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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
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ピエタ防衛戦





 フェンリルの背に乗って。

 ミレイとシュラマルは化け物たちの大群へと向かっていく。



「ちゃんと、掴まっててください。」


「分かったよ。」


 シュラマルが、ギュッとミレイの腰を抱きしめる。


 眼前に迫る化け物たちを前にして。ミレイは、しっかりと前を見つめて。

 カードの力が宿った、その右手を前にかざす。



「”フォトンバリア”。」



 ミレイとシュラマルと包み込むように。光の魔力で出来た盾が形成される。

 それにより、準備は万全である。



「行くよ、フェンリル。」


「ワフッ!」



 主の期待に応えるように。その力強さをもって、フェンリルが敵の大群の中へと突っ込んでいく。


 凄まじい量の大群だが。

 生物としてのレベルが違い、フェンリルを止めることなど出来はしない。


 その牙で敵を潰し、爪で引き裂きながら。

 暴走列車のように、街の防壁へと近づいていく。



「頼むよ!」


 ミレイが、しっかりとその背中にしがみついて。


 フェンリルは力強く地面を蹴り上げると。

 そのまま街の防壁を登っていく。



 その脚力をもってすれば、頂上まではあっという間であった。



 防壁の頂上に着き。

 フェンリルの背に乗ったまま。ミレイとシュラマルは街の様子に目を向ける。



「これが、ピエタの街。」



 壁の内部、街全体には”深い霧”が満ちており。街の様子は上手く把握できなかった。

 かろうじて見えるのは、せいぜい建物の屋根程度であり。

 所々から煙が上がっているが、そこで何が起こっているのかは分からなかった。



「まぁ、”霧の都”って呼ばれてるくらいだから。霧の量は、これが普通なんだろうけど。こういう非常時には、ちょっと不便だよね。」


「ですね。」



 防壁の外は、目に見える地獄だが。

 対する街中は、何が起こっているのかすら不明であった。

 あの化け物たちが中に侵入して暴れているのか。

 戦闘が行われているのか、それすらも分からない。



「とりあえず下に降りて、誰かから事情を聞こう。」


「はい。」



 2人は霧に覆われた街への侵入を決意した。











――グギャアアッ!!



