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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
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サフラ





「イリスさん、すっごく吐いてたね。」


「何でも加減が出来ないんだよ、あの人は。」



 ささやかなパーティを終えて。

 ミレイとキララは、戦艦アマルガムへと帰還していた。




 ミレイの車椅子を、キララが押す形で。

 再び、医務室へと戻った2人であったが。



 部屋の中には、白衣を身に纏った男の影。

 エドワードらしき人物がおり。



「あっ、エドワード。ご飯とか美味しかったし、一緒に来ればよかったのに。」



 ミレイが、そう声をかけるものの。

 エドワードは、何も反応をせず。


 首を傾げるミレイであったが。



「――ミレイちゃん、”盾”か何かを起動して。」


「え?」



 非常に警戒した様子で、キララがミレイの前に立つ。


 その手には、特製の弓”フェイズシフター”が握られており。

 すでに魔力が迸っていた。



「ど、どうしたの? キララ。」



 壁になるように、前に立たれて。

 ミレイには、まるで状況が理解できなかった。


 一体、キララが”何に”警戒しているのか。



「……ミレイちゃん。博士の頭に付いてる”アレ”、何だと思う?」



 覗いて、見てみると。


 棒立ちをしているエドワードの頭部には、”白い木の根”のようなものが巻き付いており。


 明らかに、”寄生”されていた。



「……あぁ、言わんこっちゃない。」



 自業自得という文字が、ミレイの頭に思い浮かんだ。









「あれって、ミレイちゃんの足に寄生してたやつかな。」


「あぁ。多分、ね。」



 エドワードの頭部に巻き付いた、”白い木の根”のような物体。

 何故か、”変色”しているものの。

 ダンジョンの奥地で遭遇した、謎の植物型魔獣の姿に酷似していた。



「なにをどうしたら、ああなっちゃうんだろう。」


「好奇心に勝てなかったとか。」


「自分でくっつけたってこと?」


「ん〜、どうだろ。流石に、そこまでイカれてないとは思うけど。」



 ”マッドサイエンティスト”の成れの果てを、まじまじと見つめる。



(……完全に、”脳みそ”やられてるよなぁ。)



