変わる運命
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帝都ヨシュア。
地上で最も美しい建造物、ハートレイ宮殿の一室にて。
天井より差し込む光の下。
大きな円卓を囲むように、10人前後の人々が席に座っていた。
「――では、説明は以上とする。反論は”一切認めん”が、何か意見はあるか?」
この場における最高権力者。
白髪の女帝”セラフィム”が、その場にいる者たちに語りかける。
それに対する彼らの反応は、”沈黙”。
だがしかし。
『あー、陛下。”Sランクを辞める”ってのは、無しっすか?』
円卓の中の、唯一の空席部分。
そこに置かれた”水晶玉”から、女の声が発せられる。
「……”イリス”、貴様は貴重な火力担当だ。もし仮に、”国単位”での敵が攻めてきた場合、お前以外の誰が鉄砲玉になる?」
『あー、”ミーア”とかで良いんじゃないっすか? ほら、一応飛べるし。』
水晶玉、イリスの発した言葉に。
席に座っている、1人の黒髪の美女が反応する。
「あら。貴女、もしかしてわたしに喧嘩を売っているのかしら。」
『そんなんじゃねぇって。オレを除いたら、”次に”空中戦で強いのはお前だろ?』
明確に、格下であることを強調するような口ぶりに。
黒髪の美女、ミーアは腹を立てる。
「……よくもまぁ、そんな大口を叩けるものね。”モノリス周辺の調査”に失敗して、ご自慢の戦艦も墜とされて。そのせいで会議にも間に合わないなんて、本当に無様なのに。」
『うるせぇ! 船はもうとっくに直ってんだよ。オレが会議に間に合わなかったのは、仲間の治療に船が必要だったからだ。』
「貴女に仲間なんて居たかしら? 出禁の街も多い、”ガサツ女”のクセに。」
『”性格ブス”のお前には言われたくねぇよ。』
イリスとミーアの相性は悪いのか。罵倒は止まること無く、言い争いが続く。
それに巻き込まれたくないのか、単純に関わりたくないのか。
円卓の他のメンバーたちは、揃って無視を決め込んでいた。
けれども、それを良しとしない者が1人。
「――2人とも、くだらない諍いは後にしてください。陛下の御前です。」
セラフィムの懐刀。
白の騎士服に身を包む”マキナ”が、2人の会話に割って入る。
「いや、良い。有意義な時間を過ごせて何よりだ。」
しかしながら、セラフィムに気にした様子はなく。
席から立ち上がると、周囲の面々に目を向けた。
「約1名、魔水晶での参加となったが。この国の”剣”である、貴様らの顔が見れてよかった。」
皇帝であるセラフィムを含め。
この場に揃った面々は、紛れもなく”この世界の頂点”に立つ実力者達だった。
「先程言った通り。”門”を発端とする異世界からの脅威は、この先も更に増えていくだろう。イリスの一件で思い知っただろうが。我々とて、”敵わない存在”と出会う可能性はゼロではない。」
「だが決して、負けることは許さん。我々の敗北は、すなわち”世界の敗北”に繋がるからだ。」
その言葉の重さは、この場にいる誰もが知っていた。
「では、この瞬間をもって、”七星剣”は解散とする。」
”異なる世界”からの脅威を前にして。
世界は大きく、変わろうとしていた。
◇
「それでは、ミレイちゃんの復活を祝して、カンパ〜イ!!」
「「「――カンパ〜イ!!」」」
雪の都ピエタ、ホープ家の屋敷にて。
大部屋を丸々使い。
沢山の料理やデザート、飲み物等を用意し。
寒さを吹き飛ばすような、仲間内でのパーティが開かれていた。
『ヘイヘイヘイッ!! ”旨そうな人間のメス”がいっぱい居るってのに、どうして俺様は宙釣りなんだ!?』
修復が終わり、久方ぶりに召喚されたというのに。
真っ赤なガントレット・RYNOは、天井から紐で吊るされていた。
