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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
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犬の気持ち





 霧の都ピエタにある、冒険者ギルドの一室。

 立派なテーブルを囲む形で、数人の人物が向かい合っていた。



「それではこれより、ピエタの街付近に出現したダンジョンと、新種の魔獣に関する対策会議を始める。」


 年季の入ったローブを身にまとう老人、この街のギルドマスターが場を取り仕切る。


「とは言え、この人数だ。あまり気負わずに、好きに発言をしてくれて構わん。」



 この部屋に居るのは、彼を含めて僅か”4人”だけ。


 ギルドマスターである彼と。

 この街の筆頭冒険者である、Sランクのイーニア・ホープ。


 そして、冒険者ですら無い。

 武蔵ノ国からやって来た、ユリカとシュラマルの2人である。



「おじいちゃん、この2人は?」


 部外者であるユリカ達が、何故この場にいるのか。イーニアがギルドマスターに尋ねる。



「武蔵ノ国から派遣されてきた、陰陽師と、その護衛の方だ。今回のダンジョン攻略に、”必要不可欠”であると判断し、会議に参加してもらった。」


「ふぅん。まぁ、なんでも良いけど。」


 イーニアは2人への興味を無くし、そっぽを向いた。



「君たちの手元にあるのは、ダンジョンの内部構造と、魔獣の特徴を記した資料だ。よく、目を通しておいてくれ。」



 ギルドマスターに促され。

 ユリカとシュラマルの2人は手元の資料に目を通す。



「……”オールト”、ですか。」


 ユリカがその名を口にする。



「ああ。ギルドはこの魔獣をそう呼称することにした。生殖器を持たず、肺にあたる部分も見当たらない。それ故、かなり特殊な生態をしていると考えられる。」


「なるほどね。」


「個体数は膨大で、街に到来したものだけでも、約4000体近く居たと思われる。奴らの繁殖方法は不明だが、餌の少ない地下空間でそれだけの増殖は難しいだろう。」


「……つまり、”異界の門”を通じて、それだけの数がやって来たってことですか?」


「そう考えるのが妥当だろう。」



 なぜ自分が呼ばれたのか。

 ユリカはようやく腑に落ちた。



「ちょっと待ちなさいよ。異界の門を通って来た? 何千体も? あんなの、長くても1分程度しか続かないのに?」



 まだ幼いながらも、すでにベテラン冒険者の域にあるイーニアは、異界の門が何なのかを理解していた。

 それ故に、その事実を信じられない。



「確かに、今までの常識から考えると、ありえないことではあるが。そのありえないことが、いま世界中で起こり始めているのも事実だ。」



 ギルドマスターである彼には、異界の門を発端とする”様々な事件”の情報が入ってきていた。

 そして、その被害の大きさも。



「陰陽師である彼女は、異界の門の扱いに長けるエキスパートだ。もし仮に、ダンジョン内に門が存在するのなら、彼女の協力無しでは解決できないだろう。」



 ユリカ自身、そういった事情から派遣されてきたため。

 このような急な仕事にも、覚悟は出来ていた。



「……要は、そいつを無事にダンジョンの奥まで護衛すればいいのよね。今、他に動ける冒険者は?」


「街全体が凍っているからな。お前より暇な奴は居ないだろう。」



 現在、霧の都ピエタは”原因不明の異常気象”に見舞われており。

 多くの冒険者が、街の復興に尽力していた。


 それ故に、ダンジョンに大量の冒険者を送ることも不可能であった。



「そうは言っても、わたしがダンジョンに行ったら、この街のゴーレムは止まっちゃうし。あんまり街から離れたくないのよね。」



 そもそもの問題として、イーニアの持つ力は強大だが、攻めよりも守りに特化していた。

 また、機動力に秀でるわけでもないため、今回のように非常事態に間に合わないこともある。



「他に使える奴、居ないかしら。」



 なにはともあれ、人手不足なのは否めなかった。











 宿屋の一室にて。

 ベッドの上で丸くなり、布団に潜った状態でミレイは眠りについていた。

 とてつもない寒さに加えて。いつも起こしてくれる相棒が居ないために、彼女は巣の中で眠り続ける。


 だがしかし。

 なにか、スイッチが切り替わったかのように。

 ミレイはパッと目を覚ますと、布団を勢いよく押しのけた。





「……はぁ。」


 トイレの中で、ミレイは深く溜め息を吐く。


 あまりの寒さに体が耐えきれず、腹痛を催してしまった。


 とは言え、トイレの中も変わらず寒いため。

 寒さに震えながら、無表情な瞳でトイレの扉を見つめていた。



「あ、そうだ。」


 思い出したかのように。ミレイは黒のカードを具現化し、本日の召喚作業を行う。

 トイレの中という、最も落ち着ける環境でこそ、素晴らしいカードが手に入ると信じながら。



 しかし、光の輪が発生し。

 中から現れたカードは、銅色の”1つ星”カードであった。


 カード名は、”真っ赤な傘”。



「……まぁ、こんなもんか。」


 昨日、”召喚した存在”と比べると、まさに雲泥の差があるが。

 ガチャで考えたら妥当な確率だと、そう納得することにする。





「ふぅ。」


 ミレイがトイレから出て、部屋に戻ってくると。


 部屋の中では、フェイトが窓際付近に立っており、そこから外の様子を見つめていた。


 その後ろ姿には、不思議と惹かれるものがあり。

 ミレイは思わず見とれてしまう。


 彼女が本当に、自分の所有するカードの1つであるとは、今でも信じられなかった。



 ミレイが、ずっと見つめていると。その視線に気づいてか、フェイトが振り向く。



「そういえば。貴女が起きる前に、友達2人が訪ねてきたわよ。ほら、変なスーツを着た女と、猫耳の女。」


「まさか、出たの?」


「貴女が寝てたからよ。」


「それで、何だって?」


「”ギルドに呼ばれたから、行ってくる”、ですって。」


「そっか。」


(わたしも、行かないとな。)



 シュラマルとユリカが、ギルドに呼ばれた理由は知らないが。

 ミレイも仲間の情報を集めるために、ギルドへと向かう必要があった。



「てゆーか、ずっと実体化してたの?」


「そうよ。悪い?」


「いや、別に。特に不都合は無いけど。カードになってる時って、どんな感じなのかなぁって。」


「……なんで、そんなの聞くわけ?」


「いや、快適なのかな、とか。気になるじゃん。ほら、ポケ○ンだってさ、ボールの中が好きとか嫌いとか、あるじゃん?」



 フェンリルやパンダなど、他のカードを含め。ミレイはずっと、カードたちの生活環境について考えていた。

 そこでようやく、フェイトという貴重な意見を出してくれる存在が現れたのである。



「はぁ。」


 フェイトは、呆れた様子で溜め息を吐く。


「まず根本的に、わたし達は生き物じゃないの。確かに、生きてた時の記憶だってあるし、感情だって持ってるつもり。だけどそれと同時に、”貴女の一部”だっていう自覚もあるの。」