 ゾンビ映画や、SF映画などを見てきたミレイからすれば。

 頭部に寄生された”あの状態”は、すでに”手遅れな状態”にしか見えなかった。



 口から卵を吐き出したり。

 仲間に襲いかかったり。



 ほぼ、その直前の姿に見えた。



 これ以上の被害を広げないために。

 完全に、”駆除”するのが最善なのかもしれないが。



「……なんとかして、助けないと。」


「うん、そうだね。」



 何度も危機を救ってくれた恩人にして。

 ”友人”であるエドワードを、ここで失うわけにはいかなかった。



 膝上の魔導書に念を送って。

 左手には、攻撃に備えての”フォトンバリア”を宿し。


 寄生された相手に有効かは定かではないが。

 一応の説得のために、”蠱惑の魔眼”を発動する。



「キララ。怪我させないように、相手の動きを止められる?」


「もっちろん!」



 その言葉を待っていたとばかりに。その手に帯びていた魔力が”変質”し、魔法の矢を生成。

 目にも留まらぬ早業で、”フェイズシフター”から放たれた。



 放たれた矢は、たった一本であったが。

 その直後に”分裂”し。


 寄生されたエドワードの身体を、壁へと吹き飛ばす。


 そして、分裂した矢が、手足にも命中。

 ”粘着性の物体”へと変質し、壁へと貼り付けた。



「……おぉ、凄い。」



 どういう理屈で、どんな現象を起こしたのかは、まるで分からなかったが。

 明らかに”洗練された技”に、ミレイは驚く。



「今の魔法、どうやってやったの?」


「えっ、どうって。普通に”ネバネバ”って念じて、バンってやっただけだけど。」


「え、それで出来るの?」


「単純な魔力変換と、指向性を付与しただけだから。師匠に教えてもらった、”初歩”の応用みたいな?」


「……それな。」



 同じように、魔法を教わったはずなのに。

 キララが何を言っているのか、ミレイには何一つとして理解できなかった。





「さてと。まぁとりあえず、やってみようか。」



 ゆっくりと車椅子を動かして。

 ミレイは、壁に貼り付けられたエドワードの前へと移動する。



「聞こえるかなー、頭に寄生した植物くん。出来ることなら、エドワードの頭から離れてほしいんだけど。」



 白い木の枝に話しかけるも。

 なんら反応は無い。



「あー、エドワード? そっちに主導権があるなら、自力で剥がしてもらっても良いんだよ?」



 それにも、反応が無い。



「ミレイちゃん。壁にくっついた状態じゃ、どのみち博士は動けないよ。」


「なるほど。それもそっか。」



 壁に貼り付いたエドワードと、頭部に貼り付いた白い木の枝を見つつ。

 どうしたものかと、ミレイは考える。



「流石に、寄生虫を除去するためのカードは持ってないからなぁ。キララの魔法で、どうにか出来ない?」


「うーん。一応、ミレイちゃんの治療を見てたから、治癒魔法の”再現”は出来ると思うけど。やっぱり、カミーラさんに診てもらったほうが良いと思う。」


「確かになぁ。でもあの人いま、まともに動けるのかな?」



 先程まで、パーティでしこたま酒を飲んで。

 最後に見たカミーラは、とても正常な人間性を有しているとは思えなかった。



「他に頼りになりそうなのは、ユリカさんだけど。」


「わたし以外の大人は、みんな”これみよがし”に酒を飲んでたからな。」


「そうだねぇ。」



 残念なことに。早急に頼れる人物は、軒並み酔い潰れてしまっており。

 ミレイとキララの2人で、どうにかする方法を考える。



「ミレイちゃんの場合は、周囲の”お肉”ごと切除してたけど。博士の”あれ”は、どうしたら良いんだろう。」



「……キララ、お肉って言わないで。」


「ごめんなさいっ。」



 可愛く謝ったので、ミレイは許した。



「ちょっと待ってて。上手く使えるカードがないか考える。」



 ミレイは魔導書を開き。

 いきもの枠、戦闘用、便利系、用途不明、使用厳禁、などなど。独自に並べ替えているカードの中から、使えそうなものを探す。


 そして、その中の1枚のカードに目が止まった。



「……とりあえず、この”モンスターボックス”を使おう。」



 ミレイが選んだのは、3つ星のモンスターボックスという名のカード。

 自在に大きさを変えられる、”猛獣用の檻”を具現化するカードである。



 カードに念を送ると、光の粒子へと姿を変え。

 ミレイの手の上に。ルービックキューブほど大きさをした、四角い箱が出現する。

 スタイリッシュで、機械的なフォルムをしており。純粋な科学の匂いがした。



「檻の中に閉じ込めて。また明日、カミーラさんに診てもらおう。」


「そうだね。このまま放置するわけにもいかないし、隔離しちゃおう!」




 何一つとして、問題は解決していないが。

 ミレイとキララは、”やり遂げた感”を出した。




「魔獣の捕獲依頼とか、そういうので使えるカードだと思ったけど。まさか初めてが人間相手とは。」


 手に持った”ボックス”を見つつ、ミレイは感慨にふける。



 すると。





「――そんな小さな箱に、”この人間の体”を閉じ込められるのか?」





「へ?」



 エドワードの体を借りた、”なにか”が、問いかけてきた。









「君たちは、”ミレイとキララ”で、合っているか?」



 それは、確かにエドワードの声。エドワードの口から出た言葉だが。

 明らかな違和感を感じてしまう。



「どうして、名前を知ってるのかな?」


「多分、もう脳みそを食われたんだと思う。」



 ひそひそ声で、2人は相談する。

 だが、



「”食してはいない”。ただこの男の記憶に触れ、”理解”したのだ。」


 エドワードの頭に寄生する何かが、2人に語りかける。



「非常に、興味深い知識に溢れていた。この男の生まれた世界、いま生きている世界、”わたし”のやって来た世界。数多の種族や、概念が存在し。一人ひとりが、全く異なる”自我”を有している。君たち人間は、実に面白い存在だ。」