「ごめんね、ライノ。この部屋”エアコン”無いから、暖房の代わりをお願い。」
残酷な主、ミレイが謝罪する。
ベッドから出られるようにはなったものの、未だに右手と右足は完治しておらず。
”車椅子”に乗った状態でパーティに参加していた。
「悪いわね、”先輩”。わたしが居ると、どうも室温が下がっちゃうみたいだから。頑張って相殺してくれると有り難いわ。」
宙吊りになったRYNOを見ながら。
フェイトは愉快そうに笑う。
『テメェ、後から召喚されたくせに、随分と態度がデカくないか? 5つ星だか何だか知らねぇが。なんでテメェが”飯食って”、俺様が”宙吊り”なんだよ。』
「恨むなら、自分のその”姿”を恨むのね。ほら、頑張って歩いてみたら?」
自立して動けないRYNOを、フェイトは煽りまくる。
『クッソ! なんで俺様はガントレットなんだ? ”元のドラゴン”の姿だったら、ここに居る全員を殺し尽くせるってのに。』
「……哀れね、”喋るガントレット”って。せめて体さえあれば、”アイツら”みたいにくつろげたのに。」
同じアビリティカードでも。
小型モードのフェンリルは、大きな肉の塊にかぶりつき。
パンダに至っては。無駄に器用な手先で、皿に食事を盛っていた。
『ったく、散々だぜ! ヘイ、”お花の姉ちゃん”。俺様の武勇伝でも聞かねぇか?』
「……」
仕方がないので。
RYNOは植木鉢に入った”お喋りタンポポ”に話しかけるも。
関わりたくないのか、完全に無視されていた。
「それにしても、未だに信じられないわ。貴女がミレイの”アビリティカード”だなんて。」
「まぁね。」
この屋敷の人間である、イーニアと。
ミレイのカードである、フェイト。
「わたしも、最初は正直びっくりしたよ。うわっ、”羨ましいなぁ”って。」
そして、キララと。
年齢的に、まだ”子供”なメンバーが集まる。
「どういう感情なの? それ。」
「気にするだけ無駄よ。」
イーニアとフェイトには、キララという人間の思考が理解できなかった。
「”複数のカード”を所持していることも驚きだけど。実体化した貴女が、まるで”生きた人間”にしか見えないのが、一番の不思議ね。」
「そう? 一応、”結構な死に方”をしたつもりなんだけど。」
この会場にいる全員の中で。
死んだ経験のある人間など、フェイトくらいのものであろう。
「そういう意味じゃなくて。カードの能力で召喚された生き物って、普通はもっと無機質なのよ。まるで”魂”が宿ってないみたいに。」
「……つまるところ、わたしが”特別”ってこと?」
「そういうことになるわね。」
フェイトとイーニアの話を聞きながら。
(そう言えば。フェンリルやパンダも、”本当に生きてる”みたいだし。赤いガントレットも、タンポポさんも喋ってる。)
キララは、ふと思う。
(ミレイちゃんの召喚したカードって、もしかして――)
ほんの少し、思考を巡らせるものの。
楽しげなパーティの喧騒によって、キララの思考は掻き消されていった。
お酒の用意されたエリアに、何人かのメンバーが集まる。
「実はわたし、お酒って飲んだことがないんです。」
ソルティアが、初めてのお酒に興味を示す。
「それは駄目だな。人生の9割を損しているようなものだ。」
そう言うカミーラは、すでに浴びるほどの酒を飲んでおり。
ここ最近の”禁酒生活”も相まって、とてつもない勢いで酒を消費していた。
「確かに、初めては緊張しますね。なにせ、天使がここまで”落ちぶれる”んですから。」
「フッ。」
酷い言われようだが。
それを気にする次元に、すでにカミーラは居なかった。
そんな、彼女たちを尻目に。
「……どれどれ、わたしも一杯。」
そろりそろりと、車椅子を動かし。
ミレイがお酒に手を伸ばす。
「「コラッ!」」
