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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
34/153

γ.私の知らない物語





 地球。

 けれどもそこは、ミレイの暮らしていた世界でも、怪人に支配された世界でもなく。

 どこか、別の世界。







「――お父さん、来て!」



 海を一望できる、美しい砂浜を。

 1人の少女が駆けていく。


 まだ幼く、10歳程度であろうか。

 黒い髪をなびかせて、笑顔で走る。


 そして、その少女の後ろを。父親であろう中年の男性がついて行く。



「僕も、暇じゃないからな。余程のことじゃないと驚かないぞ。」



 元気いっぱいな少女とは違い。

 父親は、それほど乗り気ではなかった。


 仕事着である、白衣すら脱いでいない。



「こっちこっち。」


 それでも、父親と一緒なのが嬉しいのか。


 少女は笑顔のまま。

 砂浜の先にある、岩陰の奥へと向かっていく。



「気をつけろよ。怪我でもしたら大変だ。」


 そう言いつつ。

 面倒そうにしながらも、彼も娘について行く。



「……やれやれ。」


 子供の体力には敵わないと、父親は溜息を吐く。


 そして、岩陰の先へと足を踏み入れた。



「おい、そろそろ家に帰らないか?」



 そう、声をかけるものの。

 娘からの返事は無く。



 その代わりに、岩陰の先に居た”存在”に。

 父親は言葉を失った。




 それは、”黒いドラゴン”だった。




 まるで神話の世界から抜け出したような。

 巨大な身体と、鼓動を宿し。

 存在そのものに圧倒される。



 そして、その足元では。

 娘が地に伏していた。



「――○○○ッ!!」


 娘の名を叫びながら。

 父親が駆けていく。


 だが、それを妨げるように。


 黒いドラゴンは尾を振るうと。



 圧倒的な力に抗えず、父親は容易く吹き飛ばされる。



 その尾の一撃で。

 彼は深い傷を負い、左目をも潰された。



 けれども意識は失わず。

 残された右目で、父親は事の顛末を見つめる。



「……やめろ。」



 止めようにも、身体はすでに動かず。


 黒いドラゴンが、その手で娘の身体を掴み取る。



「――やめろぉぉっ!!」



 どれだけ声を振り絞っても。

 現実は何一つ動かせず。




 ”娘がドラゴンに食われる光景”を。


 彼はただ、見つめることしか出来なかった。





◇ γ-Earth





 西暦、20XX年。

 その年、一切の前触れも無く。



 海から、恐ろしい”モンスター”達が現れた。



 モンスターは、既存の生命体とは一線を画す力を持っており。

 すぐに人類は、彼らが脅威になり得る存在だと気づいた。


 伝説上の生き物、ドラゴンに酷似したモンスターや。

 戦車のように、分厚い甲殻に覆われたモンスターなど。

 余りにも常識外れな存在に、パニックに陥る人々も多かった。


 だがしかし。

 いかに常識外れな生き物だったとしても。人間側の戦力、軍隊を持ってすれば、十分に対処可能な範囲だったため。

 人々はモンスターを恐れつつも。

 自分たちの種族を、滅ぼすほどの存在ではないと考えていた。


 人類が、負けるはずがないと。


 だが。そうやって、人類が慢心するさなか。

 モンスター達は、さらなる進化を遂げ。



 やがて、”ネオ・モンスター”と呼ばれる個体が出現した。



 ネオは、それまでに現れたモンスター達とは違い。

 人類の理解の及ばない、”超自然的な力”を有していた。



 建物をまとめて薙ぎ払う、超火力のビームを放ったり。

 ブリザードやサイクロンなどの、抗いようのない現象を引き起こしたり。