「わたしの、一部?」


「ええ。だから、貴女の命令には従う。戦えと命じられれば戦うし、黙ってカードに引っ込んでろって言うなら、もちろんそうする。」


「……そっか。」


 命令なら、そうする。その言葉は、ちょっと悲しかった。



「――まぁでも、そうね。仮に自由にして良いって言うなら。なるべく、表には出ていたいわ。」



 その、言葉を受けて。

 ミレイは満面の笑みを浮かべた。



「もう! そうならそうって、早く言ってよねぇ〜」


 気分が良くなって、フェイトの身体をツンツンと突っついた。



「ちょっとアンタ、馴れ馴れしいわよ。」


 そう言いつつも。

 フェイト自身、満更でもない様子であった。





「そうだ、この機会に他の子達の話も聞こう。」



 ミレイは魔導書を開き。

 フェイト以外のカードにも、実体化していたいかどうかの話を聞くことにした。



「……とはいえ、まだかなり白いな。」



 ミレイの知らない激闘か。はたまた、別の要因によってか。

 ミレイの持つ多くのカードは損傷しており、復旧待ち状態であった。



「あっ、パンダが復活してる。RYNOは、まだ無理か。」



 ミレイがどのカードを呼び出そうかと品定めしていると。

 興味深そうに、フェイトが覗いてくる。



「それ、わたしと同じアビリティカードよね。みんな、そうやってカードを管理してるの?」


「いや。普通、他のみんなはカードを1枚しか持たないから。こうやって整理する必要があるのは、多分わたしだけかも。」


「ふーん。」


 事情はよくわからなかったが。フェイトは、気にせずに眺めることにした。



「貴女の持ってるカードで、最強なのってわたし?」


「えっ? う、うん。多分、そうだと思うよ? レアリティも一番高いし。」



 星の数が、全てだとは思わないが。

 やはり単純な性能でも、フェイトの持つ能

力を凌ぐカードは他に無かった。



「そう。」


 その事実には、フェイトも満足げである。



「次点は、やっぱフェンリルかな。」


 魔導書の中に収められた、フェンリルのカードを撫でる。



「フェンリル、”小さめ”で出てきて。」



 ミレイの要望に従って。

 フェンリルが部屋の中で実体化する。


 流石に、そのままでは大きすぎるため、子犬モードである。



「こいつが、フェンリル。」



 昨日は、そそくさとカードに戻ってしまったため。フェイトとフェンリルはこれが初対面であった。


 相手が、子犬モードであることもあり。

 フェイトは、フェンリル相手に妙に格上感を醸し出す。



「ねぇ、フェンリル。君はどっちが良い? 出来ることなら、ずっと外に出てたい?」


「わふ!」


 ミレイの問いに、フェンリルは元気よく返事をする。



「なるほどね。」


 ミレイは笑顔のまま。



「今、なんて言ったと思う?」


 流石に、犬の言葉は理解できないため、フェイトに問いかける。



「……飼い主なんだから、それくらい自分で考えなさいよ。」


「いや、犬の言葉はちょっと。」


「あっそ。」


 仕方がないとばかりに。

 フェイトは、フェンリルの顔を見つめ。何かを探るように、目を細めた。



「……強いて言うなら。小さい状態でも良いから、外に出てたいって。」


「ほんと!?」


「わふ!」


 意味が合っているのか。フェンリルは嬉しそうに鳴いた。



「フェイト、犬の言葉が分かるの?」


「むしろ、なんでアンタ分かんないのよ。」


「へ?」


 分からないほうが、おかしいのだろうか。

 ミレイは自らの常識を疑った。




「じゃあ、次はパンダと話してみて。」


 フェンリルに続いて。今度は、パンダファイターを召喚する。

 彼にはサイズを変える機能はないため、そのままの原寸大である。



「ワン!」


「ちょっと待ちなさい。」


「ん?」



 フェンリル、パンダと召喚して。

 フェイトには、どうしても我慢ができなかった。