だがしかし、”それだけ”は許さないとばかりに。
カミーラとイリスが、揃ってミレイの手を阻む。
共に、深いトラウマを刻まれた者たちである。
「お前、正気なのか? この状況でそれを飲んだら、今度は街が滅びるぞ。」
イリスは真剣な瞳で訴える。
「散々説明しただろうに。普段のお前は”人畜無害なバカ”だが、酒を飲んだら”悪魔のような女”になるんだ。」
同様に、カミーラも注意する。
「むうぅ。」
だがしかし。、ミレイは不服に感じていた。
「わたしが酒を飲んだら、変な”暴走モード”になるとか言ってるけど。まじで”記憶にない”から、どうも信じられないんだけど。」
それが、”幸か不幸か”は定かではないが。
ミレイは、酒を飲んだ後の記憶を一切保持していない。
つまり感覚的には、未だに”お酒を飲んだ事が無い”のと同じだった。
「わたしだって、もう大人だしさ。みんなと一緒に、”楽しくお酒を飲みたい”んだって。」
純粋な、善意に訴える。
「……ぐっ。今のお前と、仲良くするのは一向に構わんが。」
ほんの少しだけ、カミーラは葛藤するも。
すぐに、あのトラウマが蘇る。
「お前たち、”あの状態”のミレイと話したことあるか?」
カミーラがイリスとソルティアに尋ねる。
「いいや、オレは殺されかけただけだ。」
「わたしは名前ではなく、”筋肉”って呼ばれました。」
「あぁ、あだ名だな。ちなみにわたしは、”ゴミ女”だ。」
おそらくは、当初のゴミ屋敷に掛かっているのだろう。
そう思いたい。
「デカい方のミレイは、本当に行動が予測できん。自分のカードを何枚か召喚しては、それを”自分で”壊していたぞ?」
その光景を思い出すだけでも、カミーラは羽根が震えてくる。
「おい、パンダ! お前は覚えてるだろ?」
「わん?」
手招きし、パンダを呼び込む。
「”貴様、格闘技を習ってるんだろう”、とか言われて。”夜通し腹パン”されてたよな?」
「わ、わん。」
あの夜のことを、パンダは思い返す。
「えぇ……」
そんな会話を聞きつつも。
ミレイには、悪い冗談のようにしか思えなかった。
「いいなぁ。」
お酒エリアではなく、ジュースのエリアにて。
まだ子供なキララは、お酒を飲める大人たちを羨む。
「ミレイちゃん、ちゃっかり大人に混ざってるし。」
お酒どうこうよりも、”それ”が主な理由ではあるが。
仲間の多くが、20歳以上の大人であり。
子供という枠組みなのは、キララとイーニア、そしてフェイトの”3人”だけであった。
「どうせ、あと数年の辛抱でしょ? そのうち大人になれるんだから、今を楽しみなさいよ。」
フェイトは、凄まじい勢いでジュースを飲む。
「わたしなんて多分、このまま”一切成長しない”わ。死んだ時のままよ。」
「……う。」
「そう、だね」
イーニアとキララは、反応に困った。
他のテーブルでは。
「そう言えば。この街に来てから、どうも”周囲からの視線”を感じるんだよねぇ。」
そう話すシュラマルは、いつもの”セクシー忍者スーツ”である。
「あっ。もしかして、”薄着”に思われてるんじゃないかな? ほら、雪のせいで寒いし。」
ユリカが私見を述べる。
「なるほどねぇ。でもこのスーツ、実際はかなり温かいから。上着とか要らないんだけど。」
「ほんと、便利だよねぇ。」
武蔵ノ国から来た、そんな2人組の話を。
”真っ当な倫理観”を持つ、カミーラとソルティアの2人は。
何とも言えない表情で聞いていた。
「――いや、お前が”痴女”にしか見えんからだろう。」
「ち、痴女?」
「カミーラさん、それは酷いです!」
率直な意見をぶつけられて。
シュラマルとユリカは驚いた様子。
「いいや、どう見ても”変態”だ。お前みたいな格好をした女は、今まで一度も見たことがない。」
カミーラは断言する。