 最新鋭の軍隊ですら、彼らの前では無力に等しく。




 そして。


 東京の街を、一夜にして火の海に変えた。

 あの”黒いドラゴン”は。


 世界に滅びを予感させた。









 2年後。


 くすんだ空の下。

 人に放棄され、明かりを失った街の残骸にて。



 暴れまわる無数のモンスター達と。

 それに対抗する、パワードスーツを着た兵士たちの集団があった。



 全身のただれた、ケンタウロスのようなモンスターや、ドラゴン型のモンスターなど。


 対するパワードスーツの人々は。

 高威力のライフル銃や、高周波ブレードなどを武器に、モンスターに立ち向かう。



 パワードスーツによって、超人的な身体能力を発揮し。

 地を駆け、壁を駆け。

 市街地という環境を利用し、モンスターを追い詰める。



 その兵士たちの集団の中でも。


 特に”1人”は、別格の動きをしていた。



 モンスターの肉を裂き。骨を折り。翼を捥ぐ。



 華麗な動きで宙を舞い。

 たった1人で、複数のモンスターを圧倒する。




「はっ、相変わらずだな。」


 その戦い様に、他の兵士達も手を止め。

 ”彼女”の動きに注目する。



 次々と、モンスターを斬り刻んでいき。



 残る一体。

 ドラゴン型のモンスターを地に落とすと。


 その頭に、高周波ブレードを突き刺し。

 息の根を止めた。




「――殲滅完了。」


 その戦闘の様子とは裏腹に。

 彼女の声は静かで、落ち着いていた。







「”ジル”、今日も冴えてるな。」


 彼女と同じく、高周波ブレードを持った男が話しかける。



「……この程度、どうということはありません。」


 パワードスーツを身に纏っているため、彼女の表情は伺えない。



「そう言うなよな。」


 そこへ、他の仲間達も集まってくる。



「お前が普通なら、俺たちは芋虫同然だぜ?」


「いえ、そういう意味では。」


 彼女、ジルは、この中では唯一の女性であったが。

 他の仲間達との関係は、そこそこ良好の様子だった。



「ハッ、もっと自分の力に誇りに持て。」


 ブレードを持った男が、ジルの肩に手を置く。


「お前のおかげで、俺たちは今日も無傷で家に帰れる。それだけの働きをしてるんだ。」


 彼は熱く語るものの。



「……はあ。」


 ジルの心には、大して響いていなかった。



「まったく、可愛げのない奴だ。」


 そんな彼女の様子に、仲間たちは揃って笑った。




「よし、基地に戻るぞ。」


「「了解!」」



 戦いを終え、基地へと帰還する。


 その安心感から、彼らは”油断”していた。





 何かが”爆発”したような。

 衝撃音が、どこからか鳴り響き。



「――何だ!?」



 動揺する兵士たち。


 彼らが揃って空を見上げると。



 隕石のように。

 ”燃える何か”が、彼らの元へと飛来していた。




「回避しろ!」


 兵士たちは、咄嗟に回避行動を取るも。


 1人が逃げ遅れ。

 燃え盛る巨大な何かに、押し潰され、絶命した。




「……何なんだ。」


 兵士たちが見つめる中。

 燃え盛る何かは、ゆっくりと形を変えていき。



 背中に棘の生えた、恐竜のような姿を見せつける。



「こいつ、まさか。」


 そのモンスターの姿に、兵士たちは戦慄する。



「――”レッドテイル”!?」



 背中から尻尾にかけて、鋭利な棘が生え。

 なおかつ炎すら帯びている。


 あれほど、他のモンスター達を圧倒していた彼らだというのに。

 このモンスターを相手しては、完全に怖気づいていた。




「……”ネオ・モンスター”。」


 圧倒的な敵を前にして。


 ただ1人。ジルだけは、拳に力を入れていた。




 しかし。


「総員、急ぎ撤退するぞ!」


 兵士たちは戦いの道を選ばない。