 エドワードの頭に寄生しているからか。

 それとも、白い木の枝に、それだけの知性が宿っているのか。

 それは定かではないが。


 その存在は、驚くほどに落ち着き。

 同時に、”対話の意思”を有していた。



「……で、お前の目的は?」


 たとえ話せる相手だとしても、ミレイは警戒心を緩めない。


「現在進行系で、エドワードの体を乗っ取ってるわけだけど。その目的はなに? 何がしたいの?」


 その真意を確かめる。



「そうだな。別段、目的と言うほどの”強い思考”は持ち合わせていない。わたしがこの体に寄生しているのは、単に”生きるため”だ。」


「生きるため? 君って、もしかして単体じゃ生きられないの?」



「……”以前”は、そうではなかった。わたしは”大いなる存在の一部”であり、星と世界に根付いていた。だが、今は遠く切り離され、”地に落ちた小枝”に等しい存在だ。故に、単独ではエネルギーを生み出す事ができず、他の生命体に寄生する必要があった。」



「つまり、敵意は無いと?」


「あぁ、そう思ってもらって構わない。わたしとしては、体の一部に寄生するだけで良かったのだが、彼は非常に抵抗してな。埒が明かないから、こうして動きを止めている。」


「……なるほど。」


 どうして、エドワードがここまで間抜けな結果になったのか。

 ようやく腑に落ちた気がした。





(仲間を増やしまくるエイリアンじゃなくて、”部屋の隅っこ”で満足してくれるタイプか。)



