相手ならまだしも。


 そこに”意思”があるのかさえ分からない。

 あの巨大な存在に、どう対処するべきかを決めあぐねていた。




 そんな状況の中。

 街の上空に停泊する戦艦アマルガム、その船体の上では。


 ”白銀のアーマー”を身に纏ったエドワードが、巨大な植物を見つめていた。





「エドワード、探したよ?」

 

 機械の翼を展開し。

 ミレイがエドワードの元へとやって来る。



「……そのアーマー、直ったんだ。」



 ブラックヘッドの放った黒炎から、ミレイを庇い。

 エドワードのアーマーは、完全に機能を停止したはずである。


 けれども、いま彼が身に纏っているアーマーは、新品同様に輝いていた。



「ああ。この船の設備を使えば、さほど修理は難しくなかった。」


「へぇ。やっぱ凄いんだ、この戦艦。」



 ビームが撃てる、SFチックな巨大戦艦。

 ミレイが抱いている印象は、その程度のものだったが。



「……凄い、”などという次元じゃない”。この船の運用は、高度な人工知能によって制御され。医務室に置かれた治療ポッドは、臓器の複製や、失った部位の再生までも可能にする。」



 事実、ミレイが助かった理由も、この船のテクノロジーによるものが大きい。



「僕も、自分を多少優れた科学者だと思っていたが。”こんな船が当たり前に飛び回る世界”があるなら、とても敵わないな。」



 彼にそうまで言わしめるほど、”アマルガム”は優れたアビリティカードであった。

 その所有者であるイリスは、ハイテク機能をほとんど使いこなせていなかったが。



「……わたしからしてみれば、そのアーマーもよっぽど凄いけどね。」


 ミレイの暮らしていた地球では、パワードスーツも立派な”オーバーテクノロジー”である。



「……こんなもの、”呪われた技術”に過ぎない。」


 けれども、エドワードはそう吐き捨てる。



「フェイトの話は聞いているな? 彼女に宿っている力は、このスーツの”発展型”のようなものだ。体内に直接、”動力源”を埋め込んでいるため、出力はまるで桁外れだが。その力の”代償”として、彼女は15歳の若さで”寿命を使い切った”。」



 行き場のない怒りに、拳を震わせる。



「僕が消えて、”わずか半年後”の出来事らしい。」




 エドワードが、ブラックヘッドを道連れに、この世界にやって来たことで。

 彼の故郷である”地球”は救われた。


 だが、彼が残していった技術が、歪んだ欲望を持つ人間によって悪用され。

 その結果、フェイトという”怪物”をも生み出した。



 そして、その事実を知りながら。

 遠い世界に、彼の手は届かない。




「……エドワード。」



 気づいたら、この世界に迷い込んでいた。


 そんなミレイとエドワードでは、”故郷を見る目”が、まるで違っていた。






「――まぁ、気にしても仕方がない。今は、目の前の”問題”を解決しなければ。」


 暗い話は終わりにして。

 エドワードはミレイに微笑みかける。



「アーマー着てるってことは、戦うんだよね?」


「もちろん。”あんなもの”を放っておいたら、この世界に人が住めなくなる。」


「作戦は?」




「――”無い”。強いて言うなら。あの植物には極力近寄らず、迅速に地下の門を閉じることをオススメする。」




「……そっか。」


 ”特製の除草剤”を撒くとか、そういう案を期待していたものの。

 ミレイの求める答えは得られなかった。



「吹き飛ばしたりとか、出来ないのかな? わたしのRYNOとか、アマルガムの砲撃とかで。」


「止めておけ。あれが単にデカい植物なら、それで構わんが。”火”に関連する攻撃は、絶対に使うなよ。」


「なんで?」


 くさタイプの相手には、ほのおタイプの攻撃が効果抜群のはずである。



「……ミレイ。君が一番、”身を以て”知っているはずだ。」



 エドワードに、そう言われて。

 ミレイの脳裏には、おぼろげな過去の記憶が蘇る。


 ダンジョン最深部にて、根っ子に”爆発魔法エクスプロージョン”を放ち。


 その結果、世紀の”大自爆”を引き起こした。



「サフラを研究している時に気づいたが。あの植物は呼吸をする際、二酸化炭素の代わりに、未知の”放射性ガス”を放出する。」


「……放射、性?」



 その言葉の意味は、ミレイも知っていた。

 それが、どれだけ危険なのかも。



「ダンジョンの最深部で、ユリカとシュラマルの2人が体調を崩したと言っていたな。あれは酸素不足でも、毒によるものでもない。正真正銘の”放射線障害”だ。」



 放射線障害。

 その単語に、ミレイは冷や汗をかく。



「おまけに奴らは、爆発で生した”熱量を吸収”し、自らのエネルギーに変換できる。」



「マジ?」


『エドワードの言っていることは正しい。我々にとって、火や熱は”好物”だ。』



「……それってもう、植物じゃなくない?」


「まぁ、異世界の生き物だからな。我々の常識が通じないのも、当然といえば当然か。」



 放射性のガスを吐き出し、火や熱が大好物。

 どこぞの怪獣映画にでも出てきそうな生き物である。




 そんな、途方も無い存在を見つめていると。




「――おい、エドワード。」



 純白の翼をはためかせ。

 カミーラが、ミレイ達の元へとやって来る。



「下手に近づかないよう。”放射線”とやらの説明を、ギルドの連中にしてきたぞ。」


「ああ、ご苦労。」


「まったく、わたしのほうが年長者だろうに。」


 使いっ走りにされたことを、カミーラは不満に感じていた。



「それで、何か案は浮かんだのか?」


「やるべきことは単純だ。あのデカい植物を避けつつ、ダンジョンの遙か下層を目指し。もう一度、異界の門を閉じる。」


「……でも、放射線は?」


 とてもではないが。

 放射線という存在に、ミレイは近付きたくなかった。



「放射線の遮断は、かなり難易度が高いが。幸い、ここは”異世界”だ。この世界にある”力”で、それを克服すればいい。」


 彼の脳裏に、すでにビジョンは浮かんでいた。





「――”魔法使い”を、集めてくれ。」





 この世界に手を伸ばした、”異界の神”を前にして。


 人類の知恵が、集結する。






◆◇






 その頃、花の都ジータンでは。



「――フッ。この街は今日も平和だな。」



 単純な実力不足から、パーティをクビになったアルトリウスは、故郷であるこの街に帰還し。

 新米冒険者として、一から実力をつけようと奮起していた。



 けれども、ここは花の都ジータン。

 ヴァルトベルクが最高レベルに”危険な街”なら、逆にこの街は最高レベルに”安全な街”である。


 それ故に、彼の心にピンとくるようなクエストなど存在せず。


 今日も今日とて、仕事もせずに街をぶらついていた。




 そんな時。




 この世界には馴染みのない、騒がしい”エンジン音”を響かせながら。


 ”真っ黒なオートバイ”に乗った人物が、ジータンの街へとやって来る。




 見たこともない乗り物に、街の人々はざわめき立ち。


 アルトリウスも、未知なる異世界の存在に釘付けである。




「――綺麗な街。でも、明らかに日本じゃないわね。」



 バイクに乗っていたのは、”セーラー服”を身に纏った黒髪の少女。

 前髪ぱっつんの、ロングヘアが特徴的である。



 そんな、彼女の前に。



「ん?」



 おかしなポーズをとった、金髪のバカが立ち塞がる。



「――君のその乗り物、滅ッ茶苦茶クールじゃないか!!」



 世界の危機とは、特に関係ない。

 奇妙な出会いが起きていた。





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