「もしかして。武蔵ノ国では、それが普通なんですか?」
そんな訳はないだろうが。
一応、ソルティアは尋ねる。
「いや、そういうわけじゃないよ? これはカードの能力だから、着てるのは僕だけ。」
「うん。シュラマルは、ずっと昔からこんな格好だったよ?」
根本的な価値観が違うのか。
ユリカとシュラマルの2人は、セクシー忍者スーツの”何が”おかしいのかを理解っていなかった。
「……なるほど。幼少期からずっと”これ”なら、違和感すら覚えんのか。」
「恐ろしい話ですね。」
文化の違い、というよりも。
閉ざされた環境ゆえの”無知さ”に、2人は戦慄する。
「えっとぉ。シュラマルのこの格好って、そんなに変わってるの?」
恐る恐る、ユリカが尋ねる。
「えぇ、まぁ。少々、”性的過ぎる”と言いますか。」
セクシー忍者スーツの”威力”を。
ソルティアは、どう説明するべきかと悩む。
「初めて見た時は、”キララさん以上の変態”かと思いました。」
「……なんで、キララちゃんの名前が出るのかは謎だけど。そっかぁ。僕のこの格好って、ちょっと変わってるんだ。」
周囲からの、”熱い視線”の意味を知り。
シュラマルは頬を赤くしつつ、なにか上着を着たい気分であった。
「ちょっとどころ、ではないですが。」
「ああ。というより、服装も問題だが。お前のその、”体付き”にも原因があるぞ?」
この場にいる人間の中でも、シュラマルは”ぶっちぎり”のグラマーであり。
胸の爆弾と、セクシースーツによる相乗効果は。
たとえ同性であっても、”目に毒”であった。
「……うぅ。」
非常に、”不愉快な内容”の話をしていることもあり。
ミレイは大人たちの輪から離れ。
またひっそりと、お酒のエリアに移動していた。
今がチャンスとばかりに、酒の入ったグラスに手をのばすも。
「――おい、コラ。オレの目を誤魔化せると思うなよ。」
またもや、イリスによって止められる。
「いやぁ。少量のお酒は、体に良いって聞くし。わたしも、飲めば元気になるかも。」
「だとしても、お前は駄目だ。」
ミレイがなんと言おうと、イリスは意見を曲げない。
「この場には、Sランクが2人居て。”それ以上”かも知れねぇ奴も1人居る。」
フェイトの方を見つめながら、イリスは話す。
「他の面子も、面白いくらいに強いのが揃ってるが。それを込みで考えても、”お前のほうが”よっぽど恐ぇ。」
そこまで、念を押す必要があるほど。
あの時の”ミレイの力”は、イリスに深いトラウマを刻んでいた。
「見た目ガキなんだから。お前は大人しく、ジュースでも飲んでろよ。」
「あっ、ちょっと。」
イリスに車椅子を押されて。
ミレイは大人たちの輪から追放された。
◆
「まぁ! なにせわたし、この街の”領主の娘”だし! おまけに”4つ星カード”の持ち主だし! この街を守るのが、生まれた時からの”義務”って感じなのかしら。」
椅子の上に立って。
イーニアは、小さな体を大きく見せる。
「「おぉー!」」
ミレイとキララは、バカ正直に拍手をし。
「まだガキのくせに、何言ってんのよ。」
フェイトは、呆れていた。
「いや、でもほんとに偉いなぁ。同じ領主の子供でも、”あのバカ”とは大違いだ。」
ミレイは、どこぞの金髪の青年を思い出す。
「うん、そうだね。しかもこの歳で”Sランク”なんて、本当に凄い。」
キララも、素直にイーニアを褒めちぎる。
「フフン。わたし、天才だから!」
それに気分を良くして。
イーニアは、堂々と胸を張った。主張する程のものは無かったが。
「まぁでも。貴女たちだって、きっとすぐ高ランクになれるはずよ。」
先輩冒険者として、イーニアは後輩たちに意見をする。
「フェイトは、そもそもの力が”桁外れ”だし。キララも正直、天才だと思うから。」
「ふんっ。」