 色々と、複雑な話であったが。

 全部まとめて、ミレイはそう解釈した。





「んじゃまぁ、とりあえずエドワードから離れてほしいんだけど、お願いできる?」



 あくまでも、友好的に。

 ミレイはお願いする。



「……そうだな。他ならぬ、”君の要望”ともなれば、なるべく応じたいところだが。わたしとしても、この”命”は惜しくてな。ここは1つ、”交換条件”といかないか?」



「交換条件?」


「ああ。」





「――ミレイ。わたしは、”君の体に寄生したい”。」





 中々に、重めの条件を要求をしてきた。











 寄生体から解放されて。

 意識を失ったままのエドワードは、とりあえずベッドに寝かせ。



「くっ。」


 車椅子に乗った状態で、ミレイが体を震わせる。



「ミレイちゃん、大丈夫?」


「……うん、平気だよ。ちょっと、むず痒いというか。」



 服の中へと、”白い木の枝”が侵入していく。



「は、”初めての感覚”だから。」



 これまで生きてきた中で。別の生き物に寄生されるのは、当然のごとく初体験であり。

 その何とも言えない感覚に、ミレイは顔を赤らめる。



「え。」


 まるで、大切な何かを奪われたような気がして。

 キララの表情が、一瞬で”無”に変わる。



「そ、そいつ、服の中に入っていったけど。どっ、”どこに”寄生したの!?」


「わっ、ちょっとっと!」



 寄生体の行方を確かめるために。

 ミレイの体をまさぐるキララであったが。



「……あれ? ほんとに、どこ行っちゃったんだろ。」


 行方が分からずに、途方に暮れる。



「心配ないって。多分、おへそのあたりにいるはず。」


 そう言って、ミレイは自分の体を確かめるも。



「……ん?」



 服の中に入っていったはずの、あの白い木の枝が。

 体のどこにも、見当たらなかった。



「き、木の枝くん? どこに行ったのかなぁ?」


 どこに行ったのか分からない、寄生体に声をかける。


 すると。




『――”サフラ”でいい。』


 ミレイの”頭の中”で、知らない男の声がする。




『これから長い付き合いになる。ここは、フレンドリーに行こうじゃないか。』


「……フレンドリーって。そもそも君、どこにくっついてるの?」


 脳内に響く声に、ミレイが尋ねる。



『わたしは、”君の中”に居る。』


「え。」


『やはり、”思った通り”だ。君とわたしの相性は抜群に良く、これはもはや、寄生などという次元ではない。』


「じゃあ、何なの?」



『細胞レベルでの結合。いわゆる、”同化”だ。』



「えぇ……」


 不安しか無い単語に、ミレイのテンションが下がる。



「だから、頭に声が聞こえるわけ?」


『ああ。元を辿れば、”わたし”という存在は、君の体内で形成されたものだ。故に、その関係は”母と子”に等しく、拒絶反応すら起こらない。』


「……おぅ。」



 頭の中で聞こえる、寄生体”サフラ”の声。

 彼はミレイを、”母”と認識していた。



「ねぇ、キララ。」


「うん? どうしたの?」


「わたしの中のアイツ、サフラが。わたしを母親だって言うんだけど。」


「……ミレイちゃん、お母さんだったの?」


「うん。認知はしてないけどね。」



 ミレイは混乱した。



『酷い言い様じゃないか。わたしを産んだのは、間違いなく君だ。君の持つ、その”特殊な細胞”が、わたしという自我を呼び起こした。』


「特殊な細胞?」


『ああ。エドワード、他の人間には無い、”別格の細胞”だ。それがわたしに突然変異を促し、体組織をも”白く染めた”。』


「……いや、でも。わたし、案外普通の人間だと思うけど。」





 異世界からやって来た、”角の生えた怪人”。


 彼に”謎の物質”を投与され、体に変異を起こしていたことを。

 ミレイは、素で忘れていた。





『生命力を分けてもらっている以上、出来る限り、君の助けになろう。』


「つまり、”家賃代わり”ってこと?」


『いや違う! そうではない。もっと単純な、……そう、”恩返し”と考えてくれ。』


 サフラには、妙なこだわりがあった。



『手始めに、君の右手と右足を”完治”させた。試しに、包帯を取ってみるといい。』


「えっ、ほんとに?」


 サフラの言葉に従って。ミレイは右手に巻かれた包帯を取っていく。


 するとそこには。

 吹っ飛ぶ前と何も変わらない、”綺麗な右手”があった。



 同様に、足の包帯も取ってみる。



「……ミレイちゃん、それって。」


「うん。サフラが、治してくれたって。」



 完全に、”同化”している影響か。

 サフラの施した治療は完璧であり。


 ミレイは車椅子から降りると。

 その自らの両足で、地面に立った。



『ズタズタになった神経を、左腕を参考に繋ぎ合わせてみた。満足していただけたなら、幸いだが。』



「すっごい!」


 手を広げたり、動かしたり。

 その場でぴょんぴょんと飛び跳ねて、体の調子を確認する。



「……寄生されるのも、案外悪くないかも。」


 良いこと尽くめな結果に。

 ミレイはすっかり、サフラの”同居”を受け入れていた。



 だが、その様子を。

 キララは複雑な表情で見つめている。



「――ねぇ、ミレイちゃん。」


「うん?」




「”何でも素直に信用する”のは、あんまり良くないよ?」




 珍しく、静かな声色で。

 ミレイに注意を促した。



「……ぅ、ごめん。」


「まぁ。その子に関しては、多分大丈夫だと思うけど。」





 色々と、”勘の鈍い”ミレイとは違って。

 キララの瞳は、”悪意や嘘”を見逃さない。


 もしも、サフラが悪意を持つ寄生体だったとしたら。

 ”この部屋に入った瞬間”に、エドワードの頭ごと吹き飛ばしていたであろう。









「あっ、そうだ。わたしの両腕の力をさ、ちょっと強くしたりとか出来る?」


『どの程度を所望する?』


「えっと。”成人男性くらい”、かな。」


『了解した。エドワードを参考にやってみよう。』



 頭の中のサフラに、そう頼むと。

 ミレイの身体が、微かに脈打ち。


 ”何となく”ではあるが、腕力が上がったような気がする。



「おお、これは凄い。」


 両腕の感覚を確かめる。



「どうしたの? ミレイちゃん。もしかして、わたしと腕相撲がしたいの?」


「うんにゃ。」


 そんな脳筋は、ソルティアだけで充分である。



 不思議そうな、キララの顔を見つめて。

 ミレイはニッコリと笑った。





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