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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
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デコピン





 朝。


 寝起きの悪かったミレイを、キララに任せて。

 ソルティアとユリカの2人は、共にアセアンの冒険者ギルドを訪れていた。



「……ここが、冒険者ギルド。」


 ギルドは初めてなのか。

 ユリカは建物を見つめ、感慨にふける。


「武蔵ノ国は、ギルドはありませんでしたか?」


「ううん。あったはずだけど、来るのは初めてだから。」


 

「では、わたしからの忠告です。必要な事以外は、基本的に”無視”してください。」



「……どういう意味?」


「まぁ、わたしの真似をすれば大丈夫です。」


 そう言って。

 2人はギルドの中へと入っていった。









 ギルドの中には、冒険者らしき人々が大勢居た。

 建物の大きさは、ジータンのそれと大して変わらないものの。

 明らかに人口密度が高く。多くの冒険者、野蛮な男たちの熱気に溢れていた。


 こんな朝早くに、健康的な人たちである。


 少なくとも。見える範囲に、女性の冒険者は存在せず。

 ソルティアはともかくとして。ユリカは肩身が狭く感じられた。



 各々の話に夢中になっていた冒険者達だったが。

 ソルティアとユリカという、若い女性二人の登場に。自然とその注目が集まる。


 だが、ソルティアは何ら気にすること無く。

 受付の場所を確認すると、一直線にそこを目指す。


 どれだけの視線を浴びせられても、気に留めず。


「――ヘイッ。」


 軽く声をかけられても、何一つとして反応せず。

 ニヤけた冒険者が、関心を引くために足を引っ掛けようとするも。

 その足を問答無用で押しのけ。

 ソルティアは受付へと向かう。

 その後ろをついていくユリカは、その強引さに若干引いていた。



 ギルドの受付へと辿り着くと。


 派手な見た目をした受付嬢が、呆れ顔でソルティアを見つめていた。


「……アンタ、中々根性あるね。」


「関わった所で、特に意味は無いので。」


 何事もなかったかのように。

 ソルティアは受付嬢と話し始めた。



「見ない顔だけど、何のよう?」


「そうですね。”2つ”ほど、要件がありまして。」


 ギルドへ来た目的を話す。


「わたしを含め。女の冒険者が3人、帝都で活動をする予定なので。宿舎の用意をお願いします。」


「ふ〜ん、了解。もう一人いるって事?」


 ソルティアと、後ろのユリカを見て。受付嬢はそう尋ねる。


「ああ、いいえ。こちらはまた”別件”です。仲間の冒険者は、2人とも宿に居ます。」



「なるほどね。それで、もう1つの要件は?」


「こちらの、彼女についてなんですが。」


 ユリカを紹介する。


「武蔵ノ国から来た、陰陽師らしいです。船から落っこちて、浜辺まで流されてまして。彼女の捜索願や、乗っていた船に関する情報はありませんか?」



「はーん。ちょっと、問い合わせてみるわね。」


 そう言うと。

 受付嬢は手元に置いてあった水晶玉に魔力を込め、何かを念じ始めた。



「……あれって、何をやってるの?」


 美しく輝く水晶玉に、ユリカは興味津々である。



「”魔水晶”ですよ。高度な魔法が組み込まれていて。これを使うことで、世界中のギルドと通信ができます。」


 元受付嬢であるソルティアには、慣れ親しんだ道具であった。


「ただ、操作には魔力を必要とするので。ある程度の魔法の才能がないと、受付嬢の仕事は務まりません。」



「まぁ、慣れれば楽な仕事だけどねぇ〜」


 魔水晶に念じながら。受付嬢は気楽に話す。



「そうですね。わたしも、前までジータンのギルドで働いてましたが。やはり基本的に暇でしたね。」


「えっ、アンタ受付やってたの?」


 思わぬ事実に、受付嬢は驚く。


「はい。すでに辞めて、冒険者になりましたが。」


「へぇ〜、すっごいねぇアンタ、冒険者になろうだなんて。女は普通、そんなん思わないのに。」