「えへへ。」
素直に褒められて。
2人は嬉しそうだった。
「……ミレイも、まぁ。」
他の2人と同じように。イーニアは、ミレイにも褒め言葉を送ろうとした。
だが、どうにも良い言葉が思い浮かばず。
そっと、目を逸らした。
「わたしにも、なにか褒め言葉は?」
「求めてる時点でダメじゃない。」
フェイトから、ごもっともな指摘が飛ぶ。
イーニアは、しばらく悩んだものの。
”手放しに褒められる部分”が、どうにも見つからなかった。
「というより、貴女。本当に20歳なの? 10歳年下のわたしと、大して”身長違わない”じゃない。」
その結果、悪い部分が出てしまう。
「うぐっ。うっさいなぁ。わたしのほうが”数センチ”高いだろ?」
「ほぼ誤差じゃない。あと数年もすれば、余裕で貴女を見下せるようになるわ、この”チビ”!」
「あっ、お前! 自分より背の高い奴にチビって言ったら、バチが当たって”背が縮むぞ”!」
「なによその理屈。わたしは平均身長を”ほんの少し”下回ってるくらいだけど、貴女は”そんな次元”じゃないんじゃない?」
「はっ、おまっ。それは禁句ぅ……」
その言葉は、ミレイに”効いた”。
「あはは。」
それを見ながら。
可愛らしい争いだと、キララは微笑ましく思う。
「……口喧嘩で、10歳のガキに負けるって。嘘でしょ。」
自分の主の醜態に。
フェイトは頭を抱えた。
◇
「そう言えば。聞くところによると、”武蔵ノ国”では女は剣を握れないらしいな。」
酒をうっとりと見つめつつ。
カミーラの口から、そんな言葉が飛び出す。
「――そんなっ。では、”何を”支えに生きているんですかっ!?」
刀に対して、”並々ならぬ情熱”を持つソルティアにとって。
それは、とても信じられない話であった。
多少、酒の影響もあるだろうが。
「えっ、その。……お料理とか?」
ソルティアが、こんな反応をするとは思わず。
ユリカは若干引いた。
「武蔵では、刀を握る人間は”侍”って呼ばれるんだけど。侍は男の人しかなれないんだよねぇ。」
武蔵の刀事情に関して、シュラマルが説明する。
「うん。シュラマルが持ってる”短刀”が、多分ギリギリってところ。」
侍や忍者、陰陽師など。
武蔵ノ国には、細かな規則や伝統が存在した。
「まっ。武蔵って、結構謎だよな。」
酒の飲み過ぎか。
顔を真っ赤にしたイリスが、話に入ってくる。
「前に1回、クエストで行ったことあるけど。なんつーか、”文化の違い”がハンパなかった。」
「……あぁ。武蔵ノ国って、実は”異世界由来の文化”が多いんです。」
「そうそう。何百年か前に、異世界から”宮本武蔵”っていう1人の侍がやって来てね。元々は”怪異の王”に支配されていた土地を奪って、今の”武蔵ノ国”を創ったんだよ。」
ユリカとシュラマルが、武蔵についての話をする。
「なるほど。それは面白い話だな。」
100年以上を生きるカミーラにも、その情報は初耳であった。
「……宮本武蔵。彼がどれほどの強さだったのか、気になりますね。」
ソルティアに関しては、歴史よりも腕っぷしに興味があった。
「うーん。どうなんだろう?」
「”初代様”って、一応何百年も昔の人だからねぇ。現代の侍と比べて、どの程度の強さなのか。」
流石に、遠い昔の話なため。
宮本武蔵がどれほど強かったのかは、ユリカとシュラマルにも分からなかった。
「でも、”肩書だけ”だったら。ユリカちゃんも、”宮本武蔵になる”可能性があるんだよ?」
「どういう意味ですか? 武蔵に”なる”とは。」
ソルティアに尋ねられて。
ユリカは、恥ずかしそうに頬を掻く。
「いや、ほぼありえない話なんだけどね。武蔵ノ国の長・”剣王”は、代々”宮本武蔵”って名前を襲名してて。今の剣王は、”11代目”宮本武蔵なの。」