 ジルは、その判断に異を唱える。


「ですが、隊長。」




「――ですがもクソもない!! 相手はネオだ、勝てる相手じゃない!」




「……了解。」


 ひどく、不満ではあるものの。

 ジルは命令に従った。







 建物の上。屋根から屋根へと飛び回り。

 兵士たちは、全速力で駆けていく。


 そんな彼らを逃すまいと。


 レッドテイルは、車輪のように丸くなり。

 回転することによって、彼らを追いかける。



 燃え盛る、巨大な車輪のように。



 レッドテイルのパワーは圧倒的で、建物を壊しながら直進し続ける。




「――アイツ、どこまでも追ってきやがる!」


 背後から迫る恐怖に。

 兵士たちは恐れ慄く。



 そんな中でも。

 ジルは冷静に、スーツのパラメーターに目を向けていた。


 一部の表示が、赤くなっている。


「隊長、この速度を維持し続けたら。基地に辿り着く前に、先にバッテリーが尽きます。」



「……あぁ。そのようだな。」



 このままでは逃げ切れない。

 それは明らかであった。



「仕方がない。ここは散開し、それぞれ別ルートで基地に戻るぞ。」



「なるほどね。」


「つまり、誰が犠牲になっても、恨みっこなしってことで。」



「……ああ。」


 すでに1人失っている。

 ここで全滅し、誰も帰還できないという事だけは避けたかった。




「では散るぞ。」


「「了解!」」



 1人でも多く、生きて帰還するために。

 兵士たちは、四方へと散っていく。





 散開した彼らを見て。

 レッドテイルは立ち止まり、どれを追おうかと考える。


 だがしかし。



 正面から堂々とやって来る、1人の兵士の姿が目に入り。



 レッドテイルは、”彼女”に狙いを定めた。



 高周波ブレードを構え。

 ジルは単独で、レッドテイルと対峙する。



(……どのみち誰かが犠牲になるのなら。)



 敵の脅威は理解しつつ。

 それでも彼女は。

 ネオ・モンスターを相手に、負けるつもりはなかった。






 勢いよく駆け、壁を伝って飛び上がり。

 空高く舞うと。



 敵の頭上から、高周波ブレードを叩き込む。



 対しレッドテイルは、身体をよじり。

 無数の棘で、ブレードに対抗する。


 どんなモンスターをも屠ってきたブレードだが。

 その棘には、傷一つとして付けられない。



「ッ、」


 棘の側面を蹴り、近くの建物へと飛ぶ。



 だが、レッドテイルが尾を振り回すと。

 その強靭なパワーによって、建物は一瞬で倒壊した。



 瓦礫と共に、吹き飛ばされながら。

 それでもジルは諦めない。



(同じモンスターなら、何体だって狩ってきた。)


 ブレードを握り締め、立ち上がる。



(――わたしなら、やれるはず。)


 そう信じて。

 圧倒的な敵と対峙する。






 彼ら兵士が着用する、パワードスーツ。

 その性能は非常に高く。

 兵士1人を、戦車にすら匹敵する戦力へと変貌させた。


 それすなわち、モンスターとも対等に戦えることの証明であり。

 事実、このスーツが誕生したことで、人類側の戦力は底上げされた。



 だがしかし、このパワードスーツを持ってしても。

 ネオ・モンスターに対抗するには、圧倒的に力不足であり。




 人類は未だに、ネオを”一体も”討伐出来ていなかった。






 サーベルが砕かれ。

 吹き飛ばされたジルは、建物の外壁に叩きつけられる。



 ズルズルと、地面に腰を付き。

 壁は、真っ赤に血塗られていた。



「……ッ、」


 一撃でも貰えば、それは致命傷であり。

 ジルの胸からは、多量の血が流れている。



 どのみち。ネオとの戦いで傷を負えば、”その時点”で終わりなため。


 ジルは、自らの死を受け入れる。



(でも、これで。みんなが生き残れれば。)