「確かに。多少魔法の使える人材は、ギルドが重宝しますからね。」



 魔力の扱える女性は。危険と隣り合わせの冒険者よりも、安全な受付嬢を選ぶ事が多い。

 ソルティアの後輩であるソニーも、それに当てはまる。



「まぁ、わたしは。どちらかと言うと、”戦いたい派”でしたので。」


「めっずらし〜」


 受付嬢から冒険者になる。

 それはかなり珍しい話であった



 しばらく、魔水晶とにらめっこをする受付嬢だったが。


「あっ、情報あったかも。」


 それらしきものを発見する。



「アンタ、名前は?」


「ユリカです。」


「うん。本部から通達が来てるね。武蔵ノ国から呼んだ陰陽師が1人、行方不明だって。」


「あの、他の人達は無事ですか?」


「そうだね。船は普通に、エプシロンの港に着いたって書いてあるから。無事じゃない?」


「……よかったぁ。」


 自分以外の安否が確認できて。

 ユリカはほっと一息つく。


「ええ、これで安心できますね。」


 ソルティアも喜びを分かち合う。



「じゃあ、生存を確認って、本部に連絡しとくわね。」


「お願いします。」



 何はともあれ。

 これで、ギルドに来た目的は達成できた。









「それにしても、このギルドは随分と賑わってますね。ジータンとは大違いです。」



 冒険者と言うよりも、便利屋の仲介所のようだったジータンとは違い。

 この町のギルドには、戦闘を視野に入れた冒険者が多く見受けられた。



「普段は、もうちょい静かなのよ? ただ、ピエタの街で、新しい”ダンジョン”が見つかってね。もうお祭り騒ぎよ。」


「なるほど、通りで。」


 ソルティアは納得するものの。


「?」


 ユリカは首を傾げる。



「ピエタは近いですからね。大勢向かう予定ですか?」


「そうだねぇ。ダンジョン攻略は報酬も良いから。下手したら、半数近くが行っちゃうかも。」



 ダンジョン攻略。

 それについて話す2人であったが。



「……えっと。ダンジョンって、なぁに?」


 ユリカには、そもそもの意味が分かっていなかった。



「おや。武蔵ノ国では無かったですか?」


「うん、初耳。」



 ダンジョンを知らないユリカの為に。

 ソルティアが説明を行う。



「”異界の門”は、ご存知ですか?」


「もちろん。むしろ、それを”どうにかする”のが、陰陽師の仕事だから。」


「あぁ。たしか武蔵ノ国は、”発生数が多い”らしいですね。」


 互いに知っているため、異界の門の説明は省く。


「ダンジョンとは。異界の門が”地下”に発生した結果、極稀に起こる現象です。」





 通常、異界の門はこの世界のどこかに出現し、ここではない別の世界と繋がる。


 異界の門は基本的に長続きせず。

 ジータンの一件のように、門が開きっぱで、敵が大挙して押し寄せることは基本的に有り得ない。

 大抵は、小規模な集団や個人、もしくは魔獣などが現れる程度である。


 このような事例が、地上で起こったのならば。問題はそう大きくはならない。

 ミレイのように、異界の来訪者が街にやって来たり。

 たとえ危険な生物がやって来たとしても。情報を得たギルドが、冒険者を派遣すれば済む話である。



 だがしかし、それが地下空間で発生すると、また事情が変わってくる。



 地下という環境故に。どんな現象が起こったとしても、地上には伝わらず。

 気づいた時には、すでに”収拾のつかない領域”まで進行している。



 通常、上から下へ広がっていく、アリの巣とは真逆に。

 門が開いた場所を起点として。

 外来種の魔獣は、地下から地上へと根を広げていく。


 そして、どんどん規模が拡大し。

 その手が、地上にまで届いた時。


 初めて人類側は、その存在に気づく。


 この、地下に出現した、外来種の魔獣の集団を総括して。



 人々は、”ダンジョン”と呼称した。



 ただでさえ。厄介とされる外来種の魔獣が、1つの生態系を形成しているため。

 それが周囲の土地や、街に与える影響は計り知れない。





「――そのため、ダンジョンは発見された時点で、ギルドにとって”最優先の攻略対象”になります。」