「王が名を継いでいくとは、随分変わっているな。」
「そうそう。そして、御年90歳となる11代目が、何を隠そう、ユリカちゃんの”お祖父様”なのです。」
「なに?」
「つまり、ユリカさんは”宮本武蔵の血”を引いていると?」
「一応、そうなるかな。でもまぁ、次の宮本武蔵は、お父様がなるとして。その次には、”母違い”の弟が居るから。女のわたしには、きっと関係のない話かも。」
ニッコリと、笑顔で話すものの。
ユリカの家庭事情には、色々と”しがらみ”が存在していた。
「なるほどな、一応の”王族”と考えれば。つまりお前は、ユリカの専属護衛というわけか。」
「ご名答!」
シュラマルは、自信満々に答える。
「まぁ、護衛というよりかは友達。むしろ、”姉妹みたいな関係”なんだけどね。」
満面の笑みで、ユリカはそう言った。
”どんな生まれ”、”どんな過去”があろうとも。
今この場にいる者は、全員が対等な関係であり。
くだらないことで、笑い合った。
◆◇
「……はぁ。」
みんなの目を盗む形で。
ミレイは会場を抜け出して、1人外の空気を吸っていた。
膝の上で魔導書を開き。
ここ数日、ベッドの上で召喚したカードを整理する。
1つ星〜3つ星のカードのみだが。
何枚かは、使い道がありそうだった。
1人、魔導書を眺めていると。
「ちょっと、アンタが居なくてどうすんのよ。もっと”復活した感”出さないと、パーティの意味がないじゃない。」
フェイトが、ミレイを連れ戻しにやって来る。
だがしかし。
寒さから、白い息を吐きつつも。
ミレイはその場を動こうとはしなかった。
「……なんか、さ。ここに居るみんなを見てるとね。わたしだけ、”場違い”な気がしちゃって。」
自分が、”どういう人間”か知っているからこそ。
どうしても、他の仲間達との違いを考えてしまう。
「どういう意味? ”異世界出身”だからって話? それだったら、わたしも当てはまるんだけど。」
ミレイが、どうして悩んでいるのか。
”かけ離れた人生”を送ってきたフェイトには、まるで見当がつかなかった。
「ううん、場所とかの話じゃなくて。……なんて言えば良いんだろう。」
率直な気持ちを考える。
「わたし以外、みんな。普通とは違う、”特別な存在”って感じがして。」
それ故の、”場違い”。
「……アンタは、違うの?」
「わたしなんて。ほんと、偶然この世界に来ただけで。前の世界じゃ、ただの”ウェブデザイナー”だよ? オシャレじゃないのに、オシャレな会社のホームページ作ったり。そんな仕事ばっかしてた。」
この世界に来る前の。
腐っていた頃の自分を思い出す。
「給料の半分は、ソシャゲのガチャに使って。残りは何だろ。たまーに、1人で寿司屋に行ったりとか。」
仲間に囲まれた今とは、あまりにも違っていた。
「”そんな大人”だよ? わたし。」
自虐気味に、ミレイは笑った。
「……つまんないわね。」
「うん。そうかも。」
「いいえ、”つまんないことで悩んでる”って意味よ。」
「えっ?」
フェイトは、ミレイと同じ空を見る。
「普通だとか特別だとか。そんなの、自分で決めることじゃない。確かにわたしは、”信じられないほど強い力”を持って、”世界すら壊そうとした”けど。自分が特別だなんて思わなかった。」
「……え、世界すら壊そうとしたのに?」
「……それが普通だと思ったのよ。」
改めて指摘されると、フェイトも恥ずかしかった。
「わたしからしてみれば、アンタは充分”特別”よ。この世界に来たのだって、絶対に偶然なんかじゃない。”運命”に惹き寄せられたのよ。」
「運命?」
「”わたしを引き当てた”のは、きっと良い運命ね。」
「それって。」
「――ダンジョンで爆死しかけたのは、悪い運命だけど。」
そう言って。
”運命”は、微笑んだ。