 ”誰かのために、死ねるのなら”。


 その感覚は、妙に心地が良かった。





 けれども。


 彼女を殺そうとする、レッドテイルの顔面に。



 無数の弾丸が浴びせられる。



「……え。」


 目を開き、顔を向けてみれば。



 散開し、基地へと逃げたはずの兵士たちが。

 全員揃って、戻って来ていた。





「――”俺たちは最強だぁぁ”!!」


 隊長の雄叫びを皮切りに。

 兵士たちは各々の武器を手にし、レッドテイルへと向かっていく。




――なんで。



 それでもやはり、敵は圧倒的であり。


 ある者は、一撃で全身を砕かれる。


 炎に焼かれる者。


 串刺しにされる者。


 建物ごと、ゴミのように打ち捨てられる者。



――どうして。



 大して強くもないくせに、立ち向かおうとするのか。

 ジルには、理解が出来なかった。



 誰かのために死ねるのなら。

 それは、とても心地の良い最後なのかも知れない。



 だがしかし。

 ”残された側”からしてみれば、たまったもんじゃない。


 その気持ちを。

 ジル以外の兵士たちは、みな等しく知っていた。




 負けっぱなしの、この戦争。

 生き続け、残され続け。



 絶対に勝てないと分かっていても。

 それでも、諦めきれなくて。



 人間としての意地を、貫き通し。





――そうして、部隊は”全滅”した。











 目を覚ますと。

 そこは、気持ちの悪いほどに、真っ白な天井の下で。


 力のない、自らの呼吸の音が聞こえてくる。



 これは幸運なのか。

 それとも、ただの夢なのか。

 朦朧とする意識の中で。



 ジルは、自分が残されたのだと気づく。



 どうして、自分は生きているのか。

 それを探るように、ゆっくりと手を上げる。


 けれども力は弱く。

 すぐに下ろしてしまう。




 鮮やかな金髪と、顔にも傷一つ無く。

 けれどもその瞳は、空っぽだった。




「――君は運が良い。」




 そう、声をかけられて。

 ようやく彼女は、この部屋にいるのが、自分だけでは無いことに気づく。


 ゆっくりと、声のした方へと顔を向けると。


 そこには。

 白衣を着た、知らない中年の男が立っていた。

 見立てからして、技術者だろうか。


 何よりも目を引くのは。




 顔の左側にある、大きな傷跡と。

 ”黒い眼帯”であった。




「もう少し傷が深ければ、心臓がダメになっていただろう。」



 そう言われて。

 ジルは、自らの胸へと手を添える。


 きつく包帯が巻かれているものの。

 鼓動は、確かにそこにあった。




「……貴方は?」


 ゆっくりと顔を向け。

 ジルは男に問いかける。




「”エドワード・チャペル”、しがない科学者だよ。」


 男は自らの素性を告げる。



「君たち兵士が装着する、”パワードスーツ”を初めとした。兵器全般の開発を引き受けている。」



 つまるところ。

 ある種、人類にとっては、”最も重要な人物”の1人でもあった。



 だが、そんな人物を前にしても。

 ジルの表情は変わらない。



「要するに、”棺桶職人”ですか。」


「あぁ。だがその棺桶のおかげで、君は今も生きている。」


 ジルの態度を。

 彼も咎めようとはしない。



「他の仲間は、どうなりましたか?」


「ふむ。ネオと交戦したんだ。その先に待つ結末は、彼らも重々承知していただろう。」



「そう、ですか。」



 涙は流れない。

 そんな感情は存在しない。


 けれども、不思議と。

 胸の傷が痛む。



「……それで、貴方のような方が、わたしに何のようですか?」


「そうだな。とりあえずは、”おめでとう”、と言っておこう。」



「それは、どういう。」


 ジルには、状況が何一つとして理解できず。


 そんな彼女を見つめて、彼は微笑む。



「――君は、”SCAR DRIVE(スカードライブ)”に選ばれた。」



「……スカー、ドライブ? 何ですか、それは。」


 彼女には、聞き覚えのない単語だった。



「人類側に与えられた、”最後の切り札”とも呼べる代物だ。十全に機能すれば、”ネオとも対等に戦える”。」



 その言葉に、ジルは目を見開く。


「それが、わたしと何の関係が?」



「君も知っての通り。ネオと戦い、生き残るのは至難の業だ。奴らの圧倒的な力のせいでもあるが、”もう1つの要因”も大きい。」



 彼は、ネオの持つ恐ろしい特性について語る。



「奴らの攻撃を受けた者は、たとえ僅かなかすり傷でも関係なく。傷口から全身を蝕まれ、”謎の拒絶反応”により死に至る。」



 一撃でも食らったら、それが”確実”に致命傷となる。

 それは、人々がネオを恐れる大きな理由でもあった。


 そして、それを踏まえて。

 エドワードは、ジルの顔を見つめる。



「だが君は生き延びた。その心臓付近を、ネオに貫かれながらも。」



「……でも、どうして。」


「君は”適合”したんだよ。ネオの持つ”力”に。」


 ジルの胸を指差す。