「まさかとは思うけど。わたし、”こいつらと同列”なの? この獣たちと。」


「……えっと。それは、まぁ。考え方に、よると言うか。」



 上手く否定することも出来ないため。

 ミレイは、そっと目をそらした。



「それで、パンダはどっちが良い? やっぱり表に出てたい?」


「ワン!」


 パンダは力強く吠えた。



「”買い物も家事もお任せください、わたしは貴女の忠実なる下僕です”、だって。」


「あはは。こいつ面白いんだよ? 料理とかも出来るし。」


「わたし以外に、人間の言語を話せるのは居ないわけ?」


「一応、喋るガントレットが居るけど、まだ修復中。他はえっと。……あぁ、もう1人居たか。」



 ミレイは魔導書のページをめくり。

 2つ星のカード、お喋りタンポポを召喚した。


 ミレイの手のひらに、タンポポの花が根っこごと出現する。



「えっと、こんにちわ。ちょっと質問良い?」


「……な、何でしょう。」


 お喋りそうな名前とは裏腹に、タンポポの声は小さかった。



「今、他のカードの子達にも質問してるんだけど。やっぱり、カードに閉じ込められてるよりも、こうやって実体化してる方が良いのかなぁって。」


「……そ、そうですね。たまには、日光とかを浴びたいかも、です。」


「そっかそっか。やっぱそうだよね。じゃあひとまず、わたしの胸ポケットに入ってて。」



 この後、ギルドに行く用事があるため。

 ミレイはお喋りタンポポを胸ポケットに挟んだ。



「喋るカードは、それで全部なの?」


「そだね。他は、なぜか修復が必要だし。」



 忘れているカードはないか、再び魔導書を開く。



「こっちのドリロイドっていうのは、ロボットだから除外して。でもこっちの”チキンハンター”ってカードは、今まで一度も召喚したことがないかも。」


「なんでしないわけ?」


「え、いや。説明文に、”一番近くにいる人間を襲う”って書いてあるから。多分、所有者が人間である以上、絶対に使えないカードな気がする。」


「……変なカードね。」


「まぁ、どんなカードが手に入るのかは、本当にランダムって感じだから。」



 ミレイは、先程召喚した1つ星のカードを手に取る。



「だってほら。昨日は、最強の力を持つ君が召喚されたのに、今日は傘一本だよ? つまり、これは”ガチャ”なんだよ。」


「ガチャって、あれよね? つまみを回して、中からおもちゃが出てくるやつ。」


「まぁ、元の意味で言えばそうだけど。フェイトは、ゲームとかやったこと無いの?」


「わたしの暮らしてた時代は、そういう娯楽をやる余裕は無かったの。それに知ってる? ゲームって、やりすぎると”バカ”になるのよ。」


「……ぐぅ。」


 不思議と、人格を見透かされたような気がして。

 ミレイの口から空気が漏れた。











 ミレイとフェイトが、部屋で話していると。


 コンコン、と。

 部屋の扉がノックされる。



「誰だろ。」



 シュラマルとユリカ以外に、訪ねてくる人物は思い当たらないが。


 部屋の扉を開けると。

 そこには、何処か見覚えのある、ミレイと同い年くらいの少女が立っていた。



 派手なピンク髪の少女。

 Sランク冒険者の1人である、”イーニア・ホープ”である。



「えっと、どちら様?」


 残念ながら、ミレイにその情報は入っていなかった。



「イーニア・ホープ、冒険者よ。」


「あっ、どうも。わたしも冒険者の、ミレイです。」


「ふーん。」



 軽く、自己紹介を終えて。

 イーニアは、ミレイの見てくれを凝視する。

 まるで、”品定め”するように。



「昨日、空飛んでたのって、貴女よね。」


「そう、だけど。」


 何の要件だろうかと、ミレイは首を傾げる。




「――”街を氷漬けにしたのも、もしかして貴女?”」


「……ち、違います。」



 咄嗟に口から出たが。

 別に、嘘は言っていなかった。





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