 それが、このお祭り騒ぎの原因であった。



「へぇ。それって、みんなも参加するの?」



「いいえ、ダンジョン内では、魔獣との戦闘が大前提ですから。ランクの低い我々では、攻略に参加できません。」


「そうなんだぁ。」


「ですが。ダンジョンの発見されたピエタの街は、我々の進行方向にあります。なので一応、意識はしておきましょう。」


 ソルティアにとって。ダンジョン攻略は、そこそこ興味はあるものの。

 自分たちにはまだ縁がないと、思考から排除する。




「――あ〜、ちょいちょい。ユリカとか言ったっけ?」



「はい。そうですけど。」


 ユリカが受付嬢に声をかけられる。



「本部から通信が来てさ。”シュラマル”って人が、アンタと話したいって。」



「シュラマルが!? 話します!」


 知り合いの名前なのか。

 ユリカは表情を明るくし、受付嬢の側へと向かった。



「シュラマル? 聞こえる?」


 魔水晶に話しかけると。



『――ユリカちゃん? 無事なの?』


 女性らしき声が聞こえてくる。



「うん。もちろん、ピンピンしてるよ。」


『なら、安心だなぁ。いつの間にか居なくなってたから、ビックリしたんだよ?』


「えっ、いつの間にって。船がすっごく揺れて、それで海に落ちたんだけど。」



『――あぁ、クラーケンに襲われた時かな? あれ、みんなで”瞬殺”しちゃったから。まさか被害者が居たとは。』



「……そ、そうなんだ。」


 落ちたことにすら、気づかれていなかった。

 その事実に、ユリカはショックを受ける。




「プッ。」


 自分の予想が当たっていた事で。

 ソルティアは思わず、吹き出した。







 ユリカは魔水晶と。

 ソルティアは受付嬢と、他愛ない話に花を咲かせ。



 そんな中。

 ギルドの扉が、凄まじい勢いで開かれる。




「――おい、怪我人だ!」



 ソルティアの知らない、赤髪の女性が中に入ってくる。

 肩には、小さな人間らしきものが抱えられていた。



「治療のできる奴はいねぇか? 出来れば魔法使い。」


 女性は大きな声で、ギルド中に言葉を告げた。



「あっ! わたし、治療できます!」


 ユリカが手を挙げ、立候補する。


 すると、その声を聞きつけ。

 女性がユリカ達の元へとやって来る。



「おう、頼むわ。そんなにデカい怪我じゃないんだがな。」



 そう言って。

 女性は、担いでいた怪我人を床におろした。


 だがしかし。




 その怪我人が、良く見知った人物だったため。

 ソルティアとユリアは言葉を失う。




「デコピンしたら、吹っ飛ばしちまってよ。」



 ミレイが、ノックアウトされていた。






◆◇






 ガンガンと、鈍い痛みを感じながら。

 ミレイはゆっくりと意識を覚醒させる。


 ここ最近の目覚めの中でも、特に気分が悪かった。


 体を起こし。おぼろげな視線の中で、周囲を見渡し。

 すると、ひたすらに疑問が湧いてくる。



「……どこや、ここ。」



 薄暗い照明に、殺風景な部屋。

 隣にもベッドがあり、そこではソルティアが眠りについていた。


 キララに関しては、ミレイと同じ布団に入っている。



「ん?」


 何か違和感を感じ、額に手を触れると。

 そこには包帯のようなものが巻かれていた。



「病院?」


 ますます状況が理解できず、ミレイは困惑する。

 だが、キララもソルティアも、普通に眠っているため。

 危険ではないと判断する。



 部屋にいるのは、3人の冒険者だけであり。

 共に行動していたはずの、ユリカの姿は無かった。



 幸せそうに眠るキララを、起こすことは忍びなく。

 ミレイは1人、ベッドから降りると。


 この不思議な場所の探索を始めた。





 扉らしきものに近寄ると。

 自動的にそれが開く。



「おぉ!」


 久々に触れた、文明的なシステムに。

 ミレイは感動を覚えた。


 扉をくぐり、部屋から出ると。

 照明に照らされた、真っ白な真っ白な通路が目に入る。



(めっちゃ近代的というか。むしろSFだな。)