 叫び声を上げながら。

 化け物が民家の扉を叩き、中に侵入しようとしていた。


 激しい音が鳴り。

 民家の中で暮らす人々は、静かに膝を抱え、息を潜める。


 そのまま、扉を壊そうとする化け物であったが。


 突如、”真上から何かに押し潰され”。

 一撃で息絶える。



 フェンリルの剛腕の前では、この程度の化け物は敵にもならない。



「ナイスだよ!」



 ミレイとシュラマルは、フェンリルの背から降り。その足でピエタの地に立つ。


 街中は上から見た通り、深い霧に覆われており。

 市民はおろか、衛兵や冒険者の姿も確認できない。


 だが、今しがた倒した1匹のように。得体の知れない化け物が、街に侵入しているのは確かであった。



「こいつらも、僕達みたいに壁を登ってきたのかな。」


「ですかね。まぁ、どれだけ居るのかは分からないですけど。」



 街の状況は、不明瞭で未だに分からない。



「霧が凄すぎて、敵の動きも見えないし。」


「そこは、上手く気配を察知していこう。」


「……です、ね。」


 気配がどうとか。

 そんな話は、ミレイにはよく分からなかった。



「これだけの規模の戦いだから、誰かが防衛の指揮を取ってるはずだけど。」


「みんな、街の外で戦ってるとか?」


「いや、せっかく防壁があるんだから、そんな自殺行為はしないよ。多分、壁の上から外の敵を叩いてるんだろうけど。」



 あまりにも濃い霧のせいで、敵と味方の把握すらままならず。

 そもそも、自分たち以外にも戦っている者がいるのかも定かではなかった。



「できれば、他の冒険者か誰かに事情を聞きたいけど。」



 そうして、ミレイとシュラマルが悩んでいると。



 甲高い鳴き声を響かせながら。

 ”真っ赤に燃え盛る鳥”が、ミレイ達の頭上を飛んでいく。



 ミレイには、何が何だか意味が分からなかったが。

 シュラマルは、その鳥に見覚えがあった。



「不死鳥? まさか。」



 記憶が確かならば。

 それは、”大切な友人”のものである。



「あれを追いかけよう。」


「あっ、はい。」



 事態の把握を求めて。

 ミレイ達は燃え盛る鳥の後を追った。







 ピエタの街の中心部。


 レンガ造りの大きな建物の前に、数人の人々が武器を携え。

 霧の中より迫る化け物たちと戦っていた。



 その中でも、特に目立つ紅一点。

 金髪猫耳の陰陽師、”ユリカ”は。



 手に持った御札に魔力を送り込む。



「――滅ッ!!」



 御札より、鋭い電撃が放たれ。

 一撃で、化け物を感電死させた。



 他の人々も、剣や斧で化け物を迎撃する。


 そんな彼らの頭上を、燃え盛る鳥が通り過ぎていき。

 それに釣られるように、街にいた他の化け物たちが、彼らの元へと誘導されていく。



「いいぞ、姉ちゃん。そのまま敵を呼び寄せてくれ!」


「わかりました。」



 燃え盛る鳥は、ユリカによって操られており。

 その目立つ姿を使って、霧の中の化け物たちを引き寄せていた。



 迫りくる化け物たちを、再び相手取ろうとする戦士たちであったが。



 その化け物たちの首が、”ものの見事に吹き飛ばされ”。

 呆気にとられる。



「え?」


 同様に、ユリカも呆然としていると。


 突如として。彼女の目の前に、忍者シュラマルが出現する。



「ユリカちゃん!」


 シュラマルは、ユリカの名を呼ぶと。

 そのままの勢いで彼女に抱きついた。



「シュラマル!?」


 驚くユリカだが。



「良かった。無事だったんだね。」


 対するシュラマルは、再会の喜びから涙すら滲ませていた。




 無論、ユリカも再会は嬉しかったが。

 何よりも、”この場所”に彼女がやって来た事に驚きを隠せない。



「どうやって街に入ってきたの? 門は全部封鎖されてるし、外は魔獣に囲まれてるのに。」


「あぁ。”彼女”の手を借りたんだよ。」




 その巨体で、地面を揺らし。


 死した化け物を咥えながら、フェンリルが彼女たちの元へとやって来る。


 無論、その背中には主であるミレイが乗っている。



「あれ、ミレイちゃん!?」


 見覚えのある魔獣と、その背中に乗った人物に。

 ユリカは驚く。



「ユリカさん!? すっごい、奇遇ですね。」


「うん! まさかまた会えるなんて、わたしも感激だよ。」



 僅か、数日ぶりではあるものの。

 ミレイとユリカは、その再会を喜んだ。



「怪我はもう大丈夫なの?」


「怪我? あぁ、もうすっかりです。」


 イリスにデコピンされた額に触れる。



「わたしだけ挨拶できなかったので。また会えて良かったぁ。」


「わたしもだよぉ。」



 会話に、花を咲かせる2人であったが。


 その事情を知らないシュラマルは、1人置いてけぼりにされていた。



「……えっと。君たちって、知り合いか何かなの?」


「うん! わたしが浜辺に打ち上げられてて。助けてくれたのが、何を隠そうミレイちゃん達なんだよ。」


「うっそ!?」


 身近にいた、思わぬ恩人に。シュラマルはとてつもない衝撃を受ける。



「えへへ。まぁ、そのうちの1人ってだけですけど。」


 ミレイは満更でもなかった。



「キララちゃんと、ソルティアちゃんは?」


「……えっと。今、ちょっとはぐれちゃって。何とか情報を探そうと、この街に来たんだけど。」


「大量の化け物で、それどころじゃなかったから。とりあえず戦おうってね。」


 シュラマルが、己の武器である短刀を指先で回す。



「それで、街の防衛はどんな感じなの? まさか、ここに居るのが全員ってわけじゃないよね?」



 ユリカの他にも、冒険者らしき人々が数人居たが。

 街を守るには、あまりにも心もとない人数であった。



「自分が説明しよう。」


 シュラマルの疑問に、冒険者の1人が答える。



「街には、これでも数百人の冒険者が居た。近くに出来た、”新しいダンジョン”を攻略するためにな。だが、その大半がダンジョンに向かい、街が手薄になった時。”奴ら”は、突如やって来た。」