「そこには、奴らと同じ力が宿っている。人々の恐れる、”超自然的な力”が。」



「……その力を使えれば、ネオにも対抗できると?」



「ああ。そのために存在するのが、”SCAR DRIVE(スカードライブ) SYSTEM(システム)”だ。」



 エドワードは、その名を告げる。


「君に宿った力を引き出して、強力な武器として機能させる。そして、それを搭載した新型スーツ、名付けて”ライザースーツ”も、すでに完成している。」



 そして最後に、もう一つの事実も。


「君たち、”部隊全員分”だ。」



「部隊、ですか?」


「ああ。わたしは君のような適合者を集め、一つの部隊として運用しようと思っている。”対ネオ・モンスター”用の特殊部隊だ。」



 そう言って。

 彼は数枚の資料を、ジルに渡す。



「これが、メンバーのリストだ。」



 ゆっくりと起き上がり。

 ジルは、手渡された資料に目を通す。



 そして、目を疑った。


「これは、何かの冗談ですか?」



 そこに記されていたメンバーは、全員が女性であり。

 おまけに、20歳であるジルよりも年下。



 ”年端もいかない少女”たちであった。



「……それに、わたしのように兵士でもない。」


 少女たちのプロフィールを見て。

 ジルは、怒りすら覚えていた。




「”希少”なのだよ、君たち適合者は。そこにあるメンバーと、君だけしか確認されていない程度には。」



「……そんな。」


 ネオに対抗し得る可能性を持ったのが、こんな少女たちばかり。

 それは、何とも言い難い事実であった。



「分かってくれたかな。この部隊をまとめられるのは、君をおいて他に居ない。」



「……命令ならば、それに従うまでです。」


「いや、これは命令ではない。出来ることなら、”君自身の意思”で決断して欲しい。」


 エドワードは強く訴える。


「このまま、緩やかな滅亡の未来を生きるか。それとも、君が世界を救うか。」




「……”世界を、救う”?」


 それは、たった1人の人間である彼女には。

 重く、実感の湧かない言葉であった。




 だが、そんなさなか。


――突如として、警報が鳴り響く。




「なんだ、一体。」



 それは、明らかな異常事態であり。

 この施設全体が、慌ただしく動き始める。



「――チャペル博士!」


 慌てた様子で、1人の兵士がやって来る。



「襲撃か?」


「はい。……ですが。」



 兵士の緊張度合いから。

 エドワードは事態の重さを感じ取る。



「”ネオ”か。」



「ええ。報告によりますと、識別個体”シルバーウィング”の存在が確認されたと。」


「なるほど。」



 その、2人の話を聞きながら。



(……ネオが、ここに来る。)


 ジルは静かに、覚悟を決めていた。




「無論、基地も防衛に徹しますが。博士は、今のうちに退避してください。」


「ああ、分かった。」



 会話を終えて。

 兵士は、走り去っていく。



「……まさか、ここを失うことになるとはな。」


 彼からしても、この基地を失うのは惜しい様子だった。



「君はまだ動けないだろう。すぐに、車椅子を持ってくる。」


 そう言って、彼は部屋の外に向かおうとするも。




「いいえ、それよりも。」


 ジルに呼び止められる。




「――例の”新型スーツ”は、ここにありますか?」









『スーツの具合はどうだ?』


「……良好です。」



 新型のパワードスーツ、”ライザースーツ”を身に纏い。


 歩くのもやっと、という状態ながら。

 ジルは基地の防衛に向かおうとしていた。



「それにしても。今までのスーツと比べ、随分とデザインが異なりますね。」



 スーツのカラーリングは、美しい”銀色”であり。


 今まで彼女が装着していた従来のパワードスーツと比べ、スリムなデザインをしていた。



「装甲も薄っぺらいですし、バッテリーはどこに?」


 この新型スーツが、どういう原理で作動するのか。

 ジルには想像も出来なかった。



『あくまでも、”SCAR DRIVE(スカードライブ)”を起動できれば十分だからな。バッテリーは軽量化してある。』



「なら、パワーアシスト用の電力は?」



『戦うための力は、”君自身”が引き出せ。』


「……了解。」



 正直、よく理解できていなかったが。

 あまりにも体調が優れないため。ジルは、それ以上考えるのをやめた。





「――”SCAR DRIVE(スカードライブ)”、起動。」


 彼女の声に、呼応し。

 システムが起動する。



 ドクン、と。

 鼓動が高鳴り。



 彼女の中に刻まれた、”ネオの力”が覚醒する。




 ライザースーツの色が、”燃えるような赤”へと変化した。





◆◇

◇◆





 それから、時が経ち。



 ”漆黒のライザースーツ”を身に纏う、一人の男が。

 異なる世界で刃を振るう。



 彼が何者なのか。

 ミレイ達はまだ、知らない。





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