 周囲の構造は、ミレイの知る現代科学よりも遥かに進んで見えた。



「……やっぱここって、あの人の。」



 レーザーをぶっ放していた、イリスの巨大戦艦を思い出す。



 未知なるテクノロジーに、目を輝かせながら。

 ミレイは通路を進んでいく。


 個人的には、剣と魔法のファンタジー世界が好みだが。

 こういうSFチックな世界観も、ミレイにはアリだった。


 何気なく。

 さーっと、壁を撫でなてみて。



「――げっ。」


 手がホコリまみれになったことに驚き、すぐに払い落とした。



「この戦艦って、アビリティーカードだよな? なんでホコリまみれなんだよ。」


 ミレイは、ちょっとショックを受けた。






 探索を続けるミレイだったが。



「おっ?」


 今までとは違うエリアを見つけて、そこに入っていく。



「――おぉ!?」



 そこはまさに、巨大戦艦の主要部と呼べる場所だった。


 いわゆるブリッジ、艦橋に当たる部屋なのだろう。

 多くディスプレイや、操作盤、椅子なども存在し。

 何人もの乗組員の手によって、ここが運用される様子が想像できた。


 けれども、ディスプレイこそ機能しているものの。

 操作盤などを動かす人員は存在せず。


 ただ唯一、船長の椅子にのみ、人影が存在した。


 ゆっくりと、忍び足で近づいてみると。

 予想通り、椅子にはイリスが座っていた。


 酒でも飲んだのか、顔は赤く。

 穏やかに夢の世界へと旅立っている。



(てことは。やっぱりここって、あの戦艦の中なんだ。)



 その事実を認識して。

 ミレイは人生初となる、戦艦の内部見学に感動する。



(ボタンがいっぱいある、すっごい。……でも、全部ホコリまみれだ。)



 色々と触ってみたかったが。

 ボタンには塵や埃が積もっており。

 ミレイ的に、この量は流石にNGだった。



(てかどう見ても。10人以上居ないと、動かせないレベルの船だよな。)



 このブリッジだけでも、操作盤の数は20を超えている。



(やっぱ、AIで動かしてんのかな。)



 理解不能なハイテクに囲まれて。

 ミレイがフラフラとうろついていると。




「――おい、あまり弄るなよ。」


 いつの間にか、起きていたのか。

 欠伸をしながら、イリスが忠告する。



 仕草や言葉遣いこそ粗暴なものの。

 やはりその見た目は、ミレイの理想ど真ん中であった。



「イリスさん。」


 とことこ、近づいていく。



「あの。なんでわたしたち、この船に乗ってるんですか?」


 一番の疑問を投げかけた。



「……そりゃ、”目的地”に向かうために決まってんだろ。」


「目的地?」



「あぁ、クエストのな。お前はデコピンで倒れちまったから、説明してなかったな。」



 倒れていたミレイのために、事情を説明しようとするイリスであったが。


 大きな窓の先に、陽の光を見て。

 にやりと微笑む。



「ほら、丁度いい。朝日が昇るぜ。」



 そう言われて。

 ミレイは、艦橋の正面に目を向けると。



「……へ?」


 そこに見えた光景に、言葉を失った。





 朝日の昇る地平線と。

 それを遮る、巨大な黒い影。


 それは山々などの自然とはまるで違い。

 明らかに計算され尽くした、縦長の長方形の形をしていた。


 ただ、山のように巨大なそれは、ブラックホールのように真っ黒で。



 この世界の何とも違う、明確な”異物”。




「――あれこそが。謎に包まれた神の遺産、”モノリス”だ。」




 雲がかかるほど巨大な、”真っ黒いプレート”が。

 地表に突き刺さっていた。





――”最悪のクエスト”が、始まる。









(……あっ、昨日召喚してなかった。)


 ミレイは、連続ログインが途切れた並のショックを受けた。





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