「……なるほど、タイミングが悪かったんだね。主力の冒険者抜きじゃ、流石にあの規模の敵には太刀打ちできないし。じゃあ、他の冒険者達が戻るまで、街を守れば良いの?」


「……いや。それも、おそらく”無意味”だろう。」


「なんで?」



 シュラマルの疑問に対し。

 周りの冒険者だけでなく、ユリカですら表情を曇らせる。



「あの魔獣の大群は、”そのダンジョンから来たんだって”。」



「……え?」


 ユリカの口から出た言葉に。

 一瞬、ミレイの頭は混乱する。


 主力の冒険者達は、全員ダンジョンの攻略に向かっている。

 ”にもかかわらず”、ダンジョンから魔獣が溢れ出し。今現在、街を襲っているという。


 それはすなわち。ダンジョン攻略に向かっていた冒険者達が、”全滅”したという事を意味する。



「あれだけの敵が居たんだ。きっと、ひとたまりもなかったはずだ。」


 仲間の冒険者たちに起きた不幸に。

 彼らは無念を口にする。




 ”数千体”は居るであろう、ダンジョンから来た魔獣達。

 その数は、この世界の常識から考えても、”明らかな異常事態”であった。


 Sランク冒険者の中でも。

 特に殲滅力に優れるイリス等でなければ、対処すらできない程度には。




「それで、街に残った戦力は? 君たちの他にも居るよね。」


「それはもちろん。ギルドマスターを含め、魔法使いや弓使いは、防壁の上へ向かった。登ってくる敵を迎え撃つ為にな。」


「まぁ、敵の殲滅が難しい以上、そうやって時間を稼ぐしかないのか。」



 それでも、敵の全てを阻むことはできず。

 彼らのように、壁を越えてきた敵に対処する必要もあった。



 とどのつまり、ピエタは絶体絶命である。



「とりあえず、状況は把握できたね。」


「はい。」



 色々と、ミレイも話を聞いていたが。

 とにかく、街がヤバいということだけは理解できた。



「僕は、壁を越えてきた敵に対処しようと思うけど。ミレイちゃんはどうする?」


「……そう、ですね。」



 自分がどうするべきか、ミレイは考える。


 せめて、”RYNO”さえ使えれば、あの化け物たちをどうにかしようと思えたのだが。

 今使える手持ちのカードでは、とても対抗できるとは思えなかった。


 だが、それでも。

 各々の武器を持ち、街を守ろうとする他の冒険者達を見て。


 自分も紛れなく、その1人であることを思い出す。



(――今のわたしに、出来ることを。)



 街を覆う防壁を見ながら。

 ミレイは、その拳を強く握りしめた。








 防壁の上。

 そこには、幾人もの魔法使いや弓使いが集い。街に侵入しようとする魔獣達を阻んでいた。

 強固であり、それでいて高くそびえ立つ防壁だが。魔獣達はそれを越えるべく、壁を這い上がり登ってくる。


 幸いにも、魔獣達に空を飛ぶ術は無いため。這い上がってくる個体を撃ち落とすだけで良いのだが。

 敵の数は限りなく。登り来る全ての魔獣を阻むことは出来ない。


 そして、彼らの持つ攻撃手段には、明確な限界が存在していた。



「キリがねぇ!」



 矢の数は着実に減っていき。

 魔力も無限に溢れるわけではない。


 魔獣達を殲滅するどころか。

 その侵攻を阻む事すら、圧倒的にリソースが足りていなかった。



「不味い、突破されたぞッ!!」



 人員の隙間を突かれ。

 10体程度の魔獣が一斉に壁を突破し、街中へと向かっていく。



 だが、しかし。



「――”エクスプロージョン”。」



 真下から放たれた魔法が直撃し。

 魔獣達は、まとめて”爆散”した。



 そして、その爆炎をかき分けるように。

 巨大な狼の魔獣と、それに乗った少女が防壁の上へと到達した。



「よいっしょ。」



 ミレイがフェンリルの背中から降り。

 その身体を、ぽんぽんと撫でる。



「わたしは大丈夫だから、他の人達を守って。壁を越えてきた奴を倒すの。」



「ワフ。」



 主の命令に従い、フェンリルは壁の上を駆けて行った。




「さて、と。」



 自分一人になり、気合を入れ直すミレイであったが。



 突如現れた、見知らぬ少女の存在に。

 他の冒険者達は反応に困っていた。


 なにせ、見た目10歳程度の少女である。

 この地獄にやって来るには、あまりにも不釣り合いであった。


 だが、



「……お主、冒険者か?」


 漆黒のローブを身に纏った、魔法使いらしき小さな老人が、ミレイに話しかける。

 その佇まいから、この場にいる冒険者の中でも高い地位にある事が窺える。



「はい。まだランクは低いですけど、戦闘経験はあります。」


「あぁ。それは見れば分かる。」



 先ほど別れた、フェンリルの実力や。

 化け物を討滅した爆発の魔法。

 それが、この場において貴重な戦力となりうる事は、老人にも分かっていた。


 だがすでに、それを手放しで喜べるような状況ではなかった。



「加勢は嬉しいが。正直な話、さっさと逃げたほうが賢明かもしれんぞ? 見ろ、あの大群を。」


 老人は、防壁の外を指し示す。



 防壁の上から見える風景、街の外に広がる現実は、まさにこの世の地獄のようだった。


 大地を蠢く存在は、その全てが魔獣であり。

 街全体が囲まれている。



 かつて、これほどまでに大量の魔獣が、人類に牙を向けたことがあったのか。

 そう思わざるを得ないほどに、圧巻の光景であった。



「空を飛んだりせんのが、唯一の救いだが。それでも、ゴキブリみたいに這ってきよる。」



 老人は指先に魔力を込め。

 それを弾丸のように加速させ、下から登ってくる魔獣達を狙い撃つ。


 ピンポイントに無駄なく、できるだけ効率よく殺すための魔法だが。

 それでも着実に魔力は消耗していく。


 何より、今現在も。街への侵入を完全に防げているわけではない。



 これは、勝つための戦いではなく。

 街の死を遠ざけるための、延命行為に他ならなかった。



「魔力が尽き。じきに、我らは”全滅”する。そうすれば、魔獣達は絶え間なく街へと侵入し、残る冒険者達も殺されるだろう。」



 それ故に、老人はミレイの参戦を歓迎しない。



「あの狼の魔獣に乗って、この街へと入ってきたな? ならば大切な者を連れ、同じように去ると良い。お主1人が加わったところで、どのみち滅びは避けられん。将来有望な子供が、無駄死にするだけだ。」



 この戦いに勝てるとは、始めから思っていないのだから。




 しかし、ミレイも。

 似たような絶望は、すでに経験していた。




「――いいえ!! わたしは街を守るために、ここまで来たんです。”ギルドに所属する冒険者として”。」


 今の自分に出来ること。

 それを胸に秘めながら、ミレイは魔導書を開く。



 ほとんどのカードが機能を失い、使い物にならなくなっていたが。

 それでも、使える力はゼロではない。



(”RYNO”があれば、敵の数を一気に減らせるけど。今武器として使えるのは、3つ星の”エクスプロージョン”だけ。”聖女殺し”も使えないし、”蠱惑の魔眼”は戦闘向けじゃない。)



 魔導書のページをめくって、使えるカードを探す。

 黄金の輝きを持つ、4つ星のカードは。もう1枚存在していた。



「――”フォトンギア・イカロス”。」



 召喚した覚えのないカードだが。

 今この状況において、それをとやかく言う余裕は無かった。



「よっし。」



 魔導書に念じて、黄金のカードを起動する。


 すると、機械のパーツがミレイの背中部分から形成され。それが徐々に、一対の翼の形へと変わっていく。


 そのテクノロジーの名は、誰も知らず。


 それでも確かな”力”として、ミレイの背中に巨大な機械の翼として展開される。


 その小さな体には不釣り合いなほどに、大きな翼が。



「――おお!」


 驚く周囲の様子は気にせず。



 ただ空を飛ぶため、ミレイは意識を集中させる。



「ふぅ。」



 脳から翼へと、命令を送り。

 それに従って、翼がゆっくりと動き始める。


 パタパタと、鳥が羽ばたくように。



「――くっ。」



 空を飛ぶために、必死に命令を送り。

 その、”羽ばたくスピード”を上げていくものの。



(……飛べるよね?)



 一向に、浮力が発生する兆しはない。



(頼む頼む頼む、お願いだから飛んでよ。)


 必死に祈るように、機械の翼へと懇願し。



 それが通じたのか。

 翼部分から、淡い光の粒子が発生する。



 すると、その粒子の影響か。

 ミレイの身体が、重力に逆らって浮かび始めた。



「お、おおー!」


 流れに任せるように、羽をはためかせる。



「変なエネルギーで飛んでるのかな。」



 何となく、使い方を理解したのか。

 壁から離れて、自由に空を飛んでいく。



 その右手には、”エクスプロージョン”の能力を宿し。

 地上へと、狙いを定めた。



「この翼があれば。きっと、”あのドラゴン”とだって戦える。」



 新たなる力、新たなる翼を持って。


 ピエタの街を守るために。

 ミレイは飛翔